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月読命。
しおりを挟む細部までハッキリと……まるで
「ふうん、じゃあ理科の実験と行きますかワトソン君。あ、服部くんがいい?」
指先に鎌を入れてグラスに私の血液を満たすとするでしょ? その後いくら熱湯を注いだり殺菌を施してもそれは違うモノ。“ 穢れ ” を拭うにはね、墨汁を透き通らせるくらいに大変なんだよ。
テレビなんかで修行の為とか鍛錬とか言って滝行しているじゃない。あれってさ、修行でも何でもなくて “ 山中異界 ” ってヤツでね。
血を染めずに異界に脚を踏み入れるなんてのは無謀どころか自殺行為なんだよ。
悪行、不品行。嫉みや嫉妬。それが他者だとしても己だとしてもね。
ーー
子の両手に隠れる程の観音像を懐に覆い、寺院の裏手へ周り像を寝かせると枯れ草に火を放った。おそらく宮司等が不在の時を図ったのだろう。
逝く時眼を奪われていたのか……やがてソレはパキパキと炎に砕け炭と化してゆく。
頃合い。まるでそれをを見切るよう大きな若葉を被せ白煙を冷ますと炭と朽ちかける観音を水に沈めた。
『ガリ、ガリガリッ』
観音像を幼き歯で砕き、全て喉に通した夜に見た夢。
小さく現れた千手観音。それは近付いてくる度に巨大となり胸元に飲み込まれた……いや、まるで憑かれ溶け込こんだ様を覚えている。
「いつか水月は観る事になると思うんだ、私の左眼を。それは墨汁を真白にするやもしれないね」
えらく羨ましく思えた、だけれどあまりな狂気だ。彼女はいつから侵されていたのだろう……朝露の虚ろな靄は佇む美奈さんを逆さまに、いつものよう猫の上唇をする彼女ではないのかとまでに覚えさせていた。
ーーこの話を知っている?
曼珠沙華は、サンスクリット語で天界に咲く花、日本では彼岸花ね。
おめでたい事が起こる兆しに赤い花が天から降ってくる。そんな伝えから天蓋花、狐の松明とも言うんだ。
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家康は居たよね、義経も。それは誰も疑わない事だけれど見たワケでも会ったワケでもないでしょ? 有るのは文献だけなのに。
だものね、日本書紀や妖怪の記述がまるでウソだとは誰も言えないと思わない?
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