雪と月

𝓐.女装きつね

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影踏み。

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 日中には遅く今宵と言うにはまだ早い頃、柑子色を跳ねらせる畳を雪乃さんがなぞった。『ほら、此処を見てごらん』と指を止めた先、そこは日陰でも日向でもなく何やら揺らぐように灰色と霞んでいる。

 思うとそれは昔よりも随分小さくなった気がした。影踏みをしていた幼少期、灰色の部分を踏んだからセーフだとハシャイでいたはずなのだけれど……

 お酒が足りていないよとねだる様にヤレヤレと膝を上げた時『ほら』と猫の唇が僕を見上げた。


 あれ? 灰色が……影が伸びている?

「ボクシングで言うトコロのミックスアップかな、言ったでしょ? 水月はこちら側なんだよって」

ーー

 日向を常世、日陰を隠り世とするならね、この灰色の部分はさながらアヤカシの世界かな。だからかね、夕暮れの時刻、逢魔が時に幅を利かせてくるのはさ。

 境い目がアヤフヤなのだから “ 死 ” なんてモノも……いや、私達は産まれてすらいないのかもしれないよ?


「だからね、私の身体が無くなったとしてもそれは悲観に値しないんだよ。チェーンブロックの様、私は至る処に居るのだから」
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