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第43夜 ソロモン王復活
しおりを挟む「ハザード王……これが古代文化研究所で勤めている派遣員が手に入れた境界ランプです。なんでも、元の持ち主が所有魔力を完全に失った為ランプを『保護』することになったとか……」
今宵も境界国は月夜が美しい。
まるで月や星々の魔力が祝福してくれているようだ。
その境界国で黒いローブを着た魔導師が王宮の謁見の間でハザード王に境界ランプを献上した。
魔導師貴族の令嬢シャルロット嬢が保有していたという境界ランプ。
しかし、シャルロット嬢の魔力は日に日に弱っていった。
なんでも自身の使い魔兼ランプの精霊である魔法猫と会話すらできない状態で1年以上ランプを保有していたというから驚きだ。
ランプの精霊である魔法猫がシャルロット嬢をまるで自分の本当の飼い主のように錯覚するようになったせいでランプを手放せなくなっていたようだ。
ランプの精霊は自分自身のマスターに全てを捧げる……これは我々精霊の持って生まれたサガなのかも知れない。
この境界ランプは元々は境界国で保管されていたものらしいが数百年前にイギリスの魔導師に交易で渡り境界国の所有物ではなくなったという。
つまり元あった場所に数百年の時を経て戻ってきたというわけだ。
日に日に魔力の弱っていくシャルロット嬢にずっとランプを保有されたらそのうち悪魔ゴエティア達の手にシャルロット嬢のランプは渡り、ソロモン王の復活が近づいてしまっていたことだろう。
「ランプを保護ね……ものは言いようだな。境界ランプも次第に本来の持ち主、そして1番魔力の高い者のところに集まるようになってきたな。悪魔ゴエティア達の手になんか渡さんよ」
ハザード王……正確にはハザード王の影武者を務める精霊ジンは内心人間でありながらかつて自身を脅かしたソロモン王を魔導王として復活させようとする悪魔ゴエティア達には驚異を感じていた。
何しろ自分が『精霊ジン』としか名乗らなくなったのは、人間でありながら悪魔をも凌駕する魔力、精霊王すら脅かすカリスマ性を秘めたソロモン王に真名(しんめい)を奪われたせいである。
ソロモンの名は本来、かつて精霊の王になるはずだった自分の真名(しんめい)だ。
真名とは魂の名前のことを言い人間でも精霊でも誰もが真名を持っている。
しかし、人間達の多くは自身の真名すら知ることなく死んでいくのだ。
だがそれでいいと精霊ジンは考えている。
魂を誰かに奪われることほど恐ろしいことがあるだろうか?
精霊ジンは『精霊王ジン』というなんとも曖昧な精霊王だった。真名をソロモンに奪われ、魔力の低いカリスマ性もない精霊王なんてただのお飾りだ。
実際、玉座になんかほとんど座ったこともない。
自分が一時的とはいえ精霊王になって良かったことなんて自身のマスターであるハザード王の影武者として王様の芝居が出来ることくらいだ。
本来精霊という存在は誰かの元に付いて生きるのが性分だ。
結局自分も精霊。
『精霊王ジン』として生きるよりも『ランプの精霊ジン』として最後までハザード王の為に命を全うし、煙となって消えて死ぬのがきっと自分にはお似合いだ。
だから『精霊王』の肩書きは養子であるガイアスに譲ってしまった。
自分のマスターであるハザード王はずっと眠りっぱなしだ。
なんとか目覚める方法を探したが不思議な強力な呪いにかけられているようで一向に目覚めない。
結局、罪のない人間の魂を捧げることでハザード王の肉体は延命されている。
この事実を知ったら心優しいハザード王はきっと哀しむだろう。
だからハザード王が目覚めたら自分は煙になって精霊としての生涯を閉じよう。
そう心に決めていた。
『精霊王ジン』改め『ランプの精霊ジン』は自身のマスターであるハザード王の真名、そしてハザード王が誰の生まれ変わりとしてこの世に生を受けた存在なのかこの日までは知らなかった。
シャルロット嬢のランプをハザード王の眠る儀式台に捧げると、数年ぶりにハザード王が目を覚ました。
だがそのハザード王はかつてランプの精霊ジンの知るハザード王ではなかった。
結局自分は最初から最後まであの人間に打ち勝つことなんかできないのだった。
『おはよう……精霊王ジン。私のためによく頑張って尽くしてくれたね。礼を言うよ……この私、境界国の王ハザード……いやソロモン王の復活に尽力を尽くしてくれてね』
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