5 / 99
あこがれ愛
しおりを挟むクラスメイトの不思議な顔を後にして僕の妹、いやまだ正式には妹じゃない、妹(仮)と一緒に帰る。
「えっと、泉の家って僕の家の反対方向だよね、ど、どうしよっか」
さすがに朝迎えに来てもらって、帰りも送って貰うのは気が引ける、ここは僕が送って行くと言いたいんだけど……言えない……そもそも反対方向じゃないかと予想しただけで本当に反対かも分からない、それもちゃんと聞けない……
「あの……お兄様、今日……お兄様の家に泊まりたいんですが」
「………………は?」
「母には許可を貰ってます、母からお父様にも連絡していただいて許可も得てます。もうすぐ私とお兄様の家になるわけですし、お兄様のお許しを頂ければ、お食事お洗濯等のお世話もしたいのですが」
「いや、えっと、ちょっと待って、えっと」
なんだこれ、え? 今日泊まる? うちに? 泉さんが? え? えええええええええええええええええええええええええええええええ!!
「だ、駄目でしょうか?」
「いや……父さんが良いって言ってるなら、僕が駄目なんて言えないっていうか、え、でも、良いの?」
「はい! 是非に!」
泉の目がキラキラと輝いているかの如く、期待に満ち溢れるかの如く見開かれ僕を見つめる。えっと……マジでなの?
「じゃ、じゃあ……」
泉はお昼に食べた少し小さめのお重と恐らく着替えが入っているだろうバックを細い身体で担いでいる。朝はさすがに言えなかったけど、うちに泊まりに来るならと僕は勇気を出して言った。
「お、重そうだね、持つよ」
「お兄様……ありがとうございます」
嬉しそうに着替えの入っているだろうバックを渡してくれる泉、信頼されている気がして少し嬉しい、すると泉は僕向かって更に驚愕する事を言う。
「あの、あの、お兄様、その……お家迄、腕を組んでも良いですか?」
「……………………は?」
腕を組む? え? なにどういう事? 痴漢を取り押さえる練習とか? プロレスの技の練習とか? え? やっぱり虐めなの?
「駄目ですか?」
「いや、えっと、じゃあ……良いよ」
僕は飛び付き腕ひしぎ逆十字固めをされる覚悟で目を瞑り腕を差し出す。すると泉はスルリと自分の腕を僕の腕に入れ恋人同士がする腕の組み方をした。
あれ痛くない、っていうか……気持ちいい……僕の肘が丁度泉の胸の部分を掠めている。歩くと時々あたるその柔らかい感触が僕の肘に伝わる……そして追い討ちをかけるが如く長い黒髪が風になびいて僕の顔にサラリと当たる。その度に、えもいわれぬ位脳が蕩けそうになるような甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐる……、え? 何? ここは……天国?
家まで20分、ああ、なんで僕の家はこんな近いんだ、2時間位掛かれば良いのに、近い高校を選んだ事を悔やんだ、本当あの時の自分を殴ってやりたい……あ、でもそうしたら泉とは出会って無かったか……GJあの時の僕。
少しゆっくり歩いたが、すぐに家の前に到着してしまう。僕は惜しみながら組んでいた腕を外し鍵を開け扉を開けた。
「ど、どうぞ……」
玄関の扉を開け泉を招き入れる。当然家には誰もいない、うわあ……女の子を家に入れるの初めて……あ、いや、あいつが居たか、でもあの薬師丸 泉を家に入れるとか考えもしなかったよ……一体何この状況は……僕死ぬのかな?
「えっと、じゃあ、ただいま」
「あ、えっと、お帰り?」
「えへへへへへへへ」
そう言って僕を見て笑う泉、うわ……めちゃくちゃ可愛い、何この生き物
「えっとまずお茶を入れるますね、台所は……」
「ああ、じゃあ案内するよ」
案内といってもこじんまりした一軒家、母の病気を知り父がせめてもと若い時に無理をして買った家、今は男所帯だけど僕も出来るだけ家事をして綺麗にするように努めている。
一通り家の中を説明して一緒にキッチンに入る、お茶やコーヒーの場所を教えると泉はテキパキと準備をし始める。うわあ……あの薬師丸泉がうちのキッチンに立ってるなんて……
一昨日迄はあり得ないこの夢の様な状況、今日の学校での事なんて忘れそうになる。すると泉は振り返り僕を見て言った。
「お兄様、見られていると少し緊張してしまいます、リビングでお待ちになってて?」
「あ、はい……」
僕は後ろ髪を引かれつつキッチンを後にしてリビングに座って待つ、なんだろう自分の家なのに他人の家にいるようなこの緊張感……
暫くしてコーヒーを持った泉がリビングに、お盆にはコーヒー、ミルク、砂糖、そして少し歪なクッキーが……
「ごめんなさい、まだお兄様の好みが分からないので、一式持ってきてしまいました。お砂糖とクリームは?」
「あ、えっとじゃあ砂糖少なめ目でミルクは少し多めで」
「こんなものかしら?」
そう言って出してくれたコーヒーを飲む、うん丁度いい。
「あ、これクッキーを焼いてきたんです、慌てて作ったのでちょっと形が歪になってしまって」
「全然良いよ、うん、美味しい」
確かに少し歪だけど、それは市販品と比べてって意味で、手作りクッキーなんて貰ったことないのでそれが普通なのか分からない、でも味は市販品と遜色ない美味しさだった。
「良かった~~甘過ぎ無いですか! コーヒーも甘さ控えめですし」
「ううん、丁度いい、美味しいよありがとう」
僕がそう言うと満面な笑みで笑う泉、中学から一緒だった、好きだった女の子が目の前に居る、しかも二人きりで、それも学校では見たこと無いような笑顔で僕を見て笑う……うわああああ、なんだろうこの幸福感半端ない。
「えへへへへへへへ、お兄様の好みが知れて嬉しいです」
そう言って嬉しそうにコーヒーを飲む泉……でも僕はそろそろ聞かなくちゃいけないんだ、この状況を泉の考えを……
「あのさ、泉……どうして昨日の今日でこんなに尽くしてくれるの? お母さんが関係しているとか? 僕は二人の結婚を反対してないし、正直泉の行動がよく分からないんだ」
僕がそう言うと泉は笑顔で言った。
「お兄様だから」
「お兄様だからって……どういう事?」
そして泉がその理由を僕に言った。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる