聖女と魔女

蘭爾由

文字の大きさ
16 / 19

01.聖女は祈り続ける

しおりを挟む
付記 ◇◆ プロローグ1と2を読み直し推奨。聖女本文が繋がっています。

 ◇
 ◆

01.聖女は祈り続ける


常闇を抜けてクリストファーが部屋に着くと、ベッドメイキングされてあった。

何もない部屋だが埃臭さがなくなっている。

石壁がぽっかりと空いた穴のような窓の外、雲が月明かりを隠し、部屋は暗闇に閉ざされる。

暗闇の中で……ギィ……と、ベッドの軋む音が寂しく鳴り響いた。

 ◇
 ◆

十数年前、当時3歳だったクリストファー王子は祝福を授かり「帝王」のスキルを持った。

スキルは魔法や武術とは異なり「才」と呼ばれるもので、帝王の糧となる全ての知識が水のように得られ、見通す力である。

この力のおかげで当時3歳のクリストファーは、王位継承第一王太子の座に輝いていた。

シャングリラ国王家に巫女が生まれなくなって数百年、王族派と貴族派の力関係が目に見えて拮抗し始めた。

そこに授けられた帝王のスキル。

王族の血を受け継ぐ公爵家でありながら常に二番手でしかなかったゴールドマン公爵は、やっと築き上げてきた権力の失墜に震える日々。

公爵夫人の妊娠が報告された。

男は嫡男以外にもう二人いる。次は女だ。女以外は放逐すると夫人はゴールドマン公爵に言い渡された。

ゴールドマン公爵は言葉通り、生まれる予定の娘と、生まれたばかりの第一王太子の婚約の確約をこぎつけた。

賭けだった。

クリストファー殿下が生まれて半年後、ゴールドマン公爵家に生まれた女の子はクレアと名付けられた。

娘が3歳となって祝福を授かると、ゴールドマン公爵は妙計を練った。

生まれながらにクリストファー殿下の婚約者と定められた娘の為と、ゴールドマン公爵は国王に契りの指輪の交換を求めたのだ。

自分から皇太子妃候補を望んでおきながら今更な心配事ではあったが、ゴールドマン公爵の狙いはそこではない。

契りの指輪とは、ドラゴンの心臓が鉱物になった結晶を二つに分け研磨した宝石をつけた対の指輪のことで、この指輪をつけて互いの魔力を流すと感覚共有され、宝石が壊れるまで指輪は外れず、番以外と交わると宝石が壊れるので、婚約指輪として社交界で流行っていた。

勿論、婚約指輪が壊れればその時点で問答無用の有責による婚約破棄、慰謝料倍でドン、王太子の名誉失墜、人生終了、感覚共有バンザーイ!

ゴールドマン公爵の狙いは、この感覚共有だ。

この感覚共有が曲者だった。

快楽には反応しなかったのだ。

政治的婚姻が主流の社交界では膣への陰茎挿入が交わりとされ、快楽の追求に指輪は反応しなかった。

公爵令嬢クレアは公爵に似て狡猾、公爵夫人と共に社交界の花と呼ばれる美貌を開花させた。

ゴールドマン公爵の持つ祝福は「時短」、夫人は「臭気」。

公爵令嬢クレアは「魅惑」を授かっていた。

「魅了」を持つルフィーリアとの処置が異なりクレアがお咎めなしだったのは、偶然にも王太子との婚約があったからだった。

そして契りの指輪の交換。

「しかし王女が監禁されているのに公爵令嬢は何も手枷が無いというのは……」
王族派の誰かが呟いた。

「王太子と契りの指輪を交換している公爵令嬢ならば、「魅惑」を悪用しない、出来ない。もし娘の指輪が壊れるような事があれば、私は公爵位を退しりぞくよ。」 
すかさずゴールドマン公爵は、そう言って皆を沈黙させた。

「いいだろう。」
「陛下っ、しかし」
国王が発したセリフに被せて財務長官バティストが口を挟むが、宰相コルベールが手で制した。

「いいだろう。……この件は私が引き取ろう。なに、私はルフィーリアが監禁されているとは思っていないからね。アレは自らソコにいるのだから。」
国王のセリフを背中で聞いた、細目の使用人は空いた水差しを手に会議室を出た。

人目がないことを確かめ空室に忍び込むと、使用人のお仕着せを着ぐるみを脱ぐように踏みつけ、細目はバルコニーから飛び降りた。

まるで羽のように着地する。

爵位を賭けて文句を言えと喧嘩を売った形のゴールドマン公爵に、国王が受けて立つとは面白いと細目は感情の無い顔で笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

処理中です...