壊れた玩具と伝説の狼

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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人食い湖の住人2-6

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「あのさ、僕着る物が無いんだけど、裸を見られるのは狼的に良いの?」
セイラがそう言うや否や、アヤの瞳がふわりと光を放つと、セイラの体を細い蔦が覆い、一着の服の様な形になった。
植物の芽の様な、瑞々しい色のボトムにシャツは、植物で出来ているからだろう、ほてったセイラの体を心地よく冷やした。
「良いワケ無いだろう。温泉にもそのまま入れるからな」
フン!と、満足そうに一回鼻から勢いよく息を噴出したアヤが、強気に言った。
「あの、こんな事出来るなら全裸で居させないで最初からして欲しかったかな」
セイラは腕を上げたり足を上げたりしてアヤが作ってくれた蔦の服を確かめながらちょっと抗議したが
「何を言う、蔦で出来た服なんかずっと着てたら体温下がり過ぎて風邪をひいてしまうでは無いか」
セイラの抗議はあっさりアヤに一蹴されてしまった。
蔦の服は何だかツルツルしてて、不思議な着心地だった。
湖にはアヤの背中に乗って向かった。
走るアヤの後ろを、黒鉄くろがね色の狼たちが十数匹、いつの間にか走って着いて来ていた。
(洞窟を出たばかりの時には居なかったのに・・・・)
セイラが振り向いて見つめていると、アヤが不機嫌そうに喉を鳴らした。
「何が気になっているんだ?」
珍しくドスの効いた声が聞こえて来た。
「ふはははっ。ごめん、誤解しないで、洞窟出た時は何もいなかったのにどこから出て来たんだろうと思って不思議がってただけなんだ」
セイラは慌てて言い訳したけれど、アヤのそんな些細な事まで気にする様子が酷く可愛いと思った。
セイラはそのままもう後ろは見ないでアヤの背中に倒れ込み、大きな背中に全身で捕まった。
「僕、ちゃんとアヤが好きだよ」
『僕はね』っという言葉は飲み込んだ。
だって、もう、セイラにとってセイラがアヤの番いの偽物だという事は、出来うる限り秘密にしておきたい事になってしまったから。
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