緑の竜と赤い竜 〜僕が動くと問題ばっかり なんでだよ!〜

琴音

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二章 緑の精霊竜として

10 孤児院への慰問?

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 翌日、僕はなにもなかった顔で起きたけど……恐ろしく頭がぐるぐるして眠れなかった。よかったよ、今日なにもない日で。ロベールが朝早くに公務に出かけて、数日は帰って来ない予定。僕もお茶会とか他も特に予定はない。赤ちゃんの世話して過ごすのみ。

「オリバー様もご実家に少し帰られるそうでいないから、城には来ないし……なにしようかな」
「ならば、この間オリバー様に教えてもらった刺繍などは?」
「ゔっ……」

 血ぬれのエプロンのことでしょうか。指をプスプス指してしまって、赤い斑点だらけの禍々しい物が出来上がって、それもガタガタで見れたもんじゃない。ならレース編みは?と言われたけど、おほほほ無理。センスがないわ糸飛び出てるし。

「ガゼボで本を読みます」
「ふふっではお茶のご用意をいたしますね」

 外はいい天気でメイドさんは走り回り、文官も出入りしているかな。あ、兄上だ。ノシノシと歩き、マントを翻して相変わらずいかついね。僕は本を読みながら時々周りの人々を眺めた。

「みんなやる気に満ちて輝いてる気がする」
「え?」

 おっと、余計な言葉が漏れた。なんでもないよと本を読み進める。

 この本は大昔の王族の恋物語だ。末の王子が王と共に他国の晩餐会に出席した時、見目麗しい方を見つけた。でも身分が低く(男爵家の姫)ちょっとお嫁に欲しいとは王には言えなかった。でも気になってダンスに誘い、身の上を聞き出した。そしてお手紙を送り合って親睦を深めていく。でも、それもすぐにバレて家族会議。

「私は彼を……ハリソンを妻に迎えたく考えております」

 全員ため息で末の王子を見つめる。さすがの王も、男爵家の姫でそれも他国。その……と、続く言葉が出なかった。他の兄弟も好きなのは分かるんだが、いくらなんでもあの国の男爵は、こちらの国の文官の家柄で土地なしクラス。姫が辛い思いをするからやめとけと。

「ですが!彼は素晴らしい人です。心根が優しく一緒にいたいと思える方なのです」
「それは分かるが……」

 ならば身分が上の貴族に養子に出して躾直してだなと、王妃が発言した。いやそうだが、身辺調査の結果、魔力が王族に嫁ぐには足りなかったのだ。

「そんな……」

 王子は打ちひしがれた。王族が貴族のように妻を探せないのは、この頃も同じ。若い王子は諦められなかった。そして、どこからか手に入れた禁断の魔術を使い、彼の魔力を増やすことにした。が、世の中そんなうまい話はなく、姫はその術に負け弱って死でしまった。

「マジか」

 当然責任問題に発展し、宮中が右往左往している内に王子は消えた。え?これ実話?顔を上げミレーユに聞いてみた。

「残念ですが実話ですね。今この本は城の図書館にしかない本になっています。恥じたからではなく、ネタバレですが、王子が見つかった時はもう亡くなってたんですよ」
「うそ」

 王子は勝手に他国に出向き、姫のお墓の上で息絶えていた。見つけた時にはすでに時が過ぎ、干からびてるような状態だったそう。お墓はあんまり人はいかないから、見つけるのが遅れたそうだ。

「四百年くらい前の王子だそうです。でも物語にするには辛い話なので、お墓でぐったりしてるところを見つけたことになってますよ」
「へえ……」

 僕は先を読み進めた。クッキー美味しいですよと勧められ口に入れると、ナッツの香ばしい香りが拡がった。

「料理長の新作です。南から新しいナッツを見つけて混ぜ込んだそうですよ」
「とっても美味しい」

 どれどれ、先は……

 王子は国に戻され体は回復したが気力を失い、僻地の別荘に移り、日がな一日ぼんやりしていた。なにもやる気になれず、毎日姫を思って泣いていた。自分が無理をさせたから、姫はお嫁さんになるんだと笑ってくれたのに。なのにと後悔に苛まれていた。
 そしてある日、王子は本当にいなくなった。みんなが寝静まった頃外に出て行って、二度と帰って来なかった。おわり。おわりぃ?

「ねえ、これ本当はどうしたの?」
「これはですね。言い伝えによると……」

 莫大な賠償金を払っておしまいにしたらしい。共和国内の小国の男爵の姫だったから、身分以上のお金で黙らせたそうだ。まあ、もう亡くなってるから、お金以外にやりようはないけどさ。もっと楽しいお話かと図書館から持ち出したんだけど……

「昔は王太子はともかく、他の王子は他国からお嫁さんやお婿さんをもらうことは、今より多かったのです。まだこの国に貴族は多くなく、領地の数も今の半分くらいでしたし」
「ふーん。その魔力増やす魔法って本当にあるの?」
「多分ないですね。幼い頃に訓練すれば増えますが、成人してからはもうほぼ無理でしょう」
「だよね」

 ヘルナー一族のような魔族ならありえるんだろうけど、僕らはそんな特殊な能力は持ち合わせてはいない。おかしな魔法使いに騙されたとあるけど、なんだろうねえ。王族は純粋なのかな?

「そんなことはありません。腹黒いですよ」
「あはは。そうだよね」
「この王子が特別素直で純粋に姫を愛しただけ。王位継承にも引っかからないからいいだろうと、そう思ったんじゃないですかね」

 ふーん。王族の恋愛物は悲劇の物語が多いんですよって。上手くいくのはお話として面白くないからだそうだ。でも舞台の演目には上手く行く話が好まれるけど、王族が嫌いな人も民にはいますからって。

「だねえ。貴族にもネチネチ嫌味を言ってくるおじさんたちがいる。よくもまあ悪口が思いつくもんだと感心するもの」
「そうですねえ」

 ステフィン見たいなクズに(酷くね?元カレだよ一応)に振られるような妃殿下とは情けないとか、なんだあのみっともないおもちゃみたいな竜はとか。役に立ってるようだが見栄えが悪く、変身してもしなくても不格好だとか、失礼極まりない。僕はかわいいと思ったけどね。目が丸くてクリクリで、ぬいぐるみみたいだもの。自画自賛たけどさ。炎でも吐けるのかと思ったけど、見えるなにかは出なかったけど、フーって息を吹いて、息が地面に触れると、少しだけ植物は育ったんだ。いいじゃん役に立つでしょ!

「言いたい人は真剣にアラを探しますから、気にしても無駄ですよ」
「うん」

 そんな日を何日か過ごすとロベールが帰って来た。なんだその顔。擦り傷打撲の跡だらけじゃないか!

「なんでヒール使わないの!痛いでしょう」
「ああ、なんとなく治したくなくて……な」
「はあ?」

 騎士との訓練でついたそうだ。自分より強い騎士に手加減するなと言って、手合わせをしてたそうだ。バカか。

「なんでそんなむちゃを」
「なんとなく」
「はあ?なんとなく?」

 悪びれた様子もなく、普通の会話のように話すロベール。どうしたんだよ。

「なんかあったの?困ったこと?僕に出来ることはある?」
「いいや。いつも通りでいい」

 にっこり笑うけど目の色がおかしい。なんか隠してるな。聞き出してやろ……いや、僕も話さないことがあるんだから、聞くべきじゃないな。

「僕が治していい?」
「ああ」

 ヒールを唱えて傷を癒した。スーッと傷も打撲痕も消えていく。

「痛いところある?」
「いいや、ありがとう」

 いやいや変だ。こういった城を離れるような公務の後は、僕を見ればすぐにひん剥き股間を押し込もうとするのに、今日は……絶対なんかあったな。

「疲れたでしょう?お風呂入って休もうよ」
「いや、報告とかまだ公務が残ってるから」
「そう……」

 夕方近くに帰宅してるのは聞いてたけど、夕食には来てなくてね。仕事しながら食べたと言うし。顔を見に来ただけだから、今日中には戻るし先に寝てろって出て行った。

「ロベールおかしい」
「ええ」

 クオールもなんか変と言う。あれは隠し事してる時の反応です。なにか駐屯地でありましたねって。私が聞き出しましょうかって言ってくれたけど、やめておいてお願いした。

「そうですか?まあ、隠しごと苦手だからそのうち自爆しますよ」
「なら待ちます」

 そして夜寝てると、布団に入ってくる気配で目が覚めた。

「ごめん。起こしたか」
「う……気にしないで。ふわぁ~っ」

 そして僕を抱いてそのまま眠った。あん?やはり変。エッチしないの?僕は彼の股間にそっと触れると柔らかい。はい?エロ魔人がどうした?悪い物でもでも食べたのか!

「ロベール……」
「うん」

 僕は胸から顔を上げて頬を撫でた。少しやつれた?訓練しすぎたのかな。

「なんかあったの?」
「なんもないよ」
「なんで僕に触れないの?キスは?」
「うん……」

 軽くチュッとしてすぐに目を閉じた。ああ?

「エッチしないの?」
「うん」

 え?本当にどうした!毒でも飲んだのか、股間が勃たない薬でも盛られたのか!ロベールが変だよぉ。口に出てたのかお前がだよって言われた。

「僕は変わりないよ?」
「出かける前のが気になってな。ついイライラを発散したくて訓練をしてたんだ」
「ああ、それはごめんなさい」

 仕方ないか、少しだけ話すかと気持ちを伝えた。僕のわがままでしかないんだけどと付けて。

「お前そんなことを思ってたのか。そっか……お前姫なのに、フルに働いてたもんな」
「うん。多分そのせいもあると思う」

 アンもノルンも関係なく働くんだけど、ある程度の身分の、嫁入り前のアンは何年か結婚ごとにに専念するために働かないんだ。特に領地持ちの家はね。でも僕の家は召喚術士で、この国の貴族では僕の一族しかいないから、仕事をしないという選択肢はない。役立たずだったけどね。独身でずっと働く人は身分の低い人に多いんだ。

「今この西の城にいる限りこの生活は続くんだ。王妃や他の妃殿下と社交をするのが本来の仕事でな」
「うん。頭では理解してるんだ。気持ちがついて来てなかっただけ。この間話してる時に気が付いただけで、なにかさせて欲しくて言ってはいない」

 不満はあるけどなにがしたいか自分でも分からない。討伐に行っても足手まといにしかならないのは分かってるんだ。あの魔法省の空気が苦手だったからね。ひよこ出してもね。火属性だから治癒も得意じゃないしさ。本当にわがままなことを思っただけなんだ。ロベールが大切にしてくれるから、役に立ちたかったのかもね。

「お前はもう。俺は嫌われたかと思ってた」
「え?それはないよ。大好きだもの」

 ならいいって笑ってくれた。愛してるよリシャールとブチュウ……そして飽きるまで彼に抱かれて朝になった。眠い……

「なんかスッキリした。股間も気持ちもな」
「さようで」

 でもそんなことを考えて欲しくない。俺はこうしてるだけで幸せだし、俺が頑張れるのもお前がいるからだよって。唇が重なり舌が……んふぅ……またするの?と聞けばしないよって。

「いくら休みだからってエッチだけしてる訳にはいかないだろ」
「はい」
「それにもうすぐ発情期だろ?楽しみにしてるんだ」

 おおぅ……忘れてたよ。またあの毒の時期が来るのか。でも、エッチは苦しいくらいの快感でいいけどね。

 そして発情期。

「ロベール足りない!もっとしてぇ!」
「おう!」

 避妊薬だけでやりまくる。股間が痛いくらいで欲しくて堪らない。快感が収まらなくていやあ!

「締まるな」
「ウグゥッ握ったらダメ……あっあっ…ッ」

 出したいのに出せなくて、苦しくてもう奥からの強い快感でフッと意識が飛んだけど、すぐに復活。

「リシャール愛してる。もっと俺を締め上げろ」
「ウウッ……あっ…奥に…深くし…て……」

 抱き合って彼に跨り自分から押し込んで、それでも足りない。体の熱がロベールを求めて止まらない。

「ロベールぅ噛んで…強くぅ」

 ガブッと首筋を噛まれると、痛みが快感に変わりガタガタと震えた。いい……もっと僕を責めてぇ

「堪んねえ。この匂いも淫らなお前も」
「あうっ」

 噛まれながら強く抱き締められて、苦しくて気持ちよくて奥歯を噛み締め快感に酔ってたら、口になにか入れられた?毒!グワッ

「朝ですよぉ」
「ゲホッゲホゲホッもう少しタイミングをぉ」
「そんなの待ってたら明日になりますぅ」

 飲むとあっという間に効くこの抑制剤。ハァハァと自分の股間を見るとドロドロだし、あちこち噛み跡も。

「激しく求め合うのもいいですが、辛くないですか?」
「うん。多少……」

 はいお口直しにオレンジジュースをどうぞっと渡されてゴクゴクうまッ。毒の風味が和らぐ。

「俺が抑制剤嫌なんだよ。それにリシャールが応えてくれてんの」
「ですが、体力的にもリシャール様が大変ですよ」
「まあ、そっか」

 今がピークですから明日は平気でしょうが、やはり子を作るつもりがないのならば、もう少し手加減をして上げて下さいませ。ミレーユが困り顔で庇ってくれた。まあ、僕も嫌ではないんだけど、確かに疲れる。赤ちゃんの世話もあるしね。ならたまにでいいからしたいと言われた。年に一回でもいいから使わずに俺を求めてくれと。

「いいけど、なんでそんなにこだわるの?」
「ふふっお前は自分じゃ分からないだろうが、とてもいい。なにもかもがいいんだ」
「ふーん?」

 気にするなと朝食に向かうと、家族が顔をしかめていた。エッチの声が廊下まで聞こえたぞって。防壁くらい張れと叱られた。え?張ったはずだけど?ねえロベール。

「忘れてたかな?あはは……」
「ゲッ」

 みんなため息。こちらまで変な気分になるからキチンとしてよねってルーカス様。僕は昨日こちらに泊まってたから最悪だよ。オリバーいないのにまったくと。ごめんなさい。
 今の季節夜はいい風が吹く。爽やかな風が吹き抜けるんだ。だから部屋の廊下側の小窓が開いてて、廊下に出ると聞こえてたそうです。恥……

「若いから仕方ないが、周りには配慮しろよ」
「はい父上」

 僕そんなに声出してるのかな?とか思いながら急いで食事を口に詰め込み部屋に戻った。

「ロベールダメでしょ!」
「ごめん。興奮してて魔法掛けたつもりになってて……な?」

 家族にベッドの中は知られたくはないものだよ!ごめんってと抱かれた。なんでも抱っこすれば許されると思うなよ。これに関してはキッチリ反省して下さい!

「うん。エッチなリシャールをみんなに聞かせたい訳じゃないしな」
「ゔっ」

 クオールはクスクスと笑い、おふたりは激しいてすからねって。正直リシャール様は淫らですしとさらに笑う。そんなか?みんな似たようなものでしょう?

「まあ、あの毒飲まないでする人は中々いませんから」
「そうなの?」
「ええ。理性が残る程度の、弱いのを飲むのが普通です。頭おかしくなるでしょ?だからですね」
「そうね」

 手際よくお茶の用意をしてくれながら、楽しそうなクオール。ミレーユは実家に用事があると休暇中で、今はクオールのみ。僕には代理のイスマエルが代わりに来てくれている。

「仲がいいことはよいことですが、家族の迷惑にならぬ程度で」
「はい……」

 今日はオリバー様から頂いた紅茶ですよって。これは魔族の国からだそうだ。口をつける前から強く香る。

「おお、強いお味だね。香りもなにもかも強い」
「ええ、ですからミルクをどうぞ」

 うん、まろやかになったね。ミルクよく合うお味だ。美味しい。

「そうだ。お前、自分の個を確立したいと言ったろ?それでな、王立の孤児院に時々慰問に行くのはどうかと母上が言っててな」
「はあ、孤児院?」

 王立の孤児院は貴族が運営してるんだ。大体土地なし男爵のお家の二子以降の方が担当して、神殿も併設だから司祭と共に頑張るんだ。いいかもね。フェニックスとか乗せてあげたら喜ぶかな。見せるだけでもいいかも。

「好きにすればいい。王妃たちも年に数度行くんだ。あれは視察だけどな」
「ふーん。なんで?」
「あー……子どもが虐待されてないかとかの様子見だな」

 食事をきちんともらってるか、暴力や性的な暴力がないかなど見るそうだ。隠しても見抜ける魔法省の魔法使いを連れて行くそう。以前は誰の子か分からない子を産むアンの神官や孤児が結構いたそうだ。

「あそこ貴族は住み込みでな。まあ、仕事にあぶれた、どこにも士官する能力のない者が担当してた時期があるんだ。今は改善してるけど、先代あたりまではな」
「ふーん」

 魔力が極端に弱くて、頭も悪い貴族が行くところと、クオールは言葉を選ばない。どこに出しても恥ずかしい子息が、親にぶち込まれる場所となっていたそう。王族の人が見回ってる時はちゃんとしてるけど、そんなだからまともな神官も足が遠のいて、世話係ばかりの時すらあったそう。その民間の世話係もアンばかりかわいがって、ノルンを悪しざまにしたりとか横行してた。それを改善したのが今の王妃クラウス様。子は宝だからってね。なんて素敵なんだ。

「たまに遊んであげればいいさ。そうすればお前の気も多少晴れるかなあって。担当の仕事があるってのもいいだろ?」
「うん。ありがとう」

 それから神殿と調整しながら、時々行くことにしたんだ。









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