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すべては幻、隣の庭は枯れ木の庭 3-1

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ルークとシャルレが出会ったのは、まだシャルレがが第一王子ジェイドとして生きていた頃の事。
出会った場所は、なんと貧民街、ルークが九歳の時に初恋の女の子を見た魔導鏡の有る教会だった。
その頃のルークは、弟の病気がいよいよ末期になっていて、看病と病院代を稼ぐ為に着いた望まぬ仕事に追われ、疲弊しきっていた。
終わりも先も見えない生活の中、弟の死に怯え、病院代を稼ぐためと父親に言い伏せられ、客も選べず性を売らされて、心も体もボロボロだった。
弟の病状が落ち着く夜に、フラりと教会の庭に魔導鏡を見に来るのだけがルークの休まる時間だった。
ある満月の夜、教会の庭の木の上で、いつものように教会の窓を彩る魔導鏡を眺めていると、下の方から微かな嗚咽と鼻水を啜る音が聞こえてきた。
見ると、いつも木に上る時の足場にしている岩の上に、見た事も無いような上等な服を着た子供がうずくまっていた。
(あぶねぇなぁオイ、小さな子供がこんな時間にこんな所で一人で)
無人の教会は、時折柄の悪い酔っぱらいや頭のおかしな連中が集まる場所でもあった。
(こんな見るからに金持ちの子供みたいな子が街の悪い大人に見つかったら、あっという間に餌食になっちまうよ)
闇に紛れるのが得意な灰色蜥蜴族のルークだって時々見つかりそうになるのに、あんな真っ白なブラウスでは木陰に隠れてたって見つかってしまう。
子供は随分と警戒心の無い様子で、木の枝の上で寝そべっているルークに全く気が着かずにグズグズと泣いていた。
(弟が元気だったらこのくらいだろうか?)
そんな事を思って、つい、弟と重ねてしまった。


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