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第3章
第11話 雨上がりと運命のシナリオ
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温泉で疲れを癒し、晩ごはんの後は観光案内所併設の旅館で無事に就寝。ベッドの中で振り続ける雨の音に癒されながら、いつしか夢の中に誘われた私。気がつくと木こりの部屋に移動していた私の隣には、緑色のムササビっぽい精霊の姿。
「おやまぁ……新入りさんかな。ふむふむ、紗奈子さんか……うーん。キミは他のゲームからのゲストキャラクターみたいだから、アバターは今のものになるけど。いいかな?」
「えっ……えぇ。構わないけど。ここは何処?」
「あははっ野暮なことを聞くなぁキミも。ここは新入りプレイヤーのアバター作成画面さ、この雨宿りの里でスローライフを愉しむのに必要な……ねっ」
シャボン玉がふわふわと浮かぶ木こりの部屋風の空間は、ゲームのアバター製作画面のようだったが、あいにく私は別の乙女ゲームからのゲスト扱い。既に紗奈子という名前と赤毛ロングのお目々ぱっちりアバターで登録済みのようだ。
「そっか私のアバターは、ゲスト設定だからもう変更することは出来ないのね。まぁこのアバターって、可愛いからいいけど」
「でもキミと一緒に遊びに来た守護天使様は、新規にアバターを登録してもらったよ。彼はきっと、女神様のお気に入りになるね。なんせ、女神様の好感度が最も上がりやすくなる【天使の羽】を捧げたのだから」
ムササビ精霊の話が本当ならば、今頃フィード様も夢の中でアバターを製作中と言ったところだろう。おそらく、正式なこのゲームのプレイヤーキャラはフィード様の方で、私はその付き添いのポジションと思われる。
「女神様の好感度? どういうこと、このスローライフ系ゲームの攻略対象には、女神様が含まれているの?」
「そっそれは、その……一応の守秘義務があるのでね。こほんっロッジの中にはいろんな施設があるから、見学してくるといい!」
先程の発言は、ついうっかり口を滑らせただけなのか。ムササビ精霊はつぶらな瞳をさらに大きくして、くるくると動揺しながら飛び回りつつ私に退室を促した。
仕方なく部屋を出ると、ロッジ内にはムササビタイプ以外の精霊も沢山いて、ウサギタイプやリスタイプなど山に生息する小動物をモチーフにした種類がメインのようだ。
他のプレイヤーと違い特にやることもなくキョロキョロ辺りを見回していると、『過去データ部屋・プロトタイプ』という最も古いデータを管理する小部屋を見つけてしまった。よせば良いのに、ゲームアバター特有の好奇心からか、思わず部屋を開けてしまう。するとワクワクするような音楽と共に、見知らぬ少女がアバター登録する映像が再生し始めた。
いわゆるプロモーションムービーというものだろうか、それとも実際に起こったデータなのだろうか? 分からない、分からないけれど……これ以上は何も知ってはいけない。そんな気がしてならないが、足がすくんでしまい身動きが取れない。
* * *
ゲームの世界観を説明するナレーションが、何処からともなく聞こえてきた。
四季折々の幸や花が咲き誇る山の秘境、女神の泉をモチーフにした温泉は魂をリフレッシュさせてくれる。山奥に暮らす精霊達は移住者を快く受け入れ、慣れない新入りにクワの使い方や作物の育て方をレクチャーするのだ。
その田舎ならではの長閑な景色は、プレイヤーの心に第二の故郷として愛着を生むだろう。
例のムササビ精霊が、初心者っぽい女の子にアバター作成を促している。おそらくこのゲームのお約束でデータを作る際の最初の作業が、アバター作りなのだと気づく。
『スローライフゲームの舞台、雨宿りの里へようこそ! ここは最後の輪廻で訪れる終の住処、さあっプレイヤーよ。農業に精を出すもよし、採取を覚えて練金するもよし、狩を覚えてハンターになるのもいいぞっ』
『うわぁ~。あの有名なゲームの舞台に転生出来るなんて夢見たいっ。ねぇ、やっぱりゲームの世界みたいにマイハウスを持てるようになるの?』
『住人レベルが上がれば、仮住まいからマイハウスに移動することが出来るぞっ。ささっどんどん登録して……』
栗色の髪の少女は自らのアバターを、ちょっぴりゲームチックな水色ヘアにして、かなりご機嫌な様子。好きな食べ物や希望ペットなども登録し、アバター作成は順調に進んでいるように見えた。
『えへへ……水色の髪に、ペットは空飛ぶウサギさん。ねぇ、これくらいでデータ登録は完了だよね。早くスローライフを満喫したいな……里まで案内してくれるんでしょ!』
『ああ! もちろんだとも。ただし、一人目の移住者であるキミには、ちょっとだけ特別な役割を条件としなくてはいけないがな……この村にはね、【女神様】が足りないんだ』
『えっ……まさか、特別な役割って……』
ヴゥン……!
ノイズのような音が入り、映像はそこで終了。私の夢も途切れてしまい、それ以上の情報を得ることは出来ないのだった。
* * *
「ん……なんだか、不思議な夢ね。そういえば、雨はもう上がったのかしら」
眠気まなこを擦りつつベッドから起き上がると、隣の部屋で休んでいるはずのフィード様が慌てて私の部屋の戸を叩く。
「大変だよ、紗奈子。昨日の雨で土砂が崩れて……橋も泉の迂回ルートも両方塞がれちゃったんだ。幸い、ヒストリアのための薬草だけは、伝書鳩精霊に頼んで送ることが出来るみたいだけど、オレ達はしばらく戻れそうにもない」
「な、なんですって……まさか、じゃあ本当に、しばらくここで暮らさなくてはいけないの?」
「あぁ……ごめん紗奈子。やっぱり、キミの言っていた通り、ゲームのシナリオは絶対に進めなくてはいけないみたいだ。ごめん、オレが軽い気持ちで女神様に天使の羽なんか捧げたから……女神様とオレの運命のシナリオが進んでしまった……ごめん、本当に……」
判断をミスしたと思ったのかガックリとするフィード様、捧げ物の天使の羽は多分女神様の好感度を上げる特別なアイテム。
そしてそのセリフに、何か新しいシナリオが動き始めたことを感じ取るのであった。
「おやまぁ……新入りさんかな。ふむふむ、紗奈子さんか……うーん。キミは他のゲームからのゲストキャラクターみたいだから、アバターは今のものになるけど。いいかな?」
「えっ……えぇ。構わないけど。ここは何処?」
「あははっ野暮なことを聞くなぁキミも。ここは新入りプレイヤーのアバター作成画面さ、この雨宿りの里でスローライフを愉しむのに必要な……ねっ」
シャボン玉がふわふわと浮かぶ木こりの部屋風の空間は、ゲームのアバター製作画面のようだったが、あいにく私は別の乙女ゲームからのゲスト扱い。既に紗奈子という名前と赤毛ロングのお目々ぱっちりアバターで登録済みのようだ。
「そっか私のアバターは、ゲスト設定だからもう変更することは出来ないのね。まぁこのアバターって、可愛いからいいけど」
「でもキミと一緒に遊びに来た守護天使様は、新規にアバターを登録してもらったよ。彼はきっと、女神様のお気に入りになるね。なんせ、女神様の好感度が最も上がりやすくなる【天使の羽】を捧げたのだから」
ムササビ精霊の話が本当ならば、今頃フィード様も夢の中でアバターを製作中と言ったところだろう。おそらく、正式なこのゲームのプレイヤーキャラはフィード様の方で、私はその付き添いのポジションと思われる。
「女神様の好感度? どういうこと、このスローライフ系ゲームの攻略対象には、女神様が含まれているの?」
「そっそれは、その……一応の守秘義務があるのでね。こほんっロッジの中にはいろんな施設があるから、見学してくるといい!」
先程の発言は、ついうっかり口を滑らせただけなのか。ムササビ精霊はつぶらな瞳をさらに大きくして、くるくると動揺しながら飛び回りつつ私に退室を促した。
仕方なく部屋を出ると、ロッジ内にはムササビタイプ以外の精霊も沢山いて、ウサギタイプやリスタイプなど山に生息する小動物をモチーフにした種類がメインのようだ。
他のプレイヤーと違い特にやることもなくキョロキョロ辺りを見回していると、『過去データ部屋・プロトタイプ』という最も古いデータを管理する小部屋を見つけてしまった。よせば良いのに、ゲームアバター特有の好奇心からか、思わず部屋を開けてしまう。するとワクワクするような音楽と共に、見知らぬ少女がアバター登録する映像が再生し始めた。
いわゆるプロモーションムービーというものだろうか、それとも実際に起こったデータなのだろうか? 分からない、分からないけれど……これ以上は何も知ってはいけない。そんな気がしてならないが、足がすくんでしまい身動きが取れない。
* * *
ゲームの世界観を説明するナレーションが、何処からともなく聞こえてきた。
四季折々の幸や花が咲き誇る山の秘境、女神の泉をモチーフにした温泉は魂をリフレッシュさせてくれる。山奥に暮らす精霊達は移住者を快く受け入れ、慣れない新入りにクワの使い方や作物の育て方をレクチャーするのだ。
その田舎ならではの長閑な景色は、プレイヤーの心に第二の故郷として愛着を生むだろう。
例のムササビ精霊が、初心者っぽい女の子にアバター作成を促している。おそらくこのゲームのお約束でデータを作る際の最初の作業が、アバター作りなのだと気づく。
『スローライフゲームの舞台、雨宿りの里へようこそ! ここは最後の輪廻で訪れる終の住処、さあっプレイヤーよ。農業に精を出すもよし、採取を覚えて練金するもよし、狩を覚えてハンターになるのもいいぞっ』
『うわぁ~。あの有名なゲームの舞台に転生出来るなんて夢見たいっ。ねぇ、やっぱりゲームの世界みたいにマイハウスを持てるようになるの?』
『住人レベルが上がれば、仮住まいからマイハウスに移動することが出来るぞっ。ささっどんどん登録して……』
栗色の髪の少女は自らのアバターを、ちょっぴりゲームチックな水色ヘアにして、かなりご機嫌な様子。好きな食べ物や希望ペットなども登録し、アバター作成は順調に進んでいるように見えた。
『えへへ……水色の髪に、ペットは空飛ぶウサギさん。ねぇ、これくらいでデータ登録は完了だよね。早くスローライフを満喫したいな……里まで案内してくれるんでしょ!』
『ああ! もちろんだとも。ただし、一人目の移住者であるキミには、ちょっとだけ特別な役割を条件としなくてはいけないがな……この村にはね、【女神様】が足りないんだ』
『えっ……まさか、特別な役割って……』
ヴゥン……!
ノイズのような音が入り、映像はそこで終了。私の夢も途切れてしまい、それ以上の情報を得ることは出来ないのだった。
* * *
「ん……なんだか、不思議な夢ね。そういえば、雨はもう上がったのかしら」
眠気まなこを擦りつつベッドから起き上がると、隣の部屋で休んでいるはずのフィード様が慌てて私の部屋の戸を叩く。
「大変だよ、紗奈子。昨日の雨で土砂が崩れて……橋も泉の迂回ルートも両方塞がれちゃったんだ。幸い、ヒストリアのための薬草だけは、伝書鳩精霊に頼んで送ることが出来るみたいだけど、オレ達はしばらく戻れそうにもない」
「な、なんですって……まさか、じゃあ本当に、しばらくここで暮らさなくてはいけないの?」
「あぁ……ごめん紗奈子。やっぱり、キミの言っていた通り、ゲームのシナリオは絶対に進めなくてはいけないみたいだ。ごめん、オレが軽い気持ちで女神様に天使の羽なんか捧げたから……女神様とオレの運命のシナリオが進んでしまった……ごめん、本当に……」
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