転生公爵令嬢改め、乙女剣士参ります!

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
82 / 147
第3章

第11話 雨上がりと運命のシナリオ

しおりを挟む
 温泉で疲れを癒し、晩ごはんの後は観光案内所併設の旅館で無事に就寝。ベッドの中で振り続ける雨の音に癒されながら、いつしか夢の中に誘われた私。気がつくと木こりの部屋に移動していた私の隣には、緑色のムササビっぽい精霊の姿。

「おやまぁ……新入りさんかな。ふむふむ、紗奈子さんか……うーん。キミは他のゲームからのゲストキャラクターみたいだから、アバターは今のものになるけど。いいかな?」
「えっ……えぇ。構わないけど。ここは何処?」
「あははっ野暮なことを聞くなぁキミも。ここは新入りプレイヤーのアバター作成画面さ、この雨宿りの里でスローライフを愉しむのに必要な……ねっ」

 シャボン玉がふわふわと浮かぶ木こりの部屋風の空間は、ゲームのアバター製作画面のようだったが、あいにく私は別の乙女ゲームからのゲスト扱い。既に紗奈子という名前と赤毛ロングのお目々ぱっちりアバターで登録済みのようだ。

「そっか私のアバターは、ゲスト設定だからもう変更することは出来ないのね。まぁこのアバターって、可愛いからいいけど」
「でもキミと一緒に遊びに来た守護天使様は、新規にアバターを登録してもらったよ。彼はきっと、女神様のお気に入りになるね。なんせ、女神様の好感度が最も上がりやすくなる【天使の羽】を捧げたのだから」

 ムササビ精霊の話が本当ならば、今頃フィード様も夢の中でアバターを製作中と言ったところだろう。おそらく、正式なこのゲームのプレイヤーキャラはフィード様の方で、私はその付き添いのポジションと思われる。

「女神様の好感度? どういうこと、このスローライフ系ゲームの攻略対象には、女神様が含まれているの?」
「そっそれは、その……一応の守秘義務があるのでね。こほんっロッジの中にはいろんな施設があるから、見学してくるといい!」

 先程の発言は、ついうっかり口を滑らせただけなのか。ムササビ精霊はつぶらな瞳をさらに大きくして、くるくると動揺しながら飛び回りつつ私に退室を促した。

 仕方なく部屋を出ると、ロッジ内にはムササビタイプ以外の精霊も沢山いて、ウサギタイプやリスタイプなど山に生息する小動物をモチーフにした種類がメインのようだ。
 他のプレイヤーと違い特にやることもなくキョロキョロ辺りを見回していると、『過去データ部屋・プロトタイプ』という最も古いデータを管理する小部屋を見つけてしまった。よせば良いのに、ゲームアバター特有の好奇心からか、思わず部屋を開けてしまう。するとワクワクするような音楽と共に、見知らぬ少女がアバター登録する映像が再生し始めた。

 いわゆるプロモーションムービーというものだろうか、それとも実際に起こったデータなのだろうか? 分からない、分からないけれど……これ以上は何も知ってはいけない。そんな気がしてならないが、足がすくんでしまい身動きが取れない。


 * * *


 ゲームの世界観を説明するナレーションが、何処からともなく聞こえてきた。

 四季折々の幸や花が咲き誇る山の秘境、女神の泉をモチーフにした温泉は魂をリフレッシュさせてくれる。山奥に暮らす精霊達は移住者を快く受け入れ、慣れない新入りにクワの使い方や作物の育て方をレクチャーするのだ。
 その田舎ならではの長閑な景色は、プレイヤーの心に第二の故郷として愛着を生むだろう。

 例のムササビ精霊が、初心者っぽい女の子にアバター作成を促している。おそらくこのゲームのお約束でデータを作る際の最初の作業が、アバター作りなのだと気づく。

『スローライフゲームの舞台、雨宿りの里へようこそ! ここは最後の輪廻で訪れる終の住処、さあっプレイヤーよ。農業に精を出すもよし、採取を覚えて練金するもよし、狩を覚えてハンターになるのもいいぞっ』
『うわぁ~。あの有名なゲームの舞台に転生出来るなんて夢見たいっ。ねぇ、やっぱりゲームの世界みたいにマイハウスを持てるようになるの?』
『住人レベルが上がれば、仮住まいからマイハウスに移動することが出来るぞっ。ささっどんどん登録して……』

 栗色の髪の少女は自らのアバターを、ちょっぴりゲームチックな水色ヘアにして、かなりご機嫌な様子。好きな食べ物や希望ペットなども登録し、アバター作成は順調に進んでいるように見えた。

『えへへ……水色の髪に、ペットは空飛ぶウサギさん。ねぇ、これくらいでデータ登録は完了だよね。早くスローライフを満喫したいな……里まで案内してくれるんでしょ!』
『ああ! もちろんだとも。ただし、一人目の移住者であるキミには、ちょっとだけ特別な役割を条件としなくてはいけないがな……この村にはね、【女神様】が足りないんだ』
『えっ……まさか、特別な役割って……』

 ヴゥン……!

 ノイズのような音が入り、映像はそこで終了。私の夢も途切れてしまい、それ以上の情報を得ることは出来ないのだった。


 * * *


「ん……なんだか、不思議な夢ね。そういえば、雨はもう上がったのかしら」

 眠気まなこを擦りつつベッドから起き上がると、隣の部屋で休んでいるはずのフィード様が慌てて私の部屋の戸を叩く。

「大変だよ、紗奈子。昨日の雨で土砂が崩れて……橋も泉の迂回ルートも両方塞がれちゃったんだ。幸い、ヒストリアのための薬草だけは、伝書鳩精霊に頼んで送ることが出来るみたいだけど、オレ達はしばらく戻れそうにもない」
「な、なんですって……まさか、じゃあ本当に、しばらくここで暮らさなくてはいけないの?」
「あぁ……ごめん紗奈子。やっぱり、キミの言っていた通り、ゲームのシナリオは絶対に進めなくてはいけないみたいだ。ごめん、オレが軽い気持ちで女神様に天使の羽なんか捧げたから……女神様とオレの運命のシナリオが進んでしまった……ごめん、本当に……」

 判断をミスしたと思ったのかガックリとするフィード様、捧げ物の天使の羽は多分女神様の好感度を上げる特別なアイテム。

 そしてそのセリフに、何か新しいシナリオが動き始めたことを感じ取るのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。 歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。 気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。 私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。 しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。 いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね! 悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。 魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。 やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。 そして、鍵とはいったいーー。 ※毎日6時と20時に更新予定。(全114話) ★小説家になろうでも掲載しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...