59 / 107
前編 ユルバスカル王国編
59 居場所がなくなって?
しおりを挟む
どうにかつわりも過ぎて待ちに待った出勤日が来た。いつ楽になるか指折り数えていたの。気持ちは焦るし、日中ひとりぼっちの寂しさはなかった。ロッティたちはいるけど、やっぱり違うと感じてしまった。
ほんのりお腹も大きくなったし、ダチョウのエサ代は今は稼げない。でも執務室で書類整理くらいなら出来るもん。それにみんなに腫れ物のように扱われるのも辛かったの。そして玄関の車止めで見上げる旦那様は渋いお顔。
「ティナ来るの?」
「行っちゃいけませんか?」
「いいけど……不安」
なにしに来るの?の言わんばかり。お家にいてよって態度が言ってます。
「動いた方がいいってショルツ先生も言ってたもん」
「うん。屋敷でも散歩出来るだろ?」
「私が行くと不都合でも?」
「そんなのはない。楽になるし」
ものすごく屋敷から出したくない感じ。でも一緒に出勤。馬車も揺れの少ないのをお城から借りた。快適に到着してお城に入ると、なんだか懐かしい気分までする。んふふっ心配そうな旦那様は無視してスタスタ。ジョンが扉を開けてくれて、
「おはようございますッ」
「あっおはよ。ティナもういいの?」
「うん。書類整理くらいなら出来るから」
「そっか……」
あまり喜んでいないみんな。うん?と見渡すと知らん女性が私の席におる。誰?目が合うと立ち上がり、
「お初にお目にかかりますティナ妃殿下。私は北の領地シルテ伯爵家三女のマリアと申します。見習いとしてお手伝いに参りました。よろしくお願いいたします」
「はあ……」
グリンと後ろを振り返ると、だからいらないと言ったのにとサイラス。どこか面倒くさそうな雰囲気を出しながら、
「人手は足りてるんだよ。君には静かに過ごして欲しくてさ」
「ふーん」
マリア様はキラキラした若いお嬢様で、二十歳にもなってなさそう。カール様の説明では文官になりたいから父親に頼んでここに来た。働くとは何ぞやを指導して欲しいらしい。殿下のところなら丁度私ががお休みしてるし、お父上の伯爵様には普段世話になってるしで断れなかった。まあ人がいれば楽なのは確かだから雇ったそうです。さようで。
「ティナ様が子育てに専念されるのであれば、私はずっとここいにて頑張りますので、なにも心配はありません。きっと役に立ちますから大丈夫です」
「はあ……ありがとう」
彼女は軽く会釈すると座り直しお仕事を始めた。私はここでなにするの?席もないし。セフィロト様も産まれるまではいいんじゃないか。君は忙しすぎたし、自分の妻を考えれば君は不憫だと。不憫?そんなことは考えたこともなかった。仕事楽しいし、サイラスとみんなと頑張れるのは嬉しかったのに。サイラスもカールの隣は空いてるから手伝うならそこねって。え……自分の席にも座れないの?席に座り当然と言わんばかりに、
「メインで動けないんだ。仕方ないだろ」
「うん……」
カール様もフレッド様もその言葉におろおろ。
「あのねティナ。殿下は心配なんだよ。悪気があってじゃない」
「そうそう。今は元気な赤ちゃんを産むことを……その、ね?」
サイラスを庇ってるの発言か。そうよね私の臣下じゃないもんね!
「いやいや君の臣下だよ俺たちは。だから心配なの」
「ふーん」
三人は働いてる妊婦近くにいなかったから怖いの。分かれってうたうだ言ってるとサイラスが無理して欲しくない。城はどこに行くにもたくさん歩かなければならないからなって。
「散歩の代わりになります」
「散歩って量じゃないし、省庁回りなんかさせたくない」
「でも」
「でももへったくれもない。俺が嫌なんだ。そこらで転んでも困る」
そうだけどとうつむいていたら、マリアにさせるから君はここで書類だけしててくれって。領地の仕事はみんなに割り振った。術の使えない君は依頼にも応えられないだろ?って。
「はい……」
私の心は急速に冷えていった。やる気に満ちた心はしぼみ、冷たく、冷たくなっていく。この部屋が知らない場所のように感じた。色がなくなり白黒に見える気までする。
「帰る」
振り返ってジョンに目配せして部屋を出た。みんなに声をかけることすら出来なかった。部屋を出て後ろで扉がパタンと音を立てる。この扉の奥には私の居場所はない。もうないのね。下を向けば涙がぽとぽとと落ちた。
「姫……泣かないで」
冷えた心は悲しみでいっぱい。知らないうちに泣いていた。涙は止まらない。
「お仕事頑張ってたから、グズッまさかいらないなんて言われるとは思わなくて。ジョン少し胸貸して」
「はい」
見えないようにしますねって腕を回してくれる。ありがと。ポロポロと目からこぼれ落ちる。赤ちゃん出来たらもう用なし?術も使えないから必要ないの?ねえジョンと見上げた。ジョンは優しい微笑みで、
「違いますよ。殿下はあなたに無理させたくないからです。産まれるまではって考えてるだけですよ」
「でも……」
するとジョンの肩を掴む人。驚いて腕を解いた。後ろからサイラス。
「ティナ」
「サイラス嫌い。ジョンと帰る」
「ハッ」
ジョンの手を取って歩き出した。もうここに私の居場所はない。あんなに何年も頑張ったのに赤ちゃん出来たらいらないなんて。涙は止まらず前が滲んでる。スタスタ歩いているとつま先が床石のすき間に取られてよろけた。
「姫!」
「ごめんなさい」
腕を掴まれて転ばずに済んだ。びっくりした。態勢を整えて歩こうとすると手を掴まれた。
「ティナ!」
「触んないで!」
「そんなこと言うなよ。俺は君が心配で仕事させたくないんだ」
「しばらくあなたの顔は見たくありません。さようなら」
「お、おいティナ?」
待てよと手を掴まれたけど乱暴に振りほどいた。深い悲しみは激しい怒りに変わる。どれだけ私が仕事が好きかあなた知ってるでしょ!どれだけ頑張ってたか!こらえきれずに叫んだ。人目のある廊下で。何事かとみんな見てるけど悲しくて辛くて我慢出来なかった。怒りにサイラスを睨んだけど、収まりきれずうわーんと子どものように声を上げてしまった。一度泣き出したら止まらない。自分の存在意義を否定された気になった。君には価値がないと言われたと感じた。
「ティナ……」
哀しそうに見つめているサイラス。怒りと悲しみで訳分かんない。うわーんと泣いているとスッと抱かれ近くの部屋に入れられた。ソファに下ろされて、
「ティナごめん。気を使ったつもりなんだ」
「うわーん!」
どこかの客間のようだ。ごめんねって隣に座って抱かれたけど押し戻した。今は抱かれたくない。
「サイラスは全然私の気持ちが分かってない!あれだけ話し合ったのに!」
「そうだけど俺の気持ちも分かれよ。心配なんだよ」
「分かんない!領地に行けないのも辛いのに。術も使えないのも辛いのに!せめてあなたの役に……それも否定するのね!なんでなの!うわーん」
わあわあと騒いでいたらいきなりフラッとした。首に冷たい何か……あれ?興奮が抜ける?目眩のような感じがしてくたっとした。
「殿下なにしたのです。妊婦をこんな状態にするなんて」
「先生……すみません」
ショルツ様の声?声の方を向いた。涙でぐちゃぐちゃで鼻をすする。怖い顔というかなんというか困った顔をしている。
「姫興奮はダメ。お腹の赤ちゃんもお母様と同じく悲しくなるから」
「でも……」
ジョンが先生の後ろで手をヒラヒラ。そっかジョンが呼んだのか。胸からハンカチを出して拭いてくれる。そしてほらこれ握ってとなにかくれた。
「これ魔石だから。姫みたいな術者にはよく効く副作用のない安定剤になるから」
「うん」
手のひらには黄色い透き通ったイチゴくらいの石。原石のままの形で特に宝飾的なカットはされていない。初めて見た。魔石ってこんななのね。特に光ったりはしないけど興奮は取れた。悲しみや怒りを抑えられるくらいには。
「殿下。妊婦は心が不安定になるの。意地悪してはダメです」
「してませんよ。俺は気を使って働かなくてもいいように人を雇っただけで……」
ほほう?と先生の口元はにっこり。でも目はサイラスを睨んでるようにも見える。
「この姫から仕事を奪ったと?」
「奪ったとは人聞きの悪い。俺は心配なだけです」
ふむと目を閉じ先生は腕組み。この姫の気持ちを無下にしたんだふ~んと。私は今でも姫の父親の代わりの気分でいます。彼女の父亡き後、私は城に姫がいたから、いつでも助けられるよう侍医を退官しなかった。ふ~んと嫌味っぽく。
「いやいや先生。妊婦は危険でしょ?城は以前より敵は少なくなったとはいえ今でも多い。俺は憎まれてるんですよ。だからティナもなんですよ」
「気持ちは分かるけどそこまで心配?護衛もつけてて?」
「いやあの……」
殿下が仕事させたくないのなら姫、領地に行きませんか?別荘で暮らすのはどう?と。私がついていきますよって。屋敷でひとりでいるよりいいでしょ。領地にも行けるよって。
「いいの先生?」
「わたは非常勤扱いですから自由は利く。行こうよ姫」
「うん」
慌ててやめてくれってサイラス。俺が寂しくて死ぬからって。はあ?私から全部取り上げてて?ひとり寂しく屋敷にいろと?ムカついたから睨んだ。
「違うから。本当に違うんだ」
「でももう私の席は執務室にはないでしょ?今後もないの?」
「バカ言うな。君がいないと領地が困る。俺の話など誰も聞かないんだよ」
「ふーん。彼女にしてもらえばいいでしょ」
「はあ?彼女は書類だけの人だよ。領地には行かない」
「行かせれば?」
「なに言ってんの?」
まあいい。仕事ないなら私と行こうねって。うん先生。少し殿下と離れて考えればいい。私は姫が落ち着くまで近くにいるよって。
「殿下もその過保護行き過ぎだからね」
「はあ。でも」
「私はいつでも姫の味方だから。そこをお忘れなきよう」
さあ姫帰って支度しよう。私は後からお家に行きますからねって。うん!待ってます。サイラスは呆気に取られ動けない。
「ジョンお願いします」
「はい。なら俺も支度をしてきますから少し馬車でお待ちを」
「うん」
我に返ったサイラスは勝手に決めんなと。はあ?
「そっちが先に私をのけ者にしました」
「たから違うって。俺は君が」
いい切る前にジョン行くわよと部屋を出る。先生家で待ってますと声を掛けてスタスタ。先生がいるせいか彼は追ってはこなかった。んふふっロッティも連れて行くもんね。おーほほほッ
ほんのりお腹も大きくなったし、ダチョウのエサ代は今は稼げない。でも執務室で書類整理くらいなら出来るもん。それにみんなに腫れ物のように扱われるのも辛かったの。そして玄関の車止めで見上げる旦那様は渋いお顔。
「ティナ来るの?」
「行っちゃいけませんか?」
「いいけど……不安」
なにしに来るの?の言わんばかり。お家にいてよって態度が言ってます。
「動いた方がいいってショルツ先生も言ってたもん」
「うん。屋敷でも散歩出来るだろ?」
「私が行くと不都合でも?」
「そんなのはない。楽になるし」
ものすごく屋敷から出したくない感じ。でも一緒に出勤。馬車も揺れの少ないのをお城から借りた。快適に到着してお城に入ると、なんだか懐かしい気分までする。んふふっ心配そうな旦那様は無視してスタスタ。ジョンが扉を開けてくれて、
「おはようございますッ」
「あっおはよ。ティナもういいの?」
「うん。書類整理くらいなら出来るから」
「そっか……」
あまり喜んでいないみんな。うん?と見渡すと知らん女性が私の席におる。誰?目が合うと立ち上がり、
「お初にお目にかかりますティナ妃殿下。私は北の領地シルテ伯爵家三女のマリアと申します。見習いとしてお手伝いに参りました。よろしくお願いいたします」
「はあ……」
グリンと後ろを振り返ると、だからいらないと言ったのにとサイラス。どこか面倒くさそうな雰囲気を出しながら、
「人手は足りてるんだよ。君には静かに過ごして欲しくてさ」
「ふーん」
マリア様はキラキラした若いお嬢様で、二十歳にもなってなさそう。カール様の説明では文官になりたいから父親に頼んでここに来た。働くとは何ぞやを指導して欲しいらしい。殿下のところなら丁度私ががお休みしてるし、お父上の伯爵様には普段世話になってるしで断れなかった。まあ人がいれば楽なのは確かだから雇ったそうです。さようで。
「ティナ様が子育てに専念されるのであれば、私はずっとここいにて頑張りますので、なにも心配はありません。きっと役に立ちますから大丈夫です」
「はあ……ありがとう」
彼女は軽く会釈すると座り直しお仕事を始めた。私はここでなにするの?席もないし。セフィロト様も産まれるまではいいんじゃないか。君は忙しすぎたし、自分の妻を考えれば君は不憫だと。不憫?そんなことは考えたこともなかった。仕事楽しいし、サイラスとみんなと頑張れるのは嬉しかったのに。サイラスもカールの隣は空いてるから手伝うならそこねって。え……自分の席にも座れないの?席に座り当然と言わんばかりに、
「メインで動けないんだ。仕方ないだろ」
「うん……」
カール様もフレッド様もその言葉におろおろ。
「あのねティナ。殿下は心配なんだよ。悪気があってじゃない」
「そうそう。今は元気な赤ちゃんを産むことを……その、ね?」
サイラスを庇ってるの発言か。そうよね私の臣下じゃないもんね!
「いやいや君の臣下だよ俺たちは。だから心配なの」
「ふーん」
三人は働いてる妊婦近くにいなかったから怖いの。分かれってうたうだ言ってるとサイラスが無理して欲しくない。城はどこに行くにもたくさん歩かなければならないからなって。
「散歩の代わりになります」
「散歩って量じゃないし、省庁回りなんかさせたくない」
「でも」
「でももへったくれもない。俺が嫌なんだ。そこらで転んでも困る」
そうだけどとうつむいていたら、マリアにさせるから君はここで書類だけしててくれって。領地の仕事はみんなに割り振った。術の使えない君は依頼にも応えられないだろ?って。
「はい……」
私の心は急速に冷えていった。やる気に満ちた心はしぼみ、冷たく、冷たくなっていく。この部屋が知らない場所のように感じた。色がなくなり白黒に見える気までする。
「帰る」
振り返ってジョンに目配せして部屋を出た。みんなに声をかけることすら出来なかった。部屋を出て後ろで扉がパタンと音を立てる。この扉の奥には私の居場所はない。もうないのね。下を向けば涙がぽとぽとと落ちた。
「姫……泣かないで」
冷えた心は悲しみでいっぱい。知らないうちに泣いていた。涙は止まらない。
「お仕事頑張ってたから、グズッまさかいらないなんて言われるとは思わなくて。ジョン少し胸貸して」
「はい」
見えないようにしますねって腕を回してくれる。ありがと。ポロポロと目からこぼれ落ちる。赤ちゃん出来たらもう用なし?術も使えないから必要ないの?ねえジョンと見上げた。ジョンは優しい微笑みで、
「違いますよ。殿下はあなたに無理させたくないからです。産まれるまではって考えてるだけですよ」
「でも……」
するとジョンの肩を掴む人。驚いて腕を解いた。後ろからサイラス。
「ティナ」
「サイラス嫌い。ジョンと帰る」
「ハッ」
ジョンの手を取って歩き出した。もうここに私の居場所はない。あんなに何年も頑張ったのに赤ちゃん出来たらいらないなんて。涙は止まらず前が滲んでる。スタスタ歩いているとつま先が床石のすき間に取られてよろけた。
「姫!」
「ごめんなさい」
腕を掴まれて転ばずに済んだ。びっくりした。態勢を整えて歩こうとすると手を掴まれた。
「ティナ!」
「触んないで!」
「そんなこと言うなよ。俺は君が心配で仕事させたくないんだ」
「しばらくあなたの顔は見たくありません。さようなら」
「お、おいティナ?」
待てよと手を掴まれたけど乱暴に振りほどいた。深い悲しみは激しい怒りに変わる。どれだけ私が仕事が好きかあなた知ってるでしょ!どれだけ頑張ってたか!こらえきれずに叫んだ。人目のある廊下で。何事かとみんな見てるけど悲しくて辛くて我慢出来なかった。怒りにサイラスを睨んだけど、収まりきれずうわーんと子どものように声を上げてしまった。一度泣き出したら止まらない。自分の存在意義を否定された気になった。君には価値がないと言われたと感じた。
「ティナ……」
哀しそうに見つめているサイラス。怒りと悲しみで訳分かんない。うわーんと泣いているとスッと抱かれ近くの部屋に入れられた。ソファに下ろされて、
「ティナごめん。気を使ったつもりなんだ」
「うわーん!」
どこかの客間のようだ。ごめんねって隣に座って抱かれたけど押し戻した。今は抱かれたくない。
「サイラスは全然私の気持ちが分かってない!あれだけ話し合ったのに!」
「そうだけど俺の気持ちも分かれよ。心配なんだよ」
「分かんない!領地に行けないのも辛いのに。術も使えないのも辛いのに!せめてあなたの役に……それも否定するのね!なんでなの!うわーん」
わあわあと騒いでいたらいきなりフラッとした。首に冷たい何か……あれ?興奮が抜ける?目眩のような感じがしてくたっとした。
「殿下なにしたのです。妊婦をこんな状態にするなんて」
「先生……すみません」
ショルツ様の声?声の方を向いた。涙でぐちゃぐちゃで鼻をすする。怖い顔というかなんというか困った顔をしている。
「姫興奮はダメ。お腹の赤ちゃんもお母様と同じく悲しくなるから」
「でも……」
ジョンが先生の後ろで手をヒラヒラ。そっかジョンが呼んだのか。胸からハンカチを出して拭いてくれる。そしてほらこれ握ってとなにかくれた。
「これ魔石だから。姫みたいな術者にはよく効く副作用のない安定剤になるから」
「うん」
手のひらには黄色い透き通ったイチゴくらいの石。原石のままの形で特に宝飾的なカットはされていない。初めて見た。魔石ってこんななのね。特に光ったりはしないけど興奮は取れた。悲しみや怒りを抑えられるくらいには。
「殿下。妊婦は心が不安定になるの。意地悪してはダメです」
「してませんよ。俺は気を使って働かなくてもいいように人を雇っただけで……」
ほほう?と先生の口元はにっこり。でも目はサイラスを睨んでるようにも見える。
「この姫から仕事を奪ったと?」
「奪ったとは人聞きの悪い。俺は心配なだけです」
ふむと目を閉じ先生は腕組み。この姫の気持ちを無下にしたんだふ~んと。私は今でも姫の父親の代わりの気分でいます。彼女の父亡き後、私は城に姫がいたから、いつでも助けられるよう侍医を退官しなかった。ふ~んと嫌味っぽく。
「いやいや先生。妊婦は危険でしょ?城は以前より敵は少なくなったとはいえ今でも多い。俺は憎まれてるんですよ。だからティナもなんですよ」
「気持ちは分かるけどそこまで心配?護衛もつけてて?」
「いやあの……」
殿下が仕事させたくないのなら姫、領地に行きませんか?別荘で暮らすのはどう?と。私がついていきますよって。屋敷でひとりでいるよりいいでしょ。領地にも行けるよって。
「いいの先生?」
「わたは非常勤扱いですから自由は利く。行こうよ姫」
「うん」
慌ててやめてくれってサイラス。俺が寂しくて死ぬからって。はあ?私から全部取り上げてて?ひとり寂しく屋敷にいろと?ムカついたから睨んだ。
「違うから。本当に違うんだ」
「でももう私の席は執務室にはないでしょ?今後もないの?」
「バカ言うな。君がいないと領地が困る。俺の話など誰も聞かないんだよ」
「ふーん。彼女にしてもらえばいいでしょ」
「はあ?彼女は書類だけの人だよ。領地には行かない」
「行かせれば?」
「なに言ってんの?」
まあいい。仕事ないなら私と行こうねって。うん先生。少し殿下と離れて考えればいい。私は姫が落ち着くまで近くにいるよって。
「殿下もその過保護行き過ぎだからね」
「はあ。でも」
「私はいつでも姫の味方だから。そこをお忘れなきよう」
さあ姫帰って支度しよう。私は後からお家に行きますからねって。うん!待ってます。サイラスは呆気に取られ動けない。
「ジョンお願いします」
「はい。なら俺も支度をしてきますから少し馬車でお待ちを」
「うん」
我に返ったサイラスは勝手に決めんなと。はあ?
「そっちが先に私をのけ者にしました」
「たから違うって。俺は君が」
いい切る前にジョン行くわよと部屋を出る。先生家で待ってますと声を掛けてスタスタ。先生がいるせいか彼は追ってはこなかった。んふふっロッティも連れて行くもんね。おーほほほッ
10
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?
桜
恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる