お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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花嫁〜獣の世界編

10 翠のお店 1

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 お正月も終わり、僕は蓬莱の翠の屋敷でまったり過ごしていた。季節は冬、屋敷の敷地外は真っ白な雪が一メートル以上積もっているのが見える。相変わらず、人の世界からすれば非常識な景色である。

「懐かしいねえこの雪。辛い記憶しかないけど」
「そう?いつ頃の話?」

 翠と常春の縁側でゆっくりとお茶の時間。座布団をいくつも並べ翠は横になってて、僕はその横に座っていた。この屋敷の敷地内はエアコン完備のような環境で快適だ。

「高校時代だね。大雪でバスが狭い道を走れないとか言いやがって、郊外のバイパスの真ん中に客を捨てんのよ。街の田んぼは広くてさ。あぜ道の農道はバイパスから町中まで直線で一.五キロあった。猛吹雪の中そこ歩いて学校に通ったのよ」
「ふーん」
「地吹雪の中通ったら四日目に熱出た。インフルで寝込んだんだよね」
「アハハッ」

 雪国あるあるである。除雪が間に合わんからってね。夕方はバスが走る日もあんのよ。ムカつく。

「東京は雪なくてさ。冬は刺さるような寒さに感じたけど革靴で歩ける。そこは嬉しかったかな」
「ふーん。屋敷の敷地なら出来るよ」
「知ってますぅ革靴いらないでしょ。そんな仕事ないし」
「仕事したいの?」
「え?」

 いやどーなんだろう。仕事をするって発想がなかったよ。僕はなぜか本格的に仕事をする発想が抜け落ちていたのだ。しなくていいものと勝手に(専業主婦のつもり)思っていた。家事を手伝うと叱られたしね。

「翠は神様のお仕事以外は何してるの?時々いないよね」

 翠はアイスコーヒー片手にそうだなあってつぶやく。あなた、起きて飲みなさいよ。こぼすかもでしょと言えば、俺はこぼさないと笑う。

「あー……町で店やってるんだ。居酒屋っての?お姉さんがいっぱいの」
「おねえさんがいっぱい?それ居酒屋と違んじゃないの?スナックとかキャバクラに近い気がする」
「境はわからんが、遊郭っぽいけどそういった夜のサービスはしてない。一緒に飲み食いするのみ」
「ならツマミが多いスナックに近いのかな」

 翠はここのみんなの給金を稼がないとならないから始めたそうだ。神の獣は神社に縛られる。自分が率先して金を稼ぐ時間は取れないそうだ。

「ここは昔から畑とか田んぼとかしてたけど、いつしかみんなに任せるようになってさ。父君の頃は農業ばかりでな」
「ふーん」
「だから今の俺の仕事は店の会計のみだよ」

 たまに視察だと飲みに行くくらいだよって。ほほーん、僕も行きたい。この世界の町に行ってみたい。ねえって翠を見つめた。

「何その顔」
「……嫌だ」

 すごくお渋い顔をしております。なんでだよ尋ねれば、取られるかもだからとのたまう。僕は呆れてしまって。

「誰に?僕を食べるって人は聞いたけど、基本はこの世界も男女でしょ?なら」
「ああー……」

 ムッスリして嫌そうな態度は崩さない。そしてコーヒーを飲んでグラスをお盆に戻した。

「俺は……夏樹が来るまで結構遊んででな。余計なことを見聞きさせたくない」
「はは~ん。隠し事ですか」
「いいえ、見栄です」

 クプププッこんなところが翠のかわいいところ。見栄張りたいですとか言うのがかわいい。

「翠?そんなあなたも見てみたいです」
「嫌です。俺女も男もいけるから……あちこちから声かかるし」
「ほほう。モテモテですね」
「違う。俺が金持ってるって知ってんのよ。みんなな」

 つーことで、嫌だという翠を僕の体でうんと言わせ夜の繁華街にお出かけ。やっほーい。

 普段の翠は神様らしい格好はせず普通の着流し姿なんだけど、めっちゃ傾奇者かぶきもの(あってる?)って色の黒と黄色の着物でね。この世界でも認識はチャラい兄さんのようだ。町を歩いていると、

「あら翠じゃないの。寄っていかない?いい子いるわよ」
「遊ばない。自分の店に行くんだ」
「ふーん。その子は誰?人間?神?」
「どっちでもいいだろ。俺の妻だよ」
「え……いつ結婚したの?」
「最近だ」

 エロい着物の着方をしてるウサギのおねえさんは目が点。あの翠が嫁?嫁とはセフレじゃないわよね?キャーっと叫んだ。みんな聞いて!翠がお嫁さん連れてるわ。あの腐れちんこがお嫁さんだって!と周りに聞こえるように大声を出した。するとその場がザワッとして静かになった。僕が翠を見上げると、

「翠?」
「クソ女め……だから連れてきたくなかったんだ。行くぞ」
「う、うん」

 苦虫を噛むとはこの顔よねって表情。「走れ」って手を掴まれ、言われるまま走る。「あ、翠だ」とか「久しぶりに見かけたな」とか、あちこちから聞こえる。ハァハァ……運動不足があ!僕は足がもつれながら走る。着物は走り難いだろと思いながら必死に走った。翠は足が速いんだよ。文句を言おうにも息が上がってしまって言葉にならない。するといきなり減速し、一軒の店に飛び込んだ。

「いらっしゃいませーって翠様か。なーんだ」
「ハァハァ……奥に……」

 僕らは完全に息切れ。翠も言葉がとぎれとぎれだ。

「はい……あ、そちら御子様ですよね。初めて見た。かわいい」

 息が上がったまま翠は顔を上げて、それいいからとお店の人に案内してと指示する。

「でもなんで駆け込んでくるの?」
「聞くなよ」
「はーい。お二人様でーす」

 入り口にいた犬さんは楽しそうに中に声を掛けると、翠に「来なさい」と言われ奥に向かう。美味しそうな匂いとコロコロと笑う女性の声だ。和風居酒屋って感じなのに、女性がお客の隣に座ってあーんとかしている。居酒屋とスナックが混ざった経営形態で想像してた感じかな。座敷が多く椅子席はなぜかソファで珍しい形態の……いやいやここ人の世界じゃないから違って当然だよ。階段を登れと手を引かれ奥に早足に向かう翠。

「速い翠ッ」
「ごめん。着いてきて」

 上がった二階は個室ばかりで料亭ふう。中からは楽しそうな笑い声が聞こえ、おねえさんたちの甘えるような声があちこちから。その声に男性はまんざらでもないとばかりの声色だ。そんな声を聞いていると一つの部屋の前で止まる。こちらですと襖を開けてくれた。

「あー疲れた」

 なだれ込むように翠は大の字に横になった。

「翠お疲れ」
「あ?」
「セイか」
「うん。ベニもいるよ」
「マジか……はあ」

 のそりと起き上がり僕にも上がれと言う。先客がいたようだ。僕は翠の後に草履を脱いで揃えてから末席に座る。軽く名前は?と聞かれ、夏樹ですと軽く会釈した。砕けた感じのお二人だった。

「なにしてんの?翠の御子でしょ?奥にどうぞ」
「いえ……でも」

 いつもの関係なのだろう。翠は上座の床の間の前に座り、お友達の二人はその向かいに座る。他にも来るのか御膳は五つで二つと三つに分かれている。翠とひとつ席を開け、僕は三つ並んでいる御膳の入口に一番近い席にいた。三つの方が身分?か神格が高い人なんだろう。なんとなく隣に座ってはダメな気がしたんだ。

「僕は新参者ですし皆さん神様ですよね。僕はここでいいです」
「ヤダこの子、翠の御子にしてはお行儀がいいさらったの?」
「そんなことしない」
「ふうん」

 ベニと呼ばれた黒い耳、尻尾は猫っぽい人がいたずらっぽく笑う。そして彼は瞳が真っ赤だ。だから「紅」って漢字が当たるかもと推測した。

「さらってない。きちんと手順を踏んで来てもらった正式な妻だ」
「「ほえ……お前どれだけ力つける気?帝になりたいの?」」

 二人の声が重なって驚いているけど、半分からかってるんだろうなあって雰囲気だ。翠はむすりとしたまま。

「力はおまけだ。夏樹が欲しかっただけ」

 そんな会話をしているとお店の人だろう猫さんたちが入ってきて、お酒やつまみを用意して御膳に乗せていく。

「紅様、リョク様は来られないそうです。俺の祭りを忘れんな。また誘えって伝言です」
「セイ、お前リョク誘ってたのかよ。この時期は無理だろ」
「僕も忘れてたの。うちは東北でまだ死ぬほど雪あって四月でもやばいからさ」

 お前ら大概にしろよ。友達の祭りくらい忘れんなよと紅様。そのとおりと僕も思った。それはまあいいやと三人で話しだした。話の内容から僕は入り込めそうもない話題だった。なら隣で聞いているだけにする方がよさそうだと判断し、美味しそうな料理に集中することにしたんだ。

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