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第38夜 美夢連連(メイモンリイェンリイェン)
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カラス特別大尉が古代文化研究所のチャイムを鳴らすとインターホンから
「ご用件は何でしょう?」
と女性の声が聞こえた。
「発掘した化石の価値を調べて貰いたいのですが……」
カラス特別大尉がインターホン付近のカメラに向かって化石を袋から取り出し見せた。
「では、鍵を開けますのでお入りください」
カチャ!
施錠が開かれる音。
どうやら入室許可が下りたようだ。
カラス特別大尉がドアを開け、裏で魔導実験を行っているという噂の古代文化研究所の中に入る。
ロビーには巨大な地球儀や世界地図、ガラスケースに収められたアンモナイトの化石、絶滅危惧種と思われる鹿のような生物の剥製などが展示されている。
中でもひときわ目立つのは立派な台座に置かれた3メートル程の大きさの超巨大アメジストのクラスター(結晶)だ。
巨大な岩石のなかにびっしりアメジストが詰まっていてなかなか迫力がある。
貴重な品なのか『手を触れないでください』という注意書き付きだ。
アメジストは紫水晶と呼ばれる美しい水晶の一種で魔除けや願望成就のチカラがあるとされている。
2月の誕生石でごく普通にアクセサリーとしても手頃な価格で流通しているため魔術的な意味合いが強いというわけではない。
「あの巨大な岩石にクラスターが詰まっているタイプのクラスターを『アメジストドーム』とよぶんです。アメジストのクラスターを玄関に飾るのは魔除けと商売繁盛の風水なんですよ」
と精霊セラ。
そういえばリー店長の店にもアメジストのクラスターが入り口に飾られているな……。
あれは風水だったのか。
「シルクロードだけあってこの研究所には中国系の風水師がいるのかしら?」
シャルロットは中国風水のことが少し気になるようだ。中国系の魔導師が関わっている可能性があるということか。
すると白衣を着た研究員らしき女性がやってきた。
女性は黒い髪をバレッタでまとめ髪にしており肌は浅黒い。メガネがよく似合う頭の良さそうな美人で歳はまだ若そうだ。
「ようこそ、古代文化研究所へ。私は助手のアイリスと申します。こちらの部屋へどうぞ……」
助手のアイリスさんに案内されてロビーから右に曲がり廊下を進む。
廊下には古代文化について書かれた新聞記事や剥製などが飾られており……
「キュー! ! ! !」
ミニドラゴンのルルが突然声を上げた。
何かあったのか?
ルルが怯える視線の先にはミニドラゴンの剥製が飾られていた。
偶然なのかルルと同じ赤い色のミニドラゴンでルルの親戚か何かかと思うほどだ。
『貴重なミニドラゴンの剥製です。青い炎を吐くと伝説では伝えられています』
と説明書きがある。
助手のアイリスさんが笑いながら
「ああ、この剥製にびっくりしたのね。あなたのことは剥製にしないから大丈夫よ。安心して」
とルルの頭を撫でた。
ルルはまだ警戒しているようでオレの肩にぴったりくっ付き離れないようにしている。
ミニドラゴンは東洋に生息する珍しい生物だそうだからこういうところでは研究対象なんだろうな……。
「こちらの部屋です。化石専門の先生がいらっしゃいますのでしばらくお待ちください」
奥の部屋に通される。
部屋の壁には呪われてそうな古代のマスクや古びた杯、変わった形に渦を巻いたアンモナイトなど、ロビーや廊下の展示物よりもマニアックそうなものが多い気がした。
黒いソファに座らさせられるとアイリスさんがお茶を出してくれる。
お茶はハーブティーで透明なポットの中に美しい花が開く。
白い花はジャスミン、ピンクの花は千日花だ。
「このお茶は工芸茶と言ってこの町ではおもてなしに出す名物茶なんです」
そんな貴重なものをもらっていいのだろうか?
「ありがとうございます」
一口飲むとジャスミンの香りとともに疲れが癒されるような味だ。
「特にこの美夢連連メイモンリイェンリイェンは工芸茶の中でも夢が叶うと言われているんですよ。……みなさんの化石に価値がつくといいですね」
アイリスさんが工芸茶についてオレたちに説明していると白衣を着た白髪の男性がドアを開け部屋に入ってきた。
「ようこそ、古代文化研究所へ。私はここで化石研究を担当しております博士のクーロンです。さっそく化石を……! ?」
クーロン博士の動きが止まる……。
「素晴らしい……」
?
カラス特別大尉が手渡した化石には見向きもせず、オレの方ばかり博士は見ている……正確にはオレの肩に乗っているミニドラゴンのルルを見ているのだろう……嫌な予感がする。
「生きている伝説のミニドラゴン……生まれてはじめて見ました。私は化石研究を専門にしていますが考古学に興味を持ったきっかけはドラゴンについて調べるためなんです。いつも廊下に展示してあるミニドラゴンを眺めてはいつか生きているミニドラゴンに会いたいと願っていたものです……まさか本当に夢が叶うとは……」
夢が叶う工芸茶、美夢連連(メイモンリイェンリイェン)を毎日飲んでいて良かったよ……と言いながら感動している博士。クーロン博士は泣いているようでメガネを取りハンカチで涙を拭いている。
「キュー……」
怯えているのかミニドラゴンのルルはますますオレにくっついて離れなくなった。
「おお! これが本物のミニドラゴンの鳴き声なのか? ! 大発見だ!」
大発見なのか……?
「どうだね、若者よ。そのミニドラゴン、私にしばらく預けてくれないかね? 決して殺さないように大事に実験するから……頼むよ!」
殺さないように大事に実験って……
危険な予感しかしない。
「あの、それより化石は?」
カラス特別大尉が化石を見せるが……。
「ああ、その化石はおおかた魔導師たちが実験のために作ったパチもんだろう……うちの研究員にもそういうものをつかまされた奴がいてね……まあ本物の化石ではないにしろ貴重な品には違いないからインテリアにでもして飾るといいですよ」
あの化石、インテリアレベルだったのか。
「パチもん……そんな……せっかく発掘のバイトをして見つけた化石なのに……」
カラス特別大尉は本気で落ち込んでいるようだ。
まさか本当に価値を調べに来ていたのか?
しかも自分で発掘したって……。
「そんな化石よりミニドラゴンを! ミニドラゴンを私に!」
クーロン博士はルルに夢中で手を伸ばしルルを捕まえようとする。
「キュー! 助けてキュー!」
ルルが思わず人間語を話してしまった。
「そのミニドラゴン……人間の言葉が話せるのか? すごい……すごいぞ! ますます気に入った!」
博士の興奮は冷め止まない。
「やめて下さい! 怯えているじゃないですか?」
オレがルルを抱っこして博士から奪われないように攻防を続けているとカラス特別大尉が突然怒鳴った。
「いい加減にしたまえ!」
思わずシン……と鎮まり返る。
「嫌がるミニドラゴンを無理やり捕まえようとするなんて……なんて博士だ! 私の化石のことなんかチラ見しただけで全然調べないくせに!」
「いや……ミニドラゴンがあまりにも貴重だからつい……」
気迫に押されてクーロン博士が大人しくなる。
「だからこの研究所は変な噂が立つんですよ! 魔導実験で入った人が戻らないなんて不名誉な噂を立てられて……もっとキチンと化石の研究をしたらどうですか?」
魔導実験についてカラス特別大尉が語り始めた……大丈夫なのか?
「違うんだよ。その噂は古代の霊をお祓いするとかいう風水師が入ってきたから流れただけで私たち研究員はほとんど無関係の者ばかりなんだよ……風水師は化石研究に関わっていない。預かった患者を1年間入院させて悪霊を除霊しているとしか我々は聞いていないし」
やっぱり、風水師が黒幕か……これ以上ここに長居するのも良くなさそうだしこの辺で引き上げるか。
カラス特別大尉も同じ考えなようで引き上げるつもりなようだ。
「ミニドラゴンを研究したければ先にこの化石をキチンと調べていただきたい! 場合によってはミニドラゴンを好きに研究していいですよ。では我々は今日はこれで帰りますので……」
カラス特別大尉は無理やり化石を博士に押し付けて、ミニドラゴンの研究と引き換えに化石を調べさせる気なようだ。
ルルはオレの使い魔なのに……。
結局、カラス特別大尉の気迫に負けたクーロン博士は化石を預かることになり、真面目に解析作業をすればミニドラゴンルルのレントゲンくらいはとっても良いという約束になった。
1週間後にまたこの施設に訪れることになるそうだ。
「いろいろ申し訳ありませんでした……クーロン博士があんなにミニドラゴンに執着していたなんて……」
アイリスさんがオレ達に謝る。
「いえ……ウチのカラスさんがなんか興奮気味でスミマセンでした」
オレとアイリスさんはお互い頭を下げながら謝り、この日は無事に研究施設から帰ってくることができた。
「なかなか、上出来な調査任務だったな」
オレの境界ランプで精霊王の宮殿に戻ると、カラス特別大尉は会議室で満足げにミルクティー飲み始めた。
どこが上出来なんだろう。
すると精霊セラが精霊王に
「カラス特別大尉が博士と交渉しているスキに魔導測定装置で魔導実験を行ってそうな場所を特定しました。どうやら地下室があるようです。おそらく実験もそこで行われると思われます」
と報告をする。
地下室……いかにも怪しそうだが。
「次の潜入調査はミニドラゴンを囮に使う。千夜君、ルル君、ガンバってくれ給え」
結局クーロン博士が研究したがっているミニドラゴンのルルを囮にもう一度研究施設に潜り込むしかなさそうだ。
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