殿下のやることを全面的に応援しますッ 〜孤立殿下とその側近 優しさだけで突っ走るッ〜

琴音

文字の大きさ
58 / 107
前編 ユルバスカル王国編

58 狙っては難しかった

しおりを挟む
 屋敷に帰っても上向かない気持ち。優しい旦那様は黙って抱いてくれている。話したくなったらでいいって。それに甘えて抱かれていた。

 まだ私には早い気がする。体ではなく心が。仕事とは違うのよね。ある意味仕事だけど、そうじゃない。王族だから本当に産みっぱなしもあり。でもそんなことをする自分が嫌いなの。私自身がかわいがられた子どもだから。だから自分の子も大切に慈しみたい。こんなことお母様のロッティにも言えない。ため息しか出ない。

「サイラス」
「なに?」
「自分が嫌いなの」
「へ?」

 こんなの話せる人はいなくて、でも親になるのは私たち。ならば気持ちを話すのは旦那様になる。嫌われても話さなくてはなにも変わらない。つらつらと思ってることを話した。

「嫌いになってもいいです。心が育ってないのです」
「うん。俺も似たようなもんだ。だからふたりで頑張ろうと前に言ったんだよ」

 ふたりでいるのが幸せで俺はそれいいと今でも思っている。だが、王族として領地を守る責任もあるし、俺たちがある意味荒らした領地を他の王族が管理できると思う?と聞く。それ無理でしょ。前に戻そうとする領主なら反旗を翻しかねない。それほどまでに他とうちは別の国のようになってしまった。

「ある意味やり方だけならライラの国みたいになってしまった。それをこの国の人が管理出来るか不安だろ。だから絶対ひとりは産まないとマズい」
「うん」

 子どもはその地の領主となり直轄地の主となる。男の子なら近衛騎士になり国や王を支え、領地の管理業務になる。この国は近隣に比べ若い国。荒れ地も多く開拓の余地も多い。隣ももらったから直轄地は増えているけどねって。

「世代が変わるとその子どもたちが運営する国になるからさ」
「うん」
「前王の弟の子など立場は弱くなるもの。だからこそ良い土地を子に残したいし、民に苦労はさせたくないんだ」

 サイラスは急に大人になったみたいな口ぶりね。なのに私は何一つ育ってない。どうしよ。

「父上が子が出来れば自ずと親になる。産めば分かるさと言ってた。やってみてダメなら乳母が育てるしなあって」
「無責任すぎない?」
「アハハッ王族に限らずそんな貴族は多いんだよ。理由は様々だけど。お金出してれば誰かが育てるんだ。俺みたいにな」

 それが嫌なの。あなた簡単に言うけど辛かったでしょう?そんな子どもにしたくないの!と彼の頰を両手で挟んだ。

「その気持ちがあれば俺たちは上手くやれる。きちんと親になれるさ」
「そう?」
「うん。俺も頑張るから」

 うんと手を離し抱きついた。俺たちは出来るさって。気持ちが幼くてもやれることはある。まだお腹にいる訳でもないのにこんなに心配して、いもしない子を愛そうと頑張るんだ。大丈夫って。

「ペットじゃないのよ?」
「うん。分かってる」

 愛してるよティナ。そんな真面目な君が好き。未来を心配して悩む君が愛おしいと。

「いつ作ってもいい。君がいなくても回るようにするから」
「その言い方は寂しい」
「仕方ないだろ?なら最大限君が活躍出来る頃に種付けしよう?」
「うっその言い方なんかイヤだわ」
「ふふっごめん」

 どこで生まれても仕事の迷惑にはなる。ならいつでもいいのかな?冬は仕事は少なめだけどない訳でもない。鉱山は雪も降らないからずっと稼働してるし、ダチョウは元気。売れるようになったらお茶を作るとか言ってるしなあ。

「なら今から?」
「ざんねーん。今からはムリ。月のものがもうすぐです」
「してみなきゃ分かんないだろ?」
「それ抱きたいだけでしょ?」
「うん」

 いつもその頃はしないようにしていた。なら来月ねって約束した。そして、

「うっ……」
「聞こえるティナ」
「あっ…ンッ……ハアッ」
「すごく中熱くてトロトロ。俺が欲しくて咥え込んでるようだ」

 気持ちよくてなにもわからない。いつもより気持ちいいの。

「ティナ……なんて美しいんだ」

 乗ってと跨られてくる。ハアッアアッ

「深いといいだろ?」
「うんッ」
「俺の全部入ってる。気持ちいい」

 腰掴んで動かされるともうッーッ

「当分君を抱けないのが辛いな。だから楽しもう」

 うっ……フラッとして胸に倒れた。座ってることすら辛い。気持ちよくて力が……

「ティナ大好きだよ」
「うん……ッ」

 何度でも果てなと。もうふらふらするの。これなに?ってくらい気持ちよくて。

「ーーッ」
「気持ちいいね」

 腰がッ勝手にーッんっうっあっ……ああ……ぁ…そのままグチョグチョされてドンッと奥に刺さり、うグッとサイラスは喉を鳴らす。深く押し込みお腹を強く押す。ドクンと暖かいものを中に感じて……んふぅ……

「いいっ今日の君はッ」

 強く抱かれているとスッと力が抜けてハァハァと喘いでいる。赤ちゃん出来るといいなあ。などと出来やすいと噂のあたりに頑張った。で、結果。

「うわーんサイラス!月のものがぁ!あんなにかんばったのにいーッ」
「泣くなよ。今月も頑張ろ?」
「うん」

 抱きついて本気で泣いた。覚悟して挑んだ子作り。何度も中に出してもらってこれならと信じてたのに。よしよしと撫でられているとロッティが、そんなに戦に行くみたいな気分では出来るものも出来ませんよ。心穏やかに夜を楽しむ。心の機微が影響しますからって。

「そうなの?グスッ」
「ええ。母体は繊細なのです。気にしてない時の方が出来ますから」
「そっか……」

 ならリラックスして挑もうねって。なんてしてる間に冬。一向に出来る気配はなかったんだけど、窓に霜が降りるくらい冬の寒いある日の朝。

「ロッティ……だるいの。なんかおかしい風引いたかな」

 だるいなあと部屋に戻って支度しようとソファに座ったんだけど、余計だるい。お熱かな?と額に触ってもねつはなさそう。ロッティも熱はないみたいですねって。するとロッティがなにか気付いたように微笑み、今日は出勤したら医務室に行けって。

「なんで?」
「赤ちゃんかもしれません」
「へ?マジで?」
「ええ。つわりの始まりかも。月のものは来てますか?」
「そういや今月は遅れて……ハッ出来た?」
「はい!」

 サイラスぅーって彼の部屋に戻って出来たかも!と報告した。だるくて月のものが遅れてると。

「ほんと?ほんとに?」
「うん!だから後で医務室行く」
「いや。君はもう出勤しなくていい」
「へ?」
「先生をこちらに呼ぶから」
「ああはい。明日は?」
「来なくていい」
「え?」
「え?」

 なに言ってんの?なぜ働こうとするの?と。つわりは辛いと姉妹が言ってた。無理しなくていいよって。いやでも……呆然と立ち尽くしているとほら座ってとベッドに座る。

「妊娠初期は大切にしなきゃなんだろ?なら大人しくしててくれ」
「でも書類の仕事くらいは出来ます。みんなしてたし」
「やめてくれ。本気でやめて」
「なんで?」
「俺が怖いから。君になにかあったら俺は生きていけないから」

 大袈裟よ?やだなあと笑ったらキッと睨まれた。

「言葉は悪いが子どもはまた作ればいい。でも君の代わりはいない。そこを考えて」
「はい……」

 そう言うと布団を剥いで寝かせてくる。なんで?

「安静にして先生を待て」
「いえご飯……」
「ああそうか。食べられそう?」
「うん」

 なら静かにゆっくりな。食べたら寝てろって。いやいやあのね?と慌てたらダメだから動くなって。はい。リーノがクスクスと笑う。殿下そこまでではありませんよって。

「そんなに制限したらティナ様が可哀想です。お家の中でゆっくり過ごして、つわりが収まった頃少し仕事をされるのもありですよ」
「そうなの?」
「ええ。流産の時期を過ぎれば動いた方が安産になると言われていますから」
「ならその間は出勤停止な」

 さすがお子様のいらっしゃるお父様。言うことが違う。リーノありがとう。

「いいえ。俺も楽しみにしてますから。ロッティとティナ様のお世話させていただきますよ」
「うん」

 そしてサイラスは朝食後渋々城に向かい、私はお部屋で先生を待った。そして、

「確かに。赤ちゃんいますね」

 お腹に手を当て無詠唱で術を展開。ほわ~っと光るといるって。

「よしっ」
「よしっではありません。この姫はもう」

 父の友だちショルツ先生は相変わらずですねえって苦笑い。

「ティナ様。これからもっとつわりは強くなります。これからひと月くらいですかね。無理すると赤ちゃん死んじゃいますから大人しく。走るのはダメ。飛び降りるのもね!」
「はい。すみません」

 重いもの持ったりもダメ。つわりが終わるまで視察の旅は不可。長時間の馬車もダメ。食事は食べられるだけ食べる。どうせ食べられないからねって。今日はおいしく食べましたが?

「大体の人が気持ち悪くて食べられなくなりますから。食べられるものを食べてね」
「はい」
「出来れば仕事はつわりが終わるまでお休みを。そして臨月間際まで働かないように」
「はい……」

 細かいな。そんなに注意事項ってあるの?なんて聞いていた。

「それと術者の仕事は不可。魂の根源に負荷が掛かるから。術者の姫には全員使わせていません」
「フグっマジか……ダチョウのえさは……」

 本気で父上にくれと言わなくちゃかも。うおーどうしよ。

「先生あのね?ダチョウのエサ代は私の術者としてのわずかな報酬で飼ってるの。まだお肉になれる子があんまりいなくてね?」
「無理すると赤ちゃんどころかあなたが死にます」
「はい。すみません……」

 黒の賢者でない方ですら危険なのに、最高位の術者が雨降らせてどうなるかなど、言わなくても分かりそうなもの。姫、考えが甘いと叱られた。

「昔の文献にあるのです。産む頃は見た目元気だったんだけど、産気ついたら死んじゃったってのが。学校でやるくらいのへなちょこなら構いませんが、あなたのは違うでしょう?」
「はい……」

 魔法省に在籍するような術者や近衛騎士や衛兵。そのような方々は危険なのですよって。なにか魂の力が削れるそうだ。だから!と人差し指を立てて私の目の前。

「姫は目先のことに無鉄砲になる。ダチョウより自分と赤ちゃんです」
「はい」

 その後もクドクド叱られた。あなたは子供の頃から無鉄砲で、考えてるふりして転んだりする。なんて昔のことまで言われてしまった。

「我慢強いは妊婦には不要です。静かに大人しく。つわりが終わるまではね!」
「うん……」

 ふうとため息をついて頭を撫でてくれる。

「姫おめでとう。嬉しいからこその小言なの。かわいい赤ちゃんを産もうね」
「はい。先生」

 じゃあつわりが終わった頃また来くるねって。間に具合悪かったら呼んでねと先生は帰って行った。やっぱり昔からの知り合いは厳しく、でも安心出来る。あの優しげな微笑みは落ち着くことが出来たの。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

処理中です...