娘の様な義理の妹に俺が恋なんてするわけが無い。

新名天生

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解雇? 社長就任? 婚約?

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「賢作ちゃんちょっといい?」

「あ、はい」
 おばさんに呼ばれ俺はおじさんの書斎に向かった。

「中々片付けられなくて」
 書斎の中は昔からずっと変わっていない、本棚には洋書や小難しい本が並び、黒檀の立派な机の上には、おじさんが亡くなった時のまま、書類や本が積み重なっていた。
 恐らくおばさんはその積み重なっている本や紙を丁寧に退けながらそして元に戻しながら掃除しているのだろう、乱雑に置かれているのに、埃り一つ無い位に綺麗な状態だった。
 
 おじさんの奥さんなので、俺達は『おばさん』と、呼んでいるが、おばさんと言うにはあまりに若い。どうみても俺と同じ位の年……いや、まあ、俺も妹の年の子達から見れば『おじさん』なんだろうが……。

 以前おじさんとは年が離れていると聞いた事があるので、おばさんと俺は……本当に年が近いのだろう、ちなみに年齢を聞いたら「クビだ」と言われている……。

 何度も言うが、現在俺はこの人の会社、元々はおじさんの会社で働いている。

 妹の世話の為に、おじさんが生きている頃は殆んど家からリモートで仕事をしていた。
 そして、今、妹の世話がかからなくなり、ちょくちょく会社に行き始めている。

 なので今日、妹は、おばさんに会うのは久しぶりなんだけど、俺は久しぶりでも何でも無い、なんなら昨日も会っていた。
 
 そ、それなのに……改めてここに呼ばれたって一体……まさか! 会社が倒産! いやいや、おじさんが死んだ時規模をかなり縮小、殆んどの社員を親会社や関連会社に送り、今は細々だけど無駄なく切り盛りしている。
 小さい会社なので経営状況も俺に筒抜けで、倒産なんかとは無縁の状態……の筈。

 そもそも殆んど外注で、メインの仕事をしているのは俺と……『もう一人』の……二人だけ。
 社長は、俺の出来ない……親会社との折衝や、簡単な営業、そして経理や電話番だけ。
 なので倒産はあり得ない……って事は……まさか! 解雇?

 学生の頃からアルバイトとして入り卒業後そのまま入社、俺の事情を最大限考慮してくれた。
 リモートワークがメインとはいえ、学生の頃からなので、俺はかなりのベテランになっていた。
 この会社の殆んどの仕事は把握している。
 なのでおじさんが亡くなった後、恩返しの様におばさんの為に出来るだけの事はやって来たつもりだ……、な、なのにクビだなんて……。
 うちには高校生になったばかりの大事な大事な妹ががが……。

「相変わらずねえ、賢作ちゃんは直ぐ顔に出るから、別に取って食おうってわけじゃ無いから、とりあえず座って」
 書斎のソファーを指差し、あらかじめ用意していたポットで俺にお茶を入れてくれるおばさん。
 さすがは元社長の書斎……置かれている応接セットのソファーはフカフカで、我が家の物とは別格の座り心地だ。
 
 俺が解雇ではなさそうと知り、ホッとしながらお茶を一口飲むと、おばさんは俺に向かって話を始めた。

「……主人はね、あなた達を養子にしたいって、ずっと言ってたの、恵とも仲良くしてくれるし、恵にお兄ちゃんと妹が出来たらって」

「……はい」
 知っている……それは俺に取っても凄く嬉しく、そして安心出来る事だった。
 もし俺に何かあったら、妹だけでもって……いや、何度も何度も妹だけでも養子にして貰った方が良いのでは? と、常に考えていた。

「私もね、そう思ってた……今でもよ」

「はい……ありがとうございます」

「出来れば会社を将来貴方に任せたいって思ってたりもする、小さい会社だけど、あの人は大事にしていたの……だから無くしたくないって、ね……今でも貴方に私の子供に、あなた達を家に迎えたいって思ってるのよ」

「──はい……おじさんにもずっと、それとなく言われていました。それは凄く感謝しています、でもやっぱり死んじゃっても俺を産んで育ててくれた母が、俺の母親です。
いい加減でも血が繋がっていなくても、家やお金や……そして妹を残してくれたのが、俺の父親です。
 だから……すみません」
 恩を仇で返している、そんな気がするけど、でもそれが俺の本当の気持ちだから……俺はおばさんに、社長に俺の本心を伝えた。

「……そうか……そうね……」
 おばさんは少し寂しそうな顔でそう言った。

「それはそうと、貴方って彼女は居るの?」

「は? い、居るわけ無いじゃないですか!」
 養子にならないって言った仕返しか? 意地悪だなあ、俺の事知ってる癖に……。
 人とコミュニケーションを取るのが苦手な俺に、恋愛は荷が重すぎる。ましてや、知らない女性とだなんて、そんなの俺には無理ゲーだ。
 俺はお茶をぐびっと一飲みする。それを考えただけでも喉が渇く。

「ごめん、ごめん、そうじゃなくてね、賢作ちゃん、恵とね……将来の事を考えて見ない?」

「ぶふぉお! ぶ、ぶへえ?」
 突然のおばさんの提案に俺は飲んでいたお茶を吹いてしまう。

「恵っていっつも賢にいちゃん、賢にいちゃんって、貴方の事聞いてくるのよねえ」
 用意していたらしい布巾で何事もなくテーブルを拭きながら話を止めないおばさん……。

「いいい、いいや、恵ちゃんって16でしょ? 俺と何歳違うとおもってるんですか!?」
 俺はロリコンじゃない!

「そうでも無いでしょ? 私と主人より差はないんじゃない?」
 マジか! あんたいくつだよ!

「いやいや、恵ちゃんはそれこそ妹みたいな存在だし、向こうも絶対にそう思っていますよ」

「そうかなあ? 貴方と恵が結婚すれば、貴方は私の息子になるし、雪ちゃんも付いてくるだろうし、全部上手く行くと思わない?」

「お、お、思いません!」
 そもそも俺と恵ちゃんが付き合うとか絶対に無理だろう? 女子高生だぞ? JKだぞ! JK!

「まあ、恵にその気があったら、考えておいてね?」

「いや、そんな事は無いでしょ? 全く……」
 一体おばさんはどこまで本気で言ってるんだ? いくら何でも実の娘を俺なんかにって……。
 昔から何か暖簾に腕押しと言うか、世間ズレしていると言うか、おばさんは不思議な人って感じだった。
 でも今回の冗談は……さすがに笑えないよ。
 




 
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