殿下のやることを全面的に応援しますッ 〜孤立殿下とその側近 優しさだけで突っ走るッ〜

琴音

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前編 ユルバスカル王国編

69 みんなひどい!

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 なんとか自分の主張を聞いてもらいたくて叫び散らした。黙りなさいと叱られたけど今言わなくていつ言うの!他にいるでしょ!王様の兄弟に銀髪で紫っぽい瞳の人も!一族の公爵様にならもっといたもんとか、思いつく限り叫んだ。

「本人が術者じゃないし、王は無理と断られたの!」
「なぜ断る!お前ら生まれつきの王族だろ!」
「そうまけどさ。あちらに領地をもらった貴族は土地なし家系出身者が大半で、領地運営自体余裕がないところが多いんだ。君が手伝ってくれるのを楽しみにしてるから嫌だって」
「今も行ってる!」
「まだ来ないのかとクレーム来てるんだよ!」
「春先に行ったもん!」
「次はまだかってな!」

 いやあ!と喚きながら担がれてるから、事情を知るであろう人たちが「ああティナ様とうとう知ったのか」とか「私なら例え術者でもあんな荒れた土地嫌だな」とか。みんな知ってたのか!知ってたんだな!と周りの人を威嚇。やめろと叱られた。

「当たり前だろ。あちらに文官も諸々送ってるんだから」
「誰の口からも漏れてこなかったのはなぜだ!」
「君に絶対バレるなって箝口令敷いてたからだ」

 ひどい!みんなひどい!私だけ仲間はずれじゃない!ひどいよおー!
 みんな気の毒にと口々に聞こえた。姫は赤ちゃん産んだばかっかりなのに、こんな大役は可哀想だなって。そう思うなら貴様がやれと怒鳴ったらやめなさい!と叱られた。無差別に何か言う人に絡んでしまう。暴れんな叫ぶなとがっちり押さえつけられ、執務室にぶち込まれた。本当にソファにドサッと降ろされた。

「サイラス!」
「うん」
「ひどい!」
「ごめん」

 ごめんな。こうなると思って黙ってた。君は領地大好きだし成果も出してる。だからだよって。私は腹が立って仕方なくて睨みつけた。

「あのねサイラス。私はあなたのお手伝いがしたいと頑張りました」
「うん。知ってる」
「その頑張りはあなたの立場の向上と、民に有利な法案を…あっ」

 私はしおしおと萎むように怒りがトーンダウン。そうだ。サイラスの立場がよくなったからこその抜擢なんだ。本人の努力は領地が示し、私は珍しい術者。雨降らすしか能はないけど。ぽふっとソファのクッションに顔に埋めた。ゔぅ

「どうした?」
「ごめんなさい」
「え?」

 のそりと起き上がりごめんなさいと私の前に立つサイラスの脚に抱きついた。なに?と腕を解き、隣に座り抱いてくれる。私は隣の王が国を差し出すと言うかもという予想はしておくべきだった。ついて来ない民を管理する難しさを甘く見てた。

 我が国の貴族があちらに行き、元々の民の生活が向上しているとは知っていた。私も荒れ地からの農業や街造りは大変だろうと、言われるままに手伝ってたじゃない。お金にもならないお手伝い。鉱脈を探し土魔法でゴーレムを出して土地を耕したり。その評価か。そんな感じと聞いた。

「その評価は高いのは確かだ。ゴーレムに畑耕させるとかおかしな使い方だけど、早く荒れ地が整った。牛や馬を引かせて耕すのは時間かかるからな」
「うん」

 一年目は土が痩せててあんまりだったけど、ゆっくり収穫も増えている。狭い範囲だけど商人も来て街は賑やかになってる。私は知ってたじゃない。知ってたんだ。すると君は優しいからいろいろしたろって。

「君の真面目さのお陰だ。それに君がお嫁に来てから王弟一族は変わった。それもいい方に。だからみんな期待したんだ」
「そう……」

 ティナ気がついたてかって後ろの方から聞こえ、ゆっくり振り返った。君はいるだけで周りを変える。君の能力はそこにあるんだよってセフィロト様。何にでも真面目に取り組み、人の輪を知らず知らずに円滑にする。君はとてもいい子だよって褒めてくれる。

「そう?」
「じゃなかったらこんな短期間に殿下の評判を上げないさ。この曲者が簡単に変わらないだろ」
「事実だが言い方があるだろ」
「そうですかね?殿下のまっすぐは他の人にはひねくれコースです。あははっ」
「うるせえよ!」

 私抜きでみんな騒ぎ出した。自分が気が付かない、自分の評価があったようだ。

 術者としての腕は完全なる半人前。まだまだコツを教わったりしないと「雨降らし」しかちゃんと出来ない。本を読んだだけでは何ひとつ満足に制御出来ない。イアン様について何度も何度も唱えて練習した。たまにふらっとするくらい頑張った。鉱石探しは最近さまになったけど、特定のなにかを探せはとても難しい。それにまつりごとをする人としては、とんでもなく問題ありだし……これで王妃など出来るのだろうか。疑問過ぎる。う~む。

「前向きになってくれた?」
「前向きと言うか逃げらんないんですよね?」
「ああそれは無理かな」

 サイラスは、この話しを君にするまでたくさんの議論をした。当然父上がする案もあったし、第二王子がする案もあった。だけどあちらの民はやはり民族主義が未だ強く、王は自分たちの代表であって欲しいと望むとの回答が来た。美しい姿で多彩な術を繰り出して欲しい。こちらにはない術もあちらにはたくさんあり、賢者しか出来ないものが多いそう。それで国を元に戻してという期待は大きいらしい。

「君なら出来るとあちらの国の者はとても期待している。それこそ魔法のような術があるそうだ。呪文を唱えれば街が出来上がるとか、温泉が湧き出すとか」
「ほえ……すごいですね。あ?でもやはり訓練ですよね?何か目覚めてブワッとか」
「それはない」

 くっ……もしかしたら物語の魔法使いのようにと期待したけどないのかあ。残念。首がコテッと落ちた。だよね……

「俺のかわいい姫。そんなおとぎ話はないと前にも言ったよね?努力あるのみだよ」

 肩に腕を回しクスクスとサイラスは笑う。知ってたけどこの術の大元の国ならもしかしたら?と思うでしょう。ねえ愛しの旦那様?私は首を少し動かし見上げる。

「本当にそんな期待をする君がかわいいけど、現実は厳しいんだよ」
「はい……」

 ふてくされてクッションに頭を乗せた。ねえとサイラスに声を掛けた。

「私は術者であればいいの?」
「半分な。残りは王妃として動いてくれ。政治的なことはしなくていいから」

 そんなことは元より出来ない。今もしていないもん。社交くらいで領地一辺倒で来てるから。農林省の側近の頃からしてないもん。

「おほほ。出来ねえんだよ!よく考えろ旦那様。この下品な姫がうちの王妃や姫みたいになれるはずないでしょ!」
「やれるよ。君頑張りやさんだから。表に出てる時だけでいいんだよ。ね?」
「ね?じゃない!」

 ひっくり返ったまま文句をたれる。そしてくるりと回って顔を埋める。無理……手はすぐ出るし切れやすいし「わたくし」なんて言えないもん。ライラ様たちみたいに出来ないもん。お母様や王妃みたいになんて出来ないもん。うちは父様がヒグマだったし、母様弱々だったから元気が一番と、最低限のマナーで学校では苦労した。兄様とあんまり変わらない育ち方をしてて庭を駆け回る女の子だった。女性らしさなど微妙どころではなく……あう。

「言い訳は済んだか?」
「足りないけど、百歩譲ってがさつな王妃ということでご勘弁願えますか?」
「いいよ」

 俺もだからさって背中とソファのすき間に入り抱いてくれる。

「俺王になる気なんてさらさらなかった。王子二人いるしな。法案にめどが立てば早々に公爵に下がるつもりだったんだ。それは話してたよね?」
「うん」
「だからダチョウ飼ったりお茶畑作ったりで自分好みに領地をいじってた。君の視察って名目の巡回で民は味方だ。奴隷もいなくなり安定した収入が得られる」
「うん」

 今やってる施策や法案は全て俺の直轄地だけの特例だ。だが、国としてあちらに行けば全部を俺の一声で変えられる。こちらから行った貴族は基本王族寄りの人たちばかり。こうなった限り直轄地と同じになると覚悟してる。だから今ですらあちらには奴隷はいない。連れて行ってはダメだと王が命令しているから。

「だからな。あの直轄地が大きくなるだけと考えることも出来る」
「そっか」
「こちらの国に合わせる必要なんてないんだ。兄弟国のようになるから、まあ多少難しいところはあるけど。でも別の国なんだから何でも出来るという利点はある。文化は当然似通ってて軍国主義を抜けばあんまり違いはない」
「うん」

 こちらは軌道に乗るまで手伝ってくれるし、こちらに来た文官や貴族はこっちに帰らない。俺たちの国の民になる。よくないか?と。まあ。

「ちなみにこいつらは連れてくから。セフィロトを宰相にして、残りも大臣にする」
「え……やりたくない」

 三人とも間髪入れず拒否。それ面倒くさいから嫌だ。特にカール様は嫌がった。

「俺そういうの向かない。親父はやってるけど俺はまあ向かねえなと逃げた口だから」
「やれば出来るって」
「やれることと、やりたいことは違うんですよ。殿下」

 まあそのへんは引き継ぎ中に考えるからとサイラス。リチャードにあの領地の引き継ぎが終わったら向こうに行く。セガールにも伝えてあるから大丈夫だと思うと私の頭を撫でる。あそこを俺たち名義のままにすることも可能だが、完全に放置になってしまう。それは嫌だろって。うん。

「移動する前に民に気が済むまであいさつしてこい」
「うん」

 寂しい。

 野菜や果物をくれた街のみんなの笑顔が浮かぶ。鉱夫のみんなの「姫様好きだよ」と笑う顔が浮かぶ。ドロだらけになりながら「こんなの平気だ。汚れるからあんまり坑道に近づかないの姫様」と日焼けした顔で笑うみんな。ダチョウに乗ってポロッと落ちたり、卵に乗って遊んだりして楽しかったのに。タヌキのいなくなったあのセガール様仕様の美しい屋敷にもいけない。

 寂しい……寂しいとしか思えなくて体すら重く感じてしまう。過去の楽しい思い出が次々と浮かんでくるばかりなの。




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