雪と月

𝓐.女装きつね

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演者。

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 酷くまな板が汚れている夢を見た。包丁で出来た傷跡に染み入った何やらの赤黒いモノを僕は何度となく、まるで悲壮でも込めたように洗い続けていた……その時、背中で雪乃さんが言ったんだ「フランケンシュタインは外国のおとぎ話じゃなくてさ、日本でも人工臓器は一次大戦以前に作られていたんだよ。そう、“ 死なない兵隊 ” を作る為にね」……と。


ーーそもそも人間には個性なんてモノは存在していなくて、状況と経験から時々に適切な役を演じているだけなのだと何やら照れ隠しのよう雪乃さんが話す。だけれど例えかのようだとしても、あの変貌具合は、普段の様などまるで片鱗も無いほどなんだ。

 まぐわいやうやうの中……いや、袖から引かれ、突如舞台に立たせられたのならばさも誰であれだ。これでもかと照明と物見に晒され素面で突っ立てなど居れるモノかっ、飲み込まれざるを得ないんだ、雪乃さんが奏でた物語をなぞる演者となって。

 幾多を重ね続けてみたものの、彼女……雪乃さんは終始手入れずの生娘よう初初しさを唇に醸している。毎度初夜かのよう頬を紅潮させ、ズルズルと這い逃れようとする様は存分に猥褻で、ますますに愛欲を禁じ得ない。

 ……まるでスクリーン、官能小説の中で舞っているよう。キスまでの時間。舌を入れるタイミング、強さ。要所、局部に辿り着くまでの経緯。最中に囁き続ける言葉の演目。

 だけれどと興醒めなどする筈もない。ミイラ取りではないけれど、舞いに溺れた演者は現実をさも簡単に飲み込み、至極の快楽へと導くのだから。

ーー水月が飲み込まれるのも才能のひとつなんだよ、万人が出来る事じゃないんだ。……言ったでしょ? “ 君もこちら側なんだから ” って。

 頬を存分に染めたままの三日月は精一杯な強がりなのだろう。今宵の幕はもう降りていますよ? 雪乃さん。
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