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一章 事の起こり
3 思ったより行動派だった
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「おはようキャル」
「おはよう。ニール」
いや~なニヤニヤを顔に貼り付け、僕の向かいに座る。
「昨日は三階でしょ。どんなヘンタイだったんの?」
「どうもない。僕にはお相手出来ないくらいの方だからお帰り願ったよ」
太陽も傾きかけた頃。この時間が僕らの朝だ。支度前の腹ごしらえをしていたから、僕は適当に返事をしてスープとパンをかじった。
「僕らの仲じゃないか。話してよ」
「それだけなんだよ。他はない」
時間にして一時間もなかったはずで追い返したからね。大体僕らの仲ってなんだよ。そんなに仲良くないどころか、君は僕を嫌ってるだろう。
「玄関で泣き叫んでたよお客。何があったんだよ」
「だから。僕には手に余ったんだよ」
もぐもぐ。胸がチクリとしたけど僕はもう会わない。
「初めての客でお前にご執心か。知り合いなの?」
「いや」
「嘘つけ!」
嘘臭え吐けっ!と言われたけど言わない。すると、
「ニールいますか」
「はーい!」
「ドムス様のご来店です」
ん?と上を向いて考えて、
「早いねぇ。まあいいや。キャルまたね。今度聞かせてよ!」
「それはイヤ。行ってらっしゃい」
「聞かせてもらうから!」
ヘンタイ面倒くさいんだよなあって言いながら立ち上がった。ほら見ろ、僕だけじゃない。ここに来る客は、奥さんとか相手に求められない性癖を開放しに来る人もいるんだよ。
僕は食べ終わり、お呼びが掛かるまでの待機室に向かった。
部屋に入るとまあ雑然。衣装やお菓子食べて寛いでる人とか。お風呂場からはアンアン気持ちよさそうな喘ぎ声。新人かな?
「新しい人入ったの?」
「そうみたいだよ。指導中だ」
ヨーゼフは衣装を身に着けながら答えた。
僕らはただ客の相手をすればいい訳じゃない。どうすれば悦んで貰えるかを叩き込まれる。自分が気持ちいいだけではダメ。だから指導係はどう抱くか、抱かれるかを教えてくれる。
「ここの指導係何なのってくらい気持ちいいんだよねえ」
「あの人にちんこ入れたら堪らんかったし、入れられて初めて気持ちいいって思ったのもあの人だけだね」
ヨーゼフはフンと鼻を鳴らした。
「そうだろうとも。年取ったから引退しただけの、この店一番の売れっ子だったから。だからキャルは彼のようにならないとアンとしてのキャルは呼ばれない」
ほほう。辛辣だなヨーゼフ。
「みんなの真似してアンアン鳴いてるし、締まりもいいはず!」
「喘ぎが嘘臭いんだ。前に聞いた事あるけどさ」
失礼な。かわいく鳴いてるもん。あんな感じにさ。
「嘘だよ。ならやってみろよ」
「ええ?じゃあやってみるね。あんっうぅ~んあは~ん」
ぶははと手を叩き大笑い。
「何だよそれ!ぎゃははは!」
ものすごい爆笑。そんなにおかしい?おんなじだろ?
「ダメかな?」
「ダメ過ぎ!よく客のを聞けよ。ハァハァ苦しい」
「えぇ~客見てやってんだけど?」
「なら才能ねえな!わはは。自分で気持ちよくなるように開発しろよ。なら出来るんじゃないの?あはは」
失礼だな。僕指導係の人以外はあんまり気持ちよくなくてね。それなりにはいいんだけど、尻だけでイケるかと言われればう~ん。足りない。ちんこを擦ってくれれば、そっちの快感でなんとかかな。それでも……
「それに僕元々あんまり喘がないからさあ」
「だろうな。それじゃあな。クッ」
話しをしながら僕は衣装を身に着け、アクセサリーをカチャリ。足首の飾りがシャランと鳴った。
「お前本当にきれいだよなあ。受けなら売れっ子になるのに残念」
「ありがと」
ヨーゼフとは仲が良い。僕がお茶引いてここで本読んでてても、揶揄したりしない。
「お前今日は予約は?」
「もう。辛いことは聞かないの!ヨーゼフ時間でしょう。控室に行きなね」
「うん。どうしてもちんこ辛かったら俺が相手してやるさ」
「ほんと?」
優しいね。喜んで抱くけどね。
「ありがとう。帰ったら抱かせて」
「おう。金はくれよ」
「うっ……商売するのか」
ふふんと立ち上がり僕を見下ろして、
「当たり前だろ。俺の客時間客で安いんだよ。稼がないとならん」
「そうね。頑張って来て」
「うん」
そんな会話をしていると、三分の二は行こうぜと出て行ってしまった。残りは時間が違うんだろう。ゆっくり支度をしている。
「さてと。僕は本の続きを読もうかな」
異国の王子がさらわれた妻を助けに行くお話し。ラクダに乗り砂漠を越えてね。どこの国の話だろう、砂漠は近くにないからねえ。
妻は大金持ちに捕まっていた。金の力でさらったんだ。王子は羽交い締めにされている妻を助けるべく剣を構えた。すると横から斬りかかられ……
「……キャル!」
「ひゃっ!」
肩に手を乗せるデューク。
「びっくりした……驚いて死んじゃうでしょ!」
「すみません。お客様です」
ああ、客ね。心臓バクバクだよ。全く。
「珍しいね。毎日僕に客なんてさ」
デュークは困った顔をしてしまった。
「昨日の方です」
ゲッ!
「会うつもりはないよ。帰ってもらって」
僕はデュークに背を向けた。彼はため息ついて、そうも行きませんって。
「連れてこいって。昨日の料金分と本日は二倍くれて、オーナーが縛っても連れてけって……」
これ返すと革袋。はあ~?
「イヤ」
更に背を向けた。
「そう言わずに。抱きたくなければ抱かなければいい。話しだけでもお願いします」
「昨日も話したんだ。僕は……お前は聞こえてたはずだ!」
ええ。途切れとぎれでしたので……あなたが婿に行きたくないは分かったけど、では行きましょうって。イヤ。
「だから会いたくない!行かない!」
感情のない顔で、
「仕事です。あなた指名は少ないけど一晩が多いし、金払いがいい客も多い。店で三番目の稼ぎなんです!働いて下さい」
「ヤダ!」
残っていた者がザワッとした。そんなに稼いでるの?一晩?マジで?僕そんな客いないよとかヒソヒソ。あれま、残っているは入ったばっかの人だけだ。もう!
「とりあえず外には出るよ」
「はい」
ワザとだろ。ここに居づらくさせようとしただろ。
「自室に戻る」
「いやいや、三階に!」
玄関の受付前を通る。ここ通らないと部屋に帰れないから仕方なし。暇な時ここを通るの辛いんだよね。みんなお客と愉しそうだから。
「キャル!キャル!」
階段の上から呼ばれ見上げるとカミーユ様。嬉しそうに駆け降りてきて抱きついて来た。
「人目があります。お部屋にお戻り、もしくはお帰りを」
僕は淡々と感情を込めずには話した。
「いやだ!キャル……」
お付きの者もどうしようとオロオロ。
「お金は返します。お帰りを」
「嫌だよ!キャル僕を好きになって愛してよ!ねえ!」
王族は感情を出さないんだろ。泣き叫ぶな。彼は縋りついて喚き倒している。はあ。僕はお付きの者を睨み、
「そこの者!連れ帰れ!」
「え?でも……」
「こんな見苦しい様子を晒させるな!彼に傷が付く」
「はっ!」
カミーユ様帰りましょうと引きずられてお帰りだ。
「キャル!キャル!ねえ!キャル!いやあ!」
後ろを向き耳を塞いでいた。叫び声が遠くなり、馬車の走り去る音が聞こえなくなってから、耳の手を離した。
「キャル」
「はい。ミヒャエル様」
受付に珍しくオーナーがいた。優しく僕に声を掛けてくれた。
「俺は彼に身請けしたいと言われててな。本人が良ければと言ってある。お前は借金がある訳でもないから好きにどうぞと言っておいた」
「はい。僕はもう……そんな事が望める生き物ではありません」
ため息が聞こえた。
「お前、貴族の称号まだあるんだってな」
聞いたのか。
「ふん、どうだか。あっても騎士から上がりたての男爵ですよ」
「それでもここの者はみんなもう平民になってしまっている。貴族はお前だけ」
俺も侯爵家の不義の子でな。成人前に某公爵の愛妾とは名ばかりの、性奴隷として売られて逃げた口だ。お前は俺たちに比べれば恵まれているよって。
「かもしれませんね。ですが……」
「まあいい。ちょっと来い」
「はい」
受付の後ろオーナーの執務室に来た。座れって言われてソファに座り、飲めよってシードル入りのグラスを渡された。
「お前これ好きだろ」
「はい。りんご好きなんです」
半分ほど飲んでテーブルに置いた。
「まあ聞け。彼はアンと判った時点で王位継承は剥奪。宰相職、大臣職全て不可。今は近衛騎士副団長だそうだ」
「へえ……」
さすが我がの国の王族。父親筋からの血しかいらねえってか。
「次期王は第二王子だそうだ」
「はは……三人の王子のうち二人がアンとは。今季の王は使えない」
「だな。第二王子は逃げ場がなくなり、次第に顔つきも険しくなって今や無表情。妻と子もいるが、笑えない自分を見せたくないと離れに妻子を隔離してるんだってさ」
「そう」
オーナーよく知ってるなあ。僕すらそんな話聞かないのに。
「オーナーの客、王族とか公爵ですか?」
「ふふっ内緒。今なら王宮でふたり静かに暮らせるはずだよ」
カミーユ様の夫となれば、全く私棟から出ない訳にも行かないだろう。ならば隙を狙って父上の刺客にやられそうだよ。もしくは本人に毒でも盛られるかもね。ぼんやりとそんな事を思った。
「キャル。王族で二十五まで夫がいないってどういう事か分かるか?」
「……はい」
針の筵だろう。あの繊細な方の心はきっと傷ついているはずだ。
「近衛副団長と言っても魔物討伐とかは行かず、護衛メインだそうだ。パレードや視察とか。危険な所には行かせられないからな」
「ふーん」
だからあんな立派な体に。それでも他より細いかな。騎士って脱ぐとすごいんです!って人ばかりだから。その割にちんこ粗末って人も。
「なんと言われようと考えられません」
「なんで?」
「はあ?ここはどこ?」
「高級娼館サクディータ。俺はオーナー」
「僕は?」
「稼ぎ頭の男娼のひとり」
「ほらね。もう僕汚いし、遅いんですよ。それにオーナーも知ってるでしょ?僕絶倫よ?セックス大好き。たまに店の子すら食いたくなるくらい。もう中身も庶民なの!」
クスクスと笑った。
「店の子は勘弁してくれ。抱くなら金は出せよ」
「けち」
「ケチではない。これも商売だ。本人が許せば……いや金は半分くれ」
「がめついねぇ」
「当たり前だ」
まあ。次からは断るか?と聞かれた。
「はい。お願いします」
「おう。何もかも剥奪はされているが、粗末にされているわけじゃない。今も大切に……だからさ。応えてやるのも男気たろ?」
「ありがと。でも僕は弁えてるよ」
今日はおしまいとオーナーに言って自室に下がった。もう何もしたくない。耳に残る「キャル!」って叫び声が辛い。
僕は衣装を脱いで布団に入った。カミーユ様の匂いに声が耳を離れない。
自分に「スリーピン!」と眠りの呪文を掛けて目を閉じた。身体が徐々に重くなり眠りに落ちた。今日はもう何も考えたくない。放っといて!
「おはよう。ニール」
いや~なニヤニヤを顔に貼り付け、僕の向かいに座る。
「昨日は三階でしょ。どんなヘンタイだったんの?」
「どうもない。僕にはお相手出来ないくらいの方だからお帰り願ったよ」
太陽も傾きかけた頃。この時間が僕らの朝だ。支度前の腹ごしらえをしていたから、僕は適当に返事をしてスープとパンをかじった。
「僕らの仲じゃないか。話してよ」
「それだけなんだよ。他はない」
時間にして一時間もなかったはずで追い返したからね。大体僕らの仲ってなんだよ。そんなに仲良くないどころか、君は僕を嫌ってるだろう。
「玄関で泣き叫んでたよお客。何があったんだよ」
「だから。僕には手に余ったんだよ」
もぐもぐ。胸がチクリとしたけど僕はもう会わない。
「初めての客でお前にご執心か。知り合いなの?」
「いや」
「嘘つけ!」
嘘臭え吐けっ!と言われたけど言わない。すると、
「ニールいますか」
「はーい!」
「ドムス様のご来店です」
ん?と上を向いて考えて、
「早いねぇ。まあいいや。キャルまたね。今度聞かせてよ!」
「それはイヤ。行ってらっしゃい」
「聞かせてもらうから!」
ヘンタイ面倒くさいんだよなあって言いながら立ち上がった。ほら見ろ、僕だけじゃない。ここに来る客は、奥さんとか相手に求められない性癖を開放しに来る人もいるんだよ。
僕は食べ終わり、お呼びが掛かるまでの待機室に向かった。
部屋に入るとまあ雑然。衣装やお菓子食べて寛いでる人とか。お風呂場からはアンアン気持ちよさそうな喘ぎ声。新人かな?
「新しい人入ったの?」
「そうみたいだよ。指導中だ」
ヨーゼフは衣装を身に着けながら答えた。
僕らはただ客の相手をすればいい訳じゃない。どうすれば悦んで貰えるかを叩き込まれる。自分が気持ちいいだけではダメ。だから指導係はどう抱くか、抱かれるかを教えてくれる。
「ここの指導係何なのってくらい気持ちいいんだよねえ」
「あの人にちんこ入れたら堪らんかったし、入れられて初めて気持ちいいって思ったのもあの人だけだね」
ヨーゼフはフンと鼻を鳴らした。
「そうだろうとも。年取ったから引退しただけの、この店一番の売れっ子だったから。だからキャルは彼のようにならないとアンとしてのキャルは呼ばれない」
ほほう。辛辣だなヨーゼフ。
「みんなの真似してアンアン鳴いてるし、締まりもいいはず!」
「喘ぎが嘘臭いんだ。前に聞いた事あるけどさ」
失礼な。かわいく鳴いてるもん。あんな感じにさ。
「嘘だよ。ならやってみろよ」
「ええ?じゃあやってみるね。あんっうぅ~んあは~ん」
ぶははと手を叩き大笑い。
「何だよそれ!ぎゃははは!」
ものすごい爆笑。そんなにおかしい?おんなじだろ?
「ダメかな?」
「ダメ過ぎ!よく客のを聞けよ。ハァハァ苦しい」
「えぇ~客見てやってんだけど?」
「なら才能ねえな!わはは。自分で気持ちよくなるように開発しろよ。なら出来るんじゃないの?あはは」
失礼だな。僕指導係の人以外はあんまり気持ちよくなくてね。それなりにはいいんだけど、尻だけでイケるかと言われればう~ん。足りない。ちんこを擦ってくれれば、そっちの快感でなんとかかな。それでも……
「それに僕元々あんまり喘がないからさあ」
「だろうな。それじゃあな。クッ」
話しをしながら僕は衣装を身に着け、アクセサリーをカチャリ。足首の飾りがシャランと鳴った。
「お前本当にきれいだよなあ。受けなら売れっ子になるのに残念」
「ありがと」
ヨーゼフとは仲が良い。僕がお茶引いてここで本読んでてても、揶揄したりしない。
「お前今日は予約は?」
「もう。辛いことは聞かないの!ヨーゼフ時間でしょう。控室に行きなね」
「うん。どうしてもちんこ辛かったら俺が相手してやるさ」
「ほんと?」
優しいね。喜んで抱くけどね。
「ありがとう。帰ったら抱かせて」
「おう。金はくれよ」
「うっ……商売するのか」
ふふんと立ち上がり僕を見下ろして、
「当たり前だろ。俺の客時間客で安いんだよ。稼がないとならん」
「そうね。頑張って来て」
「うん」
そんな会話をしていると、三分の二は行こうぜと出て行ってしまった。残りは時間が違うんだろう。ゆっくり支度をしている。
「さてと。僕は本の続きを読もうかな」
異国の王子がさらわれた妻を助けに行くお話し。ラクダに乗り砂漠を越えてね。どこの国の話だろう、砂漠は近くにないからねえ。
妻は大金持ちに捕まっていた。金の力でさらったんだ。王子は羽交い締めにされている妻を助けるべく剣を構えた。すると横から斬りかかられ……
「……キャル!」
「ひゃっ!」
肩に手を乗せるデューク。
「びっくりした……驚いて死んじゃうでしょ!」
「すみません。お客様です」
ああ、客ね。心臓バクバクだよ。全く。
「珍しいね。毎日僕に客なんてさ」
デュークは困った顔をしてしまった。
「昨日の方です」
ゲッ!
「会うつもりはないよ。帰ってもらって」
僕はデュークに背を向けた。彼はため息ついて、そうも行きませんって。
「連れてこいって。昨日の料金分と本日は二倍くれて、オーナーが縛っても連れてけって……」
これ返すと革袋。はあ~?
「イヤ」
更に背を向けた。
「そう言わずに。抱きたくなければ抱かなければいい。話しだけでもお願いします」
「昨日も話したんだ。僕は……お前は聞こえてたはずだ!」
ええ。途切れとぎれでしたので……あなたが婿に行きたくないは分かったけど、では行きましょうって。イヤ。
「だから会いたくない!行かない!」
感情のない顔で、
「仕事です。あなた指名は少ないけど一晩が多いし、金払いがいい客も多い。店で三番目の稼ぎなんです!働いて下さい」
「ヤダ!」
残っていた者がザワッとした。そんなに稼いでるの?一晩?マジで?僕そんな客いないよとかヒソヒソ。あれま、残っているは入ったばっかの人だけだ。もう!
「とりあえず外には出るよ」
「はい」
ワザとだろ。ここに居づらくさせようとしただろ。
「自室に戻る」
「いやいや、三階に!」
玄関の受付前を通る。ここ通らないと部屋に帰れないから仕方なし。暇な時ここを通るの辛いんだよね。みんなお客と愉しそうだから。
「キャル!キャル!」
階段の上から呼ばれ見上げるとカミーユ様。嬉しそうに駆け降りてきて抱きついて来た。
「人目があります。お部屋にお戻り、もしくはお帰りを」
僕は淡々と感情を込めずには話した。
「いやだ!キャル……」
お付きの者もどうしようとオロオロ。
「お金は返します。お帰りを」
「嫌だよ!キャル僕を好きになって愛してよ!ねえ!」
王族は感情を出さないんだろ。泣き叫ぶな。彼は縋りついて喚き倒している。はあ。僕はお付きの者を睨み、
「そこの者!連れ帰れ!」
「え?でも……」
「こんな見苦しい様子を晒させるな!彼に傷が付く」
「はっ!」
カミーユ様帰りましょうと引きずられてお帰りだ。
「キャル!キャル!ねえ!キャル!いやあ!」
後ろを向き耳を塞いでいた。叫び声が遠くなり、馬車の走り去る音が聞こえなくなってから、耳の手を離した。
「キャル」
「はい。ミヒャエル様」
受付に珍しくオーナーがいた。優しく僕に声を掛けてくれた。
「俺は彼に身請けしたいと言われててな。本人が良ければと言ってある。お前は借金がある訳でもないから好きにどうぞと言っておいた」
「はい。僕はもう……そんな事が望める生き物ではありません」
ため息が聞こえた。
「お前、貴族の称号まだあるんだってな」
聞いたのか。
「ふん、どうだか。あっても騎士から上がりたての男爵ですよ」
「それでもここの者はみんなもう平民になってしまっている。貴族はお前だけ」
俺も侯爵家の不義の子でな。成人前に某公爵の愛妾とは名ばかりの、性奴隷として売られて逃げた口だ。お前は俺たちに比べれば恵まれているよって。
「かもしれませんね。ですが……」
「まあいい。ちょっと来い」
「はい」
受付の後ろオーナーの執務室に来た。座れって言われてソファに座り、飲めよってシードル入りのグラスを渡された。
「お前これ好きだろ」
「はい。りんご好きなんです」
半分ほど飲んでテーブルに置いた。
「まあ聞け。彼はアンと判った時点で王位継承は剥奪。宰相職、大臣職全て不可。今は近衛騎士副団長だそうだ」
「へえ……」
さすが我がの国の王族。父親筋からの血しかいらねえってか。
「次期王は第二王子だそうだ」
「はは……三人の王子のうち二人がアンとは。今季の王は使えない」
「だな。第二王子は逃げ場がなくなり、次第に顔つきも険しくなって今や無表情。妻と子もいるが、笑えない自分を見せたくないと離れに妻子を隔離してるんだってさ」
「そう」
オーナーよく知ってるなあ。僕すらそんな話聞かないのに。
「オーナーの客、王族とか公爵ですか?」
「ふふっ内緒。今なら王宮でふたり静かに暮らせるはずだよ」
カミーユ様の夫となれば、全く私棟から出ない訳にも行かないだろう。ならば隙を狙って父上の刺客にやられそうだよ。もしくは本人に毒でも盛られるかもね。ぼんやりとそんな事を思った。
「キャル。王族で二十五まで夫がいないってどういう事か分かるか?」
「……はい」
針の筵だろう。あの繊細な方の心はきっと傷ついているはずだ。
「近衛副団長と言っても魔物討伐とかは行かず、護衛メインだそうだ。パレードや視察とか。危険な所には行かせられないからな」
「ふーん」
だからあんな立派な体に。それでも他より細いかな。騎士って脱ぐとすごいんです!って人ばかりだから。その割にちんこ粗末って人も。
「なんと言われようと考えられません」
「なんで?」
「はあ?ここはどこ?」
「高級娼館サクディータ。俺はオーナー」
「僕は?」
「稼ぎ頭の男娼のひとり」
「ほらね。もう僕汚いし、遅いんですよ。それにオーナーも知ってるでしょ?僕絶倫よ?セックス大好き。たまに店の子すら食いたくなるくらい。もう中身も庶民なの!」
クスクスと笑った。
「店の子は勘弁してくれ。抱くなら金は出せよ」
「けち」
「ケチではない。これも商売だ。本人が許せば……いや金は半分くれ」
「がめついねぇ」
「当たり前だ」
まあ。次からは断るか?と聞かれた。
「はい。お願いします」
「おう。何もかも剥奪はされているが、粗末にされているわけじゃない。今も大切に……だからさ。応えてやるのも男気たろ?」
「ありがと。でも僕は弁えてるよ」
今日はおしまいとオーナーに言って自室に下がった。もう何もしたくない。耳に残る「キャル!」って叫び声が辛い。
僕は衣装を脱いで布団に入った。カミーユ様の匂いに声が耳を離れない。
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水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
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