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01.聖女は祈り続ける
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付記 ◇◆ プロローグ1と2を読み直し推奨。聖女本文が繋がっています。
◇
◆
01.聖女は祈り続ける
常闇を抜けてクリストファーが部屋に着くと、ベッドメイキングされてあった。
何もない部屋だが埃臭さがなくなっている。
石壁がぽっかりと空いた穴のような窓の外、雲が月明かりを隠し、部屋は暗闇に閉ざされる。
暗闇の中で……ギィ……と、ベッドの軋む音が寂しく鳴り響いた。
◇
◆
十数年前、当時3歳だったクリストファー王子は祝福を授かり「帝王」のスキルを持った。
スキルは魔法や武術とは異なり「才」と呼ばれるもので、帝王の糧となる全ての知識が水のように得られ、見通す力である。
この力のおかげで当時3歳のクリストファーは、王位継承第一王太子の座に輝いていた。
シャングリラ国王家に巫女が生まれなくなって数百年、王族派と貴族派の力関係が目に見えて拮抗し始めた。
そこに授けられた帝王のスキル。
王族の血を受け継ぐ公爵家でありながら常に二番手でしかなかったゴールドマン公爵は、やっと築き上げてきた権力の失墜に震える日々。
公爵夫人の妊娠が報告された。
男は嫡男以外にもう二人いる。次は女だ。女以外は放逐すると夫人はゴールドマン公爵に言い渡された。
ゴールドマン公爵は言葉通り、生まれる予定の娘と、生まれたばかりの第一王太子の婚約の確約をこぎつけた。
賭けだった。
クリストファー殿下が生まれて半年後、ゴールドマン公爵家に生まれた女の子はクレアと名付けられた。
娘が3歳となって祝福を授かると、ゴールドマン公爵は妙計を練った。
生まれながらにクリストファー殿下の婚約者と定められた娘の為と、ゴールドマン公爵は国王に契りの指輪の交換を求めたのだ。
自分から皇太子妃候補を望んでおきながら今更な心配事ではあったが、ゴールドマン公爵の狙いはそこではない。
契りの指輪とは、ドラゴンの心臓が鉱物になった結晶を二つに分け研磨した宝石をつけた対の指輪のことで、この指輪をつけて互いの魔力を流すと感覚共有され、宝石が壊れるまで指輪は外れず、番以外と交わると宝石が壊れるので、婚約指輪として社交界で流行っていた。
勿論、婚約指輪が壊れればその時点で問答無用の有責による婚約破棄、慰謝料倍でドン、王太子の名誉失墜、人生終了、感覚共有バンザーイ!
ゴールドマン公爵の狙いは、この感覚共有だ。
この感覚共有が曲者だった。
快楽には反応しなかったのだ。
政治的婚姻が主流の社交界では膣への陰茎挿入が交わりとされ、快楽の追求に指輪は反応しなかった。
公爵令嬢クレアは公爵に似て狡猾、公爵夫人と共に社交界の花と呼ばれる美貌を開花させた。
ゴールドマン公爵の持つ祝福は「時短」、夫人は「臭気」。
公爵令嬢クレアは「魅惑」を授かっていた。
「魅了」を持つルフィーリアとの処置が異なりクレアがお咎めなしだったのは、偶然にも王太子との婚約があったからだった。
そして契りの指輪の交換。
「しかし王女が監禁されているのに公爵令嬢は何も手枷が無いというのは……」
王族派の誰かが呟いた。
「王太子と契りの指輪を交換している公爵令嬢ならば、「魅惑」を悪用しない、出来ない。もし娘の指輪が壊れるような事があれば、私は公爵位を退くよ。」
すかさずゴールドマン公爵は、そう言って皆を沈黙させた。
「いいだろう。」
「陛下っ、しかし」
国王が発したセリフに被せて財務長官バティストが口を挟むが、宰相コルベールが手で制した。
「いいだろう。……この件は私が引き取ろう。なに、私はルフィーリアが監禁されているとは思っていないからね。アレは自らソコにいるのだから。」
国王のセリフを背中で聞いた、細目の使用人は空いた水差しを手に会議室を出た。
人目がないことを確かめ空室に忍び込むと、使用人のお仕着せを着ぐるみを脱ぐように踏みつけ、細目はバルコニーから飛び降りた。
まるで羽のように着地する。
爵位を賭けて文句を言えと喧嘩を売った形のゴールドマン公爵に、国王が受けて立つとは面白いと細目は感情の無い顔で笑った。
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01.聖女は祈り続ける
常闇を抜けてクリストファーが部屋に着くと、ベッドメイキングされてあった。
何もない部屋だが埃臭さがなくなっている。
石壁がぽっかりと空いた穴のような窓の外、雲が月明かりを隠し、部屋は暗闇に閉ざされる。
暗闇の中で……ギィ……と、ベッドの軋む音が寂しく鳴り響いた。
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十数年前、当時3歳だったクリストファー王子は祝福を授かり「帝王」のスキルを持った。
スキルは魔法や武術とは異なり「才」と呼ばれるもので、帝王の糧となる全ての知識が水のように得られ、見通す力である。
この力のおかげで当時3歳のクリストファーは、王位継承第一王太子の座に輝いていた。
シャングリラ国王家に巫女が生まれなくなって数百年、王族派と貴族派の力関係が目に見えて拮抗し始めた。
そこに授けられた帝王のスキル。
王族の血を受け継ぐ公爵家でありながら常に二番手でしかなかったゴールドマン公爵は、やっと築き上げてきた権力の失墜に震える日々。
公爵夫人の妊娠が報告された。
男は嫡男以外にもう二人いる。次は女だ。女以外は放逐すると夫人はゴールドマン公爵に言い渡された。
ゴールドマン公爵は言葉通り、生まれる予定の娘と、生まれたばかりの第一王太子の婚約の確約をこぎつけた。
賭けだった。
クリストファー殿下が生まれて半年後、ゴールドマン公爵家に生まれた女の子はクレアと名付けられた。
娘が3歳となって祝福を授かると、ゴールドマン公爵は妙計を練った。
生まれながらにクリストファー殿下の婚約者と定められた娘の為と、ゴールドマン公爵は国王に契りの指輪の交換を求めたのだ。
自分から皇太子妃候補を望んでおきながら今更な心配事ではあったが、ゴールドマン公爵の狙いはそこではない。
契りの指輪とは、ドラゴンの心臓が鉱物になった結晶を二つに分け研磨した宝石をつけた対の指輪のことで、この指輪をつけて互いの魔力を流すと感覚共有され、宝石が壊れるまで指輪は外れず、番以外と交わると宝石が壊れるので、婚約指輪として社交界で流行っていた。
勿論、婚約指輪が壊れればその時点で問答無用の有責による婚約破棄、慰謝料倍でドン、王太子の名誉失墜、人生終了、感覚共有バンザーイ!
ゴールドマン公爵の狙いは、この感覚共有だ。
この感覚共有が曲者だった。
快楽には反応しなかったのだ。
政治的婚姻が主流の社交界では膣への陰茎挿入が交わりとされ、快楽の追求に指輪は反応しなかった。
公爵令嬢クレアは公爵に似て狡猾、公爵夫人と共に社交界の花と呼ばれる美貌を開花させた。
ゴールドマン公爵の持つ祝福は「時短」、夫人は「臭気」。
公爵令嬢クレアは「魅惑」を授かっていた。
「魅了」を持つルフィーリアとの処置が異なりクレアがお咎めなしだったのは、偶然にも王太子との婚約があったからだった。
そして契りの指輪の交換。
「しかし王女が監禁されているのに公爵令嬢は何も手枷が無いというのは……」
王族派の誰かが呟いた。
「王太子と契りの指輪を交換している公爵令嬢ならば、「魅惑」を悪用しない、出来ない。もし娘の指輪が壊れるような事があれば、私は公爵位を退くよ。」
すかさずゴールドマン公爵は、そう言って皆を沈黙させた。
「いいだろう。」
「陛下っ、しかし」
国王が発したセリフに被せて財務長官バティストが口を挟むが、宰相コルベールが手で制した。
「いいだろう。……この件は私が引き取ろう。なに、私はルフィーリアが監禁されているとは思っていないからね。アレは自らソコにいるのだから。」
国王のセリフを背中で聞いた、細目の使用人は空いた水差しを手に会議室を出た。
人目がないことを確かめ空室に忍び込むと、使用人のお仕着せを着ぐるみを脱ぐように踏みつけ、細目はバルコニーから飛び降りた。
まるで羽のように着地する。
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