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一章 新たな人生が動き出した

6 お披露目夕食会

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「アンジェが幸せそうで僕は嬉しいよ」
「ありがとう。とても幸せだ」

 屋敷での「番の成立お食事会」には前王の二番目の弟の子どもに当たるユリアン様、リーヌス様ご夫婦、アンジェの弟のクヌート様、マルセル様、うちの兄様夫婦成人して番のいる身内のみだ。王のハルムート様も年の離れた従兄弟だけど、王を内輪の会に呼ぶわけにも行かず、そして彼は忙しい。

「それにしても愛らしいなクルト様は」
「だろう?」
「よく見つけたもんだと俺たちは感心してたんだよ。誰も舞踏会でもクルト様に気が付かなかったからな。アルバン様はよく見かけたけど」

 ええと兄様は微笑んだ。クルトは社交が得意ではありませんのでとフォローしてくれた。

「アルバン、お前が隠してたんじゃないのか?」
「そんなことはしませんよ。ユリアン様」

 うん。地味ぃに端っこの薄暗い中でむしゃむしゃしてたからね。見つけるほうがどうかしてる。そんな感じで食事会には進み、兄様たちはこれで帰るって。

「明日大事な仕事があってな。すまない」
「いいえ、兄様たち忙しい中来て下さってありがとう存じます」
「ああ。アンゼルム様に迷惑にならないように」
「うん」
「幸せにしてもらえよ」
「はい!」

 サラッと兄様たちは帰り、アンジェの身内のみになり、じゃあサロンに移ろうと移動。アンジェはソファに座り僕の腰に腕を回して離さない。その様子にアンジェらしくないとユリアン様はからかっていが、うん?となにか気がついたようで、

「なあ、もしかして僕を疑ってる?」
「ああ。前科があるヤツの前に出してるからな。人の番だろうが食うやつを信用などしない」
「酷いな、手なんか出さないよ。アンジェ怖いし、今はそんなことしてないもん」

 アンジェはフンと鼻を返事するように鳴らした。ユリアン様は結婚前、手当たり次第に食っ散らかす最低な人だった。とうとう酔っ払ってよその奥様にまで手を出してね……そりゃあもう大問題になった。
 そんな大変な時に現れたのが今の奥様。凛とした美しさをもった少年に心を鷲掴みされたそうだ。

「仕方ないでしょ?僕強い人にいじめられるの好きなんだもん」
「ほほう……リーヌスこんなこと言ってるが?」
「おほほ……ユリアン一度神に会って来い」

 グーでみぞおちに一発ドスッ。

「グオッ!リー…ヌス…吐くだろ……痛い。でも気持ちい…堪らんおかわりを…っ」
「え…変態……?」
「そうだ」

 ユリアン様の性癖はまあ置いといて。そんなことしてるわりにその時には婚約者がいたそうだ。親にも相手のお家からも責められていた時期に、候爵家の末のお子さんだったリーヌス様が社交界デビュー。
 白金の髪、切れ長の目、透明感のある水色の瞳。スラッとして優雅な身のこなしなのに「殺すぞ」というような眼力が備わった美しい少年だった。今も綺麗なまま育ちエロさもプラスされた妖艶なイケメン。
 ユリアン様はロックオンして舞踏会の間付け狙い、彼がひとりになったところでいきなりうなじにガブッ!体格差をいいことに空いてる客間に引きずり込み朝まで楽しんだ。十年は前の話だけど、婚約者のお家が更に怒ってね。当たり前だ。

「あれはなあ……最後はお金で解決した」
「フン。婚約者を親の勧めで簡単に決めるから……」

 アンジェの言葉に悪びれる風でもなく、彼は頭の後ろで手を組んで天井を仰ぐ。

「だってさ。あの頃の僕は結婚に興味なくて、婚約者も世間体で家の格に合えば誰でもいいやって。僕は死ぬまで食っちらかそうかと思ってたんだよね。子どもなんざ養子でも、気に入ったら愛人にでも産ませようかと思ってた」

 なんと……どこの遊び人だよ。公爵家の跡取りとは思えない発言だね。彼は独身で好きに過ごすつもりが、リーヌス様が現れて気が変わったんだ。リーヌス様は眉間にシワで、

「あのさあユリアン。俺はあの頃お茶会とかで相当冷たい目で見られてたんだよ。泥棒猫とも元婚約者エルメール様に面と向かって!言われたり、エルマー様の取り巻きにはどつかれるし、大変だったんだぞ」
「ゔっごめんね?何度謝っても足りないけど、僕は幸せだから。リーヌスが大好きなんだ。今夜もベッドで僕をいじめてよ」
「ならばいい」

 サラッとすごいこといってるけど?かっこよくすましているリーヌス様に抱きついて撫で回し「うざい!」とまた殴られてうっとりしてる。もろ変態だけど幸せそうではある。

「クルト様、こんな夫婦ですが仲よくして下さいませ」
「いえいえ。こちらこそよろしくお願いします」

 この様子を静かな微笑み見てるふたり。アンジェの弟夫婦だ。アンジェに似ててクヌート様はあんまり話をしない方だけど、奥様もあんまり発言しなくて聞き役に徹している。

「アンジェが中々彼を外に出さないから、きっとすでに嫌われてクルト様が逃げたかと思ってた」
「失礼なこと言うな。クルトは若いから待ってただけだ」
「ふーん。嘘くせぇな」

 うん。クヌート様は口が悪かった。でもそんな軽口がきけるほど仲がいいってことだろうけど。

「だけどクルト様はかわいいね。ベルントも見た目はかわいかったけど、中身はなんの魔物だよって感じだったからな」
「まあな」

 こんな時にベルントの話をするべきではないが、クルト様も仲よくしてたんだよなってクヌート様。

「ええ、優しく穏やかに話す人でした」
「ふふん。ヤツは猫かぶってたな」
「ああ、素敵な奥様を演出するんだって言ってたよ。どうせ短い間しか一緒にいれないから、かわいくするんだってな」
「え?」

 本来の彼は乱暴な口のきき方で、貴族というより職人らしい人だったそうだ。外での彼は「かわいい」を強く演出していて、普段を知らない人はかわいいって評価の人も多数だったそう……ベルント様は策士だった。

「クルトが見たまんまのかわいらしさで、素で話すと嫌われるかも?って猫かぶることにしたのが本当だ」
「へえ…どんなでもあの人を嫌うとかなさそうだけど?」

 あははってユリアン様は笑った。

「クルト様。アレはちょっとした乱暴とかではなかったんだよ。民に混じって殴り合ってたりね。良いものを作る気概の強いやつで、アンとは思えん気性の荒さだったよ」
「へえ……そんな感じは受けませんでした」

 ベルント様はノルンのような人で、周りもノルンで生まれればと残念がるような人。みんなは口々に、誰それを殴って蹴り入れてたとか思い出を話して楽しそうだった。僕はたった二ヶ月だったけどそんなか?と聞いていた。

「なあアンジェ。改めて聞くがずいぶんベルントとは違うな」
「ふん。俺はベルントを尊敬していたし、同じ目線で歩ける友のような妻だったんだ」
「うんうん。彼は違うように見えるが?」

 そうだなあって僕をギュッと体に寄せて、

「彼は「白の賢者」だ。いつか心の一部が変わり俺と共に……だな。武具、武器てはなく、なにかあれば一緒に戦う戦友になるはずだ」
「え……?」

 みんな絶句。「白の賢者」は簡単に判明はしない。天啓も事件が起きなければない。あの家の誰かがいつもいるはずしか分からない。ここ数十年、戦や大規模討伐なんてなかったろって。アンジェは神妙な顔になり、

「ここだけの話にしてくれ。彼はよその世界から来た「神の奇跡」だ。だから判明している」
「な、なんだそれ?」

 アンジェは僕のことを大雑把に説明。彼らはさすが国の重鎮たち、簡単な説明なのにすぐ理解した。

「そうか……神の奇跡が今の世にもあるのか……すげえな」

 歴史に少しだけ記載があるそうで、ヘファイストス様の寵愛を受け過ぎてる人は、ありえない魔剣を鋳造し、剣の一振りでアウルベアを一刀両断。またはポセイドン様の人は、大嵐の中の沈没船を海を割って?助けたとか。モーゼかよってレベルで、海底が現れて歩いて救出とかね。異常な神の寵愛でほとんど「奇跡の魔法」を発現させる者はいたそうだ。

「クルト様はアレス様の目に入ってるのか……異常はないか?」
「ええ…特には」

 アルテミス様はいいとして、アレス様が蹴り落としたとなるとなにか不具合があってもおかしくない。あの方の寵愛は最後は魔神のようになる。戦闘に異常な興味を示し訓練三昧、戦うことにしか興味を持たなくなり、自分の力を見失ってハーデス様の元へ行くなんてのが多い。クヌート様の言葉にみんな不安がって僕を見た。

「今はその兆候はない。クルトの加護はアルテミス様だけのようだ」
「ふーんならいいがな」

 ただ、異様に魔力は多い。俺よりなって。

「えっ……それはどうなの?」
「白の賢者の素養か、アレス様がなにかしたのかは分からぬ」

 アレス神に関わるのはよくない。仕方なかったのだろうが、あの方は戦を楽しんでる神だ。力の行使がこの先あった時は注意しろって。

「なにを?」
「力の暴走の可能性があるんだ。敵を倒してるうちに楽しくなって殺戮さつりくの魔神となる」
「はえ?」

 アンジェに聞くと、アレス神は戦い自体が好き。自分の配下の使徒たちと楽しむんだそうで、賭け事紛いのことをしてると噂がある。だから、シュタルク王国は勝ったり負けたりも多い。アレス神が味方した方が勝つことが多いからだそう。アレス神の加護はシュタルクだけではないからね。

「戦を遊びと思ってるフシがある。人はいくらでも再生し代わりはいると。国が滅びないギリギリを楽しんでる気が俺たちはしている」

 確かにそんな感じがしたな。よくゲームとかで軍神とかってキャラ出て来るヤンチャそうなイケメンいるでしょ?アレだ。

「あー……会った感じそんな人っぽかったです。気が短そうな、とてもきれいな武人の姿で無邪気に笑う赤い短髪の……」

 伝わる通りなんだなとリーヌス様。昔天啓を受けた先祖がそんなことを書いてる書物が家にあるそうだ。

「まあ、アンジェがいればなんとかなるだろ。戦闘の時は止められるよう隣にいろ」
「もちろん」

 んふふ、知らんことが出てきた。アレス様怖いんだな、荒神と自分で言ってたよそう言えば。アンジェは僕は彼の加護はなくとも目には入っている。なにかあれば加護をくれるかもしれないから気を付けろって。アルテミス様に祈るのも有効かもしれないから、頭の片隅にでも入れておけと言われた。

「はい」
「心配するな。白の賢者が必要になることはめったにない。いつもならお前の家の誰かが加護を受けていれば大量の魔物に襲われることもないんだ」
「それは知ってます。誰もいないと国の防御がなくなり魔物が跋扈ばっこすると」
「そうだ」

「白の賢者」は生存していることが大切。たまに次を引き継ぐ者がいなくて死んじゃう場合あり。流行り病とかで現役世代が全滅。子どもは幼く力をもらっても魔力不足で発動出来ないとかね。
 その時が大変なんだ。国を上げて魔物退治や瘴気の浄化とかね。それは学園の歴史で習っていて、次世代がある程度育つと嘘のように魔物が引く。それだけの力が白の賢者にはある。ユリアン様が、

「今ラングール家は……クルトとアルバンだけか?」
「はい。外に出た方はすでに亡くなり、そのお子様もお年を召していますね」

 父様の兄弟は病でみんなハーデス様のところに行ってしまった。うちの直系は父様以外にいなくて、加護が貰えるのは「現ラングール家当主の子ども」と決まっているんだ。例外もなくはないけど、それは国が相当やばかった時だけだね。

「あのさ、シリウスを覚えてるか?あいつ……」

 僕の話はそこで終わり。心配しても始まらんと世間話に変わっていって、彼らは一泊屋敷に泊まって帰って行った。誰も番の内容なんて聞いて来なかった。だから恥ずかしいものと感じない、兄弟だけのお食事会のようでよかった。まあね、聞かれても答えないけどね!








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