壊れた玩具と伝説の狼

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

文字の大きさ
148 / 223

春のススキと白い息2ー10

しおりを挟む
階段を踏み外した様な感覚がして、セイラは目蓋を上げた。
薄暗い洞窟の中の筈なのに、眩しくて目を細めた。
最初に見えたのは大きな狼の鼻先。
アヤ。
名前を呼ぼうとして、声が出なかった。
「おかえり」
優しい声で、何とも言えない表情のアヤがそう言った。
『おかえり』と言われたから、訳も分かっていないのに『ただいま』と返事をしようとして、やっぱり喉が張り付いたみたいな感じがして、声が出なくて、怖くなってアヤを見た。
「籠の中のカップに入っている水を飲むと良い、喉が干からびているんだろう」
ふと横を向くと、籠の中に水が入ったグラスが置いてあった。
身を起こして、違和感を感じて、自分の体を見ると、体中が汚物に塗れていた。
思わずぐぐもった叫び声を上げた。
「セイラ、とにかく水を飲め」
そう、言われて慌ててグラスを手に取った。
水を飲んだら、しゃがれていたが、声が出た。
「な、何!?何が起きたの」
セイラが狼狽えながらアヤに言うと。
「全部お前のモノさ。死んだら皆そうなる。体中の筋肉が緩んでせき止められていた物が流れ出る。クソにションベン、鼻水、涎、死体はみんな汚物に塗れてる。綺麗な死体なんか有るものか。折角だから、体の方も死んだらどうなるのか知っておいた方が良いと思ってな。そのままにしておいた」
アヤはサラリと無表情にそう言った。
「死体」
そうだ、と、セイラははっとした。
アヤの話が本当なら、セイラは死んでいたのだ。アヤに殺されて。
「それで、どうだった?本物の死は」
死は、死は・・・・・何も無かった。自我さえも、無かった。
「なにもなかった」
『どうだった?』と聞かれてぞっとした。
死は、完全なる無だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

処理中です...