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ルークの初恋 3-25

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シャルレ姫がルークを振り返り、にっこりと笑顔を作った。
ルークもヒクリと片側のほほを引きつらせつつも笑顔で返す。『怒ってる・・・あれは絶対怒ってる時の笑顔だ!』ルークの背中をぬるい汗が一筋垂れた。
優雅にルークの方に伸ばされた手が、民族衣装を飾るガラスのビーズをシャラリと撫でて元に戻っていく。
「とりあえず馬車にのりましょう」
「はい」
こういう時は出来るだけ逆らわないに限る。
ルークは、かかとを鳴らして馬車へと向かうシャルレ姫の後を、大人しくついて行った。馬車の所までたどり着いた所で一度ジェイコブ王子を振り返り、深々ともう一度お辞儀をしてから馬車に乗り込んだ。
入り口の扉を閉める時にふと見ると、ジェイコブ王子はこちらに手を振っていた。両脇から従者と思われる人達に腕を抱えられ、引きずられながらだが。
ルークは、その、従者らのジェイコブ王子へ対する扱いを見て、『あの人本当に日常的に脱走してるんだな』と思い、心の中で従者達に合掌した。

馬車の扉を閉めれば、そこはもう別っ世界。
シャルレの馬車の中は全面漆塗りで、夜の湖面の様な艶のある黒で染まっている。壁には優雅な蔦と小花の模様が金銀の細いラインで繊細かつ華やかに描かれ、蔦は天井まで伸びて明かり取りの天窓を中心にして集結していた。
天窓もただのガラス張り等ではなく、透明度の高い水晶の原石が逆さにはめ込まれており、まるでシャンデリアの様になっている。座席は四方を囲む様にもうけけられており、シャルレがゆったりと足をのばして座れる位大きなソファーになっていた。壁と同じ模様の刺繍が施されていて、見慣れたルークですら一瞬目が惑わされる。
恋人として乗った者達は、さぞやトキメク事だろう。

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