お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

文字の大きさ
1 / 66
プロローグ

蓬莱の翠

しおりを挟む
 ここは人の世界からは「蓬莱」や「桃源郷」などと呼ばれる場所。彼らは多種多様な動物たちで「獣」と自認し、人の言葉を話す。

 二足歩行で歩き、少し前の日本人のように着物を着て人と同じように暮らし文化を築く。人と似ている生活スタイルで、彼らは人の世界にも出入りするが、人は招かれねば来ることはできない。

 ここは人から見れば「神と呼ばれる獣たち」の住む世界。



 ここに住む青年は、白い大きな尻尾と耳以外は人の姿の神。街から少し離れた小高い丘の上に、武家屋敷のような佇まいの家に使用人と住んでいた。


すい様……」
「なんだよ」
「またですか?」
「嫌なんだよ」
「御子様(仮)可哀想に。ご自分は花街で遊んでんのにねえ」
「うるさいよ」

 縁側に寝転がり、俺はなにもない空間に愛しい人を映し出していた。

「かわいい……」

 そして今、俺の心を鷲掴みにした「夏樹」の恋の告白現場である。俺は手を上げ、彼女に少しだけ力を使う。ほんの少しの不安を与え、目の前の男よりいい男が現れるかも?今返事すると損するかも?なんて気分にさせるものだ。たったこれだけで女の子の心は変わる。女心は秋の空って言うだろ。

「あ……女の子の態度というか、目の色が変わったかも」
「だろ?」

 夏樹はモテる。少し大人しいがそこがいいと女は近づく。裏表がなく性善説で生きているきらいがあるくらいだな。村を出て街の高校に通うようになると、女は周りにたくさん。……嫌だ。様子を見ていると、女の子は明らかに顔色が変わった。そして目が泳ぎ手を揉む。

「告白は嬉しいの。でもごめんなさい……あなたを男として見てなかったの。今までどおり、いいお友達でいましょ?」
「え……それはどういう?」

 嬉しそうにここまで来た女の子。なのに急によそよそしくなり、夏樹は不安の色が隠せない。

「夏樹といると楽しかったんだけど、女友達のようなつもりでね。あのね……ごめんあたし帰る。ごめんね!」

 放課後の校舎裏。女の子は焦ったように頭を下げると、振り返り急ぎ足で去る。夏樹は呆然と彼女の背中を見送り立ち尽くしている。

「なぜ?あんなに仲良くしてたじゃないか。二人で映画も行って手も繋いでたし。放課後はいつも二人で遊びにも行ったのに……なんで……女友達ってなに?僕は好きなのに……グスッ」

 独り言をつぶやき、少し震えるとハラハラと涙をこぼす。この光景は何度目だろう。

「美しい……俺の夏樹は泣き顔まで可憐な花のようだ」
「確かにかわいいですよ。でも私は心が痛みますね」
「それは俺もそう。でも嫌な気持ち優先だ」

 俺は生まれてから百年以上が過ぎ結婚の適齢期に入っていた。俺は彼を子供の頃から気に入り見守った。絶対妻にするべくな。俺にとって特別な子供に見えたんだ。なら使える力は使うべきである。

「夏樹様、目が死んでますよ」
「憂いをまとった夏樹は……そそる」
「ったく。来たら大切にしてあげて。意地悪した分きっちり」
「もちろんだ」

 夏樹の振られた衝撃はかなり強かったらしく、涙を手で拭い、フラフラと通りに出てバス停に向かう。今すぐ慰めに行きたいくらいだが……俺は景色を消し立ちその場から上がる。

「ルイ、街に行ってくる」
「……どこへ?」
「聞くなよ」
「はーい。いつ戻られますか?夕飯は?」
「店で食べて……朝かな?」
「ふ~ん……かしこまりました。イオに伝えておきます」

 俺は夏樹に異変があると反応する力を使っている。女の邪魔をするために。それと時々姿が見たくなるかな。何してるかなと。

「ダメだな。どうしても」
「初めの頃はそんなものですかね」
「少しのことで我慢できなくなる。想像してしまって」
「はあ……私も若い頃を思い出しますなあ」
「お前の若い頃って何百年前だよ」

 俺は部屋に戻り着替える。まあ着替えると言っても女物の着物を羽織るだけだがな。

「また派手なのをチョイスして」
「いいんだよ。遊ぶなら場所に合わせて目立たないようにだよ」
「はあ……まあそうですけど。どのみちあなたは目立ってますけどね」

 俺が赤い派手な桜の着物を肩にかけるとルイはため息をつく。いつものことだ。

「それに……初めての日に夏樹を満足させねばならん。その練習も兼ねてるんだ」
「よくそんな言い訳思いつきますね。獣は本能で身についているものなのに」
「いやいや準備は大切だろ?本能以上を提供したいじゃないか」 
「はあ……どちらかと言えば身が綺麗な方がと、私は思いますがね」
「お前古いっ」

 そして一晩なじみの花街で遊び帰宅。朝寝を少しして食事をして……また寝ようと縁側で横になる。少しはしゃぎすぎてしまったかな。夏樹を見るとこうなるんだよなあ。

「……ハァハァ夏樹って誰よ。あたしはランだけど?」
「いいんだ……今日だけ夏樹になってくれ」

 まぐわううさぎの女は振り返った。俺は腰を掴み動きを止めない。男がいいが娼夫は少なくて抱けることは滅多にない。

「まあここはそういうところだけど。その夏樹って子に振られたの?」
「違う」
「ふーん。翠たまになるわよね。でもいいわ」

 相手の気持ちを削いでしまったようで、心なしか気持ちよさそうではなかったが仕方ない。なんて思い出していた。

「お昼寝ですか?」
「うん。少し眠い」

 ルイは遊びすぎたと俺の頭の前に座りネチネチと小言が始まった。当然俺は聞き流す。

「夏樹様はいつ頃お迎えになるおつもりで?」
「今は若すぎる。今も好みではあるが……もう少しかな」

 少年も好きではあるが、できれば俺と近い世代になった頃かな。そうすると二十五前後。少し下くらいがいい。うん。いいな。きっとかわいさと色気が出るから。フフッ

「エッチィ笑いをもう……」

 この世界に人を連れてくると見た目はそこで長い間止まり、後半ゆっくりと歳を取るようになる。俺もだが、ならば好みの姿の時期に迎えねばな。それに俺もこの姿が一番男前だと信じている。きっと夏樹は俺を愛してくれるはずだ。そう話すと呆れたようなルイ。

「どんな自信やら……です。確かに男前ですが、夏樹様の好みもございましょうからね」
「ふふん。そこはきっと大丈夫と信じている。あの子だけ幼い頃から別に見えてたから」
「勘違いかもよ?」
「お前ねえ」

 まあいいや。夏樹様の背丈は今くらいからそう大きくもならぬでしょうから、準備はしておきますかねとルイ。

「そうして。人の世界の物はここでは使えないからさ」
「そうですね。スマホ、テレビなんかは無理ですね」

 お着物は標準的なものと少し華やかな物ですかね。かわいらしいですから、なんでも似合いそうですなあと。俺もそう思う。

「でも花嫁衣装で来るのでしょう?」
「うん。脱がすのが楽しみ」
「そこですか……」
「そこだろ。アレの用意しておいてくれ」
「アレとは?」
「言わせるのか?言ってもいいけど、初めてを楽にする薬な」
「……はい」

 夏樹が来るまで十年はない。俺たちにとってこの時間は長くもあり短くもある時間。ゆっくりその日が来るのを待とう。俺は座布団を二つに折り頭を乗せた。

「なにか掛けますか?」
「いや……うたた寝くらいで起きるから」
「さようですか。ですがね」

 そう言うとルイは立ち上がり、お腹に掛けとけって半纏を掛けてくれた。

「午後には紅様らが来る予定ですから」
「うん……覚えてる」

 小鳥のさえずりが心地良い。俺は朝の柔らかい日差しの中、夏樹の来る日を心待ちにしていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...