[短編集]数分で読めるホラー小説

リョータ

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忘れたはずの声

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 「忘れたはずの声」

 

仕事帰りの深夜、私はいつもと同じ道を歩いて帰っていた。人気のない住宅街、街灯の黄色い光が濡れたアスファルトに反射して揺れている。
 そのとき、ふと耳に小さな声が届いた。
 ――「ねぇ、覚えてる?」

 振り向くと、誰もいない。ただ、微かに風が木の葉を揺らす音だけ。
 一瞬だけ不思議に思ったが、「気のせいか」と自分を納得させ、歩き続ける。しかし次の瞬間、今度はもっとはっきりした声が耳元で囁いた。
 ――「忘れちゃだめだよ」

 心臓が跳ねる。振り返っても、やはり人影はない。足早に歩くと、声は私の後ろを追いかけるように続いた。
 ――「覚えてないの? あの約束…」
 どこかで聞いたことがあるような声だった。でも、いつ、どこで聞いたか思い出せない。背筋が凍った気がして、少し小走りで家に向かった。
 
しばらくして、突然スマートフォンの着信音が鳴った。画面を見ると、着信者は見覚えのない名前。「誰だろう」と思いながら受話器を取ると、電話の向こうから同じ声が聞こえた。
 ――「もう忘れちゃったの?」

 さっきと同じだ。声は笑っているようで、泣いているようで、どこか無機質だった。私はパニックになり、落ち着きたくて公園に入り、ベンチに座り込んだ。
 何回か深呼吸して、スマホの画面を見て、戦慄した。着信履歴が何十件も増えており、全て同じ時間、同じ名前からかかっている。しかも、電話の向こうで誰かが私の名前を呼んでいる。本当に誰なんだと、気味が悪くなった。

 ふと別の方へ目をやると、公園の出口に見覚えのある人影が立っていた。小さな頃、確かに一緒に遊んだ――けれどもう、この世にはいないはずの幼なじみ。
 ――「ねぇ、約束、覚えてる?」

 その瞬間、私は全てを思い出した。さっきから話しかけてくる、声の正体を。忘れたはずの、でもずっと胸にしまっていた約束を。
 幼なじみとは、家族ぐるみで長い付き合いだった。幼稚園の頃からとても仲良く、ずっと一緒に遊んでいたんだった。
小学生低学年の頃だったか、私は約束をしたんだった。学校帰りに、彼女の方から、
「私、君のことが好きなの。ずっといっしょにいようよ」
   もちろんすぐに頷いて、約束を守ろうと誓った。
 でも、その1週間後に、彼女は交通事故で死んだ。

 
 全て思い出したときには、恐怖はすっかり消え、頭のモヤも晴れた。そして、近くに幼なじみがいると悟り、泣いた。あの頃、私も彼女のことが好きだった。なんで忘れてたんだろう。忘れてはいけない思い出だった。    
 今、彼女の方から会いにきたんだ。でも...
 
  泣いてのことを悟られないように、私は下を向いて、
「ごめん。約束守れそうにないや。僕がもし死んだら。その時は、今度こそ一緒にいよう。」
   恐る恐る人影の方を見ると、彼女はいなかった。静かに風が吹くだけだった。彼女は、きっと許してくれたんだろう。
 不意に、また耳元で優しい声がした。
    「次こそは約束守ってね。待ってるよ。」
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