緑の竜と赤い竜 〜僕が動くと問題ばっかり なんでだよ!〜

琴音

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四章 どうしてこなるんだ

8 ヌーマリム牧場スタート

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 ロベールは程なくしてヌーマリムの牧場を完成させた。そして僕が麦や野菜畑に巣を作り、根城にしていた彼らを引き連れて柵の中へ。

「ふーん日陰もあるのか。水飲み場も食べ物もある。おお、ワラも置いてくれたか」
「あなたが欲しいって言ったんでしょ」

 キュッキュキュッと他の人には聞こえてたらしく、ヌーマリムは近くで見るとかわいいかもと微笑ましく話してる人たち。そのキュキュッって言葉の意味はかわいくねえんだよ。

「一応小屋も用意しました。寝床も必要でしょ?」
「ああ冬だけな。でもあるといいかな。後さ歯が伸びるから大木もな」
「はい……」

 なんでこんなに上から目線の発言なんだよ。そりゃあ毛皮は頂戴いたしますが、毛皮代より牧場や農作物の被害の方がデカいのですが?ごめんなさいは?

「それは人の気持ち。俺たちはただの動物。森とともに生きてたのをお前らが楽を教えた。そのせいだよ。だから栄養もいいから子どももたくさん生まれる。ぜーんぶお前らのせい」
「クソッいい負けた……」

 牧場の柵の前で泣きそう。ネズミに負けるなんて……竜が悲しそうだよ母さんとか聞こえる。確かに悲しいです。おい聞けと下から、

「俺たちは自分たちが短命なのは分かってる。だからそれなりに賢い。短い生に全てを詰め込むんだ。それを人が分かってないんだ」
「あれ……なんか聞いたような話しだ」

 種族によって命の長さは違う。自分たちの時間を、精一杯過ごす知恵はそれぞれ持つからなあ。ムカつくけど、

「いつ毛皮にしてもいいですか?」
「そうだなあ。生まれて冬を三つ越す前かな。ハゲ散らかした毛はいらんだろ?」
「いりません」

 ということは一年で成獣になるらしいから、そこからは繁殖か。ならノルンは一年だな。そしてアンは毛が抜けない三年目前の冬毛か。よし。

「今ね、苦しまないようにするお薬がもうすぐ用意できる。だからここで好きなだけ楽しんでくれるといい」
「ふーん。俺たちは「今」しか見ていない。明日のことなどはっきり言えば興味ないと言うか、考えてもいない。今この時が楽しければいい。おなかいっぱいなら満足だ。好きにしろ」
「ありがとう」

 他のヌーマリムが来て、僕らは獣にたくさん食べられる。だから美味しい食べ物をたくさんくれ。精霊が教えてくれたんだ。経済動物ってんだろ?家畜と同じだろって。

「うん。そうかな」
「大切にされて死ぬんだろ?」
「うん」
「ならいい。馬とかみたいに働かずだろ?」
「うん。ペットの猫とか犬とかに近いと思う」

 ねえねえ俺かぼちゃ欲しい。もしくはさつまいも。甘い野菜が食べたいとか、なんかワラワラきて自分の好みを訴える。きりがないよ。

「その季節のものが出てきます。どんぐりもね」
「ふーん。栗のほうがいいな」
「クソッ……食うことしか考えてないのか!」

 この竜頭悪い。食べて増えるんだろ?それ以外なにすんのって。

「まあ、大切にするから散れ!」
「最後にさつまいもかくだもの!ブドウのつるでもいい!あとももの枝!」
「うるせぇ!」

 肩に乗るトリムは、リシャール気が短ーいと頬を撫でてくれる。

「リシャールが人の姿で話してるのに竜って分かるこいつらは知識をずっと引き継ぐんだ。誰かの知識はずっと。生活の知恵かな」
「うん。よく分かる」

 終わったかってロベール。最後怒鳴ってなかったか?と聞かれて、うわーんと胸にすがった。

「あの竜バカだよねえって。そんで果物やさつまいも、ブドウのつるや桃の枝を出せと……」
「あー……相変わらず図々しいな。それでキレたか」
「うん」

 可哀想なリシャールよしよし。はいワイバーンに乗って次の畑だよって。おい!

「仕方ねえだろ。今日は二か所なんだから。明日も同じく」
「はい……」
「早くしないと麦もさつまいもも食われるぞ?つるをあげれば喜ぶのに実を食うぞ?」
「わかりましたあ!」

 お昼を食べてまた畑に出向き、その横の森を捜索。呼びかければすぐに出てきて、竜になってたくさんのヌーマリムと行進。麦を刈ってる農夫は驚き、旅人はヒイッて声を上げる。まあいい。それを数日繰り返し終わったかな?

「ああ、畑の近くの駆除だからな。森の深部は動物らしく生きてるようだから、畑に出てこなければだな。報告が来るようにはしてある」
「ふーん。ならこれで終わりだね」
「ああ」

 三か所くらい牧場を作っていて、今は少し数が少なく見える程度入れている。春先にうまれるからね……今いっぱいだと春に困る。

「ノルンは適当に売りさばけと言ってあるから、大丈夫だろ」
「うん。せっかく繁殖牧場にしたんだから、いいもの食わせて高く毛皮を売る!」
「まあ……たかが知れてるだろうけどな」

 そして冬間際によく太らせたノルンを三分の二毛皮に。これがまた高く売れた。エサをきちんと食べさせたら毛艶もよく密集したふかふかで、これなら普通の外套にも使えると服飾の職人さん。やったー!

「負債牧場にはならずに済みそうだな」
「うん!」
「ただ肉な……数が多くて燃やしてると魔力切れ起こしそうだと、牧場の人からのクレーム」
「え?」

 埋めると他の獣が来るし、ヌーマリムのお肉臭いんだよ。独特の獣臭さがあって本当にお前ネズミの仲間?と疑いたくなるネズミ。

「だから、繁忙期は騎士を出すことにした」
「ふーん」

 窓の外は厚い鈍色の雲に覆われ、ふわりふわりと大きなボタン雪。東はそこそこ雪が降るんだ。でも、西より寒くない気はするんだけど、空気の湿り気の違いかもね。僕はロベールの部屋の暖炉の前に毛布を敷いて……火がゆらゆら……

「寝るなよ。暖炉は火の粉が降るから」
「う…ん……」

 眠くてフラフラこてんと倒れた。クオールがまたここで横になる。だめでしょう、寝るならベッドに行きなさいって。魔石で部屋を暖めてますからって。

「あのね、この火の感じがいいんだ。ゆらゆらして、あったかくて……眠い」
「だから!」

 僕はクッションを掴んで目を閉じた。

「お仕事終わったら声かけて。夕食……くは~」
「はいはい。クオールほっとけ」
「はい」

 冬は仕事は少なく、時々自室で仕事をするロベール。んふふっ同じお部屋でゴロゴロしながら一緒にいられるのがいい。火がパチンとはぜた音……いいよねえ……冬って感じでさ……なんか臭い?と目を開けると前髪燃えてる?いやあ!バンバンと消して、

「もう!……あー……少し下がるか」

 毛布を引いて、もう一回ごろん。んふふっ

「ふう……ここならね」

 こんな冬を楽しんだ。トリムは夏と変わらずあちこち行きまくり、バリバリクッキーを食べている。ミュイは寒さが苦手と家族の元に戻り、必要な時呼んでくれって。

「リシャール、俺も一緒に寝る」
「おいでトリム」

 風邪ひきますよとクオールは毛布をかけてくれる。ありがとう。彼の足音が遠ざかり、

「精霊の血でしょうかね。いつまでもかわいいリシャール様まま。見た目も年齢よりお若く見える」
「だろうな。力の発現は、そういったところにも影響するのだろう。俺は普通に年を取る」
「ロベール様は魔獣ですし」
「うん」

 逆だったら?とかたまに思います。ロベール様があんな感じ……キモッ

「クオール失礼だな。かわいいかもだろ」
「いいえ、キモくなります。あれはリシャール様だから許される」
「はいはいそうですか」

 でもリシャール様が火竜ならかわいい感じで、お嫁さんたくさん来そうですねえって。

「似た感じならアルフォンス。かわいくないぞ?」
「……あの方はその……お父上に似たから」
「クオールは俺をいじめたいだけだな」
「そうではありませんが、なんでしょうか。自分も年を取ってないのでは?と、錯覚するのです。何も変わらない気がして……」
「うんそれは思う。自分だけ年取ってる気がして愕然とする」

 うつらうつらしているとそんな話が遠くから聞こえる気がした。僕もみんなと同じように年取ってるよ?……そのうち暖かい火の熱に、眠気が強くなって声が聞こえなくなった。



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