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これが兄妹の証?
しおりを挟む何か感じが違う……今僕は夢の中にいる様なとんでもない状態なのに……
泉と、あの憧れだった旧姓薬師丸泉と抱き合っているのに、ドキドキしない……いや、全然してないわけではない、でも……ドキドキよりも安心感の方が大きい。
「お兄様……お兄様はずっと寂しかったんですね……わかって上げられなくてごめんなさい……」
泉はそう言うとさらに強く抱きしめてくれる。泉の温もりがどんどん増してくる。泉の温もり、暖かさ、優しさ、思いやり、色々な物が僕の中に流れ込んで来る。
「泉……」
得も言われない幸福感、頭の中からドーパミンがセロトニンがエンドルフィンが溢れてくる。僕は今幸せの絶頂にいた。
ずっと寂しかった……僕は独りが好きでも得意なわけでも無い……鈍くなっていただけだった。愛真が居なくなって気付かされた、孤独の寂しさに……そして泉と出会って、凛ちゃんと出会って、愛真と再会して……僕はもう独りは嫌だって思った。思ってしまった。
そして今わかった、僕が一番欲しかった物は……母親……母さんの温もり、愛情……
泉は僕の母さんじゃない、でも僕の妹だ……家族だ。
僕は今本当に家族が出来たって、泉と家族になれたって思えた。僕の愛する妹、大切な家族。
「ごめん……ありがとう」
僕は泉にそう言うと泉の背中に回している腕の力を緩めた。
「お兄様……」
泉もゆっくりと腕の力を緩める。そして二人の距離が少しずつ離れて行く。でも、身体の距離が離れても、不安は訪れない。もっと近づいているとさえ思えてくる。
「あはははは」
「ふふふふふ」
顔を見合わせて二人同時に笑った。その笑いが照れ笑いって事がすぐにわかった。兄妹で抱擁すれば、こんな笑いが出るんだろうって、僕はそう思った。
お互いに見つめ合う、沈黙の時が流れる。泉と触れあった余韻を噛みしめしている。身体の触れあいではなく、心の触れあいを僕はゆっくりと噛みしめていた。
「……お兄様、どうしますか?」
その沈黙を破り泉が僕にそう聞いてくる。
「えっと……お邪魔します」
「ふふふ、どうぞ」
他人行儀な言葉、でも違う、これはちょっとふざけているって事だ。元々僕の家、そして母さんの部屋、後から来たのは泉。でも今のそれは、二人の家、家族の部屋、妹の部屋へ久しぶりに入る事の照れから来る兄妹のおふざけ的な言い回し。
僕はゆっくりと泉の部屋に、僕の妹の部屋足を踏み入れた。
もう怖さも不安も無い、動かなかった足が嘘の様だ。
中に入るとさっきまで泉と抱き合った時に感じた時と同じ様な匂いがした。種類がわからないが複数の花の香がする。
部屋の第一印象はいたって普通、愛真のピンクでフリフリの可愛い部屋でもなければ、凛ちゃんの生活感溢れる部屋でもない、でも何か泉の部屋って感じがする。
そう思ったら突然感動が僕の中に芽生え始める。兄妹にならなければ一生入る事が出来なかった部屋に入っているという感動が溢れ出て来る。
さらに泉の部屋をじっくりと見回す。綺麗に整頓されている部屋。机の上には一輪挿しの花、本棚には洋書、あ、意外にも漫画らしき物も……
「お兄様……あまりジロジロ見られるのはちょっと恥ずかしいです」
「あ、ご、ごめん」
「何か気になる物でもありましたか?」
「あ、うん、漫画とか読むんだって」
「ああ、読みますよ、お友達に教えて貰った漫画とか本とか、よく読みますね」
「そうなんだ」
また親近感が沸いた、泉も人間なんだって、女子高生なんだって……僕は泉を天使だと思っていた。いや、それは今でも少なからずらず思っている。でも凄く親近感が沸いている。天使の妹、僕の家族……
「お兄様、ずっと立っているのもなんですし、お座りになってください」
「あ、うん、ありがとう」
泉はベットに置いてあったクッションを取ると、部屋の真ん中にあるガラスのテーブルの前に置いて僕に座れと促す。
可愛らしいクッションを僕のお尻で潰す事に一瞬躊躇いを感じたが、それこそ遠慮するなとお尻ペンペンが待っていると思い、僕は素直に従いクッションの上に座った。
僕が腰を下ろすと泉も僕の正面で同じようにクッションの上に座る。
ニコニコと笑う泉につられて僕も笑う、特に何も喋らない、でも……何か楽しい、沈黙が楽しいなんて思ってもみなかった。
いつもは何かを喋らなければって僕は焦ってしまっていた。なにか喋らなければ、相手が飽きてしまう、僕がつまらない人間だって思われる。そんな事を思ってしまい、逆に焦って結局なにも喋られなくなってしまう。
愛真の様に向こうから近づいて来てくれて、ぺちゃくちゃと喋ってくれる、そんな人としか僕は話せなかった。そんな人は今まで愛真しかいなかった。
何も言わずにただただ見つめ合うだけ。泉の部屋で見つめ合うだけ。
そんなゆったりとした時間が過ぎていく。何も食べずに、何も飲まずに、何も喋らずに……
ただただ一緒にいるだけのこの空間が、この時間が凄く楽しい。
泉もそう思っているのか、何もぜずにただただ僕を見つめて笑っている。
泉の笑顔に癒される……落ち着く……安心できる。
これが家族なんだろうか? ずっと忙しくあまり一緒に居る事ができなかった父親と二人で暮らしてきた僕にはわからない、でも一つだけ、これだけはわかった。
僕と泉は今日……家族に、そして兄妹になったという事が。
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