千夜の一夜な境界ランプ

星井ゆの花(星里有乃)

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第41夜 連れ戻す方法

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「古代文化研究所にシャルロットは連れ去られた可能性が高い……オレ、研究所に行ってきます!」

カラス特別大尉が様子を見るようにというのも聞かずにオレはシャルロットを探しにもう一度町に出た。
すっかり暗くなった夜の街はとても賑やかで屋台や占いのテントが軒を連ねている。 既に酒に酔った観光客もいるようで人の多い通りにもう一度踏み込んだ。

屋台はヤムチャや麻婆豆腐、炒飯、餃子、フカヒレスープなどの中国料理を始め、フォー麺、冷麺、焼肉、最近流行のパクチー料理などアジア系を中心に展開されている。
一軒だけ『日本料理』と書かれた店があったが店主は中国系のようで愛想よく話を聞いてくれたがシャルロットに関する手掛かりはなかった。
「おや、キミ日本人なんだね? この辺に本物の日本人が来ることはあんまりないんで私が日本料理の勉強をして出店したけどなかなか人気だよ! ……お友達が無事に見つかったら食べに来てね! 大丈夫きっとすぐ会えるよ……」
日本人は店主も旅行者も少ないようだ。 さらに境界国と同様、このシルクロード自体が現実世界にほど近い異世界であるらしく、精霊達の姿もチラホラ見られる。
グルグルと露店街を廻ってもシャルロットらしき少女の姿は何処にもない。

探していない場所は古代文化研究所だけだ。
実験に使われるのは若者だけだというしシャルロットも連れて行かれた可能性が高い。
急がないと……。

古代文化研究所に向かう路地に入ると、見覚えのある白髪の男性が動物用のカゴを手に提げてこちらに向かってくる。

「おーい!」
とこちらに声をかけてきているので間違いないだろう。
今日の昼間に潜入調査で訪問した古代文化研究所化石研究室のクーロン博士である。

クーロン博士は大事な話があると半ば強引にオレを宿屋に戻らさせる。
驚いたことに博士が持っているカゴの中にはシャルロットの魔法猫がいた。
猫の名前はアイリーンというらしく博士は猫と呼ばずにアイリーンと呼んでいた。

「昼間、カラスさんに言われた魔導実験の話……もっと真剣に聞いていればよかった。申し訳ない」

宿屋の一室に集まりクーロン博士の話を聞くことになった。
どうやらクーロン博士は本当に魔導実験のことは知らなかったらしい。

「カラスさんから預かった化石を解析していたら魔力を秘めた石が化石から出てきてね。試しに以前露天商から買った魔法の腕輪に嵌めてみたんだ。そしたら、この魔法猫アイリーンの言葉がわかるようになってね」

それで魔法猫アイリーンから話を聞いてオレ達の元にやって来たのか……。

「あの地下実験室は本当に昔から古代の悪霊に悩まされている人を除霊するために使っていたんだよ。ただこの2年くらいは長年勤めていた風水師以外にも人が出入りするようになったんだ。けれど信用のある国からの依頼だから私たち研究者は誰も疑わなかったんだ」

「信用のある国ってどこですか?」

オレは何となく思い当たる国があったが言わずに聞いてみた。

「境界国だよ」

勘が当たってしまいオレは思考が停止してしまいそうになったが全てつじつまが合う。

クーロン博士は話を続ける。

「境界国のハザード王が除霊に関心があるとかで境界国の研究員を地下実験室に受け入れる代わりに援助金をたくさんもらっているんだ。ハザード王が援助してくれなかったら古代文化研究所は潰れていたかもしれないからね。ありがたいよ……でももし変な実験をしているならやめないといけない……」

クーロン博士は自分達が信じていたことの真実を知ってショックなのかどこか哀しそうだ。
最初からこの話はおかしいと思っていた。
人が戻ってこない、若い人ばかり狙う……まるで奴隷達が連れて行かれたきり戻ってこない境界国の王宮の噂にどこか似ている。

古代文化研究所に連れて行かれた人々は1年後に魂を抜かれたような状態で戻ってくるらしいが、もしかしたら本当に魂を抜かれているだけなのかもしれない。

「あのミニドラゴンの剥製も境界国から贈られてきたものなんだ。境界国周辺ではまだミニドラゴンの生き残り達が生息していると聞いてね。私も境界国に行こうとしたんだが魔導師ではないので入国できなかったんだ。 夢を捨てきれなくて代わりに1番現実世界に近い存在であるこのシルクロード異世界で研究者になったよ。 この異世界シルクロードは現実世界の旅人でも入国可能だからね……でもまさか今更魔法のチカラが私にも備わるとは……」

噂では悪魔ゴエティア達が魔導実験をしているという話になっていたが、今まで出てきた悪魔ゴエティアは境界ランプの持ち主達とランプを直接狙ってきていた。
無関係の若者を次々と狙うのはどちらかというと境界国のハザード王のような気がする。

悪魔ゴエティアの仕業という噂は誰かが誤魔化すために故意に流した噂なのかもしれない。

「とにかく、シャルロットを連れ戻さないと」

「けれど、境界国が黒幕なのではどうやって対応したら良いのか……」

精霊セラが困った表情で言う。
みんな沈黙してしまった。

「保護者がいれば連れ戻せるかもよ」
としばし考えた様子だったクーロン博士が沈黙を破った。
保護者?

「表向き怪しい施設でないのからきちんと身内を連れて行けば連れ戻せる可能性は高い。何と言っても今まで連れて行かれた若者達は皆、この町に遠方から働きに来ている身寄りのない若者ばかり。連れ戻される可能性の低い人ばかりが実験室に連れ去られているという噂だ。おそらく化石発掘の助手をしているのは身寄りがないから……と勘違いしたんじゃないのか?」

誰かあの女の子の保護者はいないかな? すぐに駆けつけてこれそうな……と博士。

「1人呼べそうな人がいます……」

オレはシャルロットの従兄弟であの弁護士の卵である金髪の若者の顔が頭に浮かんでいた。
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