クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

文字の大きさ
71 / 99

これが兄妹の証?

しおりを挟む

 何か感じが違う……今僕は夢の中にいる様なとんでもない状態なのに……
 泉と、あの憧れだった旧姓薬師丸泉と抱き合っているのに、ドキドキしない……いや、全然してないわけではない、でも……ドキドキよりも安心感の方が大きい。

「お兄様……お兄様はずっと寂しかったんですね……わかって上げられなくてごめんなさい……」
 泉はそう言うとさらに強く抱きしめてくれる。泉の温もりがどんどん増してくる。泉の温もり、暖かさ、優しさ、思いやり、色々な物が僕の中に流れ込んで来る。
「泉……」
 得も言われない幸福感、頭の中からドーパミンがセロトニンがエンドルフィンが溢れてくる。僕は今幸せの絶頂にいた。

 ずっと寂しかった……僕は独りが好きでも得意なわけでも無い……鈍くなっていただけだった。愛真が居なくなって気付かされた、孤独の寂しさに……そして泉と出会って、凛ちゃんと出会って、愛真と再会して……僕はもう独りは嫌だって思った。思ってしまった。
 
 そして今わかった、僕が一番欲しかった物は……母親……母さんの温もり、愛情……

 泉は僕の母さんじゃない、でも僕の妹だ……家族だ。
 僕は今本当に家族が出来たって、泉と家族になれたって思えた。僕の愛する妹、大切な家族。

「ごめん……ありがとう」
 僕は泉にそう言うと泉の背中に回している腕の力を緩めた。

「お兄様……」
 泉もゆっくりと腕の力を緩める。そして二人の距離が少しずつ離れて行く。でも、身体の距離が離れても、不安は訪れない。もっと近づいているとさえ思えてくる。

「あはははは」
「ふふふふふ」
 顔を見合わせて二人同時に笑った。その笑いが照れ笑いって事がすぐにわかった。兄妹で抱擁すれば、こんな笑いが出るんだろうって、僕はそう思った。

 お互いに見つめ合う、沈黙の時が流れる。泉と触れあった余韻を噛みしめしている。身体の触れあいではなく、心の触れあいを僕はゆっくりと噛みしめていた。

「……お兄様、どうしますか?」
 その沈黙を破り泉が僕にそう聞いてくる。

「えっと……お邪魔します」

「ふふふ、どうぞ」
 他人行儀な言葉、でも違う、これはちょっとふざけているって事だ。元々僕の家、そして母さんの部屋、後から来たのは泉。でも今のそれは、二人の家、家族の部屋、妹の部屋へ久しぶりに入る事の照れから来る兄妹のおふざけ的な言い回し。

 僕はゆっくりと泉の部屋に、僕の妹の部屋足を踏み入れた。

 もう怖さも不安も無い、動かなかった足が嘘の様だ。

 中に入るとさっきまで泉と抱き合った時に感じた時と同じ様な匂いがした。種類がわからないが複数の花の香がする。
 部屋の第一印象はいたって普通、愛真のピンクでフリフリの可愛い部屋でもなければ、凛ちゃんの生活感溢れる部屋でもない、でも何か泉の部屋って感じがする。
 そう思ったら突然感動が僕の中に芽生え始める。兄妹にならなければ一生入る事が出来なかった部屋に入っているという感動が溢れ出て来る。
 
 さらに泉の部屋をじっくりと見回す。綺麗に整頓されている部屋。机の上には一輪挿しの花、本棚には洋書、あ、意外にも漫画らしき物も……

「お兄様……あまりジロジロ見られるのはちょっと恥ずかしいです」

「あ、ご、ごめん」

「何か気になる物でもありましたか?」

「あ、うん、漫画とか読むんだって」

「ああ、読みますよ、お友達に教えて貰った漫画とか本とか、よく読みますね」

「そうなんだ」
 また親近感が沸いた、泉も人間なんだって、女子高生なんだって……僕は泉を天使だと思っていた。いや、それは今でも少なからずらず思っている。でも凄く親近感が沸いている。天使の妹、僕の家族……

「お兄様、ずっと立っているのもなんですし、お座りになってください」

「あ、うん、ありがとう」
 泉はベットに置いてあったクッションを取ると、部屋の真ん中にあるガラスのテーブルの前に置いて僕に座れと促す。
 可愛らしいクッションを僕のお尻で潰す事に一瞬躊躇いを感じたが、それこそ遠慮するなとお尻ペンペンが待っていると思い、僕は素直に従いクッションの上に座った。

 僕が腰を下ろすと泉も僕の正面で同じようにクッションの上に座る。
 ニコニコと笑う泉につられて僕も笑う、特に何も喋らない、でも……何か楽しい、沈黙が楽しいなんて思ってもみなかった。

 いつもは何かを喋らなければって僕は焦ってしまっていた。なにか喋らなければ、相手が飽きてしまう、僕がつまらない人間だって思われる。そんな事を思ってしまい、逆に焦って結局なにも喋られなくなってしまう。
 愛真の様に向こうから近づいて来てくれて、ぺちゃくちゃと喋ってくれる、そんな人としか僕は話せなかった。そんな人は今まで愛真しかいなかった。
 
 何も言わずにただただ見つめ合うだけ。泉の部屋で見つめ合うだけ。
 そんなゆったりとした時間が過ぎていく。何も食べずに、何も飲まずに、何も喋らずに……

 ただただ一緒にいるだけのこの空間が、この時間が凄く楽しい。
 泉もそう思っているのか、何もぜずにただただ僕を見つめて笑っている。
 
 泉の笑顔に癒される……落ち着く……安心できる。
 これが家族なんだろうか? ずっと忙しくあまり一緒に居る事ができなかった父親と二人で暮らしてきた僕にはわからない、でも一つだけ、これだけはわかった。

 僕と泉は今日……家族に、そして兄妹になったという事が。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

処理中です...