壊れた玩具と伝説の狼

伝説の狼１－３

狼がセイラを自分の巣に運び終えた時には、セイラの意識は殆ど無くなっていた。
まぶたが開いていたのも、閉じられないから開けていただけだった。
狼はそのまま自分もベッドに身を下ろすと、セイラの体をベロベロと舐め出した。
不思議な事に、セイラの体の狼が舐めた所は、今日出来たばかりの傷が全て癒えてしまった。
「こんなに内臓が痛んでいては、風呂に入れてやる事も出来ない」
狼はそう溜息と共に言うと、セイラの全身を泥が着いているのも構わずくまなく舐めまわした。
全身の新しい傷が無くなると、今度は胴体や頭を中心に大きな舌で舐めまわす。
時折四肢も舐めたが、表面の傷が癒えてからは胴体の前後が中心だった。
どうやら、この山の主である狼は、舐めればセイラの体の痛んでいる所全て治せると思っているらしく、時折鼻歌らしきものを口づさみながら、ピクリとも動かないセイラを飽きもせずに一晩中舐めまわした。
セイラの体に変化が訪れたのは、その夜の明け方の事だった。
意識が戻って、触覚が回復した。
狼は丁度セイラの背中や胸を舐めていた所で、セイラの意識が戻ってみれば、狼が一舐ひとなめする毎ごとに、セイラの呼吸は軽く成って行った。
体が癒えて余裕が生まれれば、相手が狼とはいえ、体中ベロベロ舐めまわされれば、余計な感覚も目覚めるというもの。
セイラの呼吸には次第に甘い吐息が混じり出した。
「ふふ」
狼が嬉しそうに笑う。