12 / 62
幼なじみと隣の席の女の子
最悪な状況
しおりを挟む何も言えなかった……そして、心地いいって……感じてしまった。
雪乃は数分間周りに見せ付ける様に俺に寄り添う、そして何事も無かった様に教室を後にした。
雪乃が出て行くと、遠巻きに見ていた数人の男子が俺に向かって舌打ちをする。
中学の時、俺と雪乃は幼なじみという事が皆に知られていた。
でも今は……まだ入学したばかり、同じ中学出身のヤツモいるにはいるが……当然知らない奴等はが大多数を占める。
追々知られて行くのだろうが、今はただイチャイチャしているだけのバカップル、しかも相手はとびきりの美人……羨まれ、恨まれるのは俺の方だけ……。
そして、こんな状況なのに、こんな状態なのに、こんな気持ちなのに……俺は何も言えなかった。雪乃を、雪乃の行動を、拒絶出来なかった。拒否出来なかった。
ばっかやろう……俺がバカ野郎だ。
雪乃の気持ちはわかっているのに、雪乃の気持ちは知っているのに。
雪乃は昔から俺の事を弟かなんかだと思っているんだ。
だから俺と手を繋ぐ事も、さっきの様に俺に抱き付く事にも何ら抵抗は無い。
弟とのスキンシップの様に、父親におねだりする娘の様な気分で雪乃はずっと俺と接していた。
目的がある時だけ、俺に頼み事をしてきた時だけ。
昔から……今でも……。
「──あ、あの……だ、大丈夫?」
「あ、う、うん」
「顔……真っ青……だけど」
「……うん、大丈夫……大丈夫」
「……そう」
あんなにいい感じだったのに、楽しかったのに……綾波との会話が、物凄く……楽しかったのに……。
それを遮って入ってきた雪乃、俺はその雪乃に、雪乃の声に、雪乃の感触に、心地いいって感じてしまった。
「──ちょっとごめんね……」
「あ、うん」
俺はそう言って席を立った。こんな所で泣けない、もう綾波に気を使わせたくない。
そして教室から出ようとしたその時、俺の後ろから声が聞こえて来る。
「……イチャついてんじゃねーよ」
俺が出ようとした瞬間、後ろからそんな声が聞こえた。
俺は振り向くも誰もこっちを見ていない。誰が言ったかわからない。
でも……クラスの何人かのグループは、その声を聞いてか? クスクスと笑っていた。
駄目だ……これじゃ駄目だ……。
俺はそこで、既に色々と失敗していた事に気が付いた。
一つは中学の時と同じ乗りで雪乃と付き合っている事にしてしまった。
周りは事情を知らない。雪乃と俺の関係を知らない。
そして入学して約2ヶ月、雪乃と綾波にばかり気を取られクラスでの友人関係を構築して来なかった。
ヤバイヤバイヤバイ……これは……ヤバイ。
味方がいない……。
クラスに自分の……味方がいない。
でも、今さらどうにも出来ない……俺はそのまま飛び出る様に教室を後にする。
どうする? このままじゃもっと最悪な事態に……。クラスで孤立する、いや、もう既に孤立してしまってる。
最悪な状況、最悪な気持ち……。
俺はとりあえず一人になれる場所を探した。
周囲の目が気にならない場所を探した……皆が俺を見ている様な気がする。
『イチャイチャしてんじゃねーよ』『お前じゃ釣り合わねーんだよ』『いい気になってんじゃねーよ』
幻聴? そんな声が……聞こえる。そんな気がしていた。
俺は渡り廊下から階下を見た。
校舎の裏手、裏庭に大きな石がいくつか置いてある。
オブジェなのか? なんなのか? とりあえず誰もいない。
俺はそこへ向かった。
周囲は草木に隠れている。 渡り廊下以外からは見えない。
俺は石の上に腰をかけ、そして自分にまずは落ち着けと言い聞かせた。
もう過ぎた事は仕方ない。これからを考えねば……。
とりあえず雪乃にあまり教室に来るなと言うべきか……でも中学の時とは違って雪乃は俺達の関係を周りにアピールしたいのだろう。
だからミーティングが始まる前にわざわざ俺の教室に来て、あんな事をした。
今から断る? でも……そんな事が俺に出来るのか? 雪乃に言えるのか?
言った所でクラスの状況はあまり変わらないだろう。
雪乃を振った男と言われ……もっと悪くなる可能性すらある。
「ヤバイ……詰んでる」
別れたと言いふらす? どうやって? 声を高らかに上げて? バカか……。
そもそも俺は雪乃をどう思っているんだ? もう好きじゃない……のでは?
そうだ! そういえば……雪乃は言っていた。俺に好きな人が出来たら別の人に頼むって。
俺に好きな人が……。
「……あ、あの……」
そう思った時、背後から声が聞こえる。消え入る様な声で誰かが俺に話しかけて来た。
振り返るとそこには……いつもの様にうつ向き、顔を真っ赤にしている綾波が……立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる