雪と月

𝓐.女装きつね

文字の大きさ
57 / 59

水ノ月。

しおりを挟む

 そうだね、誰かを不幸にしたり怖がらせたり不安にさせたりさ。それが本物だとしてもね、そんなヤツらを崇めもてはやすのは道理じゃないよ。

 さも『物の怪も真実を語るのか?』なんて大きなお世話も余計なお節介も
 ありがた迷惑も水月にされるなら、そんなに悪くはないのかもね。

ーー美奈さんから聞いた話だ。

 再会は間違いなくあの時なのだけれどラボにツテがあったみたいでね……随分と昔から出入りしていたみたいなの。

 まだ一般的ではないけれど野菜や家畜だけでは無くてね、ゲノム編集したDNAを人に投与する技術は既にあるのよ、まぁそれはあくまでも病気を治す為にだけなのだけれど。

 倫理的にと論文ごと抹消はされているけれど中国では胎児のゲノム編集に成功していているの。だけれど、病気治療以外、成人への投与は例が無い……まして半分近くを入れ替えるだなんて自殺行為なのよっ。

 施しようも……引き止める手段なんて何ひとつ無かったのよ。
 私がラボで事を知った時、彼女はRHマイナスO型のこの人、上本佳奈子の血液を採取、培養して自らに入れ替えていたんだもの……そんなのって生きていられる方が不思議なんだから。

ーー

玉梓たまずさはね、いづれ読めるようになるよ」

 左近の桜と右近の橘。民草の脚眼を奪うよう百花繚乱と叶わなくとも橘はしかりと実がなるんだ。
 知恵は生であって知識が死だとするならさ、マルドゥク座の閻魔賽日。そう、一月十六日に墜ちた私はあながち沙羅双樹サラソウジュなのやもね。

 ふふん、水月には分からないかもしれないけれど女の子は子供の時に経験するもんさ。

 お人形ってね、喋るんだよ。

 そう、思い込みが真実になり呪いになるんだ。女の生霊を呑み込むにはさ、そのモノより遙か女になればいいのだもの。

 一八七一賤民開放令、たかが百五十年だよ。それまでは身分制でね、それもインドなんて比べモノにならないほどにさ。
 死体で作った赤晶石なんてのは非人と扱われたヤツらの凄まじい怨みから出来たモノなんだよ。

 まして女性の血は “ 穢れ ” とされていて、それこそ神殿や神宮に脚を入れるなんて許されていなかったのだけれど、
 まったく阿保らしい事だよ。女性がケガで神宮内の神殿に血を流した後、その日に天皇が死んだりと不吉な事が続いたから……。

 たったそれだけのことなんだ。

 だものね、現し世は随分と気持が悪いというモノだよ。沙羅双樹ならば枯れるだけだとしても
 涅槃会が一月十六日だと謳われるなら、侵食するしかないじゃないのさ。

「……だからね、私のそれを水月に託したんだ」

 雫が登るよう左瞼に記された彼女の “ 手紙 ” は私の次に誰を選ぶのだろう……まったく、相も変わらずにめんどくさい人だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...