2 / 19
2.聖女と魔女のプロローグ
しおりを挟む
建国から約3000年を迎えるアトレスリーズ帝国と、手と手を取り合うように同じく、世襲によって統治してきたシャングリラ王国。
二つの島国の周りでは季節台風が大海を荒らした。
海を隔てた大陸では、近代化とともに精霊が減少、魔法を中心としていた世界が大変革期を迎え、科学と金融の経済社会へと変わる、世界大恐慌の真っ只中。
そんな大陸の、事情も情報も正確には届かない二つ国。
今も精霊が多くの国民と契約を交わす、魔法と豊穣の封権社会。
建国神の依代とされる三種の剣璽を、二つ国で分けて保管している事から、二つ国は精霊から愛され授かる祝福を、祝福の儀式にて剣璽で認証する、それ故に二つ国の平和は保たれてきた。
噴火したマグマから生まれた赤い瓊瓊勾玉と、退治された化け物の骨を玉鋼のようにたたら鍛治で鍛えられた黒い叢雲剣は、剣璽なので二つ国で分けられた。
残るひとつ。
人差し指と中指を添え広げた親指までの長さを測る仕草「あた」は、今も魔法を使う際に構える型として普及しているが、「あた」の8倍の大きさがある事から名付けられた青い「八咫鏡」は、シャングリラ王国に生まれる巫女が、八咫鏡を通ってもうひとつの剣璽の所へ瞬時に移動出来る、神話の時代に作られた魔道具である。
剣璽がある限り、二つ国の同盟が揺るぐことは決して無い。
八咫鏡は瓊瓊勾玉とともにシャングリラ王国で保管され、叢雲剣はアトレスリーズ帝国が保管していた。
しかし近年アトレスリーズ帝国では、珍しく聖女が生まれてくる。
聖女といえば、神話時代にシャングリラ王国で栄華を極めた、巫女の帝国での呼び名だが。
シャングリラでは長らく巫女は生まれなくなり、アトレスリーズで聖女が生まれてくるようになった。
それに伴って八咫鏡も、シャングリラからアトレスリーズへと贈答された過去がある。
現在、瓊瓊勾玉をシャングリラ王国が保管、八咫鏡と叢雲剣をアトレスリーズ帝国の教会が保管している。
しかし、問題が起きた。
聖女が生まれてくるようになったこの約300年のアトレスリーズ帝国では、聖女を持て余していた。
聖女が生まれるのは、帝国の建国時から忠臣派の頂点に立つバルドー公爵家。
バルドー公爵家は代々その娘を皇太子妃としてきた。
しかし国としては隣国に嫁がせたい、聖女を巫女として送り、隣国に貸しを作りたいという新興派が増えていた。そこには、バルドー公爵家の聖女を排除し、皇太子妃の座を手に入れるという思惑も透けて見える。
バルドー公爵家を目の敵にしている、シャクター侯爵家もまた、何やら不穏な動きをみせている。
シャクター侯爵家とは、代々医学博士を輩出する忠臣派であるが、爵位を継いだロバート・シャクター卿は、教会に従事し、枢機卿でありながらギデオン魔法学院理事も務める野心家である。
バルドー公爵家に娘が生まれなかった時代は、忠臣派の侯爵家から皇太子妃が選ばれる格式があるのだが、勿論、野心家のシャクター卿が大人しく黙っているはずも無く、幾度となく手を回し尽く裏目に出るという結果に。そこに明らかなシャクター家排除の何らかの力が向けられているであろう事は軽く推測できるものの、誰一人、得体の知れない影に怯えて口にする事は無い。
ある子爵家では、ある伯爵家の茶会から帰った後、夫人は原因不明の高熱に意識不明となり一週間寝込んでいた。またある伯爵家では、次男が訓練中の事故で指を3本切断かと思われたが皮一枚残して何とか接合、原因には、「真剣」の祝福を持つ騎士副団長の暴発によると収められた。そのどちらも、娘でなくて良かった、嫡男でなくて助かった、と噂された。
そうして、事の核心には誰もが口を閉ざす中。
忠臣派でありながら一度すら選ばれる事が無かったシャクター侯爵家は、バルドー公爵家の陰謀だ職権濫用だと騒ぎ、逆怨みで小さな嫌がらせを繰り返し迷惑を被っている貴族の苦情が、バルドー公爵の耳にだけでなく皇帝の手元にも寄せられる数が増えた。真、迷惑な小物だったが無視出来ない事情も存在した。
さて、私怨を拗らせるシャクター卿をどうするかと思案する、公爵と皇帝の元へ、感情の読み取れない細い目の使者が現れ、一通の、カモミールが香る手紙を置いていったのである。
二つの島国の周りでは季節台風が大海を荒らした。
海を隔てた大陸では、近代化とともに精霊が減少、魔法を中心としていた世界が大変革期を迎え、科学と金融の経済社会へと変わる、世界大恐慌の真っ只中。
そんな大陸の、事情も情報も正確には届かない二つ国。
今も精霊が多くの国民と契約を交わす、魔法と豊穣の封権社会。
建国神の依代とされる三種の剣璽を、二つ国で分けて保管している事から、二つ国は精霊から愛され授かる祝福を、祝福の儀式にて剣璽で認証する、それ故に二つ国の平和は保たれてきた。
噴火したマグマから生まれた赤い瓊瓊勾玉と、退治された化け物の骨を玉鋼のようにたたら鍛治で鍛えられた黒い叢雲剣は、剣璽なので二つ国で分けられた。
残るひとつ。
人差し指と中指を添え広げた親指までの長さを測る仕草「あた」は、今も魔法を使う際に構える型として普及しているが、「あた」の8倍の大きさがある事から名付けられた青い「八咫鏡」は、シャングリラ王国に生まれる巫女が、八咫鏡を通ってもうひとつの剣璽の所へ瞬時に移動出来る、神話の時代に作られた魔道具である。
剣璽がある限り、二つ国の同盟が揺るぐことは決して無い。
八咫鏡は瓊瓊勾玉とともにシャングリラ王国で保管され、叢雲剣はアトレスリーズ帝国が保管していた。
しかし近年アトレスリーズ帝国では、珍しく聖女が生まれてくる。
聖女といえば、神話時代にシャングリラ王国で栄華を極めた、巫女の帝国での呼び名だが。
シャングリラでは長らく巫女は生まれなくなり、アトレスリーズで聖女が生まれてくるようになった。
それに伴って八咫鏡も、シャングリラからアトレスリーズへと贈答された過去がある。
現在、瓊瓊勾玉をシャングリラ王国が保管、八咫鏡と叢雲剣をアトレスリーズ帝国の教会が保管している。
しかし、問題が起きた。
聖女が生まれてくるようになったこの約300年のアトレスリーズ帝国では、聖女を持て余していた。
聖女が生まれるのは、帝国の建国時から忠臣派の頂点に立つバルドー公爵家。
バルドー公爵家は代々その娘を皇太子妃としてきた。
しかし国としては隣国に嫁がせたい、聖女を巫女として送り、隣国に貸しを作りたいという新興派が増えていた。そこには、バルドー公爵家の聖女を排除し、皇太子妃の座を手に入れるという思惑も透けて見える。
バルドー公爵家を目の敵にしている、シャクター侯爵家もまた、何やら不穏な動きをみせている。
シャクター侯爵家とは、代々医学博士を輩出する忠臣派であるが、爵位を継いだロバート・シャクター卿は、教会に従事し、枢機卿でありながらギデオン魔法学院理事も務める野心家である。
バルドー公爵家に娘が生まれなかった時代は、忠臣派の侯爵家から皇太子妃が選ばれる格式があるのだが、勿論、野心家のシャクター卿が大人しく黙っているはずも無く、幾度となく手を回し尽く裏目に出るという結果に。そこに明らかなシャクター家排除の何らかの力が向けられているであろう事は軽く推測できるものの、誰一人、得体の知れない影に怯えて口にする事は無い。
ある子爵家では、ある伯爵家の茶会から帰った後、夫人は原因不明の高熱に意識不明となり一週間寝込んでいた。またある伯爵家では、次男が訓練中の事故で指を3本切断かと思われたが皮一枚残して何とか接合、原因には、「真剣」の祝福を持つ騎士副団長の暴発によると収められた。そのどちらも、娘でなくて良かった、嫡男でなくて助かった、と噂された。
そうして、事の核心には誰もが口を閉ざす中。
忠臣派でありながら一度すら選ばれる事が無かったシャクター侯爵家は、バルドー公爵家の陰謀だ職権濫用だと騒ぎ、逆怨みで小さな嫌がらせを繰り返し迷惑を被っている貴族の苦情が、バルドー公爵の耳にだけでなく皇帝の手元にも寄せられる数が増えた。真、迷惑な小物だったが無視出来ない事情も存在した。
さて、私怨を拗らせるシャクター卿をどうするかと思案する、公爵と皇帝の元へ、感情の読み取れない細い目の使者が現れ、一通の、カモミールが香る手紙を置いていったのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる