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手淫。
しおりを挟む六畳の部屋と四畳ほどの台所。単身者には相応であろうこの部屋、雪乃さんの寝床は少しばかり手狭なモノだった。そこに暇だからと……いや、雪乃さん目当てにちょくちょくと訪問していた僕にはただ一つ慎まざるをえない情動があった。
居間のド真ん中で毅然と鎮座している四つ脚、いわゆるコタツだ。間違いなくこの部屋の重鎮であろう四つ脚は、季節を厭わずすっかり雪乃さんの寝室となっている。
「手にしてしまうと管理しなきゃならないんだよ、物であれ何であれ。そんなのめんどくさいじゃないのさ」
……妙に説得力がある、だけれど後になってから気付かされるんだ “ 屁理屈の天才かっ ” と。
布団に覆われた四つ脚の中、細身な雪乃さんは差し支えなくコロコロと寝返えられるけれど、僕はどうにも腰骨が邪魔して上手く体勢を変えられないでいた。
残暑の中で幾分湿気を帯びたようなコタツ布団、それでも就寝はやっぱり四つ脚の中だ。先の話通り、コタツがあるのだから布団は “ 余計なモノ ” とされているのだから仕方がない。
しかしいくら “ 変人 ” とはゆえ流石に雪乃さんも暑いらしい。だろうけれど丈の短いシャツのようなワンピース一枚という雪乃さんの寝姿は色々と困りものなんだ。
突っ込んだ爪先には雪乃さんのふくらはぎやらお尻の感覚を覚えるし、寝返るたび僅か開いた猫のような唇とデコルテが嫌でも目についてくる。男性だとは分かっていてもなのだけれど、……たまらず雪乃さんの寝息を確かめると血流の強さを自分で確かめた。
それが限界、……目眩にうたれ手を伸ばしたモノならばたちまちこの人は意識を開くだろう。これなら…、慰めるくらいならと思惑はどうやら外れてしまったようだ。
「なんだよ……毒でも回ったような顔して。……まぁ男性は52秒に1度毒が回るらしいからね。……うーん、だけれど最後までとかは時間が欲しいんだ。辻褄も無いけれどあまり慣れれなくてね、きっと君の前では演者にはなれそうにないし」
そう言うと雪乃さんは剥き出していた僕に、至極ゆっくりと手を添える。
ーー『……このままいっそ』と何度も過ぎる衝動を抑えつけながら、ついには雪乃さんの色細い指を白く濡らしていた。
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