36 / 52
第36夜 調査任務依頼
しおりを挟む精霊王の宮殿にある会議室。
その重厚な扉を開けて赤い絨毯の広い部屋にコツコツと一定のリズムで革のブーツを鳴らしながら入ってきたのは落ち着いカーキ色の軍服に身を包んだ青年だった。
青年はサラサラした銀色の前髪を揺らしているが決して長髪というわけではなく後ろ髪は程よい長さで襟足を隠す程度だ。切れ長二重の青色の澄んだ瞳は奥に鋭さを宿し彼が軍人であることを否応なしに実感させる。
高く通った鼻筋は青年の気位の高さを感じさせ、固く結ばれた唇からは軍人特有の決意が見受けられる。
彼がカラス特別大尉?
新しく結成された「夜明けのリミニス団」の特別大尉として招かれたのがカラス特別大尉だという。
「響木千夜です、あのよろしくお願いしま……」
オレが挨拶をしようと座らされていた席から立ち上がり握手を求めて手を伸ばすと青年は突然白い手袋を嵌めた右手を上げ短く呪文を唱えて電撃系の攻撃呪文を放った。
バチバチバチ!
「ギャアアアアアアア!」
オレの真後ろから異質な悲鳴が聞こえた。
どうやら青年はオレの命を狙っていた悪魔を一瞬で消し去ってくれたようだ。
「君の上司になるカラス特別大尉だ。よろしく頼むよ」
カラス大尉は少しだけ表情を柔らかくしてオレに挨拶をしてくれた。 思っていたよりも若い人だったのでオレはとても驚いた。
てっきり中年の落ち着いた軍人が来ると思っていたからだ。
魔導師結社なのに軍人を介入させるという精霊王の考えがはじめはよく分からなかったが、軍人であると同時に魔導師でもあるらしい。
それもそのはず、彼は精霊達の国精霊国の軍人だという。
精霊なら魔法も当然のように使えるだろう。
「あの気まぐれな精霊王に振り回されてキミ達も大変だったね。『夜明けのリミニス団』は数百年前に結成されては消えていった幾つかの魔導秘密結社を継承するという建前で作られたそうだ。本当は境界ランプの持ち主達を囲い込むことが目的なんだろうけど」
そう言ってカラス大尉はオレに小さな黒い小箱を手渡した。
「夜明けのリミニス団の団員である証だそうだ。安心してくれたまえ。これを受け取ってもキミは軍人になるわけでもなけれ魂が拘束されるわけでもない。ただ、ひとつの魔導組織の一員になったという目印だよ」
小箱の中には魔法陣と星をあしらった小さな銀のバッジが収められていた。
さっそくシャツの襟元にバッジをつける。
「このバッジには魔力回復効果があるそうだ。精霊王が直々に魔力を込めたという」
カラス大尉がバッジの効力について説明していると
「気まぐれな精霊王だけど入らせてもらうよ」
と精霊王ガイアス本人が会議室に入ってきた。
どうやらさっきの会話は精霊王には筒抜けだったようだ。
だが、カラス大尉は素知らぬ顔で
「自覚がおありならもっと計画性をもって頂きたい……そうすれば皆も喜びますよ」
と余裕の表情だ。
もしかして2人は結構親しいのだろうか?
「カラス特別大尉は私の学生時代の後輩でね。昔からよく無理を言って困らせたんだがこんなに付き合いが長くなるとは思わなかったよ。まあ、私がカラスを強い軍人に育てたと言っても過言ではない」
そういうことか。
学生時代からの付き合いなら親しいのもうなづける。
「さて、千夜君。今日からキミも正式な『夜明けのリミニス団』の組織魔導師だ。今までのテスト形式と異なり調査任務という形で魔導王のテストは継続したいと思う。さっそく初めての調査任務だよ」
そう言って手渡されたのは、境界国からはるか遠く、シルクロードのとある魔導施設の調査書類だった。 古い魔導師御用達の地図と羅針盤ともに手渡された其れ等からは魔法を覚えて間もないオレにも魔導の強力なオーラが感じられる。
「シルクロードにあるこの魔導施設に悪魔ゴエティア達が人間に扮して魔導実験を行っているとの情報があった。 その施設に入った人間は1年間姿を見かけなくなり戻ってきた頃には魂が抜けたようになって帰ってくるという。カラス特別大尉、精霊セラ、同じ境界ランプの使い手シャルロット嬢とともに調査に当たってもらいたい。出発は明朝。健闘を祈る」
そう言って精霊王はオレに書類を渡して魔法で瞬間移動し消えた。
どうやらオレはこれから組織魔導師としてめいいっぱい任務をこなすことになりそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる