朱の緊縛

𝓐.女装きつね

文字の大きさ
4 / 47

変異

しおりを挟む

 亜樹さんの事。ナッツさんの話、やはり理解しきれない。ずっと夢の中……夢遊病者のようだと錯覚させる。

 明日のアルバイトはおあつらえ空白だとねじ込んだ脚が不躾ぶしつけ篝に向かっていた。も掻くも容赦無く夢語りに引き寄せられているようだ。


――雑居ビルの六階、一番奥の黒地の看板。

 目を覚まさなきゃ、きっとここには何かが……僕はそんな思いに目を閉じて装飾されたドアを引いた。

 朱い照明のせいなのだろう、入った瞬間に視界がぼやけて焦点が合わなくなる。平日の夜八時、どうやら今夜は空いているようだ。篝さんはカウンターテーブルの中間程におしぼりを置いて席を誘った。

 カウンターの席に腰を落として直ぐに空席を二つ挟んだ伊丹さんが声をかけてきた。覚えていたようでナッツさんは一緒じゃないのかと思ったようだ。その会話の中で伊丹さんに名前を尋ねられ、ナッツさんに言われた通りに “ 森田 ” と名乗った。だけど何だかバツが悪い、久しぶりに嘘をついた気がする。

 今夜はナッツさんと待ち合わせている訳では無く、自分の意思で篝の扉を引いた。頭の中の霞みを無くしたかったんだ、そうしないと何かがおかしくなってしまうような気がして。だけど異世界ような雰囲気に早くも呑み込まれていく感覚になる。

 もしかしてこれがナッツさんが言っていた事なのか。

 そんな事を考えていると目の前に黄金色のグラスが差し出された。ナッツさんを真似て注文したのはウイスキーのロックだ。カウンターの中の篝さんはグラスを拭きながら伊丹さんとなにやら神妙な顔付きで会話を交わしていた。

「そういえば伊丹さん、例の事件は解決したんですか?」

「あぁ、結局発作的な窒息死って事で決着さ、いろいろ調べる羽目にはなったけどな。ここでの顔見知りだからな、元々なにか身体が強くないっては聞いていたが若い子なのに本当に残念だよ」

 伊丹さんがさっきまでの明るい表情に影を落とす。篝の客だったって事だし、もしかしたら伊丹さんにとって近い存在の人だったのかもしれないな、でも死因が亜樹さんと同じ窒息死ってそんな事が続くなんてありえるのか。

「か、篝さんっ、僕が最初に来た次の日っ、ぼ、僕と城川さんはここに来ましたよねっ」

「いいえ、その日は店休でした。森田さん少しの間に雰囲気が変わりましたね、何か優しくなったような。髪型のせいですか?」

 何か無理やり話題を変えるような感じだ……っ痛、冷房が強いせいなのか、ここ数日成長期のようにひどく関節が痛む、今夜はさらに軋むようだ。


――「なっ……お、おい、森田っ時間に遅れているからもう行くぞっ」


 偶然、たまたま来店し席を引きかけた脇から僕の顔を覗き込んだナッツさんが、唐突に僕の肩を掴み退店をうながすと、そのまま有無うむも無くタクシーに押し込まれた。理解できない突然の事に、何かダメな事でもしたのかと不可解な空気をよどませながら十分程で小さなビルの前に車は停まった。

 二階建てのビル。ナッツさんに連れられるまま階段を上がりドアを開けると、そこは古びたソファーや机が置かれていて、まるで事務所のような部屋だ。

「ここは父親が残してくれたビルなんだ。まぁ、今は私の寝床だ。それよりなんだそれ、お前そうゆう趣味だったのか?」

「えっ、何がですか?」

「何がですかって……篝の朱い照明だとえらく具合が悪いのかと思ってあせって連れ出したのだけど……クスッ、そうか。蛍光灯の下だとなかなかの美人だぞ、ほら」

 と、ナッツさんは手元近くにあった手鏡を持ち上げて僕に向けた……映し出された様相に僕は驚愕した。僕だ、鏡に映っているのはたしかに僕だ……で、でも……でも……髪は細く垂れ色肌は白く、唇と頬はほんのりと赤い……化粧をした女性が鏡から眼を合わす。

「そうゆう趣味だったのなら言ってくれたらよかったのに」

「とっ、とんでもなっ……僕は、僕は何もやっていないっ、」

「え……っこ、これって化粧とかじゃなかったのかっ?」

「な、ナッツさん、なんですかこれ……ぼ、僕はっつ……痛っ」

「お、おいっ、おい天久っ、どうし……」

 雑巾のように身体ごと絞られたような激痛が襲った、一気に意識が薄れ僕は床の冷たさを感じたのを最後に意識が途切れた。


――あっ……目を開けると視界に長細い蛍光灯が見えた……そうか痛みで気を失ったんだっけ。

「お、どうだ……天久ぅ大丈夫かぁ?」

 心配気な表情でナッツさんが覗きこんでいた。深い呼吸を取り戻した時、他の気配に視線を動かすと、白衣を着た五十代ほどの男性が立っていた。

「ゴホッゴホッ……とりあえず鎮痛剤と安定剤は効果あったようですね、まぁ安定剤は一番強力なヤツを打ちましたしね」

安西あんざい先生っ……げ、原因って、」

「ですから私は安西じゃないですよ、原因が分かったら私は報道されるか表彰されますよ。可能性ならホルモンの暴走……偶然の。とにかく痛みが治まったのなら経過を見るしかできないですね」

 白衣を着た男性はお医者さんなのだろう。それにしては何か気迫があるというか……武道家か何かの人なのかな、

「手間などかまいませんよ、お父様には随分と世話になりました。それにあなたは鏡子きょうこ様と同じように大切な人ですからね」

「先生、すみません……鏡子さんに連絡を取ってもらえませんか?」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...