壊れた玩具と伝説の狼

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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人食い湖の住人3ー1

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しかし、海月の返答は、決してアヤ達の期待していた通りの物では無かった。
「何とかした方が良いのは分かったけど、思うようには行かないよ。
 こういう薬を抜くのって魔法が効かない物も多いんだよね。
 薬は、薬なんだよね。染み込んで定着してしまった薬物って本体が異物として拒絶しないから魔法がうまく作用しないんだよ。
 怪我とは理屈が違うんだ」
そう言いながら、海月の上半身はベットから移動してきた。
セイラの視線の高さで止まり、少し怯えてアヤに掴まるセイラに構わず爪先から頭の先まで眺めると両手を開いて指を触手に変えた。
「触っても、大丈夫?」
と海月がアヤに聞いた。
キラキラと透明な、とても綺麗な触手だった。
セイラを気遣ってか、ゆっくりと近づいて来て手前で止まり、先だけがソヨソヨとうごめかされた。
蠢く様子も、光を反射して、まるで柔らかいガラスか飴細工の様で、なのに、その触手がセイラの直ぐ傍まで来た途端、セイラの体は嫌悪と恐怖で硬直した。
吐き気がした。
今すぐ目の前の触手を叩き落として『触るな』と怒鳴りつけたい。
でも、
(良いよって言わないと、コレは多分お医者様の診断と同じなんだから)
セイラは一生懸命うなづこうとした。
一生懸命頷こうとしたのに、体が拒絶してどうしても頷く事が出来なかった。
無意識のうちにアヤの毛皮を掴んで、硬直してしまった。
海月が困った顔をしてセイラの瞳を覗き込んだまま小首を傾げた。
(は、早く頷かなくちゃ。せっかくアヤが)
折角アヤが、背中に乗せて、僕の為にここまで連れて来てくれたのに。
セイラの、アヤの毛皮を握りしめる手が、節が真っ白になるほど力を込めた。
あせれば焦るほどセイラの体は固く硬直して、喉ばかりが干上がって張り付いた。
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