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正編 第2章 パンドラの箱〜聖女の痕跡を辿って〜

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「探索部隊の手当て、私達も手伝います!」
「あぁアメリアさん、ラルドさん。助かります……とてもじゃないけど、手当が間に合わないの!」

 ギルド施設から走って、五分ほどの距離に建つ王立騎士団の兵士詰所に到着。転移魔法で逃れてきたと言う探索部隊の隊員達は、軽傷者もいればかなり酷い傷のものも多い。
 ポックル君が室内をパタパタと飛んで、部屋の怪我人の数を把握してくれたが、一人ずつ手当てをする余裕はなさそうだった。

「クルックー。怪我人の数が多く一刻を争う場合には、全体回復魔法で一旦回復をして、酷い傷の人達の手当てを改めて行うのが一般的です」
「冒険者の治癒魔法として有名な全体回復魔法ね。書物で読んで呪文は習得済みだけど、実践する機会がなかったから初めて使うの。上手くいくといいけど」
「僕も錬金術でポーションやあとアメリアさんのMP回復薬を作って、サポートしましょう。みんなでチカラを合わせれば、なんとか間に合うはずです」

 ラルドとポックル君が手分けをして、重傷者に回復ポーションを配っている。彼らが奮闘している間に、アメリアが深呼吸をして難易度の高い全体回復魔法の呪文を詠唱し始めた。

「大地の神ガイアの名の下に、水の神、風の神、そして火の神マルスよ。そして命を守る白の精霊よ……この部屋にいる全ての者の、あらゆる怪我を病いを治癒するチカラを我に授けよ……!」

 パァアアアアッ!

『うぅ……おや、痛みが消えてゆく』
『凄い、さっきまで身体が千切れるような痛みだったのに。こんなに楽になるなんて』
『はぁ……ようやく、呼吸が楽に……』

 アメリアの周辺に幾つもの魔法陣が光となってとなって形成されて、回復の魔法が部屋中の全ての人に行き渡る。

「……上手くいったのかしら? あの、皆さん傷は……?」

 それまで傷に苦しみ唸っていた兵士達だったが、突然の魔法によりみるみるうちに回復したことに驚いている様子。そして、その全体回復魔法の使い手の存在に気付き、ザワザワとどよめきが起こる。

「もしかして、精霊魔法国家アスガイアから移住してきたという元王妃候補のアメリア様?」
「我が国のギルドに加入してきたという噂だったが、まさかオレらみたいな一般兵のためにこんな凄い魔法を使って下さるなんて!」
「ありがとうございます! アメリア様……あぁこれで、探索部隊も報われる。なぁ……アッシュ。アッシュ……? 何処だ……アイツが今回の功績者だっていうのに」

 部隊の隊員全てがこの詰所に転移魔法で送られてきたという情報だったが、どうやら一人だけここにいないらしい。

「アッシュ、あいつ……探索部隊用の剣なんかで、黒いドラゴンみたいなハイレベルモンスターに挑むから。攻撃が通っただけでも奇跡みたいなもんなのに……無茶しやがって」
「ドラゴンの鱗を採取できたのは、アッシュだけなんだ。けど、こんな結末じゃあ。ちっと生意気だが、この部隊じゃ最年少で成人すらしてないのに」
「アッシュは神話の精霊様と同じ黒髪青目で、男のくせにやたら綺麗なツラしてやがったから。揶揄われたり嫉妬されたりして……もうすぐ18歳だったか。まだオレからみりゃただのガキだった。可哀想なことを……」

 そのアッシュと言う名の兵士の不在に、がっくりとして落ち込む者に事情を訊いてみることにした。

「あ、あの……アッシュさんと言う方は、今どこに? もしかしたら、今回復魔法をかければ助けられるかも知れない」
「ここにいないとなると、一番重傷のヤツを搬送する特別室にいる可能性が。けど、オレら一般兵の回復なんて普段は後回しだし、もしかしたらもう……」

 特別室は一般兵の治療には滅多に使われないということで、その線は無いだろうと踏んだらしい。諦めているのか既にそのアッシュという少年は、この世にいないという言い方だ。

「そんな! 諦めちゃダメよっ。一人だけいないということは、運良く運ばれたかも知れないわ。特別室ね、そこへ……」
「アメリアさん! このMP回復薬を使った方がいいですよ。これだけの人数に魔法をかけたら、貴女も相当疲労しているはずだ。それと、ポックル君もアメリアさんに着いて行ってあげて下さい」

 ポーションを錬金出来るラルドがこの場に残り、残る一人の重傷者の治療はアメリアとポックル君が引き受けることになった。

「ラルドさん、ありがとう。行くわよ、ポックル君」
「クルックー、参りましょうアメリア様。我々が決して最後まで諦めないことを、その黒いドラゴンとやらに見せてやりましょう!」


 * * *


 兵士に教えられた特別室があるという場所へ向かうと、見るからに位の高そうな服装の男達の口論が展開されていた。

「なんでよりによって、アッシュ様をそのような危険な場所へと探索に向わせたんだっ! アッシュ様の身に何かあったら、もうこの国は終わりなんだぞっ。女王になるはずだった姫様は既に嫁ぎ先が内定されている。現状、国を継ぐのに相応しいのはアッシュ様だけなんだっ」
「しかし、ほとんどの兵達はアッシュ様がごく普通の一般兵だと思い込んでいるのです。事情も事情ですし……時が来るまで身分を隠すようにと」
「いや、あの黒いドラゴンはペルキセウス王家の血にしか反応しないともいう。アッシュ様の王の器や血に反応した可能性も……。18歳になるまで待たず、やはり民や兵にアッシュ様が王子だと公表し、王宮に縛っておくべきだったか」

 盗み聞きするつもりは無かったが、そのアッシュという少年の情報が随分と先程の兵士からのものと違うようで困惑する。王宮関係者らしき人達が皆、『アッシュ様』、『王族の血』と話していてまるで彼こそがこの国を継ぐ王子のような言い方だった。

「あ、あの。私、アメリア・アーウィンと申します。もしよろしければ、そのアッシュさんという方の治療を行いたいのですが……」
「アメリア・アーウィン様……隣国の聖女の……。おぉっ神はまだ、我々を見捨ててはいなかった! お願いしますっ。是非、アッシュ様を……アッシュ王子を助けて下さい!」
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