蝶の宿のいち仲居-鬼と人間の謎解く五感-

維社頭 影浪

文字の大きさ
1 / 2

第1話 蝶の宿 沢の間

しおりを挟む
「うわああああ‼」

隣の部屋から壁を貫通《かんつう》して叫び声が耳を突き刺した。
サナがどうしようと考えている間に、目の前の二人が立ち上がって部屋を後にした。

「お、お客様⁈」

思わずサナもその二人の後を追いかけた。
たどり着いたのは隣の客室。
その中心に一人の死体が横たわっていた。

 * * *

ここは蝶の宿。人間や妖怪が非日常の休暇を求めてやってくる。

「本日はようこそおこしくださいました」

サナはその宿で幼い頃から仲居として育てられ、働いていた。
その日、担当する客人に挨拶《あいさつ》をする。

「今回、こちらの沢の間で担当させていただきます、サナと申します。何かありましたら、何なりとお申し出ください」
「よろしくお願いします」

今日のお客様は二人。
挨拶を返してくれた一人は銀髪で、柔和《にゅうわ》な笑顔を浮かべていた。
もう一人はこちらをちらりと見たきり、何も言わない。黒髪で仏頂面《ぶっちょうづら》。
二人とも見た目は男性だが、特に黒髪の方は人間離れした容姿をしていた。

「お茶の用意をさせていただきます」

まだ到着したばかりで、荷物はとかれていないようだ。
サナは手早くお茶を用意し、持ってきた茶菓子を隣に置く。
銀髪の男性が礼を言いながら荷物を整理しているが、黒髪の方は鋭い瞳で、部屋から見える庭園を眺《なが》めていた。

蝶の宿のような高級旅館では、力を持つ妖怪が人間を従者に置く関係が多い。
この二人も例に漏《も》れていないのだろう。
その後も夕食の時間を調整するときも銀髪の男が返事をしてくれ、挨拶の仕事が終わった。

 * * *

「えっとぉ」

従業員室に戻って改めて名簿《めいぼ》を見直す。
今日のサナが担当する二人の名前を確認する。
人間の坂本 ユイト。
鬼の勧修寺《ごんじゅうじ》 カナタ。
勧修寺という名前は、サナも聞いたことがあった。
良いところの家なのだろうが、なぜサナが担当なのだろうか。

サナが担当になる客人は新しい客や格式が低い部屋の客である。
常連になれば、サナの仲居としての成績があがり、給料も上がる。

「って、そういう目的じゃなーい!」

サナが感じたのはあの二人の雰囲気だ。
通常、蝶の宿にやってくる客は旅行を楽しみにしている。
宿の食事や大浴場、遊技場、景色。
何より非日常感。
しかし、二人からは楽しみや寛《くつろ》ぐ感じがない。
まるで日常の一部かのようだ。

「なんなんだろう…」

どう動けば、あの二人をもてなせるのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...