お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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花嫁〜獣の世界編

22 改めてこの世界のこと 2

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 僕は翠の両親の話に辛さも当然だけどモヤモヤもした。

 つーことはさ。僕をいらないと翠が言えば捨てられるってことでしょ?違う?そうだよね?そう考えてもおかしくないよね?その時僕の立場は?この屋敷から放り出されてどう生きていけばいいの?これから手に職つける?いつ捨てられてもいいように自活できるスキルは必要よね?僕事務仕事で書類作成と、たまの出張は新規立ち上げの事務の整備しか……うそ~ん。殺されなくても死ぬかも。

「どうしよう……僕に働き口あるかな。力仕事は向いていない気はするけど、この際そんなことは言っていられない。食堂や居酒屋、ホテルというか宿屋?でカウンターの中とかならいけるか?ダメなら木こりでも農作業でも……ひょろひょろを雇ってくれるかな?それも住み込みで……どうしよう。その時が来たら僕は……そうだ。紅様のお家で雇ってもらおう。あそこで洗濯とか家事のお仕事を……ならでき…」
「夏樹?夏樹ッ」

 パンっと手を叩かれた。へ?痛さに手を引っ込めた。

「なに考えてんだよ」
「え?口に出てました?」
「出てた。仕事したいの?」
「違います。お話聞いてたら僕は翠と最後まで一緒にいられないかもと思ったんだ。なら叩き出された時に働き口を考えておかなきゃかなってさ。捨てられた時運よく死ねなかったら困るでしょ?」
「はあ?なんの話?」

 呆れたような翠に渋々、頭に浮かんだ話をした。そうしたら二人とも大笑い。失礼だなこの人らは。

「面白いですね夏樹様」
「わんわんまで」

 明らかにバカにしている。でもさ、あり得るでしょ?と言えばわんわんはないないと笑う。

「では万が一ですが、新たな人を迎えることがあったとしましょう。ですがその方はあくまでも愛人でしかない。側室とも言うかな。翠様が愛し子をなすだけ。同じ寿命にはなりません」
「そうなの?」
「ええ。その方はご自分の寿命で死にますから。夏樹様は儀式で命の珠を飲んだでしょ?」

 僕の頭には「飲み込め」と口に入れられた珠の記憶が甦る。体がポカポカして幸せな気分になったんだ。

「あれは人生で一度だけしか出来ないのです。それも神の獣(人間を伴侶に迎えたとか、寿命が短めの人に与える)竜のみです。たくさんの人に分け与えることは出来ません」
「そうなんだ」
「帝は別。宝珠から特別な力が授かれますから」

 だから魂の珠だけは特別で下賜された人間を「御子」と呼ぶ。特別な人なんだとわんわんは言う。ちなみに、獣同士でも寿命に差がある場合、竜が少ない方に与えるそうだ。

「でも……御子でもいらなければ同じでしょ?お傍にいなくてもいいってことはさ。屋敷から出されたら翠が死ぬまで働かなくちゃならない。僕は人だから他の人から新たに珠も貰えないし、竜より強い人はいないだろうし」
「確かにもらえませんね。だそうですよ翠様」

 翠は起き上がり胡座をかいて僕を脚に入れる。夏樹って背中から抱きしめてくれる。

「俺は安易な気持ちで命の珠をお前に与えてはいない。生涯共にと言う気持ちで与えた」
「うん」
「俺にいつか好きな人ができるかもって心配か?」
「うん」

 なくはないだろう。そんな仲間は帝以外にも聞く、だがなあってと黙った。とろんとした目つきで僕の頬を撫でて、そして軽くキス。

「俺の友達から見れば夏樹のどこがいいんだ?取り柄のなさそうな男でさ。何かに秀でてるのか?それともエッチが上手いのか?とか言われたりもする」

 みんな正直だな、なにもないよ。未だに翠が僕のなにがよかったのか不明だよ。怖くて聞けずにいるけど。

「俺はお前がいい。そうやって相手の立場を思う心が好き。ここに連れてきた人間は相手を思いやる気持ちが強くてさ」

 いいように考えてくれる翠。それもあるけど自分の感情優先なんだよ。本音を言えばね。

「それもあるけど……嫌われたままここにいたくないんだ。新しい人と愛し合ってる姿を見たくないのが正直なところです」

 抱かれたままそう答えた。愛してる人が違う人に愛を囁く場面など見たくない。僕だけの翠でいて欲しいわがままな気持ちが出るんだ。動物の世界では一夫多妻は当然なんだろうけど。

 ここでは他人が冷たい目で見ることもなく、いて当たり前みたいな空気をこの数年で感じていた。相手に番の珠をあげなくても愛し合うことは可能だし、男女なら元々あげない人が多いらしいんだ。普通の人にしてみれば珠は独占欲を満たすためのアイテムでしかない。僕はそう認識していた。

「その認識であってるかな。浮気防止というか隠し子を作らせない……かな」
「でしょ?」
「俺のは違うよ」
「かもだけど……」

 実例がある以上不安は拭えない。神の獣であり竜である翠。ある意味なんでもありな狐。僕はとんでもない神のところに嫁に来たもんだ。でも今さら人の世界には帰れないし、なら手に職しかないでしょう。リスクマネジメントは大切だ。その時のための心構えもね。

 動物としての狐というか本能由来の考え方とか、天帝に連なる血筋であるからその竜由来の癖もあるだろうしさ。人には想像もつかない常識もまだあるだろうし。(人付き合いが限られていて、そこら辺を完全に理解していない)

 「怖い」この一言に尽きる。

 分からないことが多すぎるんだ。ここの人には常識でも人には非常識だったりする。人と似ているのにどこか違う。その違いが分からない、だから不安になる。翠がいるから笑えるんだ。いなかったら僕は笑える?新たに愛してくれる人が現れたら翠を忘れられる?

「無理かも……」
「何が無理?」

 翠に愛されなくなって隣にいなくなる恐怖。この世界にひとりぼっちになる恐怖。翠に愛されなくなってここから出される不安。そしていつか愛してくれる人が現れても僕は翠を忘れることは出来ない。そう感じている。ここに来た時からおかしいんだよ。相手しか見えないんだ。

「僕は翠を中心にここに来てから生きてきた。その他のことを今初めて考えたんだけど、怖いしか浮かばないんだ」

 僕の肩に頭を乗せてふーん。なんか楽しそうな「ふーん」である。ムカつく。

「あのね……僕バカだから翠に愛されないって想像がきちんとできてなかったんだ。ここに連れてくるくらい好かれてるからって、変な自信があったというか……その」
「それで?」

 それで?とは。ほら夏樹次は?と頭を撫でてくる。完全に楽しんでいるよね、これ。

「……この先も嫌われたくない」
「うん」

 愛情と保身がせめぎ合う。好きだから傍にいたいのは嘘じゃない。出ていくのは本意ではないし、この愛情を手放す気はない。最悪は想定するけど……見苦しい気持ちが浮かぶ。すでにかなり見苦しいからついでだ。

「どうすれば好きでいてくれる?卑屈な言葉だけど、翠が好き過ぎてこんな言葉しか浮かばないんだ。いつの間にか翠しか……翠がいいんだ」
「ふーん」

 わんわんのため息が聞こえた。翠の一族ならそれはないと言える、大丈夫だと言い切った。

「夏樹様。翠様は今後もあなた以外求めはしないでしょう。私は翠様を本当に赤ちゃんの頃から存じています。きっとそんな時は来ませんから」
「本当に?」

 わんわんはもちろんとうなずき、翠は優しげな声。

「もしそんな時が来たら働かなくても生きていける手当を出す。遊んで暮らせるようにしてやる。心配すんな」

 この言葉も嫌。絶対夏樹だけだよと言ってくれないのが嫌。心の中でムッスリした。顔に出ていたのか翠はクスクスと笑う。笑いごとじゃないよ。

「あのなあ。人の心なんて分かんないんだよ。俺が好きでもお前が出ていく場合もあるかもだろ」
「それはない。そう断言したいです」
「バーカ。人と一年の時は同じでも千年生きるんだぞ?わんわん以外の使用人はいつか代わる。このままじゃないし、紅たちも先に死ぬんだよ」

 竜は他より長い寿命があり長生きする。友を見送るのが当たり前である。ウサギとか草食獣は二百年弱で短命。猫とかタヌキなど神でもそれほどじゃない。我らは長生きなんだ。だからこそ心変わりの保証は出来ない。夏樹を愛したまま他の人となることもあるかもしれないんだ。そこは理解しろって。嫌だけど「はい」と返事した。

「永遠に番でいることの難しさは人の方が知っているはずだ」
「なんか術で縛れないんですかね」
「ないな。だから色恋は常に問題を起こすんだ」

 夏樹は失敗したら?とかよく言うが、そんなのその時考えればいいだろ?リスクマネジメントと言い張って悪いことばかり考える。なぜだって? なぜってあなたのせいだよ。

「色恋に関しては疑い深くなりました。振られまくっててね。女性というか、どこか恋人を信じきれてない……のかも」
「あ……ごめん」

 そういや大学を卒業してから告白されても自分から断ってたよなって、翠は思い出したようだ。そうだよ。告白するとことごとく断られたから、なら初めから恋人いらねって気分になってたんだ。まだその適齢期ではなくてと前向きな気持ちと、どーせ僕はダメ…なんだの気持ちが揺れ動いていた。ひとりが楽って気持ちに逃げ込んで、思い込むことにしてたんだ。

「翠が意地悪し過ぎたからこんななんだ。恋愛に対して後ろ向きになったのは翠のせいだ」
「ごめん。俺のにしたくて……ごめんよ」

 やれやれ。夏樹様が後ろ向きな考え方や、危機管理とやたら言う癖は翠様のせいか。薄々そうではと思ってたけどとわんわんは盛大にため息。

「これより千年弱かな。夏樹様だけになさいませ。心変わりの兆候が見えたら私が主をシバきます。可哀想です夏樹様がね」
「ごめん夏樹。嘘に聞こえるだろうがお前だけだよ」
「うん。努力して」
「するから」

 話がそれたけどここも大事な話である。死ぬまで大切にしてもらう言質は人前で取らなければ不安だ。家族同然のわんわんのいるところでよかったよ。



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