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水ノ月。
しおりを挟むそうだね、誰かを不幸にしたり怖がらせたり不安にさせたりさ。それが本物だとしてもね、そんなヤツらを崇めもてはやすのは道理じゃないよ。
さも『物の怪も真実を語るのか?』なんて大きなお世話も余計なお節介も
ありがた迷惑も水月にされるなら、そんなに悪くはないのかもね。
ーー美奈さんから聞いた話だ。
再会は間違いなくあの時なのだけれどラボにツテがあったみたいでね……随分と昔から出入りしていたみたいなの。
まだ一般的ではないけれど野菜や家畜だけでは無くてね、ゲノム編集したDNAを人に投与する技術は既にあるのよ、まぁそれはあくまでも病気を治す為にだけなのだけれど。
倫理的にと論文ごと抹消はされているけれど中国では胎児のゲノム編集に成功していているの。だけれど、病気治療以外、成人への投与は例が無い……まして半分近くを入れ替えるだなんて自殺行為なのよっ。
施しようも……引き止める手段なんて何ひとつ無かったのよ。
私がラボで事を知った時、彼女はRHマイナスO型のこの人、上本佳奈子の血液を採取、培養して自らに入れ替えていたんだもの……そんなのって生きていられる方が不思議なんだから。
ーー
「玉梓はね、いづれ読めるようになるよ」
左近の桜と右近の橘。民草の脚眼を奪うよう百花繚乱と叶わなくとも橘はしかりと実がなるんだ。
知恵は生であって知識が死だとするならさ、マルドゥク座の閻魔賽日。そう、一月十六日に墜ちた私はあながち沙羅双樹なのやもね。
ふふん、水月には分からないかもしれないけれど女の子は子供の時に経験するもんさ。
お人形ってね、喋るんだよ。
そう、思い込みが真実になり呪いになるんだ。女の生霊を呑み込むにはさ、そのモノより遙か女になればいいのだもの。
一八七一賤民開放令、たかが百五十年だよ。それまでは身分制でね、それもインドなんて比べモノにならないほどにさ。
死体で作った赤晶石なんてのは非人と扱われたヤツらの凄まじい怨みから出来たモノなんだよ。
まして女性の血は “ 穢れ ” とされていて、それこそ神殿や神宮に脚を入れるなんて許されていなかったのだけれど、
まったく阿保らしい事だよ。女性がケガで神宮内の神殿に血を流した後、その日に天皇が死んだりと不吉な事が続いたから……。
たったそれだけのことなんだ。
だものね、現し世は随分と気持が悪いというモノだよ。沙羅双樹ならば枯れるだけだとしても
涅槃会が一月十六日だと謳われるなら、侵食するしかないじゃないのさ。
「……だからね、私のそれを水月に託したんだ」
雫が登るよう左瞼に記された彼女の “ 手紙 ” は私の次に誰を選ぶのだろう……まったく、相も変わらずにめんどくさい人だ。
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