千夜の一夜な境界ランプ

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
19 / 52

第19夜 監視者メシエ

しおりを挟む

「頑張ってくださいね響木千夜(ひびきせんや)さん」

オレに小声でそう言いタロットカードセットを手渡してきた不思議な占い師。彼は一体何者なのだろう?

オレが手渡されたタロットカードセットをぼんやり眺めていると、魔導師貴族の令嬢シャルロットが占い師について話し始めた。

「さっきの占い師の方……私たち境界ランプの持ち主を見張る監視者メシエですわ。千夜さんは第1テストに完全に合格されたのね。そのタロットカードは魔導アイテム……おそらく第1関門突破の報酬ですわ」

このタロットカードは報酬だったのか……上手いこと言って買わされた気もするが。

「監視者メシエって何?」

境界ランプのテストは精霊王の使いが見張っていると聞いていたが、見張りの名前までは知らない。

「監視者メシエ……精霊王の使い達のコードネームです。元々は星座に使われていた名称でコメットハンターと言われたメシエという学者の名前から付けられたものですの。でも今現在はその星座自体存在しておりません」

現存しない星座の名前か。

「そういえば、天文学はギリシャローマからアラビアに受け継がれて発展したんだよな……。境界ランプを使いこなしたければアラビア星座について調べると何かヒントがあるのかも」

アラビアを経て出来たプトレマイオス48星座が長い間使われていたということくらいしかオレは天文学については知らない。考古学者かぶれにしては知識が浅かったな。

次のテストまで数日ヒマがあるらしいし、ランプの精霊についても分からないことだらけだし、魔法のランプのヒントがあるのかもしれない、少し調べてみるか……。

「千夜君もこれからいろいろお勉強しないとね~! 天文学の勉強も素敵だけど即必要なのは今後のテストに向けて魔導アイテムを使いこなせるようになることだと思うよ。シャルロットちゃんなんか魔導師貴族のサラブレッドだし、魔導勝負なんかするハメになったらあっさり負けちゃうだろうね~気をつけないと」

魔導勝負?
そういうのは魔導師のアティファに任せておけばいいんじゃなかったのか?

「リー店長……タロット占いが出来たからって、魔導勝負の役に立つようには思えないんですが」

「出来るんだな! それが」

リー店長はニヤリと笑ってドヤ顔で解説し始めた。

「カード魔術っていうジャンルがあってね、いろんなカードの絵柄に合わせた面白い魔法が使えるんだよ! まあそのタロットカードセットにすでに組み込まれている魔術しか使えないんだろうけど、コテージに戻ったらしばらくお勉強だね! 1週間後に第二テストだってさ」

1週間後……意外と時間があるな。

「1週間……テストで怪我をして人達からすると短いでしょうね……」

シャルロットがぼんやりした表情で言った。

「怪我? 怪我人が出たのか?」

オレのテストもいろいろ物騒だったが暴力的なヤツらはすべて魔導師のアティファが自力で倒してしまったし、商人に言われるままアティファを絨毯10枚分で買うという方法しかなかったため、怪我をするようなことはなかった。

「ええ……言っていいのかしら? 従兄妹のランディがテストで怪我をしたんですの。テスト自体は合格だったんですけど、次のテストまでに回復するかどうか……心配ですわ」

ランディ……シャルロットと同じ魔導師貴族の家柄でスカした感じの金髪美形法科大学院生だ……彼はスカしていないとちょっと間が抜けているというかぼんやりした雰囲気だったので舐められるのかもしれないが……。

「何でも木の高いところに登ったきり降りられなくなった魔法猫を救出するのがランディのテストだったらしいんです。木と言ってもかなり高めで悪霊が取り付いた特別な木で……とにかく大変だったらしいですわ」

「悪霊が取り付いた特別な木……目の前の問題を解決せよって人それぞれ内容が違うんだな」

食後のお茶を飲んだ後、食事会は解散になりオレ達はコテージに戻った。
コテージの自室でタロットカードセットの解説書を読むと占術方法が書いてあるだけだった。

「何だ……本当にただの占いの道具じゃないか。カード魔法の使い方なんてどこにも書いてないぞ」

取り敢えず部屋のデスクの上にタロットカードを並べてみる。大アルカナのセットで絵柄も凝っていて美しいタロットカードである。

「1番簡単な占術方法は一枚引き占いです。シャッフルして一枚引くとあなたに必要なカードや助言、質問の答えが分かります」

なるほどね。
初心者のオレにできる占いとしてはこれくらいが手軽だろう。

その時のオレは、まだこのカードがオレの戦いの道具になるとは夢にも思わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...