神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
3 / 76
正編 第1章 追放、そして隣国へ

03

しおりを挟む

 風がそよそよと、神殿周辺に漂っていた民衆達の熱気を醒ますように吹く。既に集会に参加していた民衆達は殆どが解散したようで、神殿周辺に残る人々の姿は少数だった。
 なんせ今日はクリスマス。おそらく自宅へ戻ったか、港周辺の賑やかなマーケットへ繰り出したかのどちらかだ。

(良かった……この様子なら、民の目に触れないように移動出来るわね。けど、ついに神殿から……ううん国から追放される日が来ちゃったか)

 神殿の裏口の前には締め出された虚しさに胸をキュッとしつつ、今後のことを考えるアメリアの姿。儀式直後のアメリアの服装は、古びたグレーの布地と裸足という下働きのようないでたち。まずは裏口の靴箱からいつもに靴を取り出して、履き替えなくてはならない。
 汚れた素足を見てふと、聖女は異母妹という設定で自身は影に徹して欲しいと頼まれた時のことを思い出す。

『アメリアお姉様。貴女には霊能力を隠し、全ての予言はこの私、聖女レティアが行っていることにして欲しいの。そっちの方が民もついて来るだろうって。国のお偉いさんもそういうご意見よ』
『……レティア、貴女……そこまでして聖女になりたいのね。本当の霊力すらなくても嘘でもいいなんて……分かったわ。私が影に徹することで、民が救われるなら本望です!』

(あぁ。聖女の影というその役割すら降りる日が来てしまった。いつしか私の心も傷ついて、この足のように汚れてしまっていたのかも)

 幸い、神殿の裏口には『浄化の泉』が設置されているため、素足の汚れを取ることは可能。

(そうだ……この泉で、心の汚れも落としてしまおう。綺麗に洗い流せば、まだ歩ける)

 ため息を吐きながら足湯代わりの泉に足を浸していると、いつの間にかアメリアの前に人影が立った。

「おやまぁ……お嬢さん、ついに追放されてしまったようですね」
「えっいつの間に? 貴方は一体……」
「あははっ。通りすがりの錬金術士ですよ……なんて! 百聞は一見にしかず、証拠に貴女にぴったりの靴くらいを錬金して差し上げましょう。さあ、その靴を前に揃えて……貴女が足を清めている間に、すっかり新しい靴を作ってご覧にいれますよ」

 人の良さそうな笑顔で優しくアメリアに接する金髪碧眼の男は、非常に端正な顔立ちをしていた。魔道士用の黒いローブを着ていなければ、何処かの国の王子様か何かと勘違いしてしまいそうだ。
 突然追放されてしまい着替えも所持金も不安定な立場のアメリアとしては、靴を錬金してもらえるのはありがたい話。イチかバチか、男を信じて手持ちのシンプルな靴を床に置くと、みるみるうちに男の魔法の粉の錬金術で小洒落たリボン付きの靴に変化していく。

「凄い、本当に錬金術ってあるのね。そうやって、魔法の粉を振りかけると、効果を発揮するのかしら」
「えぇ、かなり簡易版なら。少し難し目の錬金はフラスコを使いますし、本格的な錬金の場合は、伝統に則って大釜を使うこともありますが。今回は初歩の装備錬金ですから、魔法の粉を振りかけるだけで充分なんですよ。足を清めたら早速、このセットの靴下と履いてみてください……お嬢さん」

 跪いて完成した靴を差し出す男の勧めるがままに、アメリアは泉で清潔にしたばかりの素足を拭き、清楚なレースの白靴下と靴を着用してみる。

「ありがとうございます。ふふっ時節柄、まるでクリスマスプレゼントね。以前よりもぴったりフィットするし、ヒールも少しアップしてスタイルも良く見えるみたい。それに、凄く歩きやすいわ。本当にいいんですか?」
「えぇもちろん! この錬金靴は、これまで神殿で、陰ながら予言のお仕事をしてくれていた貴女へ……。それから、このワンピースも私からの感謝の品ですよ」

 さらに男が練金の粉をアメリア自身に振りかけると、古びたグレーの布地が新品の洒落たライトグリーンのセットアップワンピースに。髪型は年齢より老けて見えるひっつめヘアから、上品なハーフアップヘアに早変わり。
 ――泉に映る姿を確認すると……あっという間に、ナチュラルメイクの素敵な女性が完成した。

「わぁ! 服がセットアップのワンピースに。髪型も……実はずっと普通の令嬢みたいなヘアをしてみたかったの。お化粧だって、レティアの引き立て役という足枷がなければ、挑戦したかったから嬉しい。これなら新しい靴ともぴったりだわ。けど初対面なのに、こんなに良くして頂いて……」
「長く神殿で、予言活動を支えてくれた……いわば退職祝いですから。それに、クリスマスプレゼントも兼ねてね。これでも僕、神殿の管理に関わる仕事をしているもので。普段は白いフードを目深に被ってますし、殆ど顔を出さないので、認識されにくいんですけれどね」

『神殿管理人一族代表、錬金術士ラルド・クライエス』

 手渡された名刺には、ここの神殿の聖なるマークが刻印されており、彼がれっきとした神殿管理業務の錬金術士であることが確認出来た。真の聖女として予言を受ける立場のアメリアだが、運営について詳しいわけではない。神殿管理は『本物の神』が行っていると聞いていたため、きちんとした立場の人間がいるとは想像していなかったのだ。

「そうだったんですか……ラルドさんがここの管理を。そういえば就任時に、遠巻きで挨拶だけした方によく似ているわ。白いフードの偉い錬金術師、あの方が実はラルドさんだったのね。せっかくお会いできたのに、私……この国を出ていくことになってしまって。残念だわ」

 初対面であるにも関わらず、早速お別れムードを作るアメリアに焦ったのか、ラルドは慌てて自分の置かれた立場を再度説明する。

「いやいや、それがですね。実は、聖女レティアお付きの新たな管理人を雇うつもりらしく、僕も今日限りでこの神殿からお役御免なんです。再就職先は隣国になりそうなので、出来ればアメリアさんと同行したいと思うのですが……どうですか? 一応、男ですのでボディガードになりますよ!」
「ふふっ。旅は道連れってヤツかしら? 是非、喜んでご一緒させてくださいな」

 思ったよりも幸先の良い旅の始まりになり、ひと安心のアメリア。まずは、船の行き交う港を目指すことに。

「さっ……外は冷えます。この上質のコートを羽織ると良いでしょう」
「こんな品の良いものを私に? 素敵……」

 アメリアの肩が冷えないように小洒落た白のフリル付きコートをラルド自らの手で羽織らせてくれる。まるで突然、可愛がられているお嬢様かお姫様のような扱いを受けて、アメリア思わず頬を赤らめた。
 本来はそのような扱いを受けても良い立場にも関わらず、異母妹レティアのために阻害されていたのだが、きっとこれからは変わっていくのだろう。

(神殿の神様、辛いこともあったけど今まで助けて下さって、ありがとうございました。アメリアは、隣国で頑張ります!)

 長く世話になった神殿の神に心の中で感謝の気持ちを告げて、二人で丘を降りる。
 気さくで親切な男の正体が、まさかアメリアをかねてよりを見初めていた『神殿の神本人』だとは夢にも思わずに。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

聖女になんかなりたくない! 聖女認定される前に…私はバックれたいと思います。

アノマロカリス
恋愛
この作品の大半はコメディです。 侯爵家に生まれた双子のリアナとリアラ。 姉のリアナは光り輝く金髪と青い瞳を持つ少女。 一方、妹のリアラは不吉の象徴と言われた漆黒の髪に赤い瞳を持つ少女。 両親は姉のリアナを可愛がり、妹のリアラには両親だけではなく使用人すらもぞんざいに扱われていた。 ここまでは良くある話だが、問題はこの先… 果たして物語はどう進んで行くのでしょうか?

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

処理中です...