壊れた玩具と伝説の狼

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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春のススキと白い息2ー11

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寒くも無いのに、セイラは真っ青な顔になって、ガタガタと震え出した。
アヤはこれは死だと言っていた。
死は完全なる孤独だ。とも、しかし・・・。
コレは、コレは孤独なんてものでは、無い。
(何かに似ている気もするけれど)
いっそ孤独の方がまだマシ、とすら思える、得たいの知れないモノ。
自分の中に出来た。出来てしまったコレを、果たして、何と言い表せば良いのだろうか。
(つい最近まで、コレに、よく似たモノが・・・)
目覚めた今、アヤに『行っておいで』と言われたあの時から、かなり時間が経っているのは何となく分かった。
ベットリと自分の体を汚している汚物も、あちこち乾いているし、顔はガビガビ、二日、三日は経っていそうだ。なのに。
何と言ったら良いのか、時間が経っているのが分かるのは、起きた今だからであって、体に、時が経過したという実感がまるで無い。
何も無いのだ。
ストンとそこだけくりぬいたみたいにとにかくセイラの中に『無』であった事が出来上がってしまっていた。
何も無いのに何も無かったという事だけが分かった。
人も、動物も、魔獣も、光も、闇も、感覚も、とにかく何もかもが無い。
記憶も、意識も、思考も、自分も、景色も、風も、音も、温度も。孤独すら無かった。
「アヤ。あれは何?」
キョドキョドと、勝手に動き回る落ち着かない視線を、懸命にアヤを見つめる事で落ち着かせようとするけれど、あまりうまくいかなかった。
体の震えが止まらない。
セイラの中に出来てしまったコレは何なのだ。
(こわい)
あまりの恐怖で、優しいアヤの声すら不気味に聞こえた。
「それが、『死』だよ。セイラ、お前が望んだモノだ」
(チガウ)
「僕はこんなもの望んでない」
だってこれは、
「こんな」
体の震えが止まらない、だってコレは。
そうだ、コレは、まるで・・・。
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