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正編 黄昏の章
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しおりを挟む「私と貴方が入れ替われば全て解決する。アッシュはアメリアさんと一緒に、安全な場所へと向かって。数日前、ペルキセウスの神官達にご神託を依頼した結果、夜空に輝く八芒星の行方を追っていけば、自ずと道は開けると。もしかするとアメリアさんは、神のいとし子を宿しているかも知れない……守らなくては」
剣聖の武器が悪神ロキに狙われていると言うことは、即ち武器を交換したらラクシュ姫が狙われるということだ。ラクシュ姫からすると最高の囮作戦のつもりのようだが、アッシュ王子からすれば最悪の提案だった。
だがラクシュ姫は、既に国内の情勢が不安だった数日前には、アメリアの出産に最適な場所をご神託で探していたのだ。そして、そのご神託を実現する方法として思いついたのが、双子の入れ替わりなのだろう。
驚きのあまりすぐには言葉が出なかったアッシュ王子。だが、聖なる武器【輪廻の棍】を袋から取り出し始めた姫を見て、この作戦を本気で実行しようとしてるのだと気づき思わず声を荒げる。
「ばっ馬鹿なことを言うなっ! ラクシュ、お前自分が何しようとしてるのか分かっているのか? オレに、双子の姉を犠牲にしろって言うのかっ。悪神ロキが破壊しようとしてる剣聖の武器なんか持ち歩いていたら、ラクシュが……お前が」
「……神々の黄昏、ラグナロクと呼ばれる終末が来るのなら、遅かれ早かれ私は死ぬでしょう。だからこそ、後悔したくはないのです。もし、黒いドラゴンや悪神ロキに一撃でも与えるチャンスがあるのなら。私はトーラス様の無念の想いを果たしたい! そうでなければ、死ねないっ」
ラクシュ姫は長い間ずっと、アスガイアの王太子トーラスに片想いをしていた。僅かでも結婚の可能性があると信じながら、手紙のやり取りをしていたと言う。だが、トーラスは悪魔への生贄に選ばれて今では肉体に魂が還れず、意識不明となっている。
おそらく、トーラス王太子の命の灯火はもうすぐ消えてしまうだろう。アッシュ王子は双子の片割れラクシュ姫が、トーラス王太子の後を追うように生き急ぐのも分かる気がした。
今にも泣きそうな表情となるラクシュ姫の頭を撫でて、作戦の続きを語り始めたのは先代剣聖のマルセスだった。
「大丈夫、ラクシュ姫は俺が盾になって護るよ。だから、アッシュ……お前は次世代にペルキセウス国の王家の血を残すためにも、アメリアさんと安全な場所へ逃げて欲しい。ただ単に逃げるわけじゃなく、奥さんの出産を助けるためなんだ。恥ずべきことじゃない、ペルキセウス国の未来がお前の肩にかかっているんだ」
「マルセスはラクシュがトーラス王太子の仇打ちをするっていうのに、止めないのか? マルセスは、ずっとラクシュのことが好きだったんだろう? どうして……」
マルセスは剣闘士から流浪の身となり、怪我の末に野垂れ死ぬ寸前のところをラクシュ姫に拾われた男だ。剣の腕がたつのなら、護衛として役立ててほしいと、彼を助けたのはラクシュ姫だった。マルセスにとって命の恩人であり、惚れた女性でもあるラクシュ姫。
「だからだよ、アッシュ。ラクシュ姫の初恋、そして哀しい失恋の仇打ちを見守って、もし、黒いドラゴンの討伐に成功した暁には……。俺はラクシュ姫にプロポーズが出来る。だが、今の俺じゃラクシュ姫に、流浪時代に拾われた借りがあってプロポーズすら出来ない。俺のラクシュ姫への愛を見くびるなって!」
「マルセス、お前……」
彼女が片想いしていたトーラス王太子の仇打ちを手伝うなんて……アッシュ王子は理解に苦しんだが、マルセスの中では結論づいているようだ。
「さあ、私達の考えは理解出来たでしょう。先に輪廻の棍を預けておきます。この輪廻の棍は、巡礼の杖としても使える聖者の武器です。神に祈りながら妻の出産の場所を探す旅なのであれば、剣聖の武器よりも今のアッシュに適していると言えるでしょう。それに貴方は杖術や棒術になると、神に選ばれた使徒のように強い。まるで別人のように」
「オレも同感だ。アッシュは以前からチカラに依存する剣技よりも、合気を利用した杖術や棒術の方が得意、いやその域を超えて天才的に強い。これは元々、身体の弱いアッシュでも使える最適の武器だと思うよ。棍を使う戦いは本来、祭司が儀式のために使っていたという説もあるしな。神のいとし子を守る旅は、ずっと祈りの旅なんだろう」
二人の冷静な分析に、思わずアッシュ王子は黙る。
流石は双子の姉と、戦いの師匠と言うべきか。アッシュ王子が本当は剣技があまり得意ではないこと、病弱な身体でも護身が出来る合気由来の杖術や棒術の方がずっと長けていることを分かっていた。
聖なる巡礼の旅のお供とされる武器【輪廻の棍】を、本来的な意味で生かせるのは今のアッシュ王子の方だ。
「巡礼の旅、結局……オレの旅は剣聖となりドラゴンを撃つことよりも、妻の出産を支えてペルキセウスの血脈を守ることなのか。いや元々、剣聖の武器はエイプリル・フールに造られたものだったし。まさか、こう言う形で意味合いに気づくとは……」
「旅立ちの日に、剣聖の武器を回収しに来ます。貴方と同じマントを装備して……。もうアッシュの方が背が伸びてしまったけど、一見すると私達双子は、まだ見分けがつかないはずだわ」
* * *
ペルキセウスの神官にご神託を依頼した結果、アメリアの出産に適した場所は、八芒星が導いてくれると言う。この星は、神のいとし子が生まれた時に夜空に現れたという吉兆の証である。
まるでアメリアが本当に聖母となり、いずれ神のいとし子を産んでしまうのではないかとアッシュ王子は少しだけ不安になった。けれど、ペルキセウス国の神官達は、次世代のペルキセウス国王が救世主のようになる可能性があると大いに喜んでいたそうだ。
そのような話を目が覚めたアメリアに話すと、ずっと胸に秘めた想いがあったのかポロポロと涙をこぼしはじめた。
「アッシュ君、実は私……さっき倒れた時に、アスガイア神殿の夢を見たの。分霊のエルドさんに懺悔をして、けど愚痴ばかりこぼして。叱咤激励されて……それでね、ラルドさんの次のヤドリギが見つからないって話が出て」
「アメリア、それはどう言う意味で……」
ペルキセウス神官長のご神託とアメリアの夢の内容が、アッシュ王子の中で合致していく。
「私のお腹の赤ちゃん、まだ魂が入っていないの。受胎告知前だから、だから……もしラルドさんの魂が救われるなら。神のいとし子を産みたい。行く宛のない魂のラルドさんを産んであげたい。彼の聖母として……! だって私、今でもラルドさんのことが……」
「……アメリア、それ以上は……頼むから、もう」
「アッシュ君……あっ……ん」
言葉の続きを聞きたくないアッシュ王子は、アメリアの口を己の唇で塞ぐしかなかった。アメリアも言葉を失い、情熱的な口づけに流されていく。
――長く深い口づけは、アッシュ王子にとって嫉妬の感情を封じ込めるために必要な儀式だった。
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