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二章 討伐とその後
5 使っちゃダメだったようで
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行きと違い優雅に飛んで陣営に到着。まあ、景色は夜で暗いし燃えてるし、異臭も漂う、うーん。テントの前でラムジーに降ろしてもらい、テントの中に入ってユリアン様に報告。
「よくやった。ゆっくり休めと言いたいところだが、クルトまだ動けるか?」
疲れてないと言えば嘘だけど、魔力切れを起こしそうな感じはない。
「はい」
「なら悪いんだが、治癒の手助けを頼む。後ろのテントだ」
アンジェと別れてひとり、後ろテントに向かった。入口の騎士に幕を開けてもらうとウッ……大変なことになってた。
手足がもげてたり、荒い息で瀕死で呻いていたり。それも命が消えそうな……広いテントの中は死にそうな人ばかりだった。血の匂いに満ちた空間でうめき声と、死ぬな!と治療士が声を掛けている声しか聞こえない。
手前の治癒士は、治療の甲斐があって落ち着いた患者にポーション飲ませたり、ボワワーッと魔法を発動して止血したりしている。トリアージも出来ていないようで、目についた者を治してる感じに見える。
「これは……よし、あれだね!ねえ君、ポーションある?」
僕は近くの治癒士に聞いたんだ。今にも死にそうな人を探すよりここは一気にだよね。不審げに僕を見ているけど、一緒にきた入口の騎士が説明してくれると、彼は慌てて木箱満載のポーションを差し出してくれた。
「これは魔力ポーション?」
「それはこちらです」
別の箱を僕の前に置いてくれた。それをわしずかみして片っ端から飲んだ。疲れてなくとも、今の戦闘で魔力はかなり減ってるはずなんだ。まあ、僕の体力はたぶんまだ持つと感じる。
「あの…飲みすぎるとお具合いが……」
「いいの!」
不安そうに見つめる治療士を無視して、体に気持ち悪いくらいの熱がみなぎるまで飲んだ。そして僕は入口に戻り、テントの中を見渡した。ふむふむと範囲を確かめて指をしっかり組み、片膝付いて頭を下げる。この広さに所狭しといる人の数では、僕の通常のエリアヒールではムリ。手足の復活もムリだ。
「神に請う。医神アスクレピオス、その父アポロンのお力を賜りたく……願い奉る。我にこの者たちを救うお力を賜りたい」
強く祈り願った。すると、テントの床全部を覆うほどの魔法陣がブオンッと音を立てて現れた。緑に光る魔法陣はそのまませり上がり、ドフンッと、天井付近で砕け散り、欠片は光となって患者に降り注いだ。その様子に治療に集中していた治療士は驚いて、
「何ごとだ!なんだこの光は!」
「なに?でっかい魔法陣が爆発?」
治癒士たちはオロオロしたけど、怪我人はすーっと光が触れるとそこからキズが治り、手脚の欠損がみるみる復活。
よっしゃあ!父様やったよ!僕はやれば出来る子なんだよ!うははっと高笑い。
「よし!少しでも死者が減らせたよね」
「そうだな。クルト」
前から父様が手を振りなからニヤッとする。兄様も一緒だ。来てたんだね!
「父様!アルバン兄様!」
少しニッコリしながらよくやったと父様は抱いてくれた。
「我らもここで癒やしの手伝いをしてたんだが、数が多くて治しても治してもでな」
「お疲れクルト。これほどとはなあ。アスクレピオス様はさすが医神だな」
「うん!」
これはアルテミス様の加護の一部で、他の神の力を召喚出来るんだ。白の賢者は別名「慈愛の賢者」とも呼ばれ、あり得ないケガを治す力を発揮することが出来る。
「なんだこれ」
「クルトがしたのか……」
アンジェとユリアン様が異変を感じて様子を見に来て呆然。怪我人は全員復活して談笑していたからね。効果が外にいる軽いけがケガ人にも届いたようで、みんなきれいに治ったそうだ。
「すげえな白の賢者とは……」
「黒は攻撃魔法の増幅だけだから、こんな奇跡のようなものは……クルトはすごいな」
僕らの側にふたりが来てありがとうって。騎士たちも感謝してるぞってね。振り向くと泣いていたり、クルト様って手を合わせる人まで……いやいや僕は神ではありません。
「いいえ!俺は……妻に子が生まれたばかりで…ありがとう存じます!」
僕の手をしっかり握って、震えながら手の甲にキスをくれる。これは相手に最大限の敬意と敬愛を示すキスだ。
「俺は騎士学校からで……腕がなければ騎士を辞めて領地に帰らなければと……本当に感謝しかありません。ありがとう存じます」
「役に立ててよかったです」
僕の周りは復活した騎士や魔法使いでいっぱいになった。みんな感謝を伝えてくれて、頑張って書物を覚えた甲斐があったね。
「なぁクルト。まだ余力はあるか?」
「はい。ユリアン様」
ちょっとクルトを貸してくれと連れて来られた場所は……騎士の遺体安置所。バルシュミーデの騎士が大半だそうだ。戦闘が激しく、あちらの陣営に連れて行けずに、ここに集められたそうだ。我が国の騎士はまともな戦闘経験がなく、魔獣討伐が得意。だけど、こんな大物の体験はなく蹴散らされ、戦略がまともに機能しなかったそうだ。結果、防御、後方支援がほとんどで、遺体回収もうちの仕事となっていたとユリアン様。
「ここにポーションがある。全部飲め」
「はい」
グビグビとあるだけ飲んだら、体がかなり熱っぽくなるほどだった。さっきよりたくさん飲んだからね。
「アスクレピオス様は、死者の復活が出来る力があると、僕はなにかの文献で読んだんだ。試してみて欲しい。出来なければそれはそれで構わない」
「あーはい」
ユリアン様はバルシュミーデの戦死者は、かなりの数に上ると教えてくれた。我らの分の戦闘の肩代わりでこの結果は心苦しく、少しでも国に返してやりたいと言う。その気持ちは僕にも理解出来たから、僕は先程と同じように祈る。
……其方の気持ちは分かるが、代償も必要だ……
「へ?代償とは?」
……数年だが寿命を差し出せ。これだけの死者の復活には命の代償が必要だ。生者の治癒とは違う……
ああ……そうね。年に数人なら代償はいらぬが、数が増えればそれは人の輪廻の乱れに繋がる。人の寿命は生まれる前に決められて、無理を押し通すならば、術者にその代償を支払わせると言う。
「構いません。お願いします」
「分かった」
すると先程とは違う、金色の魔法陣が床に広がる。そしてせり上がり、ボフンっと弾けて死体に降り注いだ。遺体が光を吸収したように見えたけど、特に変化はなかった。あれ?失敗か?と思っていると、遠くからカハッとか、うっとか声がし始めた。成功した!よかったと思ったら、僕の視界が歪んで、僕はグラッと傾きそのまま床に倒れ込んだ。
「クルト!」
アンジェが慌てて床に座り込む僕を抱き起こした。
「よくやったとは言い難い、なにかおかしなことを口走ってたが大丈夫なのか?」
僕を抱いて覗き込むアンジェにんふっと苦笑いした。
「少し寿命が減っちゃった。ごめん」
「え?……それはどういうことなんだ」
僕本来の死の予定日より数年短くなり、なぜそうなるのか、神の説明して聞かせた。
「なんでそんな大切なことを……俺に相談もなしに」
「ごめんね。でもこんなことで死んでいい人なんていないと、僕は考えたんだ」
「だが……」
さすがのユリアン様も僕の説明に、無理をさせたと頭を下げた。すると見上げているアンジェの表情がスッと消え、ゆっくり後ろを振り返った。
「ユリアン。お前は俺からクルトと共にいる時間を奪った。俺がどれだけクルトを大切にしているか、お前知ってるよな?」
「う、うん……ごめんなさい」
記憶にあった知識で言っただけだったんだが、まさか本当に出来るとは僕も思ってなかったんだと、ユリアン様はアンジェに怯えながら後退りした。
「ごめんクルト。お詫びに君たちがなにか困ったら力になるよ。きっとね!」
「あはは。はい」
睨み見合うふたりの揉めている後ろでは、ゴソゴソと死者たちは起き上がり始めていた。俺は死んだはず……?とか、全裸に被せていた布だけの人もいて寒い!と震えてたり。お互いの生還を喜んでいる騎士たちを、僕はよかったと眺めていると、父様たちも異変を感じたのかテントの幕を上げて、テントの中を見渡し、あーあと脱力してふたりで盛大にため息。
「クルト……これ使っちゃダメな術だ。アスクレピオス様に寿命取られたろ」
「ええ、すみません。父様」
呆れた父様は、やったものは仕方ないがと前置きして、倒れ込んだ僕の側に片膝をついた。
「お前は私が用意した羊皮紙を読んだのか?」
羊皮紙?あーあの巻物ね。いくつかあったけど……記憶にないな。読んだ記憶はあるから、流し読みだな。
「あはは……記憶に残ってませんね」
バカだなあお前はと父様は肩に手をポン。
「ちゃんと読んでいれば、この術を使う前に考えたはずなんだよ」
困った子だよと頭を撫でてくれる。あれのひとつに書いてあったようだ。何百年か前に流行り病でたくさんの民や貴族が亡くなって、その時バカスカ発動して死んじゃった賢者がいたんだって。心根の優しい領主で、頼まれるままやってたそうだ。こうなることを理解した上で。
「王まで死にかけで使いまくったんだ。ある程度病が落ち着いた頃、城の廊下で冷たくなって倒れてた」
「あー……」
その話を横で聞いてたアンジェは、僕から視線をはずし、ゆらりとユリアン様を見上げた。
「ぼ、僕は、そんな使い方はさせないし?これ以上してくれって言うつもりはない!てか、ここにいるのは今日死にたてだから!他はもう魔法でも無理なのは知ってるよ!だから頼まないから!」
ユリアン様はアンジェの静かな怒りに怯え、ジリジリと後退りしてテントにぶつかるまで下がった。死者は一晩超えたら魔法でも生き返らないらしいと父様。あの、僕がいた暗い場所でニ四時間以上過ぎると、ハーデス様が迎えに来てしまうんだって兄様が説明してくれた。あそこに僕がいたのは内緒にして、初めて聞いたふうを装った。
「ユリアン……お前」
「しないから!ホントに!」
「ならばよいが」
アンジェがフンと鼻を鳴らすと、怖くなったユリアン様はじゃあまたなと、テントの幕を爆速で上げて安置所を出ていった。アンジェは僕の頬を撫でながら、無理をしてと苦渋の表情で……ごめんなさい。
「クルト。もうこの術は使うなよ。アンゼルム様との時間が減る」
「はい」
父様は人の死は辛く哀しい。だが、受け入れなければならないものなんだと言う。
「こんな、他国の不始末で死ぬのがお前は不憫と思ったんだろうが、我らもお前が死ぬのは辛いんだ。そこをきちんと認識してくれ」
「あの…はい。ごめんなさい……」
アンジェは渋い顔のまま。他の人には無表情に見えるだろうけど僕には分かる。すっげぇキレてる。これ僕に怒ってるよね?
「アンジェ……ごめんね」
僕の目を見て……というか睨んで、
「クルト。俺が死にそうでもこれは使うな」
「えっと、なんで?」
「引き換えにお前が死ぬかもだろ」
「ああ、はい」
おっかない……静かにキレてるアンジェが怖い。
「クルト、我らは屋敷に帰るよ」
「え?もう遅いのに……」
「まあ、ヘルテルの騎士に頼むさ。ここにいても仕事はないからな」
「はい。ふたりとも来てくれて嬉しかったです」
父様と兄様は、お前が頑張ってるんだから来るのは当たり前だと笑った。
「ラングール家はこのためにいるんだ。加護がなくとも、こういった災害時に参加するのは努めだ。お前の近くにいたかったしな」
「ありがとう存じます」
生き返った人たちは治療士たちや他の人たちが世話してくれるそうだ。僕らはテントの外に出た。兄様はその足でヘルテルの騎士の元に行き、帰宅のお願いして父様に声を掛けて、騎獣に跨る。
「またな」
「はい。たまに遊びに行きますね」
「ああ、何もなくても来なさい」
出発とヘルテルの騎士が言うと、すーっと音もなく飛んで行った。
父様たちを見送ってから、僕らは騎士の作る食事を一緒にお外で食べて、わらを敷き詰めたベッドに、綿入りシーツを掛けただけの寝具でアンジェと眠る。簡易の戦用の寝具だ。騎士たちはテントでマント羽織って寝るそうだ。僕たちが寝室用のテントの中に入ると、アンジェはあからさまに不機嫌になった。
「アンジェ許して」
「無理」
「なんで?僕はみんなに生きてて欲しかっただけだよ?」
「それは理解するが……俺に相談してくれれば止めたのに」
「たぶん止めても僕はしたと思うよ?」
「なお悪い」
アンジェは向き合ってるのに目をそらして僕を見てくれない。
「アンジェ……僕を見て」
「イヤ」
僕はアンジェの頬に手を当てて懇願したけどイヤって。彼はものすごく拗ねてしまった。あの短時間に他のことなんて考えられなかったんだよ。テントに寝かされてるたくさんの騎士たち。血まみれで、掛けてある布にも染みてて、布からはみ出る肌は確実に死んでると分かる、あの薄く緑がかった肌色だった。あれはさ、出来るものならなんとかと考えるでしょうよ!
「ならさ。アンジェが僕の立場なら、みんな死んじゃったけど仕方ないって思った?使える力があるかもしれないのに?」
うっ…と声を出してビクッとする。
「……どうだろう」
「助けられるかもしれない術を、あの場で試さない自信はあるの?それに僕に相談した?」
目をそらしたままあー……と。
「相談はたぶんしないし……自分に出来るならと……バルシュミーデは多くの戦死者を出したのを知ってたしな」
ほら見ろ。アンジェが責任感強いの知ってるんだよ。彼がたくさんの戦士のムダ死にを見逃せるはずないんだ。彼の若さで国の大臣をやれるくらい仕事を大切にして、人の死の痛みを誰よりも知ってるんだもの。
「ごめん。俺とクルトは歳が離れてるから、将来俺が先に逝くのは仕方ない。だがお前が先に逝くとか……俺は考えてもいなかったんだ」
「うん……きっと同じくらいに死ねるよ。ずっと一緒にいよう?」
分かったと僕に目を合わせてくれた。こういった戦闘の後は興奮でしたくなるが、お前が負担になるから我慢する、寝るぞって。アンジェ正直だな。あはは。
だけどこういった戦では生死が掛かっていて、異常な興奮を実はみんなしている。世界が違ってもここは同じで、大昔からこういった場に不釣り合いな、色っぽい人が待機しているテントを作る。陣営から少し離れた場所に設置されててね。
死の恐怖や興奮は性欲に繋がり易く、誰かと触れ合うのは心の安寧のために意味はある。人の死をたくさん見たからの不安を、誰かと抱き合うだけでも一時的に癒せるんだ。僕は戦闘らしいことをほとんどしてないからそういった気分にはならなかったけど……
僕は彼の胸に擦り付いた。アンジェの暖かさを感じるだけで落ち着く。大好きな人の匂いは心の安定をもたらして……ぐぅ。わらのガサゴソ音も気にならずに眠ったんだ。
「よくやった。ゆっくり休めと言いたいところだが、クルトまだ動けるか?」
疲れてないと言えば嘘だけど、魔力切れを起こしそうな感じはない。
「はい」
「なら悪いんだが、治癒の手助けを頼む。後ろのテントだ」
アンジェと別れてひとり、後ろテントに向かった。入口の騎士に幕を開けてもらうとウッ……大変なことになってた。
手足がもげてたり、荒い息で瀕死で呻いていたり。それも命が消えそうな……広いテントの中は死にそうな人ばかりだった。血の匂いに満ちた空間でうめき声と、死ぬな!と治療士が声を掛けている声しか聞こえない。
手前の治癒士は、治療の甲斐があって落ち着いた患者にポーション飲ませたり、ボワワーッと魔法を発動して止血したりしている。トリアージも出来ていないようで、目についた者を治してる感じに見える。
「これは……よし、あれだね!ねえ君、ポーションある?」
僕は近くの治癒士に聞いたんだ。今にも死にそうな人を探すよりここは一気にだよね。不審げに僕を見ているけど、一緒にきた入口の騎士が説明してくれると、彼は慌てて木箱満載のポーションを差し出してくれた。
「これは魔力ポーション?」
「それはこちらです」
別の箱を僕の前に置いてくれた。それをわしずかみして片っ端から飲んだ。疲れてなくとも、今の戦闘で魔力はかなり減ってるはずなんだ。まあ、僕の体力はたぶんまだ持つと感じる。
「あの…飲みすぎるとお具合いが……」
「いいの!」
不安そうに見つめる治療士を無視して、体に気持ち悪いくらいの熱がみなぎるまで飲んだ。そして僕は入口に戻り、テントの中を見渡した。ふむふむと範囲を確かめて指をしっかり組み、片膝付いて頭を下げる。この広さに所狭しといる人の数では、僕の通常のエリアヒールではムリ。手足の復活もムリだ。
「神に請う。医神アスクレピオス、その父アポロンのお力を賜りたく……願い奉る。我にこの者たちを救うお力を賜りたい」
強く祈り願った。すると、テントの床全部を覆うほどの魔法陣がブオンッと音を立てて現れた。緑に光る魔法陣はそのまませり上がり、ドフンッと、天井付近で砕け散り、欠片は光となって患者に降り注いだ。その様子に治療に集中していた治療士は驚いて、
「何ごとだ!なんだこの光は!」
「なに?でっかい魔法陣が爆発?」
治癒士たちはオロオロしたけど、怪我人はすーっと光が触れるとそこからキズが治り、手脚の欠損がみるみる復活。
よっしゃあ!父様やったよ!僕はやれば出来る子なんだよ!うははっと高笑い。
「よし!少しでも死者が減らせたよね」
「そうだな。クルト」
前から父様が手を振りなからニヤッとする。兄様も一緒だ。来てたんだね!
「父様!アルバン兄様!」
少しニッコリしながらよくやったと父様は抱いてくれた。
「我らもここで癒やしの手伝いをしてたんだが、数が多くて治しても治してもでな」
「お疲れクルト。これほどとはなあ。アスクレピオス様はさすが医神だな」
「うん!」
これはアルテミス様の加護の一部で、他の神の力を召喚出来るんだ。白の賢者は別名「慈愛の賢者」とも呼ばれ、あり得ないケガを治す力を発揮することが出来る。
「なんだこれ」
「クルトがしたのか……」
アンジェとユリアン様が異変を感じて様子を見に来て呆然。怪我人は全員復活して談笑していたからね。効果が外にいる軽いけがケガ人にも届いたようで、みんなきれいに治ったそうだ。
「すげえな白の賢者とは……」
「黒は攻撃魔法の増幅だけだから、こんな奇跡のようなものは……クルトはすごいな」
僕らの側にふたりが来てありがとうって。騎士たちも感謝してるぞってね。振り向くと泣いていたり、クルト様って手を合わせる人まで……いやいや僕は神ではありません。
「いいえ!俺は……妻に子が生まれたばかりで…ありがとう存じます!」
僕の手をしっかり握って、震えながら手の甲にキスをくれる。これは相手に最大限の敬意と敬愛を示すキスだ。
「俺は騎士学校からで……腕がなければ騎士を辞めて領地に帰らなければと……本当に感謝しかありません。ありがとう存じます」
「役に立ててよかったです」
僕の周りは復活した騎士や魔法使いでいっぱいになった。みんな感謝を伝えてくれて、頑張って書物を覚えた甲斐があったね。
「なぁクルト。まだ余力はあるか?」
「はい。ユリアン様」
ちょっとクルトを貸してくれと連れて来られた場所は……騎士の遺体安置所。バルシュミーデの騎士が大半だそうだ。戦闘が激しく、あちらの陣営に連れて行けずに、ここに集められたそうだ。我が国の騎士はまともな戦闘経験がなく、魔獣討伐が得意。だけど、こんな大物の体験はなく蹴散らされ、戦略がまともに機能しなかったそうだ。結果、防御、後方支援がほとんどで、遺体回収もうちの仕事となっていたとユリアン様。
「ここにポーションがある。全部飲め」
「はい」
グビグビとあるだけ飲んだら、体がかなり熱っぽくなるほどだった。さっきよりたくさん飲んだからね。
「アスクレピオス様は、死者の復活が出来る力があると、僕はなにかの文献で読んだんだ。試してみて欲しい。出来なければそれはそれで構わない」
「あーはい」
ユリアン様はバルシュミーデの戦死者は、かなりの数に上ると教えてくれた。我らの分の戦闘の肩代わりでこの結果は心苦しく、少しでも国に返してやりたいと言う。その気持ちは僕にも理解出来たから、僕は先程と同じように祈る。
……其方の気持ちは分かるが、代償も必要だ……
「へ?代償とは?」
……数年だが寿命を差し出せ。これだけの死者の復活には命の代償が必要だ。生者の治癒とは違う……
ああ……そうね。年に数人なら代償はいらぬが、数が増えればそれは人の輪廻の乱れに繋がる。人の寿命は生まれる前に決められて、無理を押し通すならば、術者にその代償を支払わせると言う。
「構いません。お願いします」
「分かった」
すると先程とは違う、金色の魔法陣が床に広がる。そしてせり上がり、ボフンっと弾けて死体に降り注いだ。遺体が光を吸収したように見えたけど、特に変化はなかった。あれ?失敗か?と思っていると、遠くからカハッとか、うっとか声がし始めた。成功した!よかったと思ったら、僕の視界が歪んで、僕はグラッと傾きそのまま床に倒れ込んだ。
「クルト!」
アンジェが慌てて床に座り込む僕を抱き起こした。
「よくやったとは言い難い、なにかおかしなことを口走ってたが大丈夫なのか?」
僕を抱いて覗き込むアンジェにんふっと苦笑いした。
「少し寿命が減っちゃった。ごめん」
「え?……それはどういうことなんだ」
僕本来の死の予定日より数年短くなり、なぜそうなるのか、神の説明して聞かせた。
「なんでそんな大切なことを……俺に相談もなしに」
「ごめんね。でもこんなことで死んでいい人なんていないと、僕は考えたんだ」
「だが……」
さすがのユリアン様も僕の説明に、無理をさせたと頭を下げた。すると見上げているアンジェの表情がスッと消え、ゆっくり後ろを振り返った。
「ユリアン。お前は俺からクルトと共にいる時間を奪った。俺がどれだけクルトを大切にしているか、お前知ってるよな?」
「う、うん……ごめんなさい」
記憶にあった知識で言っただけだったんだが、まさか本当に出来るとは僕も思ってなかったんだと、ユリアン様はアンジェに怯えながら後退りした。
「ごめんクルト。お詫びに君たちがなにか困ったら力になるよ。きっとね!」
「あはは。はい」
睨み見合うふたりの揉めている後ろでは、ゴソゴソと死者たちは起き上がり始めていた。俺は死んだはず……?とか、全裸に被せていた布だけの人もいて寒い!と震えてたり。お互いの生還を喜んでいる騎士たちを、僕はよかったと眺めていると、父様たちも異変を感じたのかテントの幕を上げて、テントの中を見渡し、あーあと脱力してふたりで盛大にため息。
「クルト……これ使っちゃダメな術だ。アスクレピオス様に寿命取られたろ」
「ええ、すみません。父様」
呆れた父様は、やったものは仕方ないがと前置きして、倒れ込んだ僕の側に片膝をついた。
「お前は私が用意した羊皮紙を読んだのか?」
羊皮紙?あーあの巻物ね。いくつかあったけど……記憶にないな。読んだ記憶はあるから、流し読みだな。
「あはは……記憶に残ってませんね」
バカだなあお前はと父様は肩に手をポン。
「ちゃんと読んでいれば、この術を使う前に考えたはずなんだよ」
困った子だよと頭を撫でてくれる。あれのひとつに書いてあったようだ。何百年か前に流行り病でたくさんの民や貴族が亡くなって、その時バカスカ発動して死んじゃった賢者がいたんだって。心根の優しい領主で、頼まれるままやってたそうだ。こうなることを理解した上で。
「王まで死にかけで使いまくったんだ。ある程度病が落ち着いた頃、城の廊下で冷たくなって倒れてた」
「あー……」
その話を横で聞いてたアンジェは、僕から視線をはずし、ゆらりとユリアン様を見上げた。
「ぼ、僕は、そんな使い方はさせないし?これ以上してくれって言うつもりはない!てか、ここにいるのは今日死にたてだから!他はもう魔法でも無理なのは知ってるよ!だから頼まないから!」
ユリアン様はアンジェの静かな怒りに怯え、ジリジリと後退りしてテントにぶつかるまで下がった。死者は一晩超えたら魔法でも生き返らないらしいと父様。あの、僕がいた暗い場所でニ四時間以上過ぎると、ハーデス様が迎えに来てしまうんだって兄様が説明してくれた。あそこに僕がいたのは内緒にして、初めて聞いたふうを装った。
「ユリアン……お前」
「しないから!ホントに!」
「ならばよいが」
アンジェがフンと鼻を鳴らすと、怖くなったユリアン様はじゃあまたなと、テントの幕を爆速で上げて安置所を出ていった。アンジェは僕の頬を撫でながら、無理をしてと苦渋の表情で……ごめんなさい。
「クルト。もうこの術は使うなよ。アンゼルム様との時間が減る」
「はい」
父様は人の死は辛く哀しい。だが、受け入れなければならないものなんだと言う。
「こんな、他国の不始末で死ぬのがお前は不憫と思ったんだろうが、我らもお前が死ぬのは辛いんだ。そこをきちんと認識してくれ」
「あの…はい。ごめんなさい……」
アンジェは渋い顔のまま。他の人には無表情に見えるだろうけど僕には分かる。すっげぇキレてる。これ僕に怒ってるよね?
「アンジェ……ごめんね」
僕の目を見て……というか睨んで、
「クルト。俺が死にそうでもこれは使うな」
「えっと、なんで?」
「引き換えにお前が死ぬかもだろ」
「ああ、はい」
おっかない……静かにキレてるアンジェが怖い。
「クルト、我らは屋敷に帰るよ」
「え?もう遅いのに……」
「まあ、ヘルテルの騎士に頼むさ。ここにいても仕事はないからな」
「はい。ふたりとも来てくれて嬉しかったです」
父様と兄様は、お前が頑張ってるんだから来るのは当たり前だと笑った。
「ラングール家はこのためにいるんだ。加護がなくとも、こういった災害時に参加するのは努めだ。お前の近くにいたかったしな」
「ありがとう存じます」
生き返った人たちは治療士たちや他の人たちが世話してくれるそうだ。僕らはテントの外に出た。兄様はその足でヘルテルの騎士の元に行き、帰宅のお願いして父様に声を掛けて、騎獣に跨る。
「またな」
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「アンジェ許して」
「無理」
「なんで?僕はみんなに生きてて欲しかっただけだよ?」
「それは理解するが……俺に相談してくれれば止めたのに」
「たぶん止めても僕はしたと思うよ?」
「なお悪い」
アンジェは向き合ってるのに目をそらして僕を見てくれない。
「アンジェ……僕を見て」
「イヤ」
僕はアンジェの頬に手を当てて懇願したけどイヤって。彼はものすごく拗ねてしまった。あの短時間に他のことなんて考えられなかったんだよ。テントに寝かされてるたくさんの騎士たち。血まみれで、掛けてある布にも染みてて、布からはみ出る肌は確実に死んでると分かる、あの薄く緑がかった肌色だった。あれはさ、出来るものならなんとかと考えるでしょうよ!
「ならさ。アンジェが僕の立場なら、みんな死んじゃったけど仕方ないって思った?使える力があるかもしれないのに?」
うっ…と声を出してビクッとする。
「……どうだろう」
「助けられるかもしれない術を、あの場で試さない自信はあるの?それに僕に相談した?」
目をそらしたままあー……と。
「相談はたぶんしないし……自分に出来るならと……バルシュミーデは多くの戦死者を出したのを知ってたしな」
ほら見ろ。アンジェが責任感強いの知ってるんだよ。彼がたくさんの戦士のムダ死にを見逃せるはずないんだ。彼の若さで国の大臣をやれるくらい仕事を大切にして、人の死の痛みを誰よりも知ってるんだもの。
「ごめん。俺とクルトは歳が離れてるから、将来俺が先に逝くのは仕方ない。だがお前が先に逝くとか……俺は考えてもいなかったんだ」
「うん……きっと同じくらいに死ねるよ。ずっと一緒にいよう?」
分かったと僕に目を合わせてくれた。こういった戦闘の後は興奮でしたくなるが、お前が負担になるから我慢する、寝るぞって。アンジェ正直だな。あはは。
だけどこういった戦では生死が掛かっていて、異常な興奮を実はみんなしている。世界が違ってもここは同じで、大昔からこういった場に不釣り合いな、色っぽい人が待機しているテントを作る。陣営から少し離れた場所に設置されててね。
死の恐怖や興奮は性欲に繋がり易く、誰かと触れ合うのは心の安寧のために意味はある。人の死をたくさん見たからの不安を、誰かと抱き合うだけでも一時的に癒せるんだ。僕は戦闘らしいことをほとんどしてないからそういった気分にはならなかったけど……
僕は彼の胸に擦り付いた。アンジェの暖かさを感じるだけで落ち着く。大好きな人の匂いは心の安定をもたらして……ぐぅ。わらのガサゴソ音も気にならずに眠ったんだ。
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