神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
51 / 76
正編 黄昏の章

02

しおりを挟む

「私と貴方が入れ替われば全て解決する。アッシュはアメリアさんと一緒に、安全な場所へと向かって。数日前、ペルキセウスの神官達にご神託を依頼した結果、夜空に輝く八芒星の行方を追っていけば、自ずと道は開けると。もしかするとアメリアさんは、神のいとし子を宿しているかも知れない……守らなくては」

 剣聖の武器が悪神ロキに狙われていると言うことは、即ち武器を交換したらラクシュ姫が狙われるということだ。ラクシュ姫からすると最高の囮作戦のつもりのようだが、アッシュ王子からすれば最悪の提案だった。
 だがラクシュ姫は、既に国内の情勢が不安だった数日前には、アメリアの出産に最適な場所をご神託で探していたのだ。そして、そのご神託を実現する方法として思いついたのが、双子の入れ替わりなのだろう。

 驚きのあまりすぐには言葉が出なかったアッシュ王子。だが、聖なる武器【輪廻の棍】を袋から取り出し始めた姫を見て、この作戦を本気で実行しようとしてるのだと気づき思わず声を荒げる。

「ばっ馬鹿なことを言うなっ! ラクシュ、お前自分が何しようとしてるのか分かっているのか? オレに、双子の姉を犠牲にしろって言うのかっ。悪神ロキが破壊しようとしてる剣聖の武器なんか持ち歩いていたら、ラクシュが……お前が」
「……神々の黄昏、ラグナロクと呼ばれる終末が来るのなら、遅かれ早かれ私は死ぬでしょう。だからこそ、後悔したくはないのです。もし、黒いドラゴンや悪神ロキに一撃でも与えるチャンスがあるのなら。私はトーラス様の無念の想いを果たしたい! そうでなければ、死ねないっ」

 ラクシュ姫は長い間ずっと、アスガイアの王太子トーラスに片想いをしていた。僅かでも結婚の可能性があると信じながら、手紙のやり取りをしていたと言う。だが、トーラスは悪魔への生贄に選ばれて今では肉体に魂が還れず、意識不明となっている。
 おそらく、トーラス王太子の命の灯火はもうすぐ消えてしまうだろう。アッシュ王子は双子の片割れラクシュ姫が、トーラス王太子の後を追うように生き急ぐのも分かる気がした。

 今にも泣きそうな表情となるラクシュ姫の頭を撫でて、作戦の続きを語り始めたのは先代剣聖のマルセスだった。

「大丈夫、ラクシュ姫は俺が盾になって護るよ。だから、アッシュ……お前は次世代にペルキセウス国の王家の血を残すためにも、アメリアさんと安全な場所へ逃げて欲しい。ただ単に逃げるわけじゃなく、奥さんの出産を助けるためなんだ。恥ずべきことじゃない、ペルキセウス国の未来がお前の肩にかかっているんだ」
「マルセスはラクシュがトーラス王太子の仇打ちをするっていうのに、止めないのか? マルセスは、ずっとラクシュのことが好きだったんだろう? どうして……」

 マルセスは剣闘士から流浪の身となり、怪我の末に野垂れ死ぬ寸前のところをラクシュ姫に拾われた男だ。剣の腕がたつのなら、護衛として役立ててほしいと、彼を助けたのはラクシュ姫だった。マルセスにとって命の恩人であり、惚れた女性でもあるラクシュ姫。

「だからだよ、アッシュ。ラクシュ姫の初恋、そして哀しい失恋の仇打ちを見守って、もし、黒いドラゴンの討伐に成功した暁には……。俺はラクシュ姫にプロポーズが出来る。だが、今の俺じゃラクシュ姫に、流浪時代に拾われた借りがあってプロポーズすら出来ない。俺のラクシュ姫への愛を見くびるなって!」
「マルセス、お前……」

 彼女が片想いしていたトーラス王太子の仇打ちを手伝うなんて……アッシュ王子は理解に苦しんだが、マルセスの中では結論づいているようだ。

「さあ、私達の考えは理解出来たでしょう。先に輪廻の棍を預けておきます。この輪廻の棍は、巡礼の杖としても使える聖者の武器です。神に祈りながら妻の出産の場所を探す旅なのであれば、剣聖の武器よりも今のアッシュに適していると言えるでしょう。それに貴方は杖術や棒術になると、神に選ばれた使徒のように強い。まるで別人のように」
「オレも同感だ。アッシュは以前からチカラに依存する剣技よりも、合気を利用した杖術や棒術の方が得意、いやその域を超えて天才的に強い。これは元々、身体の弱いアッシュでも使える最適の武器だと思うよ。棍を使う戦いは本来、祭司が儀式のために使っていたという説もあるしな。神のいとし子を守る旅は、ずっと祈りの旅なんだろう」

 二人の冷静な分析に、思わずアッシュ王子は黙る。
 流石は双子の姉と、戦いの師匠と言うべきか。アッシュ王子が本当は剣技があまり得意ではないこと、病弱な身体でも護身が出来る合気由来の杖術や棒術の方がずっと長けていることを分かっていた。
 聖なる巡礼の旅のお供とされる武器【輪廻の棍】を、本来的な意味で生かせるのは今のアッシュ王子の方だ。

「巡礼の旅、結局……オレの旅は剣聖となりドラゴンを撃つことよりも、妻の出産を支えてペルキセウスの血脈を守ることなのか。いや元々、剣聖の武器はエイプリル・フールに造られたものだったし。まさか、こう言う形で意味合いに気づくとは……」
「旅立ちの日に、剣聖の武器を回収しに来ます。貴方と同じマントを装備して……。もうアッシュの方が背が伸びてしまったけど、一見すると私達双子は、まだ見分けがつかないはずだわ」


 * * *


 ペルキセウスの神官にご神託を依頼した結果、アメリアの出産に適した場所は、八芒星が導いてくれると言う。この星は、神のいとし子が生まれた時に夜空に現れたという吉兆の証である。


 まるでアメリアが本当に聖母となり、いずれ神のいとし子を産んでしまうのではないかとアッシュ王子は少しだけ不安になった。けれど、ペルキセウス国の神官達は、次世代のペルキセウス国王が救世主のようになる可能性があると大いに喜んでいたそうだ。

 そのような話を目が覚めたアメリアに話すと、ずっと胸に秘めた想いがあったのかポロポロと涙をこぼしはじめた。

「アッシュ君、実は私……さっき倒れた時に、アスガイア神殿の夢を見たの。分霊のエルドさんに懺悔をして、けど愚痴ばかりこぼして。叱咤激励されて……それでね、ラルドさんの次のヤドリギが見つからないって話が出て」
「アメリア、それはどう言う意味で……」

 ペルキセウス神官長のご神託とアメリアの夢の内容が、アッシュ王子の中で合致していく。

「私のお腹の赤ちゃん、まだ魂が入っていないの。受胎告知前だから、だから……もしラルドさんの魂が救われるなら。神のいとし子を産みたい。行く宛のない魂のラルドさんを産んであげたい。彼の聖母として……! だって私、今でもラルドさんのことが……」
「……アメリア、それ以上は……頼むから、もう」
「アッシュ君……あっ……ん」

 言葉の続きを聞きたくないアッシュ王子は、アメリアの口を己の唇で塞ぐしかなかった。アメリアも言葉を失い、情熱的な口づけに流されていく。

 ――長く深い口づけは、アッシュ王子にとって嫉妬の感情を封じ込めるために必要な儀式だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。

アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。 この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。 生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。 そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが… 両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。 そして時が過ぎて… 私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが… レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。 これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。 私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。 私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが… そんな物は存在しないと言われました。 そうですか…それが答えなんですね? なら、後悔なさって下さいね。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

処理中です...