神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花

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正編 第2章 パンドラの箱〜聖女の痕跡を辿って〜

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 秘密の地下道を通り、貨物列車などが走る地下鉄入口までやって来たアメリア達。すると、連絡を受けた王宮関係者とラクシュ姫、ポックル君の姿が確認出来た。

「クルックー、ご無事で何より」
「アッシュ、アメリアさん、私も一緒に行くわ。貴方のことだから、境界自治区に行くつもりなんでしょう。身重のアメリアさんを貴方だけで守るのは大変だし。ボディガードもつけた方がいいわ」
「ポックル君、それにラクシュ! お前も一緒に来てくれるのか。心強いよ。詳しい話は列車に乗ってからにしよう」

 王族が緊急事態の時に境界自治区へと移動しやすいように作ってあるという列車は、前方には客席、食事スペース、寝台が完備されていた。

「へぇ。人が移動するときは、貨物部分は切り離して寝台列車の部分のみ連結して走るのね。アッシュ君は、以前もこの列車を使って移動したことがあるの」
「あぁ。王立騎士団の見習いになるまでは、遠方の境界自治区で養親に育てられていたんだ。だから、アメリアが思っているよりもずっと、民間人としての生活が長いんだよ」
「そうだったの。ペルキセウスの都市部で育ったわけではなかったのね。私達、夫婦なのにまだまだお互いのこと知らないんだわ」

 成人するまでの呪いに対処するために、姉のラクシュ姫と離れ民間人として暮らしていたとは聞いていたが、かなり遠い土地で育ったと知りアメリアは驚く。


「交際期間二ヶ月に満たないスピード結婚だったし、新婚早々いろいろ大変だったし。これからもっとお互いのこと知っていけばいいよ。養親のところにいる妹のことも紹介するから、アイシャって言うんだけどさ」
「妹のアイシャちゃん。アッシュ君には実のお姉さんだけじゃなく、義理の妹さんがいるのね。そっか……それで、私の異母妹レティアのことも、なんとなく理解出来たんだ」

 時折、アッシュ王子が異母妹レティアの心情に理解を示すことがあり、アメリアからすると不思議でならなかったが、おそらく義理の妹と重なる部分があるのだと察しがついた。

「まぁ異母妹とか血の繋がりのない妹とか、ちょっと複雑そうじゃないか? オレも似たような八つ当たりをアイシャから受けたことがあるし、思春期の女の子は大変なんだよ。お目付役が叱ってくれてどうにか収まったけど。各家庭できっと大変な時期があるんだろう」
「けど、その異母妹レティアもこの世にはいない。ずっと頼っていたラルドさんまで、悪神ロキの魔の手に堕ちてしまった。このまま逃げ続けても……いずれ」

 このままではアメリアの大切な人達はどんどんいなくなってしまう。異母妹のレティアとは結局、喧嘩別れの形で二度と会えなくなってしまった。恩人であり憧れのお兄さんという存在だったラルドまで、不幸な最後を遂げてしまいそうでアメリアは心がぎゅっと痛んだ。


「そのことですが、悪神ロキは黒いドラゴンと魂を共有している可能性があるんですって。だから、チカラを合わせて黒いドラゴンを倒せばラルド様の魂を取り返せるかも知れないのですわ」
「ラクシュ姫、本当なの? 王立騎士団は以前に比べて戦力が大部分消えたと聞いているけど、勝算は……」
「ありますわ。実は、王立騎士団のツートップと謳われる先代剣聖マルセス様と咆哮の槍使いレイネラ様は、まだご存命なのです。黒いドラゴンからアッシュを庇って、一時期山脈地帯を彷徨っていましたが。今は療養が終わり、境界自治区でリベンジの機会を伺っていたんですの」

 つまり、境界自治区に辿り着けば自然の流れで、先代剣聖マルセスや咆哮の槍使いレイネラと合流出来る予定だ。

「マルセスとレイネラが……生きてる? 本当にっ。オレ……てっきり二人とも、アイツにやられて死んじゃったんだとばかり。うぅ……良かった。マルセス、レイネラ……」
「アッシュ君……」

(きっと、アッシュ君にとってそのマルセスさんとレイネラさんの二人は、かけがいのない存在なんだわ。けど、妹のアイシャちゃんのことと言い、王立騎士団の二人といい。私……アッシュ君のこと本当に何も知らないで、結婚しちゃったのね。王立騎士団のツートップでどんな人達なのかしら?)

 二人の生存を知って、感極まって泣き出したアッシュ王子。
 アメリアは思ったよりもアッシュ王子の味方がまだ残っていたことに安堵しながらも、知らない人間関係の輪に突然混ざらなくてはいけない状況に戸惑いを覚えていた。


 * * *


 境界自治区はシルクロードの中継地点として利用されており、行商人やバザーが多い賑やかな街だった。人種のるつぼと言ってもいいほど行き交う人々は多国籍で、肌の色も髪の色も東方、西方、南国、北方面などの様々な国を感じさせる。

「安いよ、安いよ。伝説の剣のレプリカをどーんとご紹介!」
「ニーハオ、美味しい肉まん。いかがアル。そこのカップルお試しアルヨ」

 ターバンを巻いた行商人が西方の騎士に珍しい剣を勧めたり、チャイナ服姿の肉まん売りが南国風のカップルに試食をあげたり。観光地としても人気がある土地のようで、想像していた境界自治区と違い、アメリアは雰囲気に飲まれながら目をまんまるくして驚くばかり。

「おっと、アメリア……さすがにこの辺りで迷子になると、探すのに一苦労だ。手を繋いで歩こう……オレ、このストリートには土地勘があるからさ。ラクシュ達ともはぐれないようにしないとな」
「ありがとう、アッシュ君」

 雑踏の中、迷子にならないようにとアッシュ王子がアメリア手を繋いでくる。初めてアッシュ王子に出会った時も、こうやって手を繋いでエスコートしてくれたことを、アメリアは思い出した。
 ラクシュ姫達に先導されて、まずは王立騎士団が拠点としている詰所を目指す。石造りの立派な施設の扉を開けると、ちょうどツートップと謳われている二人が見回りから戻ってきたと告げられる。

「マルセスッ。お帰りっ。良かった無事で……本当に」
「アッシュ! 俺のラクシュ姫への愛のチカラを見くびっちゃダメだぜ。ラクシュ姫のためなら、黒ドラゴンにやられたって地獄の底からでも復活するからさ。アッシュもそろそろ俺のことお義兄さんって呼んでくれたら……。おや、そのお前が手を握っている超絶美人な女性は……?」
「ああ! 紹介するよ、妻のアメリアだ。実は今、お腹に赤ちゃんがいてさ。社会情勢が悪くて都市部だと出産出来そうな場所がないから、移動するんだ」

 体裁上はラルドが悪神ロキに取り憑かれていることは、伏せる方向性でいくようだ。確認が出来ている訳でもないし、出産の都合にしておいた方が良いだろうとアメリアは感じた。

「初めまして、マルセスさん。貴方が先代の剣聖の……」
「いやぁ初めましてアメリアさん。俺の未来の義弟アッシュがお世話になってます。剣聖なんて、大それたものじゃなかったんですが。って、それにしてもよくこんな綺麗な人をゲットしたなぁ。しかも、もう子どもまでこさえて……」
「へへ……アメリアには、ドラゴンに挑むよりも勇気を出してプロポーズしたんだぞ! 一目惚れで好きになった人なんだ」

 跪いて震えながらプロポーズしてくれたアッシュ王子の姿をアメリアは思い起こし、その頃に比べると随分と夫らしくなったと感慨深くなった。

「おーおー。いつまでもガキだと思っていたアッシュが、もうお父さんか。ってことは、お腹の赤ちゃんは未来のオレの甥っ子か姪っ子になるなぁ。よろしくね、叔父さん頑張るよ」

 アメリアのお腹にいる赤ちゃん対して、既に身内の態度で接してくるマルセス。
 気になる点は、このマルセス氏……まるでラクシュ姫の婚約者のような口ぶりをしているところだ。身長百七十センチと少しくらいのアッシュに比べるとマルセスはさらに背が高く、サラサラの青髪に顔立ちもなかなかのイケメン、いかにも女性に人気のありそうなタイプだ。

(もしかするとラクシュ姫は、トーラス王太子に対してはただのアイドル的な憧れで、本当に好きなのはマルセスさんなのかしら?)

 意外なムードメーカー、先代剣聖マルセスの登場で場が和んでいく。が、そのマルセスの陰からもう一人……黒髪ショートヘアが似合うボーイッシュな美人が姿を現す。

「アッシュ……くん。結婚、したんだ」
「あっ……レイネラ……久しぶり。報告、遅くなってごめん」
「…………!」

 アッシュ王子の結婚報告に、今にも泣き出しそうな顔をする『咆哮の槍使いレイネラ』の登場で、一気に空気が重くなる。

(咆哮の槍使いレイネラって、こんな若い女の人だったの? それにアッシュ君、その気まずそうな態度は何っっっ?)

 そして、何故かレイネラの目を直視出来ずに目を逸らすアッシュ王子に対してアメリアは、言い知れない嫉妬の感情に襲われるのだった。
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