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9 初めて入った王族の私的エリア
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彼の胸に押さえつけられ不安の中城に向かう。
「体硬いよ?不安?」
「ええ少し」
「なにもしないさ。伯爵との繋がりも俺はない」
「そうですか……」
そうねえとポツリ。俺は王族の中でも性欲強めかな。だから夜伽が何人かいないと一晩持たなくてさ。毎年この時期はいろんなお店から雇うんだけど、帰りはズタボロになってることが多くてすぐに返せないんだ。ポーションじゃ疲れが取れないらしくてねって。コワッ
「君の評判なら持つよね?」
「アハハ……たぶん」
「なら安心だ」
伊達にこの島の憧れの的ではない。それなりにやれてたからなんだ。客の要望には(暴力以外な)応えてきたから。体力ならオッケー。普段三人で致してて保ってるんだからさ。
「後君タチもいける?」
「ええ?ええ、客の要望には全部応えるのが信条でしたし、今も夫に好きな者もいますから」
「そう?ふーん」
ベルが好きなんだ。たまにしたくなるらしくてね。でもアレッシオのは嫌。俺にしてって。アルファだから濡れなくて香油必須だけどさ。
「俺も好きなんだ」
「さようで……」
お城が近くなると進まなくなる。まあ仕方なしかな。このあたりは祭りのメイン会場の広場もあって、準備やら早乗りの人たちで賑わっているんだ。
「お祭りって感じだよね」
「ええ」
少しずつ進みお城の門をくぐる。
「よかった……」
「アハハッさすがに俺の馬車を襲うバカはいないよ」
後ろでガチャンっと鉄の門の閉まる音がした。本気で安堵した。死ぬコースは回避かな。
「それはわかんないぞ。あの伯爵頭イカれてるからって噂だし」
「え?」
王族もその認識?怖いんだけど。彼は安全が確保されるまで俺の傍にいればいい。構わんよって。それはありがとう存じますが、対策はどうなっておりますでしょうか?と訊ねた。
「遅いね。本国の貴族社会は複雑だ。この島みたいに簡潔に物事は進まない。私利私欲にまみれ貴族は目先の金ばかりの人が目立つ。ここみたいにおおらかに生きればいいものを」
そう言ってふうってため息。
「お前を助けたいって俺たちはすぐに動いたろ?この迅速さもこの血をなくさなかった所以だろうね」
「それは俺も思います。だからこの島は王族の皆様が好きなのです」
「だろうね。民あっての王族だよ」
王族や貴族と庶民の垣根はこの島ではどこの国よりも低い。低いゆえに王族の困りごとには民は率先して城に行く。そして逆もしかり。こんな末端の俺を助けてくれるんだもの。どれだけ民を愛してるかなんて言わなくても分かる。
「着いたよ」
「はい」
馬車を降りるとベルベルトが悲しそうに俺を見つめる。俺も悲しい。
「広場のあたりで団長を見かけた。僕には気がついてなかったけど店の方に移動してた」
「ギリギリだったな」
「ああ。殿下、妻をお願いします」
ああ大丈夫だよ。伯爵は舞踏会開催時期しか城には入れないし部下もね。そこは安心してくれって。
「いやさ。招かれない客はすぐに切り捨てるよ。貴族でも関係ないんだ。長年のこの国への貢献にそこは認められているからね。もうすぐ自治区になって独立を認められそうだしさ」
「へえ……すごい」
同じ国は同じなんだけど、裁量権が増える。そして一番大きいのは上納金がなくなること。
「そうするとね。本国から物を買うと高くなる。だからプラマイゼロでな~んも変わらない。だから!お前たち民は宝物度がアップ」
「え?」
「稼げよ」
「……はい」
お茶飲んでくか?夫くんと王子はベルに笑いかけるけど「いいえ」と彼は断る。
「名残惜しくなりますから帰ります」
「そっか。でも心配するな。きちんと元気に返すから」
「ハッ感謝いたします!」
ベルは騎士の顔になり、敬礼の姿勢を取った。
「ほほう。騎士に戻るか?ベルベルト」
「いいえ。私は妻の傍にいたいのです。王族の皆様は大好きですが……ハイッ」
「ふふっ正直だな。またなベルベルト」
来なさいとベルベルトの背中を見つめていたら言われて、焦って階段を駆け上がる。
「俺の部屋は奥だから結構歩くぞ」
「構いません」
正門の扉から入った。うわあ……いつもは裏口だから初めて見た。なんて天井が高いんだろう。
「上向いて歩くな。転ぶぞ」
「す、すみません」
この城は戦に負ける前からある。中は改装したりしたりしてるけど、外枠は殆ど変わらないんだ。知ってるだろ?って。うん。
「激しい戦もなく、攻め入って来たのはグディルコスの王だけだ。うちの強さを知ってたはずだけど、気質も知り尽くしてたんだろうね。きっと味方に出来るって」
「ええ」
だろうと思う。戦いなど嫌いなんだよ。強くても防戦のため。しなくていい戦なら回避するのが大昔からと俺は学校で習ったもん。
「あれ?エルヴィーレ?なんで城に?」
「うわッマジで綺麗なやつだな。高くて俺は買えなかったけど」
なんてあちこちから聞こえたけど無視。ここで怯えたら男がすたる。せっかくの王族の優しさすら踏みにじる気がした。だから俺は少し微笑みながら歩いた。
「ふふっいいなお前。みんなこういう声に怯えるんだよ。いくらお店でもてはやされてても、城は場違いに感じてね」
「確かにそう思います。ですが、私のために一肌脱いでくれた王子様に恥をかかせてはなりませんから」
「そうだな」
十分は歩かずにデカい重厚な扉の前に来た。色も使い古されたいい色に染まってて、なんとも言い難い良さを感じた。そして左右に衛兵がふたり槍を持ち立っている。
「お帰りなさいませ殿下」
「うん。開けて」
「ハッ」
ギーッと少し音がした。すごいなあ。うちの娼館は、お城を模していたのだとここに来て初めて知った。いつも夜に来るから明かりが少なくて分かんなかったんだよね。
「来なさい」
「はいッ」
中に入ると眩しい!廊下は全て掃き出し窓で光が多い。今昼間だから余計だ。
「俺の部屋はもうすぐだ」
「はい」
着いて行くと一つの扉の前に止まる。そして開けると中に人がいた。
「お帰りなさいませ。ユリシーズ様」
「うんただいま。支度は出来てるよね」
「もちろんです。エルヴィーレ様の物は全部です」
彼はにっこり微笑みこちらへとソファを勧めてくれた。おう……これ高いと噂の職人のだ。張られている布も有名な職人の工房っぽいな。さすが王族。触れると滑らかな手触りで、ひじ掛けもツルツル。飴色の使い込まれたいい色だ。欲しいなこれ。新品じゃなくてこれがいい。
「お茶は熱いの冷たいのどちらがお好みかしら」
「え?えっと……冷たいのがいいかな」
「はい」
あまりにいい家具で見とれてたわ。よく見れば部屋は古く使い込まれたのであろう木の壁。好みなのだろうか。自画像と風景画が飾られている。棚には他国の調度品だろうか。見慣れない食器や金の細工などがいい塩梅で飾られている。角には植物と生け花の花瓶。落ち着いた色のバラが活けてある。趣味がいいな。
「エルの部屋は隣ね。妻のための部屋だけど俺にはまだ妻はいない。そういやお前いくつ?」
「私は二十三です。今年の三月になりました」
「ふふっお前祭りの時の子だな」
「ええ。この島の子は大体冬か春の初めに生まれますから」
当然違う子もいる。発情期は百発百中なだけで、普段の時に種付けが出来ない訳じゃあない。確率がものすごく低いだけでな。それに発情期の始まりは個人差があるから。
「俺は秋生まれだ」
「へえ……そっか。生誕祭をしますもんね」
「だろ?王族はいつでも欲しいときに種付け可能なんだ。それが民との違いでな。だから王族なんだ」
「初めて知りました」
「うん。公表してないから。でも気が付くだろ」
いや……漠然と王族好きってしかみんな思ってなくて、変な時期なのも偶然だろって思ってた。俺はニコニコして誤魔化した。
「このお茶美味しい……」
「ふふっだろう?冷たく飲むのに合うお茶を使ってるんだ。濁ったりしてないだろ」
「はい」
うちより南の国の高山で作られているお茶の葉だそうだ。温かくてもおいしいよって。
「街で飲んだことありません」
「そうだな……この国自体に入ってきにくいんだ。このお茶の国との付き合いは大昔からで、この島が国だったときからの友好国なんだ。だから市中にはあんまりないかな」
俺知らないことが多いな。店に特化してて、そういった文化に造詣が足りない。それは店に出てた時からで、お客から話を聞いて覚えたりしたんだよな。
「俺これから仕事だから夜にまたな。バルド、支度をしてやれ」
「はい」
またねって出ていくと食事が代わりに入って来た。
「お昼まだですよね。これからは王家のみなさんと召し上がるか、ここで食べるかの二択ですけどどうされます?」
「今後もここでッ」
「はい」
王様と食事とか何の冗談だよ。無理無理。こちらに用意しますからお席を移動してねと、ダイニングテーブルに移動した。並べられた食事は高級レストランのよう。イノシシ亭とは違う。
彩りも盛り付けも何もかもだ。庶民には手が出ないものばかり。家族の祝いとかではなければ近づかない店のものに近い。
「どうぞ」
「ありがたくいただきます」
カラトリーを手に持つとこれまたブランド様。……一々驚いてたら心臓に穴が空く。黙って食おう。そしてスープを……ウマッ美味すぎる!野菜のスープってこんなだっけ?と思う美味さ。俺王宮に呼ばれても果物とか、ちょっとしたつまみしか食ってなかったよ。それも美味かったけどさ。
食事を進めればもうね……ザ・庶民を実感するばかりだった。お肉も美味しいしお酒も美味しい。なんだろうねえこの王族の食事とは。
「お口に合いましたか?」
「もちろん。ごちそうさまでした」
後はすることはありませんのでお部屋を見てて下さいませ。あなたのお部屋は隣のそこ。その内扉を開ければありますからって。ふーんと席を立ち、扉を開けた。
「うわッマジで奥様の部屋だな」
王子の部屋と同じような作りだけど、ソファの布が少し淡い色になってるし、全体にオメガが好きそうな作りだ。ベッドも天蓋付きでレースが掛けてある。へえ……
「眠くありませんか?夜遅くまで働いてるのでしょ?」
「ああ。俺は店に出てないんですよ。裏方の作業ばかりで、夕方には食事して自分の部屋に戻ります。夫たちが朝まで頑張りますから」
「分業ですか?それはいいことですね。赤ちゃん生まれたら困りますからいいことですね」
「ええ」
この商売の困りごとは昼夜逆転なんだ。赤ちゃん出来たからはい朝起きてねと言われて、はいそうですかと体は言うこと聞いてくれない。だもんで妊娠中に直すのが常。だが俺は前からだ。そんな話をするとなんで?と聞かれた。
「俺が店に出なくなったことに腹を立ててる良からぬ客がいましてね。危険だったからです」
「そっか……お得意様が多かったと聞いてますから、引退を面白くない人たちですか」
「そんなもんですね」
殺してやる!なーんて人は引退初期の頃はいたんだ。もしくは夫たちを殺してやるかな。どこの店の稼ぎ頭も引退時は同じようなもの。客が諦めるまで待つのみだ。
「島の人じゃないでしょそれ」
「ええ。本土や他国の人ですね」
「フフッ島の人は悲しんでも殺してやるなんて言いませんもの。幸せにねって泣きながら笑うんです」
「ええ。嬉しかったですよ」
私の夫は娼館育ちの騎士でした。そんな人を子供の頃から見てきたとよく話してます。夫はお店には出なくて成人後すぐに騎士になりました。見習い二年ですかね。本島で頑張っていますよって。
「え?こちらのお城ではないのですか?寂しくありませんか?」
「とても寂しいですね。でもお祭りだからもうすぐ帰ってきます」
「楽しみですね」
「ええ」
人の目が気にならないのであればお城の散策もいいですよって。いえ……気になりますわ。
「なら掃き出し窓の外は王族の私的なお庭です。ずいぶんお外に出れなかったのでしょう?せめてお日様に当たるのはいかがでしょうか」
「いいですね。そうします」
俺は廊下に出て掃き出し窓から外に出た。爽やかな風と強くなって来た日差しに、俺は無意識に額に手をかざしたんだ。
「体硬いよ?不安?」
「ええ少し」
「なにもしないさ。伯爵との繋がりも俺はない」
「そうですか……」
そうねえとポツリ。俺は王族の中でも性欲強めかな。だから夜伽が何人かいないと一晩持たなくてさ。毎年この時期はいろんなお店から雇うんだけど、帰りはズタボロになってることが多くてすぐに返せないんだ。ポーションじゃ疲れが取れないらしくてねって。コワッ
「君の評判なら持つよね?」
「アハハ……たぶん」
「なら安心だ」
伊達にこの島の憧れの的ではない。それなりにやれてたからなんだ。客の要望には(暴力以外な)応えてきたから。体力ならオッケー。普段三人で致してて保ってるんだからさ。
「後君タチもいける?」
「ええ?ええ、客の要望には全部応えるのが信条でしたし、今も夫に好きな者もいますから」
「そう?ふーん」
ベルが好きなんだ。たまにしたくなるらしくてね。でもアレッシオのは嫌。俺にしてって。アルファだから濡れなくて香油必須だけどさ。
「俺も好きなんだ」
「さようで……」
お城が近くなると進まなくなる。まあ仕方なしかな。このあたりは祭りのメイン会場の広場もあって、準備やら早乗りの人たちで賑わっているんだ。
「お祭りって感じだよね」
「ええ」
少しずつ進みお城の門をくぐる。
「よかった……」
「アハハッさすがに俺の馬車を襲うバカはいないよ」
後ろでガチャンっと鉄の門の閉まる音がした。本気で安堵した。死ぬコースは回避かな。
「それはわかんないぞ。あの伯爵頭イカれてるからって噂だし」
「え?」
王族もその認識?怖いんだけど。彼は安全が確保されるまで俺の傍にいればいい。構わんよって。それはありがとう存じますが、対策はどうなっておりますでしょうか?と訊ねた。
「遅いね。本国の貴族社会は複雑だ。この島みたいに簡潔に物事は進まない。私利私欲にまみれ貴族は目先の金ばかりの人が目立つ。ここみたいにおおらかに生きればいいものを」
そう言ってふうってため息。
「お前を助けたいって俺たちはすぐに動いたろ?この迅速さもこの血をなくさなかった所以だろうね」
「それは俺も思います。だからこの島は王族の皆様が好きなのです」
「だろうね。民あっての王族だよ」
王族や貴族と庶民の垣根はこの島ではどこの国よりも低い。低いゆえに王族の困りごとには民は率先して城に行く。そして逆もしかり。こんな末端の俺を助けてくれるんだもの。どれだけ民を愛してるかなんて言わなくても分かる。
「着いたよ」
「はい」
馬車を降りるとベルベルトが悲しそうに俺を見つめる。俺も悲しい。
「広場のあたりで団長を見かけた。僕には気がついてなかったけど店の方に移動してた」
「ギリギリだったな」
「ああ。殿下、妻をお願いします」
ああ大丈夫だよ。伯爵は舞踏会開催時期しか城には入れないし部下もね。そこは安心してくれって。
「いやさ。招かれない客はすぐに切り捨てるよ。貴族でも関係ないんだ。長年のこの国への貢献にそこは認められているからね。もうすぐ自治区になって独立を認められそうだしさ」
「へえ……すごい」
同じ国は同じなんだけど、裁量権が増える。そして一番大きいのは上納金がなくなること。
「そうするとね。本国から物を買うと高くなる。だからプラマイゼロでな~んも変わらない。だから!お前たち民は宝物度がアップ」
「え?」
「稼げよ」
「……はい」
お茶飲んでくか?夫くんと王子はベルに笑いかけるけど「いいえ」と彼は断る。
「名残惜しくなりますから帰ります」
「そっか。でも心配するな。きちんと元気に返すから」
「ハッ感謝いたします!」
ベルは騎士の顔になり、敬礼の姿勢を取った。
「ほほう。騎士に戻るか?ベルベルト」
「いいえ。私は妻の傍にいたいのです。王族の皆様は大好きですが……ハイッ」
「ふふっ正直だな。またなベルベルト」
来なさいとベルベルトの背中を見つめていたら言われて、焦って階段を駆け上がる。
「俺の部屋は奥だから結構歩くぞ」
「構いません」
正門の扉から入った。うわあ……いつもは裏口だから初めて見た。なんて天井が高いんだろう。
「上向いて歩くな。転ぶぞ」
「す、すみません」
この城は戦に負ける前からある。中は改装したりしたりしてるけど、外枠は殆ど変わらないんだ。知ってるだろ?って。うん。
「激しい戦もなく、攻め入って来たのはグディルコスの王だけだ。うちの強さを知ってたはずだけど、気質も知り尽くしてたんだろうね。きっと味方に出来るって」
「ええ」
だろうと思う。戦いなど嫌いなんだよ。強くても防戦のため。しなくていい戦なら回避するのが大昔からと俺は学校で習ったもん。
「あれ?エルヴィーレ?なんで城に?」
「うわッマジで綺麗なやつだな。高くて俺は買えなかったけど」
なんてあちこちから聞こえたけど無視。ここで怯えたら男がすたる。せっかくの王族の優しさすら踏みにじる気がした。だから俺は少し微笑みながら歩いた。
「ふふっいいなお前。みんなこういう声に怯えるんだよ。いくらお店でもてはやされてても、城は場違いに感じてね」
「確かにそう思います。ですが、私のために一肌脱いでくれた王子様に恥をかかせてはなりませんから」
「そうだな」
十分は歩かずにデカい重厚な扉の前に来た。色も使い古されたいい色に染まってて、なんとも言い難い良さを感じた。そして左右に衛兵がふたり槍を持ち立っている。
「お帰りなさいませ殿下」
「うん。開けて」
「ハッ」
ギーッと少し音がした。すごいなあ。うちの娼館は、お城を模していたのだとここに来て初めて知った。いつも夜に来るから明かりが少なくて分かんなかったんだよね。
「来なさい」
「はいッ」
中に入ると眩しい!廊下は全て掃き出し窓で光が多い。今昼間だから余計だ。
「俺の部屋はもうすぐだ」
「はい」
着いて行くと一つの扉の前に止まる。そして開けると中に人がいた。
「お帰りなさいませ。ユリシーズ様」
「うんただいま。支度は出来てるよね」
「もちろんです。エルヴィーレ様の物は全部です」
彼はにっこり微笑みこちらへとソファを勧めてくれた。おう……これ高いと噂の職人のだ。張られている布も有名な職人の工房っぽいな。さすが王族。触れると滑らかな手触りで、ひじ掛けもツルツル。飴色の使い込まれたいい色だ。欲しいなこれ。新品じゃなくてこれがいい。
「お茶は熱いの冷たいのどちらがお好みかしら」
「え?えっと……冷たいのがいいかな」
「はい」
あまりにいい家具で見とれてたわ。よく見れば部屋は古く使い込まれたのであろう木の壁。好みなのだろうか。自画像と風景画が飾られている。棚には他国の調度品だろうか。見慣れない食器や金の細工などがいい塩梅で飾られている。角には植物と生け花の花瓶。落ち着いた色のバラが活けてある。趣味がいいな。
「エルの部屋は隣ね。妻のための部屋だけど俺にはまだ妻はいない。そういやお前いくつ?」
「私は二十三です。今年の三月になりました」
「ふふっお前祭りの時の子だな」
「ええ。この島の子は大体冬か春の初めに生まれますから」
当然違う子もいる。発情期は百発百中なだけで、普段の時に種付けが出来ない訳じゃあない。確率がものすごく低いだけでな。それに発情期の始まりは個人差があるから。
「俺は秋生まれだ」
「へえ……そっか。生誕祭をしますもんね」
「だろ?王族はいつでも欲しいときに種付け可能なんだ。それが民との違いでな。だから王族なんだ」
「初めて知りました」
「うん。公表してないから。でも気が付くだろ」
いや……漠然と王族好きってしかみんな思ってなくて、変な時期なのも偶然だろって思ってた。俺はニコニコして誤魔化した。
「このお茶美味しい……」
「ふふっだろう?冷たく飲むのに合うお茶を使ってるんだ。濁ったりしてないだろ」
「はい」
うちより南の国の高山で作られているお茶の葉だそうだ。温かくてもおいしいよって。
「街で飲んだことありません」
「そうだな……この国自体に入ってきにくいんだ。このお茶の国との付き合いは大昔からで、この島が国だったときからの友好国なんだ。だから市中にはあんまりないかな」
俺知らないことが多いな。店に特化してて、そういった文化に造詣が足りない。それは店に出てた時からで、お客から話を聞いて覚えたりしたんだよな。
「俺これから仕事だから夜にまたな。バルド、支度をしてやれ」
「はい」
またねって出ていくと食事が代わりに入って来た。
「お昼まだですよね。これからは王家のみなさんと召し上がるか、ここで食べるかの二択ですけどどうされます?」
「今後もここでッ」
「はい」
王様と食事とか何の冗談だよ。無理無理。こちらに用意しますからお席を移動してねと、ダイニングテーブルに移動した。並べられた食事は高級レストランのよう。イノシシ亭とは違う。
彩りも盛り付けも何もかもだ。庶民には手が出ないものばかり。家族の祝いとかではなければ近づかない店のものに近い。
「どうぞ」
「ありがたくいただきます」
カラトリーを手に持つとこれまたブランド様。……一々驚いてたら心臓に穴が空く。黙って食おう。そしてスープを……ウマッ美味すぎる!野菜のスープってこんなだっけ?と思う美味さ。俺王宮に呼ばれても果物とか、ちょっとしたつまみしか食ってなかったよ。それも美味かったけどさ。
食事を進めればもうね……ザ・庶民を実感するばかりだった。お肉も美味しいしお酒も美味しい。なんだろうねえこの王族の食事とは。
「お口に合いましたか?」
「もちろん。ごちそうさまでした」
後はすることはありませんのでお部屋を見てて下さいませ。あなたのお部屋は隣のそこ。その内扉を開ければありますからって。ふーんと席を立ち、扉を開けた。
「うわッマジで奥様の部屋だな」
王子の部屋と同じような作りだけど、ソファの布が少し淡い色になってるし、全体にオメガが好きそうな作りだ。ベッドも天蓋付きでレースが掛けてある。へえ……
「眠くありませんか?夜遅くまで働いてるのでしょ?」
「ああ。俺は店に出てないんですよ。裏方の作業ばかりで、夕方には食事して自分の部屋に戻ります。夫たちが朝まで頑張りますから」
「分業ですか?それはいいことですね。赤ちゃん生まれたら困りますからいいことですね」
「ええ」
この商売の困りごとは昼夜逆転なんだ。赤ちゃん出来たからはい朝起きてねと言われて、はいそうですかと体は言うこと聞いてくれない。だもんで妊娠中に直すのが常。だが俺は前からだ。そんな話をするとなんで?と聞かれた。
「俺が店に出なくなったことに腹を立ててる良からぬ客がいましてね。危険だったからです」
「そっか……お得意様が多かったと聞いてますから、引退を面白くない人たちですか」
「そんなもんですね」
殺してやる!なーんて人は引退初期の頃はいたんだ。もしくは夫たちを殺してやるかな。どこの店の稼ぎ頭も引退時は同じようなもの。客が諦めるまで待つのみだ。
「島の人じゃないでしょそれ」
「ええ。本土や他国の人ですね」
「フフッ島の人は悲しんでも殺してやるなんて言いませんもの。幸せにねって泣きながら笑うんです」
「ええ。嬉しかったですよ」
私の夫は娼館育ちの騎士でした。そんな人を子供の頃から見てきたとよく話してます。夫はお店には出なくて成人後すぐに騎士になりました。見習い二年ですかね。本島で頑張っていますよって。
「え?こちらのお城ではないのですか?寂しくありませんか?」
「とても寂しいですね。でもお祭りだからもうすぐ帰ってきます」
「楽しみですね」
「ええ」
人の目が気にならないのであればお城の散策もいいですよって。いえ……気になりますわ。
「なら掃き出し窓の外は王族の私的なお庭です。ずいぶんお外に出れなかったのでしょう?せめてお日様に当たるのはいかがでしょうか」
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