お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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花嫁〜獣の世界編

21 改めてこの世界のこと 1

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 僕らはこの後普通に生活し仲を深めた。一年目と特に代わり映えのある生活ではないけどね。そして数年が経った頃。

「そんな時期か」

 翠はわんわんから手渡された「豪華な巻物」のお手紙を読みため息。どうしたんだろ?以前も巻物のお手紙は時々来ていた。それは帝からのお手紙とか、宮中の祝い事とかのご案内。それに神と呼ばれる獣は年に一回帝にごあいさつの謁見がある。秋の中頃にね。でも今は春の初めで巻物(招待状)の時期としては変だな。

「なんなの?」
「ああ。天帝が来るんだ。その招待だ」
「え?天帝?帝と違うの?」
「天帝は我らの神。帝はその子供の筆頭でこの地の統治者。別人だ」

 前に話したろ?って。そういやそんなことを話してたような。きちんと話を聞こうとしたんだけど、なんか珠の下賜以降そんな雰囲気にもならずでね。僕らはふわふわした新婚気分でエッチしたり、人の世界の見回りとかお祭りに出向いたりとかしてた。深刻な話をする雰囲気は皆無でさ。僕は忘れていたんだ。

 ならばせっかくですので、改めてこの世界を説明しましょうとわんわん。お茶を運んできたついでだからと。

「その都度簡単な説明はしてまいりましたが、ここらできちんと説明した方が夏樹様も安心するでしょう」
「うん。でも翠が分かってるなら僕はその都度でも困りませんが」

 そうかもだけど、翠様が病で神社に行けないとかあったら、あなたが代わりに行かねばならない。お力を使って村に豊穣とよい縁談を後押しする役目がある。きちんと覚えなさいって。

「あのぉ……まだそこまで力はないと思われますが」
「その時やれる範囲でいいですよ。あなたのご親族もいるのですから、きちんとお役目を果たさないとね。あなたのそのお力は村人の信心の心が多分にあるのですから」
「はい……」

 わんわんは個々の成り立ちの前に、私たち使用人の立場をお話しましょう。現代ふうに分かりやすく説明します、まあここに座れと座布団を用意してくれる。僕はそこに座ると向かいにわんわんが腰を下ろした。

「私は家司けいし。西洋ふうに言うならば、家の筆頭執事であります」
「はい。それは……存じています」
「よろしい。私は翠様のお力が及ぶ範囲と、家の中を統括管理しております」

 わんわんは続けた。これは学校の講義と思って黙って聞け。分からないことはその都度。僕は神妙なわんわんに目の前にうなずいた。翠は僕の横に寝転び手を取ってスリスリしたりニギニギと指を絡める。なにしてんだか。

「翠。わんわんの話に集中出来ませんが」
「気にするな」

 ゴホンとわんわんは咳払いすると話し始めた。

 この世界は以前はただの動物が本能のままサバンナのように暮らしていた。肉は当然隣の人を襲い食べる。食物連鎖が当たり前だった。
 
 ある時天帝と我らが呼ぶ竜が来た。手に持つ宝珠から力を解放し動物を「獣」にしたそうだ。今考えても何の目的があったかは分からない。あの頃と何も変わらず今も特に手も口も出してこない。あるがままで放置スタイル。その時の天帝が望む生活スタイルを作り上げ今に至るらしい。

「天帝の竜とは何者なの?」
「分かりません。我らを人のような獣にして何の得があったかも分かりません」
「翠?」

 僕は寝転がる翠に顔を向けると彼も上を向く。手は握ったまま。

「そこは俺たちも分からない。竜種は同じだが我らは純粋な竜じゃない。天帝がこの世界の人と交わり生まれた子どもだ。だから天帝の子孫であることは間違いないらしい」
「へえ」

 翠を始め竜種の方はこちらの獣と混じって生まれたお方ばかり。それもそうで「竜」がこの世界にいないかららしい。

「あのさ。大元の疑問なのですが、竜は伝説の生き物でサバンナや山や森にはいませんよね?」
「そこですね。ですから不明な生き物なんですよ天帝は」

 こちらでも竜は伝説の生き物である。普通の動物ではないしか分からないそうだ。

「人の世界が我らの世界を認識できないように、我らも竜の世界が認識できない。そういうものとなっています」
「そうか……」

 そして天帝は百年に一度視察に来る。本気で視察と言っていい感じで世界を見回るそうだ。ほほう。自分が作り上げた世界を見に来るのか。

「前は俺が幼かったから謁見だけだった。俺たちの人型によく似た人だったよ」
「へえ」

 大勢の子孫たちが広間に集まり帝が代表でごあいさつ。狐やうさぎなど竜の姿が出なかった者は末席。子供も大人もなく末席で遠かったそうだ。よく見えんってのが感想。

「でも立ち去る時にな。全員の顔を見て歩いてくれるんだ。だからお顔は知ってるんだ」
「へえ」

 たくさんいる竜の子孫。広間には数百人に上る人がいる。少しずつのブロック分けになってて、そのすき間を練り歩くそうだ。そして、うんうんと満足そうに子孫を見つめ声を掛けるそうだ。

「俺たち姿が現れなかった者たちにも平等に笑顔をくれるんだ」
「へえ」

 かなりいい人っぽいな。ふとそんなことを言うと当然だそう。

「神と崇められ水の神として祀られているけど、世代が変わる度に能力が落ちる(信心関係なくその人独自の能力)竜もいる。困るなら分け与えようと力を最大限まで上げてくれるんだ」
「なにそれ」

 翠は当然そうに言うけど、何でもありなんだね天帝はと聞けば「出来ないことはない」らしい存在だそうだ。

「自分の子孫が愛しくて手助けしたいんだろうよ」
「ふーん。親心みたいなものか」
「たぶんな」

 わんわんは、帝はその世代で一番お力のある方が即位する。そして帝は天帝から宝珠を預かる方でもあり、この世界がつつがなく維持されるよう見張る役目があるそうだ。だから「帝」と呼ばれているそう。

「翠様の父君は帝よりお力がなかった。それだけなのですよ」
「ふーん」

 帝と父君は同じ父母からの兄弟ではない。帝は先代の帝とマムシの姫様のお子として生まれた五男の方だそう。父君はまた別の奥様からで、帝の地位は実力主義だそうだ。へえ……マムシの姫。強そうですね。わんわんは思い出し笑いをする。

「確かに勝ち気な姫だったそうですよ。今でもとても美しく威厳に満ちていたと伝わっております」
「ふーん」
「翠は会ったことあるの?」
「ない。今の帝の前だからな」

 竜は千年生きる、そこを考えろって。そうね。わんわんは続けますと咳払い。

「たくさんいる竜の子孫はこの世界を統べるお手伝いをしています。ゆるく区分されている地の責任者たちですね。そしてその下の役職とかかな。役人を統括する地位にいたり、翠様と同じ神社の水神として祭られています」
「そっか。たまに翠に似てる人いる見かけるよね」
「従兄弟やよく分からん身内でな。誰かも分からん奴らだ」
「酷い言い草」

 長い年月経ってて血筋と言われても仲がいいばかりでもない。家同士の付き合いもなく、ついでに話もしないそうだ。

「人もそうだろ?とっかで縁が切れれば付き合いもなくなり他人同然になる。同じだよ」

 翠はそこは人と同じ。わんわんの方が身内らしく、俺の眷属だから家族みたいなもんだしなあって。はい?眷属とはなんでしょう?僕は翠の言葉が気になった。言ってなかったっけ?と手をスリスリ。聞いてません。

「眷属は俺を死ぬまで支えてくれる部下と言うかな。家族であり家臣でもある。他人だけど一番近い人だな」
「僕より?」

 え?と二人。ハッなに言ってんの僕。「一番近い人」って言葉に嫉妬心が出たのか?いやいや……あの……僕は顔を手で隠した。自分の浅ましさが嫌だ。わんわんは翠の子供時代を知ってると言ってた。なら親みたいな……バカだ僕。子供の頃は女官みたいな立ち位置でもあったんだよね。親に嫉妬と同じじゃないか。

「ごめんなさい。聞かなかったことにして下さい」

 わんわんはアハハッと盛大に笑った。私はそんな立場じゃない。翠様よりかなり歳は上。兄とは言えないくらい離れている。そしてこの眷属契約は翠様が死ぬまで。契約により寿命が延ばされているから私もお二人とともに死ぬ。そういう契約だ。だから私は死ねない。お二人が歳を取り、お力がなくなるその時までお傍にいます。そう言ってくれた。

「わんわんは翠のお父さんみたいなもの?」
「そうですね。それと我が妻は二人目です。通常伴侶が死んでも珠の効果はなくならない。でも私は特別です。竜であり神である方の側近ですから」
「あん?」

 なにそれと手の方を向くと、僕の手に指を絡め口に運ぶ翠。チュッチュッと唇を当てる。なにしてんだよ。

「竜は少し別の力を持ってるんだ。相手が死ぬ、もしくは相手を代えることが出来る。だから父君と母君の繋がりが弱くなったんだ」
「奪われた母君は帝から珠を賜ったはず。強制的に強い方の珠が優先されて、弱い方はいずれ消えるのです」

 弱い方はいずれ消えるのか。二つの玉を貰うことは竜と言えどさすがに出来ない。だから弱い方は消滅し母君は帝のものになる。いつか父君に見向きもしなくなる。それが嫌だと弱った今ならば私に似た子が生まれるはず。だから子を産みたい……そう母君は願ったと翠は聞かされているそうだ。

「竜はこうして人の妻を完全に奪う。だから嫌われてもいるんだよ」
「そう……」

 神の獣だから出来るのではない。竜のみの特殊な力。他の獣は二個目の珠を受け取ることすら出来ないらしい。だからこの悲劇は起きたそうだ。僕は何とも言えない気分になっていた。


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