エリート上司に完全に落とされるまで

琴音

文字の大きさ
33 / 33
三章 和樹しか見えない

最終話 新しい人生のスタート地点

しおりを挟む
 翌日はゆっくり目に起きて、洗濯したりスーパーに買い物に行ったりして過ごした。和樹は少し出かけ来ると呼び出されて実家に行った。ご両親とお祖父さんに報告してくるって。写真のデータも貰ってるから一番素敵に撮れたものをプリントしてね。
 俺も兄と両親に写真を送った。ホテルで家族には連絡はしていて、そして怒涛の質問が。

「部屋がおかしい!いくら新婚旅行とはいえ部屋のグレードが!」
「お前もちゃんとお金出したんでしょうね?」
「ぎゃあ!金持ち怖い!」
「和樹さんイケメン……母さん驚いた……」

 などなど……俺の感想とあまり変わらないものが戻ってきていた。

「まあそうだよな。庶民は中々手が出せないホテルの部屋にチャペル……」

 お金で愛を換算してはいけないんだけど、俺にこれだけの価値があるのか不安にもなる。スマホを握りしめて今更そんなことを思った。俺は自分にはそれだけの価値があるとは思えないんだ。和樹が俺に向ける愛の重さに、俺は応えられているのかも不明でね。
 この部屋も俺には不釣り合いで、冷静になれば不安。これが当然だとは思えないんだ。

「僕にはその価値があるんだよ」
「そう。俺のどこが?」
「全部。なにをもらっても感謝も忘れないし、それを当然とも思わない、その感覚が好きだ」
「それ……当たり前でしょ?和樹のものは俺のものじゃないんだから」

 ふふっと笑う。帰って来た和樹に不安を話すとこう返事をしてくれた。いや、もう自分のものと考えて欲しいって。

「ねえ。智にこの時期に告白したの覚えてる?」

 あ……そうだ。年度末の仕事の打ち上げの飲み会の後泥酔してベッドで言われたんだった。思い出して覚えてると答えた。

「あれからちょうど二年経ったんだ。だからこの時期に結婚式したかったんだ」
「あ……そっか…」

 僕は沖縄に行く前に色々御託ごたく並べたけど、記念日に近いところでしたかったんだよって。あんな感じになったけど、僕は相当緊張して告白したんだ。だから僕にとっては記念日、智也に告白した日だから特別と言う。和樹記念日とか気にする人だったのか。知らなかった。

「あの時は彰人とのことがあったから……」
「うん。承知で告白した。僕を見て欲しかったからね」

 確かに告白で意識はするようになったけど、あんまりにも普段と変わらなくて聞き違いかと思ったんだよね。

「俺は和樹に好きになってもらえて幸せ」
「僕も追いかけてよかったと思ってる」

 それから和樹にしては軽く俺を抱いて翌日。

「お休みありがとうございました。これ少しですけどどうぞ」

 お菓子を配っていると、写真撮ったんだろ見せろとチームの先輩伊藤さんに言われて見せていると、みんなわらわら集まってきて、

「ぎゃあ!なんちゅう豪華な式をしてるんだ!」
「これスイート?うわあ、あたしもこんなとこでやりたい!」

 若いクラークの女性や結婚がまだの男どもはすげーって騒いだ。

「うわ……課長かっこいい……楠木くんもかな?」
「そこは疑問形ではなく、かっこいいと言って下さいよ木村さん」
「ごめん……うん。かっこいいよ?」

 嘘臭い木村さん。そりゃあ和樹の隣にいれば俺は霞むのは知っているけどさ。なんて最後の日までいじられて、忙しい中でも楽しく過ごして最終日。

「短い間でしたが、ありがとうございました。きっと皆さんは俺の噂はご存知だったはずですよね。でも何も言わず一ノ瀬さんとのことも祝って頂いて……嬉しかったです。本当にありがとうございました」

 最後だからって和樹が普段しない夕礼をしてくれて、俺と清水さんのあいさつの場を用意した。出先でいない人もいたけどね。

「みんな知ってたけど課長と楽しそうだし、仕事も真面目で優秀。きっと相手が悪かったんだろうなあってみんな思ってたからね」

 木村さんが代表で話してくれた。はじめは気にしてた人もいたけど、あの支社に知り合いがいない訳じゃないし、そういった噂はみんな口にしないだけで広がるものだと。

「ありがとうございます」
「楠木くんもだけど、清水さんも総務に行っても頑張ってね」
「「はい!」」

 首都圏担当営業五課での最後の日は終わった。そして週明け四月の最初の朝。いつものように早起きして、和樹が作ってくれた朝食を食べていると、

「智也、僕たちは始まったばかりだ。結婚したからって何かが変わるものでもない。ふたりでずっと変わらずに暮らそう」
「うん。あなたに相応しい男になれるよう精進します。んふふっ」
「智はそのままでいい。変わらず僕を好きでいてくれればそれで」
「うん」

 新しい扉が開く。今日から会社でのふたりの道は別れる。だけどなにも変わらないはずだ。俺は和樹を愛してるし、和樹も俺を大切にしてくれる。なんの問題もない。
 食後に俺は食器を洗い、エスプレッソマシンでコーヒーを淹れて、ふたりでゆっくり飲んでスマホをチェック。初日くらいはと早起きしたからいつもより時間があってね。

「そろそろ行くか智也」
「はーい!」

 俺たちの新しい朝が始まる。まだ見ぬ未来はきっと明るいはずだから。



しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

杏水
2025.06.05 杏水

琴音さん  

素敵なゲイカップルの日常を描いた物語に、じんわりと心が満たされました。二人の間で交わされる優しい言葉、見つめ合う穏やかな眼差し、何気ない触れ合いの一つひとつが温かく感じました。そして、彼らの周りの友人や家族の温かさ、さりげない励ましの言葉に共感しました。物語の中の優しい光景と、依然として偏見や困難が存在する現実の日本の状況を思うと、とても残念です。しかし、この物語は決して遠い世界の出来事ではないはずです。二人が教えてくれたように、誰もが社会の規範や多数派の意見に縛られることなく、ありのままの自分を愛し、自分自身の心の声に従って幸せを追求できる社会の実現を心から願います。

2025.06.10 琴音

お読みいただきありがとうございます。

このお話は、いろいろ次のを考えている時に、ふわっと浮かんだものをまとめた作品でした。
自分なりに前向きに生きてきた青年。仕事も恋愛もうまく行かない時に現れた素敵な上司。そんな発想からでした。

現実はこんなに上手く生きている方たちは少ないのかもしれませんが、私の周りのこの属性の方たちは苦労の中でも幸せにしてて、それを見てもありますね。

ありがとうございました。

解除
凛
2024.03.11

いつも楽しく読ませて頂いてます。
誤字報告です。
最終話、恐らくスーパーだと思いますがスーハになってます。
完結おめでとうございます。

2024.03.12 琴音

ありがとうございます。誤字訂正しました。
最後まで読んで下さりありがとうございます。感謝しかありません。

解除

あなたにおすすめの小説

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】SNSで出会ったイケメンに捕まるまで

久遠院 純
BL
タイトル通りの内容です。 自称平凡モブ顔の主人公が、イケメンに捕まるまでのお話。 他サイトでも公開しています。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

BL小説家ですが、ライバル視している私小説家に迫られています

二三@冷酷公爵発売中
BL
BL小説家である私は、小説の稼ぎだけでは食っていけないために、パン屋でバイトをしている。そのバイト先に、ライバル視している私小説家、穂積が新人バイトとしてやってきた。本当は私小説家志望である私は、BL小説家であることを隠し、嫉妬を覚えながら穂積と一緒に働く。そんな私の心中も知らず、穂積は私に好きだのタイプだのと、積極的にアプローチしてくる。ある日、私がBL小説家であることが穂積にばれてしまい…? ※タイトルを変更しました。(旧題 BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった)2025.5.21

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。