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花嫁〜獣の世界編
24 町歩き
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さてさて翠がいなくなり早十日。
「わんわん暇なんだけど。お昼寝も飽きたし、エッチしないから体力余ってます」
「夏樹様……はしたないことを口にしないの」
暇すぎてわんわんに話し相手になってもらってるんだ。僕は縁側で足をプラプラしてお外を眺めていた。二人でお茶して栗まんじゅう食べるだけ。わんわんはフンと鼻を鳴らし、
「人っぽくありません。人はエッチなことは人前で話さないのではないのですか?恥じらいはどこに旅行に行きましたか?」
「僕は人間種という獣になりました。動物です」
「はいはい。ここは馴染まなくていいのに。まったく」
外は春の初め。山菜のフキノトウが雪から顔を出すくらいだから山は楽しくない。他の山菜はまだ少ないし、なにしましょうかねとわんわんは考え込む。
「映画は?」
「あたらしいのはほぼ観ました。本はもう少し取っておきたいかな。まだ翠は帰らないだろうし」
「なら町に遊びに行きますか。暇つぶしになにか買ってきましょうかね」
「行く!」
暇すぎて縁側でわんわんとおしゃべりばかり。びっくりだよね。翠がいないだけでやることないんだよ。いつも隣で遊んでたから。お仕事手伝ったり(書道の練習とも言う。正式文書は未だに筆)視察という名の山歩きをしたり、神社に詰めたり。隣に翠がいるだけで時間なんて忘れていたんだ。
「神様は忙しいのに時間の使い方が優雅だよね」
「そうですなあ。あくせくは働かないですね。ゆったり気ままにかな。やることやったらダラダラするのです」
「ふーん」
季節の流れを楽しみ、月や花を愛でる。友達との語らいを楽しみ妻を愛でる。それだけで手一杯。それくらいでいいそうだ。
「夏樹様もお子様が出来れば忙しくなりますよ」
「ああ……まだ翠がいればいい。今はね」
こんな話をしながらお着替え。自分で着れるようになったんど。さすがに数年して着れないとかはない。羽織に袖を通し終わり。
「フフッ若旦那の出来上がりですね」
「似合う?」
着付けがおかしくないかチェックしながら、わんわんにも見てもらう。
「大丈夫、よくお似合いです」
「そう?よかった」
春先だから明るめの紅が入ったようなベージュ色の定番の格子柄。色はこちらの方が人の世界より華やかで、男性でも真っ赤とか真っ黄色、緑とか女性並みの色や柄が多い。でもここは人の性というか、派手な色は腰が引けるんだよね。
「似合うのに」
「ここはその育った世界の違いでさ。男性はこの色って気分が抜けないんだよ」
「ふーん。もったいないですな。作ってはありますので気分になりましたら出しますよ」
「はーい」
そして猫のマオも護衛に連れて町歩き。木造建築が大半の世界で古い町並み。でも今ふうもある不思議な町なんだ。歩いていると護衛の話になり、わんわんも強いよってマオ。わんわんは護衛を専門にしてる人には敵わないと笑い、マオは手加減できねえからなと笑う。ええ?
「当たり前です。護衛はその加減ができてこその仕事。私が戦ったら意味がないです」
「わんわんは強いけど、凄惨な現場を作るから後がめんどくさいのよ」
「そっかアハハッ」
この世界は日本が基準。日本の動物の世界で外来の動物はいないらしい。確かに見慣れた動物ばかりで見当たらない。
「だからトラとかライオンと対峙することはない。ヒグマとかエゾシカとかは危険。私でもかなり苦戦します」
「だろうね。本土とはサイズ違うし」
などと言いながら牛の串焼きやクレープを食べ歩きは楽しい。若い娘さん達が雑貨のお店にたくさんいたりしてね。人の世界と遜色はなく、呉服屋さんはもちろんだ。
「そういや学校は?どうやって読み書き覚えるの?」
「それは俗に言う寺子屋ですね。町のあちこちにあり、できる人が教えるんです」
「ふーん。お寺があるの?」
「人ふうに言えばですよ。ここの神様は天帝ですから天帝を祀る神社のみ。寺はありません。習い処と呼ばれてますよ」
「そうだよね……」
ここは一神教で王様のように尊敬を集め、お盆にあたる時期にお祭りがあるのみだ。
「貴族が祀っていますね。竜が神主を代々務めます」
「神主さん人型だったね」
ん?……目の前に見慣れた、ここでは変な店発見。どう見ても洋服屋さん。人の世界のスカートとかブラウスとか男女混じってるけどある。あれなに?とわんわんに聞けば、最近流行りだしてるマイナーなもの。でも若い方に人気だそうだ。仮装(コスプレ)に近いかなって。人の世でも奇抜な人いるでしょ?あれって。中央の都(帝の住む場所)ではかなり広がってるらしい。
「僕には馴染みしかないけどね」
「着ます?ここではめちゃくちゃ目立ちますが」
「いいえ結構です」
人ってだけでジロジロ見られてんのに、さらに目立ってどうすんの。生活しにくくなるだけだよ。この近くに翠たち神様以外にも人間がいる。そう認識されてスルーしてくれるのを待ってんのに嫌だよ。
「それに着物も慣れれば問題ないしね。でもパンツは……」
「それ却下。私が翠様に叱られます」
なんでよぉとわんわんを見下ろしたけど無視された。クソッ
「なら着物を見に行きますか?反物を見てね」
「それいいね。でもあちこちに仕立てられたのがたくさん売ってるよ?」
「既製品もいいですけど、体に合った物の方が着た時素敵ですから」
「高くない?」
「そこは気にしなくていいです」
そして一軒の呉服屋さんに入る。わんわん行きつけだそうだ。僕らの着物もここで仕立ててくれてるそうで老舗っぽいです。店構えが江戸時代の大店のお店のよう。のれんをくぐると、
「いらっしゃいませ。ルイ様」
「あ、わんわんルイって名前だったわ」
「お忘れですか?今からルイと呼んでくださってもいいのですが」
「ごめん。わんわんで」
そしてイタチの店員さんは御子様のお召し物ですか?と手を揉みなからニコニコ。
「さあお上がり下さいませ」
呉服屋さんだから三和土から草履を脱いで畳の場所に上がる。広い店内は数人の客が反物を体に当てている。ヒソヒソと人だ、翠様のところの嫁だってと聞こえた。人をよく思っていないような声色だ。今どき人から嫁とか酔狂なとかってヒソヒソは続く。
「こちらへどうぞ」
「はい」
反物の並ぶ棚にどうぞと店員さん。噂話など気にしちゃダメだ。僕は前を向いてお店の人の説明を聞いた。わんわんもいろんな人がいますから気にするなと耳打ちしてくれ僕はうなずく。そしてお店の人が薦めてくれる物の中からいくつか選んだ。
「今お持ちのと似てませんか?定番以外にも揃えられるといいと思いますよ」
「そっかな」
店員さんの選ぶものは華やかである。極彩色のグラデーションとか幾何学模様の大ぶりでちょっと腰が引ける。色は置いといて、柄は昔からの定番が好きかな。そうですか?似合うのにとまた棚に探しに行く。
「夏樹様地味ですな。翠様は朱色とか金と黒とかの派手派手を好みますのに」
「いえ……僕はその、そういった物と縁のない生活をしておりましたので」
「ふーん。ではこちらの小鳥の柄は?」
「あ、かわいい」
「でしょう?」
海老茶色の地に裾に小さなツバメの柄。これくらいならいいかも。さっきの反物の中には細かい小紋ぽいニワトリ柄とかあったし、裾にドンとデカいニワトリとかクジャクとか。完全に腰が引いた。
「これからの季節のものですね。お似合いです」
「そう?わんわんこれは?」
「いいですね」
店員さんとわんわんと楽しく反物を選んでいる。一緒に来たマオは店に上がらず外を見ている。横顔も普段と違い、若草色の瞳は獲物を見るような目でとてもかっこいい。あくびして寝てる姿とは違い、これが彼の本来の姿なんだろう。その間に店員さんが別の反物をいくつか出してくれた。
「朝顔の薄い藍色のものです。全体に藍ですのでそこまで派手でもないですね。それにこの世界では男性もこのように花柄を纏います。いかかです?」
すかさずわんわんがこれもと。え、わんわん?と驚いてみてしまった。そして僕を無視。
「お出かけに着ましょう」
「……はい」
「それと浴衣が見たいですね」
「かしこまりました。少々お待ちを」
僕は裏に下がった店員さんが見えなくなると、
「わんわん。浴衣は去年お祭りのために作ったよ。もったいないよ」
「去年のは地味でした。今年こそは!」
「え?」
毎年神社で天帝祭りがある。盆踊り?と町外れに川があってね。願いや厄災を乗せた灯籠を流すんだ。この灯籠流しは東の地区しかやらないらしいとわんわんに教わった。幻想的で美しく、屋台もたくさん出て楽しいんだ。昨年は屋敷の人みんなで参加して楽しかった思い出。
「ルイ様、今年は華やかな物がたくさんありますよ」
店員さんの腕にはいろとりどり……それ違うだろ。僕が女性用では?と聞けば男性用だと。へえ、文化の違いが腕にいっぱいだな。
「朝顔、牡丹、桔梗と花柄は充実しております。定番柄もありますが御子様はお持ちでしょ?」
「……ええ」
楽しそうに広げてくれると桃とかもある。それも地の色も藍色から黒、ピンク黄色に緑。真っ赤まである。うんいらねって気分。察したわんわんは僕を無視し勝手に店員さんと話し込む。
「これはどうでしょう?」
「ウッ」
でっけえオニヤンマ柄……嫌だよ。これはない。真正面にデデーンと描かれてて、細かく全部にトンボで怖いわ。僕の引いてるのに気が付き、いいと思ったのにって。イタチの店員さんの困り顔かわいい。じゃねえよ、これはない。
「桃はかわいいですね。これを」
「かしこまりました。落ち着いたピンクはいいですよね」
……ピンクになりました。一番まともそうではあるけどさ。女の子用にしか見えん。後ろに狸の男性がいて、真っ赤なダリアの花の物を当てている。うん……まだいいか。
「お仕立ては二週間ほど。お着物の方はもう少し掛かります」
「構わん。出来たら取りに来させるから」
「いえいえ。お届けに参ります。他の方もいかがです?」
わんわんは入口付近で警戒していたマオに声を掛ける。
「お前着物の新調の予定は?」
「あ?そうだなあ。少しなら」
振り返ったマオは、正月妻の実家に行かないとだもんなあって。すると店員さんはならば反物持参で伺います。皆様お出かけしませんからねと店員さんは商売になると目が光る。わんわんはうちは少人数だが十人近くいる。仕事になるんだと教えてくれた。
仕事着は仕立て上がりの市販でもいいが、身内への正月のあいさつ回りや祝い事もある。役人のくせに新調も出来ないの?とか言われ、毎年作る人が多いらしい。仕立ては時間が掛かり(手縫いだからね)春先から考えないと間に合わないそうだ。
「身内の付き合いはこちらでもあるのですよ」
「ふーん」
てな感じでお買い物は終わり。その後翠のお店で遅いお昼をいただき、果物の串を三人分買って歩きながら食べる。僕はパイナップル、二人はイチゴやリンゴ。
「食べ歩きもたまにはいいな」
「でしょう。楽しいよね」
マオはこんなふうな護衛は今までなかったそうだ。遊んでるみたいで楽しいと食べている。そして何ごともなく帰宅。とても楽しかったが、あの浴衣はどうなんだろ。ものすごく不安だ。
「わんわん暇なんだけど。お昼寝も飽きたし、エッチしないから体力余ってます」
「夏樹様……はしたないことを口にしないの」
暇すぎてわんわんに話し相手になってもらってるんだ。僕は縁側で足をプラプラしてお外を眺めていた。二人でお茶して栗まんじゅう食べるだけ。わんわんはフンと鼻を鳴らし、
「人っぽくありません。人はエッチなことは人前で話さないのではないのですか?恥じらいはどこに旅行に行きましたか?」
「僕は人間種という獣になりました。動物です」
「はいはい。ここは馴染まなくていいのに。まったく」
外は春の初め。山菜のフキノトウが雪から顔を出すくらいだから山は楽しくない。他の山菜はまだ少ないし、なにしましょうかねとわんわんは考え込む。
「映画は?」
「あたらしいのはほぼ観ました。本はもう少し取っておきたいかな。まだ翠は帰らないだろうし」
「なら町に遊びに行きますか。暇つぶしになにか買ってきましょうかね」
「行く!」
暇すぎて縁側でわんわんとおしゃべりばかり。びっくりだよね。翠がいないだけでやることないんだよ。いつも隣で遊んでたから。お仕事手伝ったり(書道の練習とも言う。正式文書は未だに筆)視察という名の山歩きをしたり、神社に詰めたり。隣に翠がいるだけで時間なんて忘れていたんだ。
「神様は忙しいのに時間の使い方が優雅だよね」
「そうですなあ。あくせくは働かないですね。ゆったり気ままにかな。やることやったらダラダラするのです」
「ふーん」
季節の流れを楽しみ、月や花を愛でる。友達との語らいを楽しみ妻を愛でる。それだけで手一杯。それくらいでいいそうだ。
「夏樹様もお子様が出来れば忙しくなりますよ」
「ああ……まだ翠がいればいい。今はね」
こんな話をしながらお着替え。自分で着れるようになったんど。さすがに数年して着れないとかはない。羽織に袖を通し終わり。
「フフッ若旦那の出来上がりですね」
「似合う?」
着付けがおかしくないかチェックしながら、わんわんにも見てもらう。
「大丈夫、よくお似合いです」
「そう?よかった」
春先だから明るめの紅が入ったようなベージュ色の定番の格子柄。色はこちらの方が人の世界より華やかで、男性でも真っ赤とか真っ黄色、緑とか女性並みの色や柄が多い。でもここは人の性というか、派手な色は腰が引けるんだよね。
「似合うのに」
「ここはその育った世界の違いでさ。男性はこの色って気分が抜けないんだよ」
「ふーん。もったいないですな。作ってはありますので気分になりましたら出しますよ」
「はーい」
そして猫のマオも護衛に連れて町歩き。木造建築が大半の世界で古い町並み。でも今ふうもある不思議な町なんだ。歩いていると護衛の話になり、わんわんも強いよってマオ。わんわんは護衛を専門にしてる人には敵わないと笑い、マオは手加減できねえからなと笑う。ええ?
「当たり前です。護衛はその加減ができてこその仕事。私が戦ったら意味がないです」
「わんわんは強いけど、凄惨な現場を作るから後がめんどくさいのよ」
「そっかアハハッ」
この世界は日本が基準。日本の動物の世界で外来の動物はいないらしい。確かに見慣れた動物ばかりで見当たらない。
「だからトラとかライオンと対峙することはない。ヒグマとかエゾシカとかは危険。私でもかなり苦戦します」
「だろうね。本土とはサイズ違うし」
などと言いながら牛の串焼きやクレープを食べ歩きは楽しい。若い娘さん達が雑貨のお店にたくさんいたりしてね。人の世界と遜色はなく、呉服屋さんはもちろんだ。
「そういや学校は?どうやって読み書き覚えるの?」
「それは俗に言う寺子屋ですね。町のあちこちにあり、できる人が教えるんです」
「ふーん。お寺があるの?」
「人ふうに言えばですよ。ここの神様は天帝ですから天帝を祀る神社のみ。寺はありません。習い処と呼ばれてますよ」
「そうだよね……」
ここは一神教で王様のように尊敬を集め、お盆にあたる時期にお祭りがあるのみだ。
「貴族が祀っていますね。竜が神主を代々務めます」
「神主さん人型だったね」
ん?……目の前に見慣れた、ここでは変な店発見。どう見ても洋服屋さん。人の世界のスカートとかブラウスとか男女混じってるけどある。あれなに?とわんわんに聞けば、最近流行りだしてるマイナーなもの。でも若い方に人気だそうだ。仮装(コスプレ)に近いかなって。人の世でも奇抜な人いるでしょ?あれって。中央の都(帝の住む場所)ではかなり広がってるらしい。
「僕には馴染みしかないけどね」
「着ます?ここではめちゃくちゃ目立ちますが」
「いいえ結構です」
人ってだけでジロジロ見られてんのに、さらに目立ってどうすんの。生活しにくくなるだけだよ。この近くに翠たち神様以外にも人間がいる。そう認識されてスルーしてくれるのを待ってんのに嫌だよ。
「それに着物も慣れれば問題ないしね。でもパンツは……」
「それ却下。私が翠様に叱られます」
なんでよぉとわんわんを見下ろしたけど無視された。クソッ
「なら着物を見に行きますか?反物を見てね」
「それいいね。でもあちこちに仕立てられたのがたくさん売ってるよ?」
「既製品もいいですけど、体に合った物の方が着た時素敵ですから」
「高くない?」
「そこは気にしなくていいです」
そして一軒の呉服屋さんに入る。わんわん行きつけだそうだ。僕らの着物もここで仕立ててくれてるそうで老舗っぽいです。店構えが江戸時代の大店のお店のよう。のれんをくぐると、
「いらっしゃいませ。ルイ様」
「あ、わんわんルイって名前だったわ」
「お忘れですか?今からルイと呼んでくださってもいいのですが」
「ごめん。わんわんで」
そしてイタチの店員さんは御子様のお召し物ですか?と手を揉みなからニコニコ。
「さあお上がり下さいませ」
呉服屋さんだから三和土から草履を脱いで畳の場所に上がる。広い店内は数人の客が反物を体に当てている。ヒソヒソと人だ、翠様のところの嫁だってと聞こえた。人をよく思っていないような声色だ。今どき人から嫁とか酔狂なとかってヒソヒソは続く。
「こちらへどうぞ」
「はい」
反物の並ぶ棚にどうぞと店員さん。噂話など気にしちゃダメだ。僕は前を向いてお店の人の説明を聞いた。わんわんもいろんな人がいますから気にするなと耳打ちしてくれ僕はうなずく。そしてお店の人が薦めてくれる物の中からいくつか選んだ。
「今お持ちのと似てませんか?定番以外にも揃えられるといいと思いますよ」
「そっかな」
店員さんの選ぶものは華やかである。極彩色のグラデーションとか幾何学模様の大ぶりでちょっと腰が引ける。色は置いといて、柄は昔からの定番が好きかな。そうですか?似合うのにとまた棚に探しに行く。
「夏樹様地味ですな。翠様は朱色とか金と黒とかの派手派手を好みますのに」
「いえ……僕はその、そういった物と縁のない生活をしておりましたので」
「ふーん。ではこちらの小鳥の柄は?」
「あ、かわいい」
「でしょう?」
海老茶色の地に裾に小さなツバメの柄。これくらいならいいかも。さっきの反物の中には細かい小紋ぽいニワトリ柄とかあったし、裾にドンとデカいニワトリとかクジャクとか。完全に腰が引いた。
「これからの季節のものですね。お似合いです」
「そう?わんわんこれは?」
「いいですね」
店員さんとわんわんと楽しく反物を選んでいる。一緒に来たマオは店に上がらず外を見ている。横顔も普段と違い、若草色の瞳は獲物を見るような目でとてもかっこいい。あくびして寝てる姿とは違い、これが彼の本来の姿なんだろう。その間に店員さんが別の反物をいくつか出してくれた。
「朝顔の薄い藍色のものです。全体に藍ですのでそこまで派手でもないですね。それにこの世界では男性もこのように花柄を纏います。いかかです?」
すかさずわんわんがこれもと。え、わんわん?と驚いてみてしまった。そして僕を無視。
「お出かけに着ましょう」
「……はい」
「それと浴衣が見たいですね」
「かしこまりました。少々お待ちを」
僕は裏に下がった店員さんが見えなくなると、
「わんわん。浴衣は去年お祭りのために作ったよ。もったいないよ」
「去年のは地味でした。今年こそは!」
「え?」
毎年神社で天帝祭りがある。盆踊り?と町外れに川があってね。願いや厄災を乗せた灯籠を流すんだ。この灯籠流しは東の地区しかやらないらしいとわんわんに教わった。幻想的で美しく、屋台もたくさん出て楽しいんだ。昨年は屋敷の人みんなで参加して楽しかった思い出。
「ルイ様、今年は華やかな物がたくさんありますよ」
店員さんの腕にはいろとりどり……それ違うだろ。僕が女性用では?と聞けば男性用だと。へえ、文化の違いが腕にいっぱいだな。
「朝顔、牡丹、桔梗と花柄は充実しております。定番柄もありますが御子様はお持ちでしょ?」
「……ええ」
楽しそうに広げてくれると桃とかもある。それも地の色も藍色から黒、ピンク黄色に緑。真っ赤まである。うんいらねって気分。察したわんわんは僕を無視し勝手に店員さんと話し込む。
「これはどうでしょう?」
「ウッ」
でっけえオニヤンマ柄……嫌だよ。これはない。真正面にデデーンと描かれてて、細かく全部にトンボで怖いわ。僕の引いてるのに気が付き、いいと思ったのにって。イタチの店員さんの困り顔かわいい。じゃねえよ、これはない。
「桃はかわいいですね。これを」
「かしこまりました。落ち着いたピンクはいいですよね」
……ピンクになりました。一番まともそうではあるけどさ。女の子用にしか見えん。後ろに狸の男性がいて、真っ赤なダリアの花の物を当てている。うん……まだいいか。
「お仕立ては二週間ほど。お着物の方はもう少し掛かります」
「構わん。出来たら取りに来させるから」
「いえいえ。お届けに参ります。他の方もいかがです?」
わんわんは入口付近で警戒していたマオに声を掛ける。
「お前着物の新調の予定は?」
「あ?そうだなあ。少しなら」
振り返ったマオは、正月妻の実家に行かないとだもんなあって。すると店員さんはならば反物持参で伺います。皆様お出かけしませんからねと店員さんは商売になると目が光る。わんわんはうちは少人数だが十人近くいる。仕事になるんだと教えてくれた。
仕事着は仕立て上がりの市販でもいいが、身内への正月のあいさつ回りや祝い事もある。役人のくせに新調も出来ないの?とか言われ、毎年作る人が多いらしい。仕立ては時間が掛かり(手縫いだからね)春先から考えないと間に合わないそうだ。
「身内の付き合いはこちらでもあるのですよ」
「ふーん」
てな感じでお買い物は終わり。その後翠のお店で遅いお昼をいただき、果物の串を三人分買って歩きながら食べる。僕はパイナップル、二人はイチゴやリンゴ。
「食べ歩きもたまにはいいな」
「でしょう。楽しいよね」
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