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第52夜 響木千夜の報告書について矛盾点と考察
しおりを挟む私カラスは境界国にある自身の仕事部屋で『夜明けのリミニス団』の報告書に目を通し……密かにため息をついた。 部下の一人である響木千夜の書いた報告書の内容があまりにも矛盾点だらけだからである。
上質のミルクティーをデスクの上で飲み干し、気持ちを落ち着ける。
恐ろしい事にこの活動報告書はいわゆるインターネットを通して一般の魔術に興味のある者たちの目に触れてしまっている。 精霊王ガイアスの方針でこれらの書類の類は公開型とされているのだ。
公開された文章のタイトルは『千夜の一夜な境界ランプ』だ。
と言っても魔法や異世界が信じられていない現代においてはこの活動報告書は小説投稿サイトに公開された『web小説』か何かだと思われているらしく、聡明な読者であれば割と早い段階でこの『web小説』という名の活動報告書の矛盾点に気づいているのだろうが、小説特有の謎解きの一種だと好奇心旺盛な読者には判断されたようで個々の解釈に任されているようである。
然しながら私のように矛盾点が気になって仕方がない読者もいるであろう、この稚拙な……だが重要箇所を不自然なほど削ぎ落としたこの活動報告書に『矛盾』がある限りは報告主の千夜君に代わって私カラス特別大尉が解説したいと思う。
もし、これまでの51ページ程のストーリーの矛盾点に目を瞑り、このままで良いという読者はこの52ページより始まる、いわゆるタネ明かしを読む必要はないのだが……。
◆
綻びだらけの活動報告書の最も分かりやすい矛盾点は『13人の会合』というタイトルのものであろう。
前後のページを含めて人数を数えればいいだけなので、誰でも検証は可能だ。
時間のある者は数えてみると良いだろう……。
実際にこの会合に登場する人数は『14人』である。
なのに千夜君はこの会合を頑なに『13人で行った』と報告書に書き譲らなかったのである。
何故ならこの会合は一人だけ本来『時間軸』に存在しないハズの人物が混ざっており、その人物が当時の境界ランプの所有者のポジションを半分奪っているからである。
そしてその人物は過去の自分自身とまるで親戚か何かのように振る舞い、魔法を掛け、性別を偽り、ちゃっかりとその場に居座ったのだ……。
千夜君はこの美しい令嬢にずいぶん心惹かれていたようで、西洋人形と評していたがその美少女のすぐ隣には『令嬢の親戚の貴族』という偽りの姿で時間軸を超えて会合に加わった『もう一人の彼女』をまるで庇うかのようにストーリーを進めていった。
事あるごとに令嬢とその親戚は顔が似ているだのまるで美人姉妹のようだ……などの千夜君の個人的意見が随所に見られて何か上手く誤魔化されていた気がしてならない。
分かりやすく言うと『令嬢シャルロット』と『貴族ランディ』は時間軸を越えた同一人物である。
だからシャルロット嬢は自分が本来5番目のランプの持ち主であるのに番号を名乗らなかったし、名乗れなかったのである。 魔力の低いシャルロット嬢は魔法をかけられた状態だったので貴族ランディが未来の自分自身が男装して現れた姿だという事に気付かなかっただろうが……。
だが、魔導師の村で育ったアティファが早い段階で貴族ランディという魔導師は『居ない』という証言をしており、早い段階でランディは既に矛盾した存在だったわけだ。
では何故シャルロット嬢は魔導名シャルロットの名を捨てて自身の本名の愛称であるランディという名でわざわざ未来からこの会合に加わったのか?
答えは簡単で、過去の自分から本物の境界ランプとレプリカの境界ランプをすり替えにやって来たのだ。
おそらくレプリカのランプを作ったのは未来の響木千夜である。
千夜君が将来ランプの作り手になるという予測は言語魔導師のダリア嬢によって推測……いや見抜かれており、ダリア嬢は矛盾に気付きながらも物事の事態を察して合わせていたのである。 同じように話を合わせていた人物が何人かいたと言うべきか……。
シャルロット嬢は1年程まともに魔法が使えないと独白していたがこれもフェイクである。
彼女は1年程前から既に本物の境界ランプを持っていなかったので魔法力が本来のものに戻っただけなのである。
彼女のペットである魔法猫アイリーンはいわば彼女の忠実なしもべである為、最後の語りまでまるでシャルロット嬢は独立した一人の存在であるかのように振舞っていた。 あの猫はこのストーリーの語り部という名の改編者の一人であるのに……。
魔法猫の語りで終わった方がストーリー的には美しいのかもしれないが。
この物語は本来『現代に蘇りし最高の魔法使いソロモン王ことハザード王が魔導王の玉座に座りこの世を支配する話』であったのだが、ソロモン王が復活の儀に使用したシャルロット嬢の境界ランプが既にレプリカにすり替えられていた為、復活が不完全になり、悪魔ゴエティア達に魂を喰われて非業な最期を迎える結果となったのである。
貴族ランディ……いやシャルロット嬢はかつて自身のミスにより境界ランプを奪われ、ソロモン王復活の足がかりを作ってしまった事を悔い、時間を越える禁忌の魔法により自分自身の境界ランプをレプリカにすり替えたのである……未来の響木千夜のチカラを借りて……。
つまり、未来の千夜君はランプを手にしてからというもの魔導王の玉座をソロモン王に渡さない為に『千夜』に渡り画策を続け、時間移動呪文を使い『一夜』にして時代改編を行ったというわけだ。
今ではごく普通の大学生兼魔導師の千夜君にその未来の記憶はないのかもしれないが……。
これ以上語ると長くなるので今日はこの辺で考察を切り上げるとする。
機会があれば今度は我々『夜明けのリミニス団』の活躍をまたwebに投稿するよ。
なんと言っても夜明けのリミニス団が本来の物語本編なのだからね……。
また会う日まで御機嫌よう。
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