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四章 戦とアンジェ
9 なんか……
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翌日朝の定例会議に呼ばれ、報告書の解りにくいところを説明しろって質問会に参加。
「ふーん……そう言うことか」
「はい。追跡型の魔法ならいつまでも矢は追って行きます。一つを避けても次々に向かい相手が死ぬまで追いかけます」
今回僕が暴走した時に発動したのはコレ。雨のように降り注ぎ、矢は敵を殺すまで追ったそうだ。問題は終わったにも関わらず、その後も殺しに行こうとしたことだけ。
「これは白の賢者全員が使えるかと思います。たぶん感覚が分かると思うので。それと魔石を用意すれば、それを認識し避けて敵を追えるはずですから、魔法使いも騎士も使えるかもしれません」
僕はイメージがあるから出来るんだけど、白の賢者なら僕のイメージは分かるはずだ。他の人は魔石なしでは分からんなあなどと考えていると、それなあって、ハルトムート様も大臣たちもむーんと渋い顔。先はともかく、今すぐは訓練の時間もないだりうしって。
「ヘルテルから実務の者が明後日来るんだ。そこで相談なんだが……アンジェ、これはこちらが魔石を用意すればお前たちで付与は出来るのか?」
ハルトムート様は疑問だなってふうにアンジェに質問。
「技術的にはうちの魔道士で出来ますが……そのクラスの魔石が高価で国庫的に厳しい。ですが、ヘルテルは安価に出来る技術を持っているようなんですよ。その相談に来るはずです」
「本当か?この前の討伐の魔石は全部売ってしまったから、みんな絶望したんだ」
ウンウンと大臣たちは頷く。目先の金が必要で売り払ったけど、高価なものだけでも取っておくんだったと後悔したそうだ。
「これに関しては、アンジェが中心になって話を進めてくれ」
「はい」
クルトはここまででいい、帰宅しろと言われて部屋を出ると、ティモが涙を浮かべて待っていた。
「クルト様…グスッお迎えに参りました」
「ありがとうティモ。心配かけたね」
ティモとすぐに城を出て昼前には帰宅。ティモはなんか言いたそうにしてたけど、戦の話を聞いてくるのみだった。外門から玄関を見ると、大扉の前に手を振る屋敷の人たち。かあさまぁとリーンハルトもお出迎えしてくれた。
「ただいま。いい子にしてた?」
「してました。ふたりの賢者の子どもです。母様がいなくても泣きませんよ!う…うそです。寂しかった…うわーん母様ぁ」
歯を食いしばって耐えたけどって感じだね。なんてかわいいんだろうこの子は。みんなの会話を聞いて、いい子であろうと努力したんだね。僕が抱き上げるともっと泣く。
「賢者の子なんて気にしないでいい。母様と父様のかわいい子でいればそれでいいよ」
「はい。母様はもういかない?」
あはは……行かないよと言いたいところだけど、ウソはいけないよね。
「まだあると思う」
「父様も?」
「うん」
クッと我慢したようにギュッと口をへの字に締めたけど、うわーんとまた盛大に泣き出した。乳母は頑張ってたんですけど夜中に目が覚めて、隣のお部屋に人の気配がしないのを寂しがりました。母様と声を殺して泣かれておりましたって。
「ごめんね。父様が不在だと母様はリーンハルトと一緒に寝るし余計だよね」
「僕、母様いないと寂しい」
「でも弟がいるでしょ。一人ぼっちじゃない」
「コンラートは母様の代わりにはなりません。好きだけど」
抱っこして廊下を歩きながら、リーンハルトの寂しかったエピソードを聞く。そろそろこちらへと乳母に渡すと目がもう?と。執務室に着いちゃったからね。
「リーンハルトほっぺ出して」
「はい!」
差し出すほっぺに僕がチュッとすると幸せそうに笑う。
「夜まで我慢いたします!」
「はい。いい子だ」
手を振り乳母と離れの私棟に消えたのを確認し執務室へ。
「エルムントただいま!」
書類から顔を上げたエルムントは、満面の笑みで迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。ご無事でなにより。旦那様はまだ城ですか?」
「うん。まだ会議だね」
「そうですか。数日なのにクルト様やつれましたね。かわいいのが台無しだ」
そうかな?キョロキョロ体を見たけど分からんぞ?
「頬がコケてます。食事をあまり取らなかったか寝てないのか」
鋭いね。暴走したせいか、食欲なくてあんまり食べられなかったんだよね。うはは。
「確かにポーションで頑張った」
フンと鼻を鳴らしエルムントはペンを置いた。
「あいさつも説明もいいですから食事して下さい。たくさん食べて太って下さい!」
「はーい。またね」
僕らが戦で不在になるのをエルムントたち屋敷の者は慣れて、バカみたいな歓迎はなくなった。きっと僕の仕事のひとつと認識してくれたんだね。
みんなに早く休めと執務室を追い出されてティモと食堂に行き、料理長の美味しい料理をいただく。
「美味しい。やはり自国の食事が一番だな」
「ありがとう存じます。無理されたようですので、お腹に負担にならないものをご用意しました」
「ありがとう」
カロリーはあるけど消化のいいものを用意してくれた。お肉も鳥で、果物多め。
「無理せず召し上がれるだけで」
「ありがとう。そこまで弱ってないよ」
美味いなあ。たまに外国のもいいけどさ。あ、僕ここに来て米食べたいとか、みそとかしょうゆが欲しいとは思わなかったな。体が違うからかな。
「あのね。この世界にはお米ってある?」
え?と不思議そうにはしたけどありますよって。
「かなり遠い国にでは主食ですからね。我が国では……あー森の近くの領地が少し作ってたはずです」
「へえ……手に入る?」
「ええ」
海苔とかはさすがにないか。イカとかエビとかは普通に海にいて、よく料理に出て来るけど。
「海苔って知ってる?海藻なんだけど」
「いやあ……海藻ってなんですか?」
それは食べ物ですか?どこで取れますか?って。この反応はないな。そういや西洋では海藻を食べる習慣がないんだった。ご多分に漏れず、ここも西洋ふうってことは食べないんだな。
「いやいいです。みそもしょうゆも期待出来ないな」
「はあ。みそは知りませんが、しょうゆはありますよ?」
「本当?」
やった!焼きおにぎり食べられるかも。グレゴールは、
「あの生臭いのですよね?」
「あ……魚醬かナンプラーだな。それは無理だ」
思いつきで聞いてみたけど、タラコすら見たことねえんだもん。タラは北の方にいるかもだけど、この国には入っては来ないんだな。ここは温暖だから海の魚も極彩色で、沖縄より南って感じの魚ばっかだもんなあ。グレゴールはうーんと唸り、
「お米だけでも手に入れましょうか?」
「うん。お願いします。手に入ったら声かけて。自分でやるから」
「え?はい……」
ものすごく不審げだったけど、彼に頼むとリゾットが出てきそうなんだよ。違うんだ、塩むすびだけでもいいんだ。食べたい!思いついたら食べたいのは仕方ないもんね!と、デザートまで食べると眠くなって来た。やっぱり疲れてるんだよね。
「ティモ……お腹いっぱいになったら眠いの」
「では、少しお休みしましょうか」
「うん」
今回はマジで疲れている。エッチのせいばかりじゃない。メンタルにもかなりキテるんだと思う。それに自分の意志でのフルパワーとも違うから、スッカラカンまで魔力を使ったみたいでね。
「お着替えしましょう」
「うん」
楽な方ががいいですよねってネグリジェを用意してくれた。
「ありがとう」
「クルト様は寝相悪いから、あまりお出ししてないんですけど、腹巻きいります?」
「あ~うん」
この腹巻きはティモの優しさ。彼が朝起こしに来ると、僕はアンジェに足乗せて盛大にお腹出してることが多くてね。アンジェは蹴られて唸ってるし。そんな日はお腹下してるのは言うまでもない。どうぞとお腹に装着。かわいい白とオレンジのしましま。
「んふふっかわいいですね。それに便利です」
「でしょう。こちらにはないものだけど、ティモが毛糸で編んでくれたからね。ありがとう」
「いいえ。あの頃時間はたくさんありましたから。今も少し増やしてます」
そう。アンジェに放置されてた頃にたくさん作ってくれたんだ。奥様は編み物や刺繍が出来て当たり前の世界だけど、残念ながら僕は出来ない。「クルト」がサボってたからね!
なら今やればと思うでしょ?やったよ?やったんだけど……これは才能も必要だよね?僕は不器用でそういったものは向かない。指をプスプス刺して生地は血まみれだし、編み物は形にならないし。「クルト」も同じでやらなくなったんだ。だから彼との共通点は多く、生涯他力本願で行くと決めている。最悪お金で……とアンジェには泣きついた。構わんと冷たい目で言われたけどね。ごめん。
「ゆっくりお休み下さい」
「ありがとう」
ベッドに入るとあっという間に夢の中。次にティモの声で目を開けると外はすでに夕方。今目を閉じたはずだよね?
「お疲れなんですよ。旦那様は先ほどお帰りになりました」
「早かったね」
「ええ、今回は魔道士としての仕事が中心だから、終わったらさっさと帰ると言ってたとローベルトが」
「ふーん」
なんて言ってたら隣の子供部屋からきゃあ!って黄色い声。アンジェがリーンハルトのところに行ったな。
「ふふっリーンハルト様はお父様大好きですよね」
「うん。それだけアンジェが構ってるからだよ」
子どもは無条件に母親を求めるが、父親はそうはいかない。これは前世も同じと聞く。お乳あげないから、父親はスキンシップを取らないと小さいうちは子どもに懐いてはもらえないんだよね。内ドアが開いてアンジェがリーンハルトを抱っこして入って来た。
「クルト起きてるか?」
「うん。今起きた」
「母様だ!父様下ろして!」
アンジェに抱かれていたリーンハルトが降ろしてもらうと、僕にまっしぐら。
「母様ぁお昼以来です……寂しかった」
「あはは。リーンハルトはもう!」
キスの効果はすぐなくなるの!ほらほらとほっぺを出してくるから、僕は抱き上げてチュッ
「んふふっ母様大好き」
「僕もだよ」
アンジェは幸せそうに僕らを見ている。なんでもない家族だ。パパとママと子ども。僕は時々この幸せに不安になる。当たり前の家族を持てた自分の幸せは……これは夢かなって。
実はもう生きてなくて、あの暗い場所で夢を見てるんじゃないかってたまに思う。ここに来てから幸せ過ぎるんだ。リーンハルトをギュッと抱いた。
「母様嬉しいけど痛い」
「ああ、ごめんなさい。リーンハルトがあんまりかわいくて」
「でしょう?」
見上げるリーンハルトは当たり前だよ?だって僕は母様の子どもだもんってドヤ顔。
「そうだね。愛してるよ」
「はーい」
抱きつくこの小さな手が嬉しい。ソファにアンジェと座ったけど、リーンハルトは僕の膝から降りない。
「そろそろ母様を父様に返してくれ」
「イヤです」
「え?」
アンジェ絶句。そんな答えが戻ってくるとは全く思ってなかった顔だ。リーンハルトはアンジェを見上げ、諭すような口調で。
「父様は母様といつも一緒ですよね?なら今は僕の時間でもいいはずです」
「あ、え?……そう…か。そうなのか……」
真剣にキッと睨むリーンハルトに、アンジェはタジタジ。こちらの子どもは三歳を超えると、急に言葉が大人びて、とても賢い話し方をする。自分のこのくらいの……幼稚園の頃を思い出すとイタい記憶しかねえ。
「アンジェ」
「いいんだ。確かにずっと一緒にいたし」
「父様の手はここ!」
自分の背中にアンジェの手を持って来て、ほらほら父様も僕を抱っこして!と笑う。
「んふふっ」
「いいねリーンハルト」
「うん!」
親の愛を疑わず、とても幸せそうに笑うこの子を守りたいと強く思った。自分は途中でなくしたもの。この世界に来て取り戻した親の愛を、この子たちにはたくさん感じて欲しいんだ。
「僕の宝物リーンハルト……」
「はい。母様」
ローベルトがお食事ですと迎えに来ると、リーンハルトは膝から降りて子供部屋に下がる。貴族は親と食事を取るようになるのは五つ頃からで、マナーが守れるようになってからなんだ。それまでは子供部屋で取る。手づかみや歩き回るなどがなくならないとダメなんだそうだ。
「うちは祖父母がいないから同じ席でも構わんと俺は言ったんだが、甘い!と乳母に叱られた」
「そうなの?」
「ああ、公爵家の跡取りかもしれない最初の子は、躾は完璧でなければならぬと。俺に似てるからきっとノルンだから!甘くしてはダメだと強く言われた」
「あはは。そうかもね」
夕食を取りながらアンジェとおしゃべり。なら下の子は僕にそっくりだからアンかなやっぱり。
「十は過ぎないと予想はつかないさ」
「そうね」
この世界は男ばかりに見える世界。幼い頃は体つきとかで判断は出来ず、成長期に判明する。明らかに体つきと考え方が変わるんだ。年少部の卒業あたり、十歳かな。
ノルンは骨ばった感じで男らしくなり、アンは男だけど女性的な感じになりヒゲなど体毛はかなり薄い。アンはそこからお嫁入りの支度をさせられ、ノルンは剣の稽古や体術が増える。それまでは同じように育てるんだ。
でもね、学校に行く七歳くらいには大体分かるのが普通。持ち物の好みでね。レースやぬいぐるみ、キラキラしたものにアンは興味を持つからね。
「リーンハルトはどっちかな?」
「うーんノルンっぽいな。母様を守るとかよく言ってるし」
「そうだね」
それにコンラートにキスしまくって、かわいいとよく撫でている。ノルンらしいよって。
「アンジェもクヌート様にそんな感じだったの?」
少し考えてうーんと唸るアンジェ。
「あーどうだろう、記憶にないな。だが、ある程度育った頃……いや、あんなかわいがり方はしなかったな」
もっとドライな感じで、仲はよかったが愛しくて堪らんなんてなかったと。
「お前の血だろ」
「そうかな?でも魂は違うよ?」
「なら育て方だろ」
「そっかな」
なんておしゃべりしてお風呂入ってベッドであんあん……
「アンジェ……疲れてるの…回数を…」
「分かっている」
一度でいいんだ。抱かせてと僕を腕にすっぽり抱いて腰を振る。
「ウックッ……クルト…ッ」
「あっあーーっアンジェーッうーっ」
僕がイクとアンジェもすぐにドクン。疲れてるのはお互い様なんだけど、アンジェは僕を求める。なんか切実に求めるからイヤと言ってはいけない雰囲気なんだ。アンジェ、このところどうしたんだろうか。
「クルト……抜きたくない」
「んふふっいいよ」
うーん。明らかにおかしい気はする。このセリフは僕がいつも……まあいいけど。そのまんま眠いから寝た。彼の股間を入れっぱなしでも寝られる僕もどうかしてるけど、繋がってると安心するのも本当でね。
でも……アンジェは少しおかしい気がする。
「ふーん……そう言うことか」
「はい。追跡型の魔法ならいつまでも矢は追って行きます。一つを避けても次々に向かい相手が死ぬまで追いかけます」
今回僕が暴走した時に発動したのはコレ。雨のように降り注ぎ、矢は敵を殺すまで追ったそうだ。問題は終わったにも関わらず、その後も殺しに行こうとしたことだけ。
「これは白の賢者全員が使えるかと思います。たぶん感覚が分かると思うので。それと魔石を用意すれば、それを認識し避けて敵を追えるはずですから、魔法使いも騎士も使えるかもしれません」
僕はイメージがあるから出来るんだけど、白の賢者なら僕のイメージは分かるはずだ。他の人は魔石なしでは分からんなあなどと考えていると、それなあって、ハルトムート様も大臣たちもむーんと渋い顔。先はともかく、今すぐは訓練の時間もないだりうしって。
「ヘルテルから実務の者が明後日来るんだ。そこで相談なんだが……アンジェ、これはこちらが魔石を用意すればお前たちで付与は出来るのか?」
ハルトムート様は疑問だなってふうにアンジェに質問。
「技術的にはうちの魔道士で出来ますが……そのクラスの魔石が高価で国庫的に厳しい。ですが、ヘルテルは安価に出来る技術を持っているようなんですよ。その相談に来るはずです」
「本当か?この前の討伐の魔石は全部売ってしまったから、みんな絶望したんだ」
ウンウンと大臣たちは頷く。目先の金が必要で売り払ったけど、高価なものだけでも取っておくんだったと後悔したそうだ。
「これに関しては、アンジェが中心になって話を進めてくれ」
「はい」
クルトはここまででいい、帰宅しろと言われて部屋を出ると、ティモが涙を浮かべて待っていた。
「クルト様…グスッお迎えに参りました」
「ありがとうティモ。心配かけたね」
ティモとすぐに城を出て昼前には帰宅。ティモはなんか言いたそうにしてたけど、戦の話を聞いてくるのみだった。外門から玄関を見ると、大扉の前に手を振る屋敷の人たち。かあさまぁとリーンハルトもお出迎えしてくれた。
「ただいま。いい子にしてた?」
「してました。ふたりの賢者の子どもです。母様がいなくても泣きませんよ!う…うそです。寂しかった…うわーん母様ぁ」
歯を食いしばって耐えたけどって感じだね。なんてかわいいんだろうこの子は。みんなの会話を聞いて、いい子であろうと努力したんだね。僕が抱き上げるともっと泣く。
「賢者の子なんて気にしないでいい。母様と父様のかわいい子でいればそれでいいよ」
「はい。母様はもういかない?」
あはは……行かないよと言いたいところだけど、ウソはいけないよね。
「まだあると思う」
「父様も?」
「うん」
クッと我慢したようにギュッと口をへの字に締めたけど、うわーんとまた盛大に泣き出した。乳母は頑張ってたんですけど夜中に目が覚めて、隣のお部屋に人の気配がしないのを寂しがりました。母様と声を殺して泣かれておりましたって。
「ごめんね。父様が不在だと母様はリーンハルトと一緒に寝るし余計だよね」
「僕、母様いないと寂しい」
「でも弟がいるでしょ。一人ぼっちじゃない」
「コンラートは母様の代わりにはなりません。好きだけど」
抱っこして廊下を歩きながら、リーンハルトの寂しかったエピソードを聞く。そろそろこちらへと乳母に渡すと目がもう?と。執務室に着いちゃったからね。
「リーンハルトほっぺ出して」
「はい!」
差し出すほっぺに僕がチュッとすると幸せそうに笑う。
「夜まで我慢いたします!」
「はい。いい子だ」
手を振り乳母と離れの私棟に消えたのを確認し執務室へ。
「エルムントただいま!」
書類から顔を上げたエルムントは、満面の笑みで迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。ご無事でなにより。旦那様はまだ城ですか?」
「うん。まだ会議だね」
「そうですか。数日なのにクルト様やつれましたね。かわいいのが台無しだ」
そうかな?キョロキョロ体を見たけど分からんぞ?
「頬がコケてます。食事をあまり取らなかったか寝てないのか」
鋭いね。暴走したせいか、食欲なくてあんまり食べられなかったんだよね。うはは。
「確かにポーションで頑張った」
フンと鼻を鳴らしエルムントはペンを置いた。
「あいさつも説明もいいですから食事して下さい。たくさん食べて太って下さい!」
「はーい。またね」
僕らが戦で不在になるのをエルムントたち屋敷の者は慣れて、バカみたいな歓迎はなくなった。きっと僕の仕事のひとつと認識してくれたんだね。
みんなに早く休めと執務室を追い出されてティモと食堂に行き、料理長の美味しい料理をいただく。
「美味しい。やはり自国の食事が一番だな」
「ありがとう存じます。無理されたようですので、お腹に負担にならないものをご用意しました」
「ありがとう」
カロリーはあるけど消化のいいものを用意してくれた。お肉も鳥で、果物多め。
「無理せず召し上がれるだけで」
「ありがとう。そこまで弱ってないよ」
美味いなあ。たまに外国のもいいけどさ。あ、僕ここに来て米食べたいとか、みそとかしょうゆが欲しいとは思わなかったな。体が違うからかな。
「あのね。この世界にはお米ってある?」
え?と不思議そうにはしたけどありますよって。
「かなり遠い国にでは主食ですからね。我が国では……あー森の近くの領地が少し作ってたはずです」
「へえ……手に入る?」
「ええ」
海苔とかはさすがにないか。イカとかエビとかは普通に海にいて、よく料理に出て来るけど。
「海苔って知ってる?海藻なんだけど」
「いやあ……海藻ってなんですか?」
それは食べ物ですか?どこで取れますか?って。この反応はないな。そういや西洋では海藻を食べる習慣がないんだった。ご多分に漏れず、ここも西洋ふうってことは食べないんだな。
「いやいいです。みそもしょうゆも期待出来ないな」
「はあ。みそは知りませんが、しょうゆはありますよ?」
「本当?」
やった!焼きおにぎり食べられるかも。グレゴールは、
「あの生臭いのですよね?」
「あ……魚醬かナンプラーだな。それは無理だ」
思いつきで聞いてみたけど、タラコすら見たことねえんだもん。タラは北の方にいるかもだけど、この国には入っては来ないんだな。ここは温暖だから海の魚も極彩色で、沖縄より南って感じの魚ばっかだもんなあ。グレゴールはうーんと唸り、
「お米だけでも手に入れましょうか?」
「うん。お願いします。手に入ったら声かけて。自分でやるから」
「え?はい……」
ものすごく不審げだったけど、彼に頼むとリゾットが出てきそうなんだよ。違うんだ、塩むすびだけでもいいんだ。食べたい!思いついたら食べたいのは仕方ないもんね!と、デザートまで食べると眠くなって来た。やっぱり疲れてるんだよね。
「ティモ……お腹いっぱいになったら眠いの」
「では、少しお休みしましょうか」
「うん」
今回はマジで疲れている。エッチのせいばかりじゃない。メンタルにもかなりキテるんだと思う。それに自分の意志でのフルパワーとも違うから、スッカラカンまで魔力を使ったみたいでね。
「お着替えしましょう」
「うん」
楽な方ががいいですよねってネグリジェを用意してくれた。
「ありがとう」
「クルト様は寝相悪いから、あまりお出ししてないんですけど、腹巻きいります?」
「あ~うん」
この腹巻きはティモの優しさ。彼が朝起こしに来ると、僕はアンジェに足乗せて盛大にお腹出してることが多くてね。アンジェは蹴られて唸ってるし。そんな日はお腹下してるのは言うまでもない。どうぞとお腹に装着。かわいい白とオレンジのしましま。
「んふふっかわいいですね。それに便利です」
「でしょう。こちらにはないものだけど、ティモが毛糸で編んでくれたからね。ありがとう」
「いいえ。あの頃時間はたくさんありましたから。今も少し増やしてます」
そう。アンジェに放置されてた頃にたくさん作ってくれたんだ。奥様は編み物や刺繍が出来て当たり前の世界だけど、残念ながら僕は出来ない。「クルト」がサボってたからね!
なら今やればと思うでしょ?やったよ?やったんだけど……これは才能も必要だよね?僕は不器用でそういったものは向かない。指をプスプス刺して生地は血まみれだし、編み物は形にならないし。「クルト」も同じでやらなくなったんだ。だから彼との共通点は多く、生涯他力本願で行くと決めている。最悪お金で……とアンジェには泣きついた。構わんと冷たい目で言われたけどね。ごめん。
「ゆっくりお休み下さい」
「ありがとう」
ベッドに入るとあっという間に夢の中。次にティモの声で目を開けると外はすでに夕方。今目を閉じたはずだよね?
「お疲れなんですよ。旦那様は先ほどお帰りになりました」
「早かったね」
「ええ、今回は魔道士としての仕事が中心だから、終わったらさっさと帰ると言ってたとローベルトが」
「ふーん」
なんて言ってたら隣の子供部屋からきゃあ!って黄色い声。アンジェがリーンハルトのところに行ったな。
「ふふっリーンハルト様はお父様大好きですよね」
「うん。それだけアンジェが構ってるからだよ」
子どもは無条件に母親を求めるが、父親はそうはいかない。これは前世も同じと聞く。お乳あげないから、父親はスキンシップを取らないと小さいうちは子どもに懐いてはもらえないんだよね。内ドアが開いてアンジェがリーンハルトを抱っこして入って来た。
「クルト起きてるか?」
「うん。今起きた」
「母様だ!父様下ろして!」
アンジェに抱かれていたリーンハルトが降ろしてもらうと、僕にまっしぐら。
「母様ぁお昼以来です……寂しかった」
「あはは。リーンハルトはもう!」
キスの効果はすぐなくなるの!ほらほらとほっぺを出してくるから、僕は抱き上げてチュッ
「んふふっ母様大好き」
「僕もだよ」
アンジェは幸せそうに僕らを見ている。なんでもない家族だ。パパとママと子ども。僕は時々この幸せに不安になる。当たり前の家族を持てた自分の幸せは……これは夢かなって。
実はもう生きてなくて、あの暗い場所で夢を見てるんじゃないかってたまに思う。ここに来てから幸せ過ぎるんだ。リーンハルトをギュッと抱いた。
「母様嬉しいけど痛い」
「ああ、ごめんなさい。リーンハルトがあんまりかわいくて」
「でしょう?」
見上げるリーンハルトは当たり前だよ?だって僕は母様の子どもだもんってドヤ顔。
「そうだね。愛してるよ」
「はーい」
抱きつくこの小さな手が嬉しい。ソファにアンジェと座ったけど、リーンハルトは僕の膝から降りない。
「そろそろ母様を父様に返してくれ」
「イヤです」
「え?」
アンジェ絶句。そんな答えが戻ってくるとは全く思ってなかった顔だ。リーンハルトはアンジェを見上げ、諭すような口調で。
「父様は母様といつも一緒ですよね?なら今は僕の時間でもいいはずです」
「あ、え?……そう…か。そうなのか……」
真剣にキッと睨むリーンハルトに、アンジェはタジタジ。こちらの子どもは三歳を超えると、急に言葉が大人びて、とても賢い話し方をする。自分のこのくらいの……幼稚園の頃を思い出すとイタい記憶しかねえ。
「アンジェ」
「いいんだ。確かにずっと一緒にいたし」
「父様の手はここ!」
自分の背中にアンジェの手を持って来て、ほらほら父様も僕を抱っこして!と笑う。
「んふふっ」
「いいねリーンハルト」
「うん!」
親の愛を疑わず、とても幸せそうに笑うこの子を守りたいと強く思った。自分は途中でなくしたもの。この世界に来て取り戻した親の愛を、この子たちにはたくさん感じて欲しいんだ。
「僕の宝物リーンハルト……」
「はい。母様」
ローベルトがお食事ですと迎えに来ると、リーンハルトは膝から降りて子供部屋に下がる。貴族は親と食事を取るようになるのは五つ頃からで、マナーが守れるようになってからなんだ。それまでは子供部屋で取る。手づかみや歩き回るなどがなくならないとダメなんだそうだ。
「うちは祖父母がいないから同じ席でも構わんと俺は言ったんだが、甘い!と乳母に叱られた」
「そうなの?」
「ああ、公爵家の跡取りかもしれない最初の子は、躾は完璧でなければならぬと。俺に似てるからきっとノルンだから!甘くしてはダメだと強く言われた」
「あはは。そうかもね」
夕食を取りながらアンジェとおしゃべり。なら下の子は僕にそっくりだからアンかなやっぱり。
「十は過ぎないと予想はつかないさ」
「そうね」
この世界は男ばかりに見える世界。幼い頃は体つきとかで判断は出来ず、成長期に判明する。明らかに体つきと考え方が変わるんだ。年少部の卒業あたり、十歳かな。
ノルンは骨ばった感じで男らしくなり、アンは男だけど女性的な感じになりヒゲなど体毛はかなり薄い。アンはそこからお嫁入りの支度をさせられ、ノルンは剣の稽古や体術が増える。それまでは同じように育てるんだ。
でもね、学校に行く七歳くらいには大体分かるのが普通。持ち物の好みでね。レースやぬいぐるみ、キラキラしたものにアンは興味を持つからね。
「リーンハルトはどっちかな?」
「うーんノルンっぽいな。母様を守るとかよく言ってるし」
「そうだね」
それにコンラートにキスしまくって、かわいいとよく撫でている。ノルンらしいよって。
「アンジェもクヌート様にそんな感じだったの?」
少し考えてうーんと唸るアンジェ。
「あーどうだろう、記憶にないな。だが、ある程度育った頃……いや、あんなかわいがり方はしなかったな」
もっとドライな感じで、仲はよかったが愛しくて堪らんなんてなかったと。
「お前の血だろ」
「そうかな?でも魂は違うよ?」
「なら育て方だろ」
「そっかな」
なんておしゃべりしてお風呂入ってベッドであんあん……
「アンジェ……疲れてるの…回数を…」
「分かっている」
一度でいいんだ。抱かせてと僕を腕にすっぽり抱いて腰を振る。
「ウックッ……クルト…ッ」
「あっあーーっアンジェーッうーっ」
僕がイクとアンジェもすぐにドクン。疲れてるのはお互い様なんだけど、アンジェは僕を求める。なんか切実に求めるからイヤと言ってはいけない雰囲気なんだ。アンジェ、このところどうしたんだろうか。
「クルト……抜きたくない」
「んふふっいいよ」
うーん。明らかにおかしい気はする。このセリフは僕がいつも……まあいいけど。そのまんま眠いから寝た。彼の股間を入れっぱなしでも寝られる僕もどうかしてるけど、繋がってると安心するのも本当でね。
でも……アンジェは少しおかしい気がする。
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完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
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名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
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もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
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プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
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