158 / 223
春のススキと白い息3ー5
しおりを挟む
快感で潤んだセイラの視界は、ぼんやりとぼやけて、まるで酔っ払った時の視界みたいだった。
「バター犬」
『お前、ひょっとして、大通りのあの変な娼館で飼われてる、バター犬だね?』年若い自分の声が、記憶に甦って来た。
深酒で浮かれた頭で、キャッキャと笑いながらそう言ったのはいつだったか。
「それも忘れたのか。お前が言ったんじゃないか。随分優秀なバター犬だって」
アヤは気を悪くした様子もなく、むしろ自慢げにそう言った。
バター犬が何なのか分かっているのかしら?、と思考の片隅で思ったが、自分の記憶を漁る事に一生懸命なセイラは、あえて問わなかった。
(何だろう?この記憶は)
視界では、大きな尻尾がゆらゆらと揺れていた。
そうだ、この景色によく似た景色をいつだったか見た。
(いつだったっけ)
太い獣のうなり声と、同時に鼻を鳴らす甘えた声。
まるで好物を食べる時の犬のような声だ。
『山の王になってまで』
今までアヤが言っていた言葉の欠片が思考の中を駆け巡る。
『13年前』
13年前、セイラが故郷を一人出た年だ。
節目の年と言えば年だったけれど、友達も少なければ、特別執着する物も無いセイラの日々らしく、何の事件もない、いたって印象の薄い年だった。
「誘ったのはお前が先だった」
「誘った?」
家を出た事以外は。
前日に、その数少ない友人達が、お別れ会と称して飲み会を開いてくれた事だけが特別な出来事・・・。
そこまで考えて、ハタ、と、思考を止めた。
その飲み会の日に、何か変わった事が有った気がする。
いつもとちょっとだけ変わった事だ。
当時から、セイラにはちょっと変わった癖、というか習性と言うか、そんなものが有った。
大勢の飲み会の後は大抵、一人で何処か寄り道して過ごしたくなるのだ。
「そうだ、あの日も」
「せっかく通り過ぎてやろうとしたのに、お前が呼んでエサを食わせたんだ。しかも口移しで」
『君、何処の子だい?』
(そうだ、あの日は飲み会のあと)
あの、山に行った・・・。
「バター犬」
『お前、ひょっとして、大通りのあの変な娼館で飼われてる、バター犬だね?』年若い自分の声が、記憶に甦って来た。
深酒で浮かれた頭で、キャッキャと笑いながらそう言ったのはいつだったか。
「それも忘れたのか。お前が言ったんじゃないか。随分優秀なバター犬だって」
アヤは気を悪くした様子もなく、むしろ自慢げにそう言った。
バター犬が何なのか分かっているのかしら?、と思考の片隅で思ったが、自分の記憶を漁る事に一生懸命なセイラは、あえて問わなかった。
(何だろう?この記憶は)
視界では、大きな尻尾がゆらゆらと揺れていた。
そうだ、この景色によく似た景色をいつだったか見た。
(いつだったっけ)
太い獣のうなり声と、同時に鼻を鳴らす甘えた声。
まるで好物を食べる時の犬のような声だ。
『山の王になってまで』
今までアヤが言っていた言葉の欠片が思考の中を駆け巡る。
『13年前』
13年前、セイラが故郷を一人出た年だ。
節目の年と言えば年だったけれど、友達も少なければ、特別執着する物も無いセイラの日々らしく、何の事件もない、いたって印象の薄い年だった。
「誘ったのはお前が先だった」
「誘った?」
家を出た事以外は。
前日に、その数少ない友人達が、お別れ会と称して飲み会を開いてくれた事だけが特別な出来事・・・。
そこまで考えて、ハタ、と、思考を止めた。
その飲み会の日に、何か変わった事が有った気がする。
いつもとちょっとだけ変わった事だ。
当時から、セイラにはちょっと変わった癖、というか習性と言うか、そんなものが有った。
大勢の飲み会の後は大抵、一人で何処か寄り道して過ごしたくなるのだ。
「そうだ、あの日も」
「せっかく通り過ぎてやろうとしたのに、お前が呼んでエサを食わせたんだ。しかも口移しで」
『君、何処の子だい?』
(そうだ、あの日は飲み会のあと)
あの、山に行った・・・。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる