お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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花嫁〜獣の世界編

15 翠のご両親の話 3

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 これ変な言い回しだなあなと翠をチラリと見ると苦しげに奥歯を噛み締める。僕はこの先が核心の部分かと推測たした。

「父君は「奪われてはいそうですか」とはならなかった。取り返すべく努力したが……」
「そっか……」

 当然だよね。愛した人を人の世界から連れてきたんだもの。お嫁さんも別の世界に来るんだから覚悟を決めて家族を捨ててきてくれた。とても愛し合ってたはずだもの。

「ちょうど人の世が戦後……明治の頃のな。その頃に俺は生まれた」

 へえ翠若いんだと驚いた。きちんと歳を聞いてなかったよ。それにこちらの成長速度を考えれば本気で同年代。ほほう。……ん?生まれた?本当の父君と母君からだよね?え?父君は父君?帝じゃなくて父君?と疑問が生まれる。僕が変な動きをしたから察したのか、翠はニコリとしてこちらを向く。

「あのな。母君は人間ではなかったんだよ」
「ああ?」
「あの辺りの別の村で祀られてた宇迦之御魂命の神使。稲荷の狐だな。村娘のふりして父君の元に通ってたそうだ。父君はなんとなく変とは思ってたらしいよ」
「あ、ああ」

 父君は気配の変さを感じながらも恋心で目が曇ってたのかスルーした。そして母君が種明かしをしても愛は変わらず、結婚して竜の子が二人次々に生まれた。二人はとても仲良く神社を守り幸せに過ごしていたそうだ。えっとでも……翠は狐の姿だよね?と聞けば、

「俺は母君が奪われてから隠れて会っていた頃……その逢瀬の時に出来た子だそうだ」
「あ……」

 帝との子であれば狐は生まれないそうだ。別格の力のせいで妻側の姿では生まれない。でも俺は狐の姿で生まれたと笑う。どこか寂しそうにも見えた。

「翠もういい。ありがとうもういいから」

 僕はどこか辛そうな翠を止めた。それにこれは昔からある物語のような話である。でもね、当事者は「よくある話」だなんて済まされない。僕は胸がキュッとして翠の尻尾を掴んだ。

「もういい……僕がごめんなさい」
「いいや。最後まで聞いて」
「翠……」

 辛そうとは違うどこか振り切ったような雰囲気の翠。彼が生まれるともう隠し立てはできずさわぎになったそうだ。

「何をしてたかは分からん。母君は帝との逢瀬でも子は出来なかったんだ。他の妻たちにはお子はいるけどな」

 母君は父君に操(古い言葉だね)を立てた。だから子は絶対に産まないって強い意志があったらしい。翠を産んだ後程なくして母君と父君は死んだ。心を病んで弱ったと聞きされているそうだ。なんと声をかけていいかわからなくて僕は彼を見つめるしかなかった。

「母君への帝の寵愛は変わらなかったと聞いている。父君に罰も与えなかったらしい」

 なのに病んで死んだとは……どういうことだろう。僕には分からなかった。

「俺は父や母の顔をおぼろげにしか覚えてないんだ。でも帝と遜色ない姿だったと聞いている」
「もういい。やめて翠」

 俺があの社の神なのはそういう理由。俺は竜神の子なんだ。だから水が操れる。狐だからじゃない。稲荷の神使に雨の力なんてない。見た目だけで中身は竜種としての力があるんだよ。そう言って僕の肩を抱く。

「俺は帝の別荘のひとつの小さな屋敷で女官に育てられた。親の顔なんて知らないとばかりにな。そして成人してあの神社の神となった。両親の死後、実は大正から昭和の戦後頃まで社に主はいなくて空っぽだったんだ」

 帝にとってもあの神社は特別なもの。だから父君の息子である翠にとなった。兄君たちではなく。翠は二人にとって特別な子と帝は考えてくれて自分があの神社の神になったそう。ものすごく心の広い帝だな。でも、病んだふたりを助けなかったのか。帝には複雑な気持ちがあったのは確かなんだろう。

「だから俺はここに屋敷を構えている。ここは父君の屋敷でな。でも俺はここで父君や母君と暮らした記憶はない。ただの遺産で兄君たちは少し住んだかもな」

 僕は翠の尻尾に顔を埋めて泣いていた。親の愛情に飢えている翠。不必要に僕に触りたがり、繋がりたがるのもこのせいかも。助けはたくさんあったし兄君たちに愛されてもいた。でも親の愛は特別という思いは常にあったそうだ。

「もちろん夏樹がかわいから触りたいし繋がりたいのも事実だ。でもなあ。信頼と愛を与えてくれる家族が嬉しくてそれを実感したいのかもな」

 こんな話はこの世界ではごまんとあると翠は説明してくれる。だけど当事者は思うところはたくさんなある。成長すると獣の本能で軽く考えがちで忘れやすい。でも体が大人と変わらなくなって、人の姿になる頃から少しずつ心の深いところから声を掛けてくるようになる。そんな頃祭りで僕が目に入った。淡々と話すけど潤んだように見える金色の瞳。翠……

「お前だけ光ってた。光って見えたんだ」
「うん……うん……」

 泣くなよって頭を撫でてくれる。俺が泣けないだろって。優しく微笑んでいるのが僕には辛く見えた。

「だから竜神の池由来の神が俺。東雲しののめ様ってのは父君の名前だ」

 日本の昔話にはない話。でも日本の伝承や昔話には悲しい物語が多い。人がある意味純粋で欲望に忠実だったからだろう。誰かを蹴落としてでも欲しい、したい気持ちを抑え切れない。この世界はそれがまだ残っている。素直な動物としての本能が当たり前なんだ。よくも悪くもね。だから命は強くきらめきそれゆえに儚い。なのに人のように物事を考えるから闇も深くなる。

「あーあ。俺の暗い話など知らなくてもよかったんだ。お前は親に大切に育てられて明るい白いわだちだけを歩んできた。いらない話だな」

 僕は翠の気持ちをどこまで理解してるか分からない。でも隠さず話してくれた。僕を信頼してくれてる証拠なんだ。この話に対抗するには薄っぺらいけど、今思ってることを話そうと決めた。

「僕もちゃんと話します。僕は男に興味ありませんでした。どんなに美しくてもね。それどころか人でもないあなたに惹かれるとも考えてませんでした」
「うん。それは俺も感じてた。でも……」
「翠聞いて」
「うん」

 毎日一緒に寝起きして同じ物を食べる。日がな一日山を散歩したり、管理の畑や田んぼを見回る。山道を歩き山菜や木々の生育とか調べる。当然人の世界の山々、神の視点で人々の暮らしを見て翠の仕事についていくことは楽しかった。でもひとりじゃ楽しくない、翠がいるから楽しい。生活が全て変わったんだと話した。

「僕はこんな日常の中で翠を好きになっていったんだ。抱かれたからじゃないよ。とても気持ちよくて素敵な時間だったけど、翠の魅力はそこじゃない。無理強いもしなくてあるがままの僕を受け入れてくれる感じかな?」
「そうだな。お前はそのままがいい」

 俺が見てきたお前は好感の持てる男だった。見た目はかわいい。だけど言うべきは言うくせにその場の和を大切にする。自分が引くことで得られる和を知っているように見えたそうだ。

「ありがとう。そんな評価は初めてだよ」
「外からの自分の評価なんて分かりづらいもんだよ」

 僕は一呼吸置いて尻尾を手繰り寄せて抱いた。ふかふかの大きな尻尾は先がピルピルと揺れる。

「僕は昨日置いていかれた時子供のように泣いた。置いていかれたことじゃないんだ。何か失敗して怒らせて嫌われたんだと思ったんだ」

 それはないと頭を撫でてくれる。お前はこの話に関係ない、俺の生まれは人でもここでも嫌われるのは同じ。この事実を知られることを恐れたそうだ。妾の子と蔑まれることが嫌だったと翠は目を伏せた。

「はあ?立場的にはそうなんだろうけど今どきそこ気にする?」
「夏樹がどう判断するか分からないだろ」
「まあ」

「聞かせてもお前は変わらないだろうと考えてもいた。いつかバレるはずだし。でも……今じゃない気がしてたんだ。いつか話すつもりはあったよ」

 結婚して一年も経ってない。今はこちらの世界に馴染み、翠をもっと好きになってもらう期間。恋愛期間というかな。そこを楽しみたかった。ただそれだけで愛されたかったと翠。

 母君は帝の奥様。なら元の旦那さんは不倫相手になる。でも逆らえない相手に嫁に来てと言われ、断ることなどできなかったのだろう。母君が帝が好きで、前の旦那を遊び相手として確保とかならちょっとだけどさ。そうじゃないしね。ね?と見つめれば、

「それはないよ」

 力のある獣が人の妻を奪う。力の強いオスってだけで獣は好感を持つのが普通なのに、弱い前の夫のところに帰る。少ないけどあるにはある事例だそうだ。動物から獣になった弊害とも言われ、強さより相性を重んじる人がいるそうだ。

「こんなこと気にしなくてもいいのに」
「こういった生まれの者しか分からん感情があるんだよ。誰も気にしなくてもな」
「そっか」

 自分の不安が的中したその時の自分を思うと冷や汗が出る思いがしていた。僕の見る目が変わるのを恐れたそうだ。実際そんな目をたくさん見てきたそうだ。

「人の世界ではここより嫌われることかもと考えててな。話すタイミングを計ってたんだ」
「聞いても嫌わないけどね」
「そんなの俺には分からないだろ」
「そうか」

 後で翠聞いたんだけど、人の世界では不倫の子は蔑まれると聞いていた。翠はそんな関係性の両親から生まれ僕に嫌悪感を持たれて「帰りたい」と言われることが不安だった。今なら誤魔化せる期間でなに食わぬ顔で帰宅出来る。強く言われたら帰そうとも考えていたらしい。

 だから紅様にからかうように言われたことに強烈な不安を覚えた。どう誤魔化してここにいてもらおうかと頭はフル回転。周りが見えなくなったそうだ。でも翠のご両親の最後は辛かったけど、完全にラブロマンスだよね?悪くないと答えたんだ。そしたら蕩けるような微笑みを浮かべてくれた。もうそれだけで置いていかれたことは帳消し。僕はこの笑顔が大好きでさ。愛されてるのがよく分かる笑顔で胸がいっぱいになるんだ。



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